2015年7月号

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第4話 コンテストに初挑戦!

無線ガールであり山ガールでもあるあーちゃん。(お忘れの方は『3人娘アマチュア無線チャレンジ物語第1話』をご覧ください)
久しぶりに一人で山登りをすることにしました。

以前道に迷った時にアマチュア無線機に助けられたことを教訓に、もちろんその日もID-51を忘れずに持っていきました。(お忘れの方は『3人娘アマチュア無線チャレンジ物語第9話』をご覧ください)

 「新鮮な山の空気はおいしいな~♪」
久しぶりの山登り、テンションは上々です。「今日は迷わずにいけそうな気がする」という根拠のない自信を胸に、足取り軽くどんどん山を登っていきます。

ところが、上へ上へ進むにつれ―――。

 「あれ・・・」
どんどん霧が濃くなっていきます。

 「あれれ・・・」
さらに霧が濃くなり、数十メートル先は真っ白で何も見えません。

 「ちょっとヤバいかもーーーー??!!」
頼りのサミー、エリーは今日はいません。あーちゃんは少し不安になってきました。

下山することも考えはじめましたが、登山道もしっかりしているし、今まで一度も単独での登頂に成功したことがないので、もう少し登ってみることにしました。万一の場合は、ID-51のGPS機能を使えば、あらかじめ位置情報を登録しておいたスタート地点にはたどり着けるはずです。

不安と戦いながら懸命に山道を登っていると、前方に人の姿が見えました。これぞ天の助けと、あーちゃんはその人に駆け寄りました。

 「こんにちは」
 「こんにちは~」
 「すいません、山頂へはこのルートを辿れば到着しますか?」
 「このルートで間違いないけど、ここからやとちょっときついで」
 「あの、よければ道中ご一緒してもらえませんか?少し不安なんです」
 「別にかまへんけど。僕、頂上でやることがあるねん。無線や、って言っても、女の子に無線なんて言っても意味分からへんか」
 「分かりますよ!私もハムですから!」
あーちゃんは自慢げにライムグリーンのID-51をリュックから取り出しました。男性はあーちゃんがハムであることに少し驚いたようでしたが、そうと分かると、
 「そんならもっと早よ言わんかいな!(笑)」
と笑いました。

 「自分(関西弁で『あなた』の意味)も『KANHAMコンテスト』に参加するんか?」
 「? 『KANHAMコンテスト』って何ですか?」
 「なんや、コンテスト目的で山登ってるんとちゃうんかいな」
 「無線はまだ始めたばっかりなんで・・・」
男性はKANHAMコンテストの詳細を説明してくれました。

コンテストとは、決められた時間(6時間、12時間、24時間などがある)内の運用で獲得した得点を競うものです。得点は、交信ポイント×マルチ(係数)で算出するのが一般的です。得点が多い方が順位が上となり、最高得点を獲得した参加者が優勝者です。また、ほとんどのコンテストには複数の部門が用意されており、強豪がひしめく部門から初心者でも参加しやすい部門などがあって、好みの部門を選んでエントリーすることができます。

KANHAMコンテストは「関西アマチュア無線フェスティバル」の開催に先立つプレイベントとして、主催者の関西アマチュア無線フェスティバル実行委員会が毎年開催しています。このコンテストのマルチは都道府県支庁の数と規定されているため、より多くの局と交信するだけでなく、より多くの都道府県と交信することが、高得点を獲得するための条件となります。KANHAMコンテストにはハンディ機部門という初心者でもエントリーしやすい部門があるのが特徴です。

 「コンテストでは、コールサインの交換と、コンテストナンバーの交換、この2つがメインやねん。普段のCQとは違って、数稼いでなんぼやから、短めに交信が終わることが多いなぁ。
自分みたいな初心者がCQを出すんやったら、ある意味コンテストのほうがシンプルで簡単かもしれへんな。まぁ知らんけど」
 「それって私も参加できますか?」
 「そらそうや!日本国内のアマチュア無線局なら誰やって参加OKやで」
 「へぇ、楽しそうですね。ちょっとやってみたいです」
なんだか楽しそうな雰囲気を感じたあーちゃん。さきほどまでの鬱な気持ちは吹き飛んでいました。

 「おっしゃ! ほんなら、今日は僕が特別にコンテストのやり方をレクチャーしたる! 無線機乗せる台やマイクは僕のんを貸したるさかい」
 「えっ?! いいんですか?!」
 「かまへんかまへん。YL(女性)局は珍しいからな。僕もYL局の運用を応援したいんや。アマチュア無線の明るい未来のために―――」
男性はきりっとした表情で空を見上げました。霧に包まれていて、青空は見えませんでした。

山頂を目指してがんばって登ること数十分。

 「もしかして、頂上?!」
霧の向こうに見え隠れしていた木々の影はなくなり、視界が開けました。
なんとか山頂に到着することができたのです! あーちゃんは大いに喜びました。

見晴のいい展望台で休憩を取った後、男性はコンテストのための準備を始めました。
 「よっしゃ、始めるで!」

 「まずは練習として、CQを出してる局に応答してみよか」
あーちゃんは男性のアドバイスに従ってID-51の周波数を433.00MHz前後に設定し、しばらくワッチしてみました。普段のCQとは違い、「CQカンハムコンテスト」と言っている局がたくさんいました。

 「まずは、相手局のコールサインを書き取ることや」
 「JP3KPJ/3(ジェイ・ピー・スリー・ケー・ピー・ジェイ・ポータブル・スリー)って聞こえました」
 「その通りや。ええ耳してるやん。その局の交信が終わったタイミングを見計らって、自分のコールサインを送信してみ。よし、今や!」
心の準備はぜんぜん出来ていませんでしたが、そんなことも構っていられないくらい、チャンスは一瞬しかありません。

 『こ、こちらJP3KGT/3』
※「/3」・・・移動して運用している局に付与するナンバー。

PTTボタンを押しながらコールサインを言いました。するとすぐに、向こうから『JP3K・・・でしょうか?もう一度コールサインをお願いします、どうぞ』と返ってきました。

 「よっしゃ成功や!相手が聴き取りやすいように、フォネティックコードを交えながらコールサインを伝えたったら親切やな」
 『こちらジュリエット・パパ・スリー・キロ・ゴルフ・タンゴ・ポータブル・スリー。JP3KGT/3です』
自分のコールサインをフォネティックコードで言い直しました。今度は「JP3KGT/3」と完全に相手局に伝わりました。

 「その調子や。次はコンテストナンバーの交換やな。これも重要やで!このナンバーがないと得点にならへんさかい」
コンテストナンバーはコンテストによって色々ありますが、KANHAMコンテストの場合は、「シグナルレポート」と「JARL制定の都府県支庁ナンバー」を組合せたものです。さらにいくつかの条件に当てはまる局は、末尾にアルファベットを追加します。
シグナルレポート:相手局の信号の明瞭度と信号強度を2桁の数字で表すもの

※KANHAMコンテストの規約詳細は下記のURLを参照してください。
http://jarl.gr.jp/kanham/?page_id=54 (2015年7月現在。将来本ページはURLが変更される可能性があります)

 「なら・・・相手局の声がクリアに聞こえて、信号はすごく強かったので『59』、ここは奈良県なのでナンバーは『24』。つまり、私のコンテストナンバーは『5924』ですね?」
 「惜しいな。YL(女性)局の場合はさらに、末尾に『W』を付けて『5924W』になるねん」
 「なるほど。『5924W』ですね」

さっそく、相手局からコンテストナンバーが送られてきました。
相手局 『JP3KGT/3、こちらからコンテストナンバー5927(ゴ・キュウ・ニ・ナナ)、5927を送ります。兵庫県からの運用です』
 『5927ですね。了解しました。こちらからコンテストナンバー5924W(ゴ・キュウ・ニ・ヨン・ダブリュー)、5924ウィスキーのWを送ります。どうぞ』
相手局 『5924W、了解しました。今回YL局との交信は初めてになります。交信ありがとうございました』
 『こちらこそ、ありがとうございました!コンテスト頑張ってください』
相手局 『どうもどうも!では、88(エイティー・エイト)、さようなら』
 『73(セブンティ・スリー)、さようなら』
※73(セブンティ・スリー):Best regards。お別れの挨拶。異性に対しては88(エイティー・エイト):Love&kissesを使用することもある。

 「ええやんええやん!これで1点獲得や。初めての割にはよぉやったで」
 「とっても緊張しました・・・(>_<)」
交信が終わると、あーちゃんはその場に座り込みました。
 「コンテストでは、交信のログを取らんとあかん。普段の交信やったら別にせんでもええねんけど、コンテストの場合は、エントリーするんに主催者にログを送らなあかんからなあ。休んでる暇はあらへんで!頑張っていこか!」

男性はあーちゃんの前に1枚の紙を差し出しました。ログシートといい、コンテストでの交信を記録するための用紙です。
 「これに交信した時間・相手局のコールサイン・コンテストナンバーを書くんや。個人局での参加の場合は、交信した本人が書かんとあかんから、残念やけど僕が書いたることはできひん。自分で交信しながら書くんや。相手の声を聞きながら書くんは大変かもしれへんけど、何事も『習うより慣れろ』や」

それからあーちゃんは何度かCQ局に応答しました。交信を行いながら、ログシートに時間とコールサインとコンテストナンバーを必死に記入していきました。
最初のうちは時計で時間を確認しようとすると言葉が出てこなくなったり、相手局のフォネティックコードをうまく聞き取れなくて何度も聞き返したりしました。ですがどの局も、あーちゃんのペースに合わせて丁寧に交信してくれました。

親切な人ばかりなので、あーちゃんも次第に落ち着いて運用できるようになっていきました。そして、男性の言うとおり何度もチャレンジしていくうちに、次第にそれらの作業にも慣れてきました。

 「よっしゃ、そろそろCQ出してみてもいけるやろ」
 「はい!やってみます!がんばります!」
 「よし、ええ意気込みや。女は気合と根性と愛嬌や!」

あーちゃんは意を決して、大きく息を吸い込みました。
 『CQカンハムコンテスト。CQカンハムコンテスト。こちらはJP3KGT/3、ジュリエット・パパ・スリー・キロ・ゴルフ・タンゴ・ポータブル・スリーです。お聞きの局がいらっしゃいましたらよろしくお願いします、どうぞ』
送信を終え、PTTボタンから指を離します。緊張の一瞬です。

『こちらはJA3YUA、ジュリエット・アルファ・スリー・ヤンキー・ユニフォーム・アルファ どうぞ』

 「やったー!応答があった~!\(^○^)/!」
あーちゃんは応答してくれた局とコンテストナンバーを交換し、QTH(運用場所)の話題でちょっぴり盛り上がったあと、交信を終えました。
 「コンテストの初CQ、成功やな!」
 「はい!嬉しいです!先輩のおかげです!」
 「先輩なんてやめてや。照れるやないかいな///」

その後もあーちゃんはCQを出し続けました。男性に「もうそろそろ山降りよか」と言れた時にはすでに、交信を始めて2時間近くが経過していました。その日、あーちゃんはおよそ40局と交信することが出来たのでした。

 「帰ったら忘れんとログを関ハム実行委員会に提出しいや。一等になったら賞状と副賞がもらえるさかい」
 「副賞ですか?!」
あーちゃんの目の色が変わりました。
 「せや。副賞は関西の特産品らしいで。紀州の梅干しをもらえる、っちゅう話を聞いたことあるな。まぁ知らんけど」

あーちゃんが確信した通り、男性は視界が悪い山道を、迷うことなくすらすらと先導してくれました。道中、男性は得点の計算方法と、ログを提出する方法を教えてくれました。国道のバス停近くまで下りてくると、あーちゃんは男性にお礼を言って別れました。

「交信相手局にはQSLカード送ったるんやで。ついでに僕にも送ってや~」
と男性から言われていたので、あーちゃんは後日QSLカードを手作りして、交信してくれた局全員にJARL経由で送りました。これまで、エリーやサミー、先輩たちなど仲間内での交信がメインだった上、記念局を運用した際にはスタッフが発行してくれたので、自局のQSLカードを作るのも送るのも初体験です。
※QSLカードの送り方は下記のURLを参照してください。
http://www.jarl.org/Japanese/5_Nyukai/qsl_card.htm

そして、男性に教えてもらったとおり、手書きのログシートをパソコンに入力して、電子ログ形式で用意し、関ハム実行委員会にEメールで送りました。
ちなみに、ログのフォーマットは主催者が規定した様式(KANHAMコンテストの場合はJARL形式)のものを使用しなければいけません。

※参考ツール
http://www.jarl.org/Japanese/1_Tanoshimo/1-1_Contest/e-logmaker/e-logmaker.htm

なお、Eメールで提出する代わりに規定の様式で印刷するか、あるいは手書きのものを、主催者に郵送するエントリー方法もあります。(コンテストによっては紙でのエントリーを認めていない場合もあります)

 (優勝して副賞をゲットできますように。できたら神戸牛とかが当たりますように)
結果発表は7月の初旬、入賞者の表彰式は関西アマチュア無線フェスティバルの会場で行われます。その日まで乞うご期待!

(注)記事中に登場する無線通信の内容は実際のものとは異なります。

次回・・・
3人娘が復活するとかしないとか!? まぁ知らんけど!

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