2015年2月号

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連載記事

熊野古道みちくさ記


熱田親憙

第3回 湯登神事と宮渡神事に神の予感

熊野三山の中心地・本宮大社では、今年も春の例大祭が執り行われた。このお祭りは五穀豊穣を願う3日間の春祭り。その初日の4月13日の湯登神事と宮渡神事に立ち会うことができた。まずは湯登神事。参加者は宮司と神職、氏子、神楽人(笛、太鼓)、稚児、氏子総代など30名余りで、主役の稚児は11人。9時30分、ウマ役の父親に肩車された稚児は大社本殿前に一列横隊、宮司に合わせて拝礼。「湯登神事を通して、神々の魂・わが子の命を熊野の神の申し子として体感頂き、ご両親・子供さんの新たなる第一歩の日として頂きたい」と宮司のお言葉。この後一行は稚児を肩車にしたまま列を作って湯の峰温泉へ。列の中に一人の外人の父親がおり、稚児の肩車を支えるために、母親の日本人が掛け寄り、稚児と父親を励ます姿は微笑ましかった。国道に出た一行と別れて、私達は車で10分ほどの湯の峰温泉に先回りする。一行は頭屋といわれる斎屋となる旅館あづまやで、湯垢離・入浴による潔斎の後、湯粥を食べる。ここで稚児は額に「大」を書かれて神の子となる。神事に関係のない私達は小栗判官の「つぼ湯」、名刹の「東光寺」、茹で卵の「湯筒」などを散策した。

午後1時15分、高台の湯の峰王子社へ登った一行は社殿前で稚児たちを囲み、太鼓と笛、笙の奏でる中で、祭典が厳かに執行された。次は、稚児が自分の太鼓を叩きながら、左に3回、右に3回、左に3回回る八撥神事。汗を拭った父親は稚児を肩車にして、難所の大日越えを登り始めた。私は大斎原に先回りして夕刻の宵宮行列・宮渡神事を待つことにした。

午後6時、大斎原の大鳥居がライトアップされ、本宮大社からほら貝の合図。まもなく、稚児の一行が参道に現れた。霧雨の中を大きな提灯の先導で大鳥居へ向かう稚児の列は、幽玄な時代絵巻そのものだった。その幽玄さは、八重桜に囲まれた大斎原の石祠前で行われた祭典と八撥神事で最高潮に達し、神の降臨を感じさせられた。

後でウマ役の父親に感想を伺った。地元出身の泉辰徳さんは「稚児を一日中地に下ろさず、退屈させずに行列することは苦しい体験だが、子育ての一環として挑戦してみたいと思い、申し込んだ。子供もこの神事を通して、苦しい体験を共にできる人間になって欲しいと願っている」という。カナダから本宮に来られたブラッド・トールさんは「熊野に残るお祭りをいろいろ見たが、この湯登神事が一番面白い。今回家族ぐるみで参加したが、コンパクトな祭りで、参加したみんなが仲良く祭りを楽しんでいる雰囲気がいい。家族にはよい思い出ができた。子どもには、皆と一緒に新しいコトに挑戦する前向きな心が持てるよう願っている」という。お二人とも、神事は親子の絆を深める場であり、親の願いとして強い子に育って欲しい苦行の場と捉えているようだ。神事が観光イベントでなく、本宮大社の氏子の生長の営みの一コマである。


スケッチ 田辺市本宮町本宮1(大斎原)

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