2015年7月号

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熊野古道みちくさ記


熱田親憙

第13回 春一番、男の祭だ!お燈まつり

毎年2月6日、約1400年前から新宮市の熊野速玉大社の摂社、神倉神社で「お燈まつり」が行われる。フィナーレは夜だが、正午から参加者「上り子」の禊の儀式が王子ヶ浜で行われた。儀式は終わり、真っ白なフンドシ姿の男達が老若入り混じって焚火を囲む。和歌山市から参加された松本裕司さんは「誰でも参加できるのがいいね、僕は15年続けていますよ。上り子になると、ワイルドな心が湧いてくるね」とキッパリ。男ごころを取り戻す機会とみた。観光客も多く、東京からの10年ファンもおられた。

祭り全体を支える、神倉神社奉賛会の猪飼三雄さんより、紹介を受けて、たいまつ作りで55年間祭りを支えてきた上道益大さんを訪ねた。丁度作業中だったが、和歌山県の名匠に選ばれた紹介記事とアルバムを見せて下さった。「大工、建具の技ですね」と申し上げると「うちは熊野産のヒノキを使い、正目を大切にフサ(ハナ)を使っているのが特徴だ」と神事に携わる姿勢に気骨を示された。

4時が過ぎると白装束の男性が多くなり、町が動き出した。浜でお会いした松本さんと再会。腹ごしらえの現場に立ち会うことになった。食卓に準備されたものは、白米ごはん、お豆腐、しろたくあん、しろ醤油など、白一色。古人は子孫に分かりやすい形で禊のこころを伝えていた。

国道沿いに出ると、店頭に上り子用の荒縄を沢山揃えている「やまぐち青果店」が目に留まり、店内で休ませていただいた。そこに、白衣を抱えたおばあちゃんが、父子連れで入ってきた。「里帰りしている愛知県の孫も、上り子になるので、2セット、それに私の分の参代も頂戴」。参代とは上り子に残り火を家に持ち帰って貰うたいまつのこと。上り子は家の代表なのだ。店の主人は、白装束になった父親を椅子に座らせ、手際よく片方の縄を肩にかけて5回巻き、片方の端で輪を作って両端を強く引く。両端を揃えてカットして男結びが完結、防火の鎧としてもいい仕上がりだ。また、地元の上り子たちが集る福祉会館では、変わったお太鼓結びに締められ、飛鳥時代の若者に変身していた。

夕闇迫る6時過ぎ、山伏姿を先頭に大たいまつを運ぶ一行やたいまつを打ち合う上り子が神倉神社に向かった。神倉山が見える町の空き地や沿道では、地元の人たちで埋まり、緊張が高まった。午後8時、闇の神倉山の中腹が急に明るくなり、一瞬静寂が走った。上り子と町民の心が一つになった。あっ!たいまつが動きだした。たいまつの列が下に延び、ワッショイの掛け声と共に下り龍のようにくねった。これもあっという間のお燈ショウとなった。

顧みると、今日の新宮の町は、お店や町民総動員のお燈祭り一色であった。2000人ほどの上り子の男性が全国から集まり、伝統的な神事を通して祈りの一日だった。開かれた町おこしである。新宮駅前のたいまつ担ぐ父子像と童謡「鳩ぽっぽ」を作詞した東くめの顕彰碑が、今日の新宮を象徴していると思った。


スケッチ 神倉神社と新宮市街

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