2014年11月号

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防災にD-STARを活用する

編集部

D-STARシステムが登場してから約10年。当初は「D-STARレピータを使って楽しみましょう」といった普及活動が繰り広げられてきましたが、近年ではD-STARシステムを防災活動に取り入れ、バックアップインフラとして整備する自治体が増えてきました。今回はD-STARを防災に活用する方法を中心にご紹介します。

D-STARが防災活動に最適な理由

D-STARのシステムは、JARLが阪神淡路大震災での非常通信の経験と知恵を盛り込んで開発したアマチュア無線のデジタル方式なので、通常の交信を楽しめるだけではなく、非常通信に適した仕様になっています。そのため、自治体や病院、医師会館などでもD-STARレピータを設置して災害に備えた訓練が行われている他、世界各国でも防災活動に最適な通信システムと評価され、各国のバンドプランにも盛り込まれる国際標準規格になっています。


D-STARレピータの設置が進んでいる国

D-STARのメリット

D-STARはデジタルデータ(DD)とデジタルボイス(DV)の二つのモードがありますが、特にDVモードは複数の情報を同時に取り扱えることと、狭い帯域で伝送できるデジタルであることから、電波のひっ迫が深刻な各国では「効率良い通信方式」として積極的に導入されました。またレピータを併用することでシンプルな装備で近距離/中距離/遠距離通信が可能になることから、「行動しながら通信ができる」「(大型機に比べ)少ないエネルギーで通信できる」メリットもあります。


ハンディ機でも設定を変えるだけでさまざまな経路で通信が可能

またデジタルなので了解度が良く、嵐の中でも受信音がはっきり聞き取りやすいというメリットも防災活動向きと言えるでしょう。


アナログとデジタルの了解度のイメージ

そしてデジタルならではの最大のメリットが、複数の情報を同時に送受信できることです。


DVモードの構成:音声とデータが同時に扱える

音声データにコールサインやGPS位置情報やメッセージなどの情報をプラスすることで、短時間の通信の中で
・コールサイン:誰が
・メッセージ:どこの所属でor何をしている
・GPS位置情報:どこで
の情報を同時に伝えることができます。


音声と同時にさまざまな情報を伝達できる

さらに最近では、Androidアプリ:RS-MS1A※の登場で、上記の情報の他に画像データも同時に伝送できるようになりました。

※Androidアプリ:RS-MS1Aについては、5月号の『Androidアプリ RS-MS1A講座』をご参照ください。

災害発生時には電話に音声通話が集中し、つながりにくくなります。東日本大震災発生直後も、携帯電話事業者によっては平常時の50~60倍以上の通話が一時的に集中し、長時間に渡り電話がつながりにくい状態となりました。しかし電話がつながらないスマートフォンでも、カメラ機能は生きているため、送出する電波を携帯電話回線からD-STARに切り替えることで、離れた場所に画像を伝送することが可能になります。


D-STAR対応リグ+RS-MS1Aで、音声連絡しながら画像などが同時送信できる

画像伝送できるメリットは大きく、パトロール先の様子を仲間に伝える他、各避難所にD-STAR端末とスマホやタブレットを持ち込むことで、避難所内の様子や、離れて避難してしまった家族同士の元気な姿を送り合うなどの使い方も想定できます。


D-STARの画像伝送実験の様子


アルミケースにポータブル電源・無線機・タブレット、ケーブル類をセットした様子 非常時、発電機等の電源が確保できるまでの間も、ポータブルバッテリーで運用が可能


ハンディ機にスマートフォンやタブレットPCをケーブル接続することで
シンプルな装備で画像伝送やマッピング、テキスト伝送が可能

電波の届く範囲を事前に把握しておく

D-STARレピータを使った運用を続けていくうちに「○○公園はエリア内だ」「△△山で急に開く場所がある」などのノウハウが蓄積できますが、開設したばかりのレピータを使う場合や、初めて訪れる場所でシンプレックス運用する場合、どこまで電波が飛ぶのかわかりません。

ある地点から任意の地点まで伝搬できるかどうかは「自由空間損失」の計算式で求めることができます。

ある地点から電波が全ての方向に輻射されると仮定したとき、電力が電波となって全方向に広がる際には徐々に電力が弱くなります(弱くなる具合は球の表面積に反比例する)。この弱くなる具合は「損失」で、障害物が無い場合の損失を「自由空間損失」と呼び、

損失 LOS=(4πr/λ)^2
損失 LOS(dB)=20*log(4πr/λ)
λ=波長、r=距離

の式で求められます。しかし、これを複数箇所分求めるとなると、シミュレーションソフトなどがなければかなり面倒です。しかしおおざっぱではありますが、もっと簡単に伝搬予想エリアを把握できる方法があります。

5W出力のハンディ機は「見通し距離に電波が届く」と言われていますが、反射など複雑な伝搬を考慮せず、単純に「見える範囲」を求める方法として、『カシミール3D』を使う方法があります。『カシミール3D』は登山やカメラを趣味とする人にはおなじみの山岳眺望景観ソフトで、無料でダウンロードできる他、書店でCD付きの解説本も色々売られています。

このソフトには『可視マップ』という機能があり、緯度経度と標高を指定すると、その場所から「見える範囲」を地図上に表示することができます。


可視マップの設定画面。緯度経度と標高(建物の上を想定する場合はその高さも加える)を設定


可視マップの結果例

このほかカシミール3Dには2点間の見通しや標高差などを求める機能もあり、山頂にD-STARレピータを設置し、インターネット回線を麓から屋外型無線LAN(ビル間通信)を使って接続する際には、事前に直線距離と見える/見えないの判断、仰角などがわかるため便利です。


2点間の見通し判定例。ただし生い茂る木の枝などは考慮できない。


ビル間通信システムを利用すれば、山岳部でもインターネット接続が可能。
写真は北海道旭岳の山頂付近(標高2,291m)にビル間通信のアンテナを仮設した様子。

若いHAMに期待するデジタルの未来

D-STARのデジタルならではのメリットをご紹介しましたが、アマチュア無線の未来に向けて期待できるのが『若いHAMの参入』と『デジタルなので発展させられる』点だと考えています。実際DVモードで交信していると、他のモードに比べ小中高生や高専生の比率が高いことに驚かされます。気軽に入手できるシンプルな機材で近距離/中距離/遠距離通信が可能なことや、スマートフォンやパソコンと併用して遊べる点も、若いHAMに受け入れられている理由のようです。

実際、D-STARを導入したある高専の先生からは「条件さえわかれば、学生でアプリ開発できる」の心強い声も寄せられています。想像力豊かで才能ある若手HAMの参入が、D-STARシステムの未来をさらに明るく楽しく発展してくれることと期待しています。

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