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特別寄稿

38年前のアメリカのアマチュア無線誌『73』を読んでみよう

JP3DOI 正木潤一

はじめに

今年の2月9日に兵庫県尼崎市で開催された『関西ハムシンポジウム』。そのフリーマーケット会場で表紙のレトロな写真に惹かれて手に取り、ペラペラとめくって眺めていると、そのブースの方がタダで譲ってくださいました。それが『73』誌の1982年6月号でした。


何とも言えないレトロな雰囲気に魅力を感じて手に取った

早速、(時には単語の意味を調べながら)読み進めてみると、非常に中身の濃い、読みごたえのある雑誌でした。この雑誌を通して当時と現在、そして日本とアメリカの無線文化のギャップに触れることができました。一部のOMの方々にとって38年前はそれほど昔ではないかもしれませんが、海外のアマチュア無線誌を読む機会はあまりないと思います。今回はこの『73』誌を1982年当時のアメリカのハム事情を知ることのできる貴重な資料として、一緒に読んでいきましょう。ちなみに1982年6月当時の為替レートはおよそ1ドル=250円。私はまだ生まれていません。

43年間続いた『73』誌

『73 (セブンティースリー)』誌は、1960年から2003年にかけてアメリカで出版されていたアマチュア無線誌です。もちろん、タイトルはアマチュア無線用語で「さようなら ("Best regards")」に由来します。Wikipediaによると、『73』誌は「SSB、FM、ソリッドステート(真空管に対して半導体)、比較的敷居の低い自作記事、パソコン(マイコン)とアマチュア無線を融合させた先駆的な雑誌だった」と評されています。技術記事、解説記事、そして掲載広告も多く、1982年当時の米国でのアマチュア無線の賑わいぶりが伝わってきます。1部2.95ドル(およそ750円)でした。

題材の幅が広い技術系記事

この6月号には11もの技術系記事が掲載されていますが、その中から4つの記事を選んで紹介します。ほとんどの記事には筆者の職業や専門性についての記述が無いので記事中の内容の妥当性は分かりませんが、読む限りどれも説得力があり読みごたえのある内容となっています。

1. 『デジタル式VFO回路の製作 ~マイコンを使って簡単に作れる~』


筆者はモトローラ社のエンジニアで、運用周波数をテンキーパッドから入力してLCDで表示されるPLL回路の製作例を紹介しています。この回路で5~6MHzの安定した局発が得られ、メーカー製リグに組み込んで使う事もできるとのことです。ちなみに、この号の表紙はこの回路の基板の写真です。PLL制御に用いられているマイコンやバリキャップダイオードなどの半導体はモトローラ製。部品の入手先の案内や、プリント基板の有償頒布もしているそうです。LCDを除いた製作費は45~70ドル(およそ11,250~17,500円)とのことです。


周波数シンセサイザ内蔵のモトローラ製マイコン(MC6805T2)を使ったPLL回路のブロック図

2. 『“想定を超えた状況”で生き残る ~第2部: 実用的な対策~』

これほど当時の世界情勢を表した記事は無いのではないでしょうか。この記事は米ソ冷戦下で米国が核攻撃を受けた場合に備え、アマチュア無線家として通信インフラを維持するために核爆発から無線機を守ることの重要性を説き、そのための現実的な施策を提案しています。


「核戦争時の通信手段としてのアマチュア無線」というシリアスなテーマ

筆者は災害時などにおいてアマチュア無線通信の担う役割は大きいと前号で説き、今号では第2部として『核爆発で発生する超強力電磁パルス(EMP)による無線設備の破壊に備えるための方法』を提示しています。

記事の書き出しは、まさに冷戦時代の当時を反映しています。「想像してください。ある日突然何者かがあなたのリグのアンテナ端子に高電圧を入力したら・・・ そんなことはあり得ないとお思いでしょう? 私もそう願います。しかし、今日の世界情勢では可能はゼロではないのです。

核戦争ともなればほとんどの人間が死に、ライフラインや物流は崩壊。放射能で汚染され、もはやこの世の終わりとってしまいます。それでも筆者は「生存者は必ずいるはずである。自分たちが生き残れなかったとしても、生き残った人間のためにアマチュア無線家として出来ること(つまり通信設備の保全策)をしておくべきだ」と説いています。

核爆発の際に発生する40kV/1kAの電磁パルス(EMP: Electro Magnetic Pulse)によって、電話線や電力線、アンテナ給電線はことごとく使えなくなると言われています。筆者によると、雷サージ吸収子も役に立たないとのことです。「雷の電気エネルギーはピークに達すまでに5ミリ秒間かかり、100ミリ秒間持続するのに対して、EMPエネルギーはたった10ナノ秒でピークに達し持続時間はたった1マイクロ秒。既存の雷防御策は通用しない。

そして、真空管に代わって高電圧に脆弱な半導体が使われるようになった背景を鑑み、現実的な無線設備へのEMP対策を提案しています。また、半導体よりも電磁パルスで発生する高電圧に強い真空管製の機器を使う事を推奨しています。


筆者が提案する、ガス配管器具を使ったバランのEMP防護策。
同軸ケーブルも厚みのある金属導管に通すように」とある。


シールドされた回路への同軸引き込み部分に挿入する、T字分岐コネクターとバリスタを使った保護回路。
(左: 受信回路用、右: 送信回路用)

記事によると、「今では(部分的核実験禁止条約締結後)地上で爆発を伴う核実験を行っていないため、多くのEMP対策設備は実際にテストがされていない。確実かつシンプルな方法は、外部との断絶とシールドである。」とのことです。また、「配線が短い箇所は誘起電圧が低いので、スイッチングダイオードと並列に0.1uFのコンデンサ(耐圧500V)を挿入することで回路を防護できる」とのことです。


無線機筐体にマイクラインを引き込むところにスイッチングダイオードと0.1uFのコンデンサを挿入して過電圧による破壊を防ぐ

筆者によると、アンテナタワーやシールドケースなどのグラウンド接続へのインピーダンスを下げることが重要で、これによりEMPで誘起される電圧を下げることができるそうです。


筆者が提案するアンテナタワーの接地強化策

最後に、「さらなるEMP防護策については、米国緊急事態省(FEMA)作成のガイドラインを参照するように」と締めくくっています。

3. 『初心者向け電子工作 ~ハンダ付けで得られる幸せ~』

アマチュア無線は自作や電子工作と切っても切れませんが、筆者はこれから自作に取り組むビギナーへアドバイスしています。内容のほとんどが現代でも参考になります。


製作記事を多数寄稿している筆者のもとには部品の選定から回路の組み方まで、様々な質問が多く寄せられるとのことで、今号ではそれらについてまとめて回答しています。筆者によると「何か自作してみたいと思いながらも、どこから始めてよいか分からない無線家は多い」とのことで、「臆することなくチャレンジすれば、出来上がった時の喜びは大きい」と読者の背中を押します。

この『73』誌の製作記事にはプリント基板のパターン図が載っていることもありますが、「(基板を起こさなくても)ブレッドボード(ソルダレスボード)やユニバーサル基板を使って気軽に回路を組める。」と述べています。

部品の入手先
自作においてもっとも高いハードルは部品の入手であるとのことで、「以前は街角のハムショップで必要な部品が手に入っていたが、今ではよほど汎用的な部品でない限り(無線誌に広告が載っている)通信販売を使う事になる。」とのこと。永年無線誌に広告を掲載している販売元なら信用できるであろうとのことで、「無線誌に掲載されている広告を見て直接注文するか、まずカタログを取り寄せて入手可能なものを調べてから注文しよう。すぐに必要としなくても多めに注文しておくと良い。」とアドバイスしています。

使用する部品について
抵抗器については基本的に1/2Wタイプ、もし組み込むスペースが限られていれば1/4Wを使うこと。「抵抗値や容量の値のラインナップが変だと思うかもしれない」と、部品定数の系列(E系列など)の説明を加えています。また、耐圧と精度、極性についても回路図の通りに選ぶよう注意しています。

トランジスタやFETについては、「回路図に記載されたものを使うのが基本だが、入手性を鑑みて互換品を使える」とアドバイスしています。ただし、「電気的特性が同じでも端子配列が異なる場合があることに注意」とのことです。ICについては、同じ型番でも末尾の文字がパッケージなどの違いを示していることや、ピン配列の並びについて言及しています。また、データシート上でのピン配列の記載や実装面(部品挿入面)の違いによる誤実装に注意を促しています。


実際に工作を始める前に
製作に取り掛かる前に必要な部品を調べて、それらがすべて手に入ることを確認しよう。」とアドバイスしています。そして「部品配置を決めて、ケースに収める場合はダイアルやジャックの位置を決めておくこと。」と続けています。

最後に、「地域にいる経験豊富な無線家は助けになる」とのことで、諸先輩や詳しい人に相談することをためらわないようにアドバイスしています。さらに、どうしてもわからないことは「製作記事の寄稿者に、返信用切手を同封した手紙で質問する」ことも提案しています。(実際、多くの記事には寄稿者の住所が載っている)

4.『900MHzバンドの開放に備えて』

この記事の数年後に米国で900MHzバンドがアマチュア無線に解放されました。筆者は記事の中で900MHzという電波の特性を鑑み、技術的課題や適した運用方法、そしてバンドプランについて考察しています。


筆者は900MHz帯を使った無線運用について、その電波特性と技術面から考察し、レピーターを使った運用が主体になると予想したうえで最も適していると思われるバンドプランを提案しています。「902~928MHzのアマチュアバンドへの割り当てが提案されてから、UHFバンドの愛好家と研究家たちが900MHzバンドの用途と、その効率的な運用に必要な機材について検討し始めている。

当時の米国において900MHzはアマチュア以外の用途“ISM (Industrial, Scientific, Medical)=産業、科学、医療”に割り当てられていました。なお、電磁加熱(電子レンジ)にも割り当てられており、「水分を多く含む物質(食品、そして人体)における発熱効果から加熱用途に選定されたが、さらに過熱効率の良い2450MHzに変更されつつある」のが当時の背景だったそうです。「900MHz帯は、430MHz帯と比べて周囲の物体による減衰が大きい一方で、より波長が短いことから都市部では信号がビルの谷間を反射していくことでトンネル内を走るように長距離伝搬が期待できるかもしれない」と期待を寄せています。

懸念すべきこととしては、短い波長により顕著となる移動体におけるフェージングを挙げています。「移動中に信号状態が目まぐるしく変わることでCTCSSトーンスケルチが誤動作する可能性がある。スケルチを確実に動作させるためにはトーンバーストやデジタルスケルチを付加する必要があると思われる。」と推測しています。

また、ハードウェアの設計に関しても言及していて、「900MHz帯のフロントエンドにおける選択性向上のため、(LC回路ではなく)低損失のキャビティーを使った共振器が使われることになるだろう。増幅素子にはガリウム-ヒ素を用いた低ノイズのFETが使われると思われる。こういった素子は現状では高コストだが、(業務・アマチュア問わず)このバンドを使った通信が広まるにつれて安くなっていくことが見込まれる。」と、技術的観点で予測を立てています。

一方で、今ではアマチュア無線家の間でも認識が浸透している高周波回路実装上の原則についても触れています。「900MHzという高い周波数は、それ以下の周波数とは部品やパターンの挙動が異なってくる。“最良のリード部品は、リードが無い部品である”という原則が支配する世界だ。これは、“あなたにとってはコンデンサでも、回路にとってはインダクタなのだ。”という言葉に象徴されている。コンデンサの容量性リアクタンスよりも、部品のリードが持つ誘導性リアクタンスが大きければ、もはやその部品はコンデンサではなくインダクタである。そのため、こういった周波数ではリードの付いていないコンデンサ(チップコンデンサ)が使われる。高速化の進むデジタル回路においても、回路からの不要輻射規制に対応するために、リードレス部品(チップ部品)が使われつつある。

さらに、900MHzを扱ううえで解決するべき課題として基準周波数の安定度を挙げ、その解決策を提案しています。「技術的に最も難しい課題の1つは、特に携帯機/車載機における周波数安定度であろう。例えば、送信周波数が902MHzで、基準周波数に33.4074MHzの水晶を使うとする(つまりPLLの分周比は1/27)。電圧変動や温度変化、振動による水晶のFズレが0.001%発生したとすると、902MHzで9kHzの周波数ズレとなって現れる。もし900MHzバンドのチャンネルスペースが25kHzで占有帯域が13kHzと定められたならば、(430MHzバンドと比べて)近接チャンネル選択度と復調歪が劣ることになる。
この課題に対しては、レピーターを介した通信であれば改善する手段は考えられる。携帯機/移動機と違って設備の規模に制限のないレピーターでは、より高精度の局発周波数を実現できることから、例えば、ダウンリンクに周波数補正信号を重畳させることで移動機側の周波数を補正する仕組みは実現可能だ。

900MHzバンドのメリットとしては、その波長からアンテナを小型に作れることを挙げています。「波長が短い分アンテナ作りが簡単で取り付け場所も選ばないという恩恵が得られる。例えば、14エレの八木を作っても6.5×28.5インチ(16.5×72cm)四方のスペースしか取らない。さらに、もしスペースが許すなら直径4mのパラボラアンテナを作って27dBもの利得を得ることもできる。

最後に筆者はこう締めくくっています。「新しいバンドの開放が読者の関心を掻き立て、このバンドでの運用やそのための技術が向上することを望む。26MHzという広いバンド幅は、皆に開かれている!


筆者の提案する900MHz帯バンドプラン

イベント告知コーナー

おもにクラブが開催を予定しているアマチュア無線関連のイベントの告知が載せられています。参加費の相場は2~3ドル(500~750円)。奥さんや子供(12才以下)といった同伴者は無料か安く設定されています。軽食やバーベキュー、景品がもらえる抽選会など、読んでいると参加したくなりますね。なお、ほとんどが“Annual”(年次開催)のイベントですが、1982年6月開催分だけで32件もあります。このことからも当時のアマチュア無線の盛況ぶりが伺えます。


希望掲載内容はイベントが開催される2カ月前までに編集部に必着とのこと

各イベントの告知は、「場所と日時」をタイトルに、主催団体、どんな催しなのか、問い合わせ先、どんな食事が振舞われるか、参加費、目玉となる催し(抽選大会やフリーマーケット、セミナー、講座、プレゼン、コンテスト)といったことが簡潔にまとめられています。


抽選、バーベキュー、屋内展示/販売ブース、キャンピングスペースあり

求む! のコーナー

読者が無線機や周辺機器、コンピューター、あるいは資料や情報の提供を呼び掛けるコーナーです。無線機などの物よりも、取説や回路図、サービスマニュアルなどの資料や情報の提供を求める人が多いのが印象的です。中古で入手したものの修理が必要だったり取説が無かったりした場合、ここで提供を呼びかけていたのでしょう。インターネットが無かった当時、少しでも多くの情報を入手したいという想いは現代よりも強いように感じます。いつの時代も情報は重要だということが分かります。


回路図や部品表を求む”といった投稿が並ぶ“HAM HELP”のコーナー。

中には、自身の経歴を提示して職を求める投稿も。


当方ドイツから帰国予定の者だがジョージア州で仕事を探している。無線通信資格あり。

特定の経験や能力のある人間とのコンタクトを求める投稿の中には特殊な例も。


旧日本軍の(無線通信の)方探訓練に関する記事を書ける人間を求む

なお、ここに記載されている “ニュージャージー州モンマス郡の米軍基地Ft. Monmouth”には大戦当時にSignal Corps(通信部隊)が配備されており、真珠湾攻撃における日本軍機の襲来を探知した米軍初のレーダーが開発された場所だとされています。(Wikipediaより)

無線機メーカーから小さなパーツ屋まで、至る所に大小たくさんの広告が掲載されています。ちょっぴり大げさな表現を使うアメリカンなキャッチコピーが読者の購買欲を掻き立てたことでしょう。ここではほんの一部を紹介します。2003年に『73』誌が廃刊となった理由は広告収入の減少とのことですが、このことを1982年に誰が予見できたでしょうか。


リグ、周辺機器、キット、パーツなどの広告がいっぱい

アイコムの220MHz帯ハンディー機のカラー広告。欧米では昔から性差意識が高いためか、右側の無線機を持つ手は女性が起用されています。


IC-2AT(左)とIC-3AT(右)


フェライトコアで今でも有名なアミドン社のいたってシンプルな広告


中古無線機の買取り&販売業者の広告。今も残っているのは日本の3メーカーとテンテック。


パーツの通信販売広告。当時はおよそ1ドル=250円。当時の物価を考慮しても安い印象を受ける

決済はクレジットカード、代金引換(“C.O.D (Cash On Delivery)”)もしくは小切手。広告欄に載せられる取扱品目は限られるので、返信用切手を送ればカタログを返送してくれるそうです。また、『73』誌はカタログの申し込みを代行していて、「掲載広告に割り当てられた番号を選んで編集部に送付すればカタログが届く」という仕組みがありました。


付録のカタログ請求ハガキ。カタログが欲しいショップの番号丸で囲んで投函する

こちらは組み立てキットの通信販売。今よりも物流に日数が掛かっていた当時。注文してから届くまでのワクワク感は今よりも強かったことでしょう。


ワイヤレスマイクやLED、メロディーを鳴らすキットなど。意外と今とあまり変わらない

中にはちょっと眉唾ものの広告も…こちらは、広帯域受信機や短波受信機で様々な通信を聴くためのハウツーマガジン。隔月で発行されていたらしいです。具体的にどのような情報(周波数? 機材?)が掲載されていたのか、この広告からは分かりません。


“Drug Smuggling”(薬物の密輸)、“Spy Networks”(スパイの通信ネットワーク)

私が気になったのは、アメリカと日本の文化の違いによるものなのですが、どうも売り文句が大げさに見えます。具体的には、日本の広告では直接的に自賛したり断定したりする表現を避ける傾向にありますが、その点アメリカはストレートでダイレクトです。

たとえば、“The best in the world!” (世界一!)、“The most ~ ever” (今までで一番~)、“Far above average!”/ “Outstanding!” (ずば抜けている!)といった、明確な序列表現が惜しみも無く使われています。また、“Don't wait!” “Call today! ” (今すぐに! さっそく電話を!)という、読者を煽る文句や“super-reliable performance” (超信頼性の高い性能)、“World famous” (世界的にも名の知れた)といった、日本人の感覚では大げさに映る表現が多用されていて少し滑稽に見えます。


“REVOLUTIONIZE THE STATE OF THE ARTS” (最先端技術に革命を起こす)

余談: 通信販売 vs 店頭販売

幸い私の地元には電子部品を扱うハムショップがあり、高校の帰りに駄菓子屋感覚で寄っては部品をちょこちょこ買っていました。汎用部品はそこで賄えましたが、少し専門的な部品の入手は通信販売が頼みの綱でした。

中学の時、技術科の教科書に載っていた『断線報知器』を作ろうと思いました。これが電子工作初体験です。教科書には“NPN”とだけでトランジスタの型番が載っておらず、どれを買えばよいか分かりませんでした。前述のハムショップに部品を買いに行ったとき、「何を作りたいの?」と訊かれ、「断線報知器です」と答えると、「じゃあこれが使えるよ」と、トランジスタ(型番は失念)を差し出してくれました。作りたい回路を伝えただけで、数あるトランジスタの中から型番を特定する店員さんに驚きました。

やはり、ハムショップやパーツ屋さんは相談に乗ってくれたり質問に答えてくれたりする頼もしい存在であり、電気や無線に興味を抱くきっかけ作りや趣味を発展させる知識を提供してくれる存在だと思います。こういう要素は通信販売にはありません。

ちなみに、あの時の回路はトランジスタのベースがGNDから切り離されることでONしてコレクタ電流が流れてブザーが鳴るという仕組みなので、低周波用小電力NPNトランジスタなら何でもよかったのです。もっとも、私が電気知識を養ったのは文系大学に進んでからの独学でしたが。

名物コラム“Never Say Die”

『73』誌の主宰者であるWayne Green氏(W2NSD)によるコラムが毎号掲載されていました。彼はその先見性でアマチュア無線の発展に寄与したと言われています。この1982年6月号では偶然にも日本のアマチュア無線事情に触れていたので、最後にこれを紹介します。驚くべきことに、彼は当時から「若者の無線離れ」に警鐘を鳴らしていました。なお、タイトルのNever Say Dieは、彼のコールサインN S Dの各アルファベットに単語を当てたバクロニム(※)です。

※ある単語の各文字を使って新たに頭字語としての意味を持たせたもの。日本で言うあいうえお作文に近い。


W2NSD(Green氏)によるコラム。やたらと長いが、それだけ無線への熱意が強いとも受け取れる

彼が実際に日本を訪れて見た事情をアメリカと比較しています。


日本は全く逆の道を辿っている。アメリカではアマチュア無線の発展が停滞しているのに対し、日本は高校での無線クラブ活動や免許取得の簡略化によってアマチュア無線の普及を推進している。これらの違いが、日本でのアクティブオペレーターの人口がアメリカの約2.5倍という結果を生んでいる…日本の人口はアメリカの半分なのにも関わらず。実際に、私が日本で訪れたコンピューターや電子技術の研究所には必ずアマチュア無線家が居た。

このことを踏まえて、「若い世代でアマチュア無線が盛んな国は技術力が高い」という持論を展開しています。そして、国家の電子技術を向上させるためにも、若い世代の関心をアマチュア無線へ向けることが必要だと訴えています。


若い世代のアマチュア無線人口が急速に拡大している日本が電子技術分野で世界をけん引しているのは決して偶然ではない。今日の革新的技術開発は、もはや米国ではなく日本からもたらされている。我々の使っているデジタル時計、テレビ、ビデオ…(中略) アマチュア無線機もほとんどが日本製だ。もしこの潮流を変えたいのなら、(中略) アマチュア無線を若者にとって魅力的なものにして、その存在を彼らに広めることに力を注ぐ必要がある。

最後に

さて、ここまで読んでいただいた方は『73』誌に興味が湧いてきたのではないでしょうか?
実は、WEBアーカイブサイト*で読むことができます!
https://archive.org/details/73-magazine?&sort=-downloads&page=1
今回私が書ききれなかったり触れなかったりした内容もありますので、ぜひご覧ください。

* ウェイバックマシン (Wayback Machine)にて運営されているWWW・マルチメディア資料のアーカイブ閲覧サービス。

さて、40年も経てば様々なことが大きく変わります。特に1990年台に入ってからの携帯電話の台頭、そして2000年台からの情報インフラ(インターネット)の急速な高度化。これに相違するように、73誌の廃刊に象徴されるアマチュア無線文化の縮小…。Green氏のコラムにあったように、アマチュア無線への若者の取り込みという課題は普遍的で、昔も今も、日本もアメリカも同じです。しかし、アマチュア無線もDSP、VoIP、SDRと、時代に合わせて技術を取り入れて変革してきました。電子工作も、そのスタイルやアプローチは変わりつつも、まだまだ人気があります。

73 & 88

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次号は 12月 1日(木) に公開予定

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