Monthly FB NEWS 月刊FBニュース 月刊FBニュースはアマチュア無線の電子WEBマガジン。ベテランから入門まで、楽しく役立つ情報が満載です。

テクニカルコーナー

アマチュア無線のデジタル化

月刊FB NEWS編集部


はじめに
「電波の有効利用」と叫ばれて久しく、「地上デジタル放送(地デジ)」がその「電波の有効利用」に一番身近な出来事として記憶しています。地デジ放送は日本では2003年12月から関東、近畿、中京の地域において開始されました。電波のデジタル化の一番大きな目的は、ひっ迫した電波事情の軽減です。

電波は周波数さえ変更すれば無数にあるものだと思われていますが、実際に使用できる周波数範囲は限られており、携帯電話やブロードバンドサービスの普及、あるいは今後の5Gビジネスを考えると電波事情はひっ迫しているといえます。一方、アマチュア無線の世界でもデジタル音声通信やVoice over IP(VoIP)など、デジタル技術やネットワーク技術を導入したさまざまなシステムが誕生しています。


写真1 当時の実験状況

1998年(平成10年度)、郵政省(現総務省)から日本アマチュア無線連盟(JARL)が「アマチュア無線のためのデジタル化技術の調査検討」について調査検討の委託を受け、JARLが事務局となり、技術に詳しい方や日本アマチュア無線機器工業会(JAIA)各社の技術者をメンバーとする「調査検討会」をスタートさせました。当時郵政省の検査官や技官の方々もオブザーバーとして参加されました。その後、調査検討会ではフィールド実験等を重ね、2004年1月には関東、東海、関西の3地域でレピーターの免許を受けD-STARの正式運用となりました。現在日本国内のD-STARレピーターは238箇所※1に設置されています。海外のD-STARレピーターは60か国以上にもおよび、その数は1000局※2を超えています。

今回のタイトル「アマチュア無線のデジタル化」では、D-STARや一般的なデジタル通信の特長を数回に分けてやさしく解説していきます。今回はその第一回目「D-STARの占有周波数帯幅」について説明します。

■第1回 D-STARの占有周波数帯幅

1. 「電波の有効利用」とは単なる電波のデジタル化ではない

政府が進めている「電波の有効利用」とはアナログの電波形式を単にデジタル化することではありません。電波は有限な公共の資源であり、使用可能な周波数帯は限られています。電波のデジタル化は、隣接したチャンネルの使用でも混信の影響が少ないことから、特に離れたチャンネルを使用せずとも隣のチャンネルを使用することも可能です。デジタル化で送信の一波が占有する周波数帯幅が狭くなり、それによって空いた周波数帯は他の通信サービスに割り当てられています。これが電波の有効利用につながります。

2. D-STARの占有周波数帯幅は超狭帯域

FMの信号とD-STARの信号を例にとって430MHzバンドで考えてみましょう。占有周波数帯幅とは、電波を出せばその電波はどれくらいの周波数の幅を持ってバンドを占有するかを周波数で表したものです。

HF帯でよく使われているSSBの占有周波数帯幅は3kHz以下と決められています。それに対してVHFやUHF帯で使われているFMの占有周波数帯域は下のイラスト図1に示しましたように一般的には20kHzステップに収まる16kHzが主流となっています。単純計算ですがFMの一波を発射するのに必要な周波数帯域はSSBであれば5局も交信できることになります。一方、D-STARのDVモードは高音質であるにもかかわらず占有周波数帯幅は6kHzですので、10kHzステップにはすっぽり入り、FMの2倍の効率でバンドが使用できることになります。


図1 各モードの占有周波数帯幅

3. 430MHz帯のチャンネルステップ

430MHz帯のFMモードのコールチャンネル※3は、433.000MHzです。通常はコールチャンネルでCQCQと呼び出し、FMであればその応答に対し例えば433.020MHzにQSYします。433.020MHzが運悪く使われていたなら、それよりさらに20kHzアップの433.040MHzにQSYすることになります。このようにQSYをする別の周波数を探すことになりますが、常に我々は20kHzごとの周波数を選びます。この20kHzごとの周波数を20kHzチャンネルステップ、あるいは単に20kHzステップといいます。

例えばコールチャンネル433.000MHzより10kHz上の433.010MHzにQSYすればどうなるでしょうか。コールチャンネルで出ている局、あるいは433.020MHzで交信している局の信号が433.010MHzに被ってくる、いわゆる混信を受けることになります。当然433.010MHzで自局の発射する電波がそれら隣接する周波数で交信している局に混信を与える可能性も大いにあります。これは電波形式FMの発射する電波の幅16kHzに大いに関係します。FMモードを使用するときはお互いの交信が混信を与えないようにするために20kHzステップで使用しましょうとのルールができています。


図2 FMの通信に必要な周波数帯域

では、D-STARならどうでしょうか。後述しますが6.25kHzという見た目は半端ですが計算に基づいたチャンネルステップで動作するように設計されていますからアマチュアで使う10kHzごとのチャンネルステップの中にはすっぽり入ります。10kHzステップで交信しても隣接するチャンネルで交信している局に影響を与えることも、それらの局から混信を受けることもほぼありません。


図3 FMとD-STARの通信に必要な周波数帯域幅

4. 6.25kHzという見た目が半端なチャンネルステップ

郵政省(現総務省)からJARLがアマチュアのデジタル化の委託を受け、変調方式の一つであるGMSKを使って開発したものがD-STARです。FMモードでは通常20kHzステップの周波数で交信しています。これに対してD-STARの発射する電波はその半分の10kHzステップでも隣のチャンネルで交信している局に影響を与えませんので、これは世界のナロー化の潮流にも沿ったスペックといえます。

VHF、UHFのチャンネルステップはこれまでのFMモードに対応した20kHzステップですが、D-STARは、今後の技術の進歩を見据えた6.25kHzのチャンネルステップの設計となっています。

この6.25kHzとは、元々は米国の業務無線機のチャンネルステップが由来です。当時チャンネルステップはVHFが30kHz、UHFでは25kHzでした。それらを電波の有効利用の観点から半分の15kHzや12.5kHzに移行すると同時に、将来に備えて更に半分の6.25kHzへの移行を視野に入れ、デジタル化を推進しました。それがすこし聞きなれない言葉ですがAPCO P25プロジェクトというもので12.5kHzステップのC4FM(4値FSK)と6.25kHzのCQPSK※4でした。

このようなバックグラウンドもあり、当時郵政省からJARLにもアマチュア無線のデジタル標準化にあたり、6.25kHzを視野に入れたデジタル方式を求められていました。その結果、JARLが出した結論はデーター量を9600bpsから4800bpsに落とすことでスピードより占有帯域幅を優先する電波の有効利用を尊重した超狭帯域6.25kHzのチャンネルステップに入れるということでした。

さらにアマチュアのデジタル化はアマチュアが使用するわけですから回路構成がシンプルで自作も考慮してJARLは変調方式をGMSKとしたという経緯があります。

八重洲無線が提唱しているC4FMは4値FSKという変調方式の一つです。本来、電波の有効利用ということからするとアナログからデジタルに変わったところで周波数の帯域幅はできるだけ狭く、C4FMも最初から6.25kHzステップに対応すべきだったのでしょうが、当初は12.5kHzのままでした。最近のC4FMのデジタル機には、送信は帯域幅を半分にするための機能がついていますが、日本国内ではほとんど使われていません。米国における業務用無線の6.25kHzチャンネルステップへの対応方式の中にはC4FMとは少し異なりますが4値FSKの4800bpsが存在します。

5. D-STAR参考情報

多くのユーザーはD-STARといえばレピーター運用と思われがちですが、通常のFMでのシンプレックスの交信のように、D-STARでもシンプレックスの交信をFMのように使って交信はできます。一度試されたらいかがでしょうか。次回はデジタル通信の根幹ともいえる通信方式、FDMAとTDMAについてお話します。 FB DX

※1 アイコムのホームページの情報を引用(2019年11月15日時点)
※2 D-Star Repeater Directoryのデーターを引用(2019年11月11日時点)
※3 D-STAR DVモードのコールチャンネルは、433.300MHz
※4 CQPSKはπ/4QPSKの一種ですが、APCO25ではコスト面から殆ど普及せず

テクニカルコーナー バックナンバー

2019年11月号トップへ戻る

次号は 12月 1日(木) に公開予定

サイトのご利用について

©2024 月刊FBニュース編集部 All Rights Reserved.