2013年10月号

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EMEにチャレンジ(4) 最終回

編集部

前号では送信の方法について説明しましたが、実際に運用を続けていくと、EMEに限らず、アマチュア無線では様々なイレギュラーが発生するため、それらへの対応が必要となります。通常であれば、先輩諸氏に尋ねたり、関連書籍やネットから情報を得たりすることで対応できるようになりますが、EMEでは運用者の絶対数が少ないため、的確なアドバイスを受けられるケースは少ないかと思います。

今回は、実際の運用に関して、イレギュラーなケースへの対応方法や、スムーズにQSOするコツなどについて説明します。

自局がCQを出す場合のセッティング

まず、1st 2ndの選択に関して、前回に記載したように、東に位置する局がTX 1stが推奨されています。そのため自局より月が西にある場合は、TX 1st(偶数分送信)、自局より月が東にある場合はTX 2nd(奇数分送信)が基本的な考え方です。しかしながら、現実にはこれにとらわれず自由にやっている局が多いので、自局がCQを出そうとしている時点で、他でCQを出している局が1stか2ndかどちらが多いか「Live CQ」などで見極め、より局が少ない方を選択するのが得策です。これは、より多くの局がワッチしてくれるチャンスが増えるからです。

次に周波数の選定ですが、日本の2m場合は、144.000~144.200MHzの間がデジタルモードのEMEに使用できます。しかし、米国などでは144.100MHzより上でしかデジタルモードで運用できないため、一般的に144.100MHzより上が使用されています。特に、144.100~144.150MHzの間に集中している状況ですから、CQを出す場合は、この間に運用周波数を選定することをお勧めします。JT65モードで言及する運用周波数は、SSBと同様に、抑圧された搬送波の周波数(USBモードの表示周波数)であり、実際のスペクトラムの周波数ではありません。

なお、144.100MHz以上の使用は外国のアマチュア無線局との通信に限れていますので、国内同士のQSOは144.000~144.100MHzの間で行う必要があります。そのため144.100~144.150MHzの間でCQを出している国内の局をコールするのは、使用区別違反となりますので注意が必要です。もし、国内の局にもEMEで呼んでもらいたい場合、144.070~144.090MHz付近でCQを出すことをお勧めします。ここでは、米国などからは呼んでもらえませんが、ヨーロッパの場合は、多くの国で送信が可能です。(かつて、144.100MHzよりも上でEME送信を行ってはいけなかった時代、このあたりの周波数でJA局は送信していました) なお、144.100MHz以上を使用する場合、SSBモードの運用局との混信に細心の注意が必要です。

0秒を越えてROが返せなかった場合の対応

たとえば、ある局(DXペディション局など)を長時間コールしている場合で、なかなかコールバックがないため、よそ見をしていたり、あるいは冷蔵庫に飲料を取りに行ったりしている間に、相手局からコールバックがあった。しかし、時計は50~59秒のデコード時間を終了して自局の送信シーケンスに入ってしまい、再度相手局をコールする送信(Tx1)が始まってしまった。

このような場合、Tx1送信中にTx3(RO)をクリックしてTx3にチェックを入れても、実際の送信内容はTx3には変わらず、Tx1を送り続けます。もしそれがスケジュールQSOであれば、次回(2分後)の自局の送信シーケンスで、ROを返せば問題ありませんが、DXペディション局などの場合は、ここでROを返さないと、「コールバックしたのに応答がない」と判断され、相手局の次の送信シーケンスには他局にコールバックされてしまい、せっかくのQSOチャンスを逸する可能性があります。

多くの場合、EMEのDXペディション局は3回程度コールバックしてくれますが、1回目、2回目のコールバックが(QSBで沈んだとか偏波が合致していない等の理由で)デコードできず、たまたま見えたのが3回目のコールバックだった場合、ここでROを返さないと致命的になります。

このような場合は、落ち着いて「Auto is ON」をクリックして、一旦送信を停止し、Tx3にチェックを入れた後、「Auto is OFF」をクリックして再度赤色の「Auto is ON」に変えることで、ROの送信に移行できます。タイミング的には、自局の送信シーケンスである0~50秒のうち、30秒くらいまでの間にこの操作を完了することで、相手に対してROを届けられます。


写真1 一旦送信を止めてからTx3(RO)に切り替え、送信を再開する。

0~50秒のうちの0~30秒でTx1、31~50秒でTx3を送信した場合、Tx1を送信した時間の方が長いため、相手局のデコーダーにはTx1で送出したデータの方が多く蓄積されますが、WSJTの特性として、ショートハンドの方が優先されるようですので、この様な場合でも、相手局のデコード画面にはたいがいROが表示されます。これによってQSOの達成に駒を進められますので、送信が始まってしまった後でも、落ち着いて送信メッセージを切り替えることが重要です。

ショートハンドメッセージの目視確認

ある局をコールして応答があった場合、こちらからはレポートのROを送出しますが、それに対して、順調にいけば相手局からRRRが返ってきます。このショートハンドメッセージ(RRR)は、QRMに弱く、2本の線の間にQRMの筋(バーディと呼びます)が入ってしまうと、デコードできなくなることがよくあります。さらにバーディが退くまでRRRはデコードできないため、次のステップ(73)に進めず、そのため自局からはROを送り続ける事になり、いつまで経ってもQSOは成立しません。

しかし、ショートハンドメッセージに限っては2本の線の間隔を確認することで、RO RRR 73のうち、どのメッセージが送られてきているか目視判断が可能です。具体的には、2本の線の間隔が約162Hz(写真2)であればRRRですので、SpecJTの周波数スケールで確認し間隔が約162Hzだった場合はRRRを受信したと判断して、次回は73を送出します。このようにRRRがデコードできなくてもQSOを成立させることができます。ただし、相手局によっては、目視判断は行わない局もおり、こちらからのROが画面上にデコードできるまで、OOOを送り続けてきますので、その際は忍耐強くROを送り続けてください。


写真2 バーディによってショートハンドメッセージ(RRR)がデコードできない例

また、自局がCQを出していた場合で、相手局からコールされるとレポート(例 RN6BN JA3YUA PM74 OOO)を返しますが、それに対して、相手局はROを返してきます。上記と同様にこのショートハンドメッセージ(RO)が、デコードできなくても、2本の線の間隔が約108Hzであれば、ROを受信したと判断し、次回はRRRを送出してQSOを進行させます。次に来る73も、間隔が約215Hzであれば73と判断でき、QSOの成立(相手局がこちらからのRRRを受信したこと)が目視確認できます。

このように、ショートハンドメッセージの受信ステージでは、たとえ信号をデコードできなくても、目視判断によって、QSOを進めて行くことができます。

パイルアップへの切り込み

EMEのDXペディションにおいても、初日や2日目などは大きなパイルアップになります。JT65Bのパイルアップは、SpecJTの画面を見ているだけで、どのくらいの規模か解ります。特にビッグガンの同期信号は太い線ではっきり見えますので、目視できる線を数えるだけで、何局のビッグガンがコールしているか解ります。センターから±1000Hz位の間にぎっしりと詰まっているような状況の時にローパワーで討ち入っても、ビッグガンにマスクされてしまうだけで、勝ち目はないため、様子を見ているだけにした方が賢明です。


写真3 DXペディション局を呼ぶ激しいパイルアップの例

しかし、ただ漠然と見ているだけではなく、DXペディション局が、上をとるのか下をとるのかなど、癖を観察するのは有効です。DXペディション局がある局にコールバックすると、その局はROを返しますが、ROは2本の線で見えるため、どこで呼んだ局にコールバックしたかが解ります。多くの場合は、他局からある程度離れたところで呼んでいる局にコールバックするケースが多いと思います。

これは、周波数が近すぎると信号が重なってしまい、信号にある程度のレベル差がない限りデコードできないからです。よって他局から離れて呼ぶことが重要であることが解ります。したがって、DXペディション局をコールする場合はスプリットに設定して、上の方が空いている場合は上で、下の方が空いている場合は下でコールすることで、漠然と呼び続けるよりも、早めのコールバックを得ることが可能になります。

ここで上、下と書きましたが、これはSpecJTウインドウのセンターから上、下という意味ですが、実際にはドップラーシフト値を考慮して、送信周波数を設定する必要があります。つまり、その時点での自局のセルフドップラーシフト値が、-300Hzだった場合は、オンフレでコールするだけで、(自局のSpecJTウインドウ上では)-300Hzのスプリット運用となります。(+500Hz付近が空いているため)、+500Hzでコールしたい場合は、+800Hzのスプリットにセットする必要があります。できるだけ空いているスペースに同期信号を落とすことが肝心です。


写真4 この例では上の方が空いている。

なお、DXペディション局には、2つのタイプがあります。まず1つは、「他局とのQSO中は(QRMになるので)送信はしないでください」と言うタイプの局です。これはHF帯でのDXペディションでは常識です。もう1つは、「他局とのQSO中でも送信を止めずにコールし続けてください」、「コールを止めたら、あなたには応答しませんよ」と言うEME独特のタイプの局です。

後者は、EMEではドップラーシフトによって自然に局が散らばるため、1回のシーケンスで複数の局をデコードすることができます。そのため、たとえばA局にコールバックした後、A局からROが返ってきているシーンでも、A局からのROと同時に他局からのコールをデコードして、次局へのコールバックに備える事ができるからです。この様なDXペディション局には、自局にコールバックがあるか、あるいは相手局が聞こえなくなる(見えなくなる)まで、他局がQSO中であろうが呼び続けることが肝心です。ただし、ビッグガンが多く呼んでいて、とても勝ち目が無い場合、これに限りません。

DXペディション局がどちらのタイプかは、MMMの情報を参考にするか、N0UK掲示板への書き込みなどで判断ができます。「Do not call during QSO」などと書き込んでいるDXペディション局は、他局とのQSO中に呼んではいけません。後者で有名なのは、Atletico teamがあります。

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