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第三回 マルチバンドアンテナのトラップのお話


Dr. FB

下の写真は某アマチュア無線局のアンテナ群です。今回は、マルチバンドアンテナになくてはならないトラップについてお話しします。


図1 編集部撮影

上の写真の中央に写っている7エレHFマルチバンド八木アンテナをご覧ください。7本のエレメントのうち6本のエレメントの先端あたりが太くなっている部分があります。これがトラップと呼ばれるものです。トラップは、L(コイル)とC(コンデンサ)で構成され、そのLとCが並列共振回路を形成しています。そのトラップに関することが2019年(平成31年)4月期の2アマの無線工学の筆記試験に出題されています。

アンテナのエレメントにトラップを取り付けると、そのアンテナはシングルバンドからマルチバンドに対応できるようになり、原理が気になるところです。問題の答えはこの記事の末尾に掲載するとして、まずは下の2アマの問題にトライしてみましょう。それから下の説明を読むと少しは理解できるようになると思います。


図2 2019年(平成31年)4月期の2アマの無線工学の筆記試験に出題 (公益財団法人 日本無線協会のサイトより)

1. トラップを分解してみよう

図3はクリエート・デザインのマルチバンドアンテナ218型HFマルチバンドアンテナ用に使われているトラップです。実際のトラップは構造的に分解できないように処理されていますが、今回は特別にクリエート・デザイン(株)のご協力を得て分解した写真を提示します。


図3 クリエート・デザイン 218型 HFマルチバンドアンテナに使われているトラップ


図4 トラップの内部


図5 マルチバンドアンテナに取り付けられたトラップコイル

2. トラップのついたデュアルバンドアンテナの原理

トラップ(Trap)はその名称から、だます、陥れる、ごまかす、罠にかけるといった意味があります。シングルバンドのアンテナエレメントにトラップを挿入することでマルチバンドアンテナになります。その原理はLとCで構成されたトラップ回路、つまり並列共振回路にあります。


図6 マルチバンドアンテナの原理図

我々がアマチュア無線の免許を取得する際、直列共振回路、並列共振回路のことを少し勉強しました。並列共振回路が共振状態にあるとき、その両端のインピーダンス(交流に対する抵抗分)は「最大になる」あるいは「高くなる」との記述がありました。つまり、共振するとインピーダンスが高くなり、トラップの両端に電圧が掛かっても電流は流れません。電流が流れないということは、その回路が無いに等しいと考えることができます。


図7 14MHz運用時のエレメントの動作

冒頭の2アマの問題で考えてみます。7MHzと14MHzのデュアルバンドですから、14MHzの電波を出したときは、このトラップのインピーダンスが高くなり、図7で示す網掛け部分のエレメントが高周波的には繋がっていないと考えることができます。従って14MHzの電波を出したときには①のエレメントだけが半波長ダイポールとして動作するといった原理です。14MHzの波長は約20mですから①のエレメントの長さは波長の4分の1、約5mと計算できます。

3. では7MHzの電波を出すとどうなるか

LとCの並列共振回路は14MHzに共振させていますので、7MHzの電波(高周波)がトラップに流れてもトラップのインピーダンスは低く、①と②のエレメントは高周波的に接続された状態になります。トラップにコイルとパラに取り付けられているコンデンサはピコオーダー(10-12)ですから7MHzの電波でもある程度の抵抗分を持ちますから、LとCで構成されたトラップは7MHzでは誘導性リアクタンス、つまりコイル分として動作します。つまり7MHzの電波を出したときには①と②のエレメントの間にはコイルが入った状態となります。そのコイルは電気的にエレメントを長くするローディングコイル(延長コイル)として動作することになるため、7MHzを運用するときのアンテナは①+②の短縮半波長ダイポールとして動作します。


図8 7MHz運用時のエレメントの動作

4. トラップを分解したがコンデンサが入っていない

さて、冒頭でトラップ内部を見るためにトラップを分解しましたが、コンデンサが見当たらないお話をしました。部品の欠品ではありません。トラップは原理的にはLとCの並列共振回路で実際Lはコイルで作り、Cはアルミパイプのインサーション量、つまりアルミパイプが内部にどれくらい入って、コイルとトラップケース間がどれくらいの間隔があるかでそこにキャパシタンス(容量)が形成されるのです。このキャパシタンスの値が結構大きく、特に実際のパーツとしてコンデンサを挿入するまでもなく、部品間の間隔でコンデンサ(キャパシタンス)とコイルの並列共振回路が形成されているというわけです。

2019年(平成31年)4月期の2アマの無線工学の筆記試験A-13の解答: 答えは1番

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次号は 12月 1日(木) に公開予定

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