2016年7月号

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ニュージーランド「ミュージック記念無線局」訪問記

VK3EHG 堀内洋孝

私は、ニュージーランドの最大都市であるオークランドを以前訪問した際、そこに「ミュージック記念無線局」という歴史的な無線施設が存在していることを現地の友人を通じて知りました。この度、オークランドを再訪する機会に恵まれ、この「ミュージック記念無線局」を訪問する機会を得ることができました。今回はその記念無線局をFBニュースの読者の皆様に紹介したいと思います。

ミュージック記念無線局とは?

オークランド中心部から車で約30分程度の場所の海を見渡す岬の先端部分に位置し、絶好の無線ロケーションに建物を構えます。施設の歴史は古く、1930年代前半までさかのぼります。

当時、ニュージーランド政府は無線通信技術を使用し周辺を航行する船舶、航空機との通信手段の確立を急速に進めており、同時にオークランド近郊で無線施設の建設に最適な場所の探索も行われました。その結果、この岬が無線通信に行うに最適な場所であるという決定がなされたことから、1938年から本格的な建設工事が開始され、1939年8月、晴れて「Musick Memorial Radio Station」として開局されました。当時は主にタスマニア海、太平洋を飛行する航空機に向けての無線サービスを提供していたようです。

この「Musick Memorial Radio Station」からは様々なサービス(国内外の電報や船舶に対する無線サービス)が行われ、当時のニュージーランドにおける無線通信、郵政事業のたいせつな役割を担っておりました。


立派なゲートの奥に局舎が見える

1993年9月30日、オークランドラジオ(ZLD)として業務をおこなっていた「Musick Memorial Radio Station」は長い歴史の幕を閉じました。

そして現在、地域のクラブであるThe Musick Point Radio Group Inc (MPRG)の手によって当時の面影を消すことなくメインテナンスがなされ、施設内部は当時の貴重な資料の展示、さらに当時の無線室からアマチュア無線での運用が世界に向けて行われています。

無線局の名前の由来とは?

パンアメリカン航空に所属していた“キャプテン・エドウィン・C・ミュージック氏”に由来します。1937年、彼はパンアメリカン航空を代表する優秀なパイロットの一人として、「Samoan Clipper号」を使用し北アメリカ大陸とニュージーランドの定期便路線開設の調査飛行を完了、オークランド近郊のメカニクス湾に着陸しました。

しかし1938年、サモアのパゴパゴから離陸しオークランドに向けて飛行を行っていたキャプテン・ミュージック氏率いる飛行艇が空中爆発を起し、同氏をはじめ乗組員全員の尊い命が失われる結果となり再び、オークランドの地を見ることはできませんでした。その後、この無線施設の名前を「Musick Memorial Radio Station」と名付け、キャプテン・エドウィン・C・ミュージック氏の功績を讃えました。

施設内の様子

訪問日当日はThe Musick Point Radio Group Inc (MPRG)に所属するAnn氏に施設内を案内いただきました。建物内部は「Musick Memorial Radio Station」として活躍していた当時の様子がそっくりそのまま保存されている状態で現在まで使用されています。重厚なつくりの扉を開けると、そこは大きなエントランスホール、また上階へとつながる階段があり当時の振興を偲ぶことができます。


エントランスの様子

1階部分の当時は事務室で使用していた部屋は、現在、オークランド周辺のアマチュア無線局へ転送するQSLビューローの役割も担っており、多くのQSLカードが世界からここに到着していました。そのほかにも当時の通信機器類を整備していたメカニックルームは、そのままクラブのワークショップとして活用されており、現在は500kHz帯の運用に向けたトランスミッターの調整がクラブ員の手で行われていました。


当時の事務室はQSLビューローとして利用されている

無線室は施設の3階に設置されており、この場所も当時と変わらぬ場所のままとなっています。また無線室の横はミーティングスペースとなっており、MPRGの定期的なミーティングを行っているとのことです。


クラブミーティングスペース右奥に無線室が見える

現在のMPRGの主力無線機は地元オークランドに拠点を構える、アイコム・ニュージーランドから寄贈された同社製のIC-7700とIC-PW1となっており、クラブ員が自由に運用できるよう当時使用されていた無線ラックに収められていました。さらに、施設内にはクラブ員によってD-STARシステムも設置されており、こちらも併せて自由にアクセスが出来る状態となっています。


コンソールに設置されているメイン無線機


施設内に設置されているD-STAR装置群

「Musick Memorial Radio Station」周辺は公園の一部としてベンチやピクニックテーブルなどが整備されており、誰もが自由に入ることができるようになっています。ここからは海が一望でき、休日となると地元の家族連れなどで大いに賑わいます。また、当時のアンテナ施設を一部再利用する形で現在はアマチュア無線用のアンテナが園内に設置されています。


一帯は公園として整備されておりオークランド湾を一望することが出来る

最後に

今回の訪問において、この「Musick Memorial Radio Station」の当時の形を崩すことなく、地元無線愛好家のみなさんの手で現在まで維持されていることに感銘を受けました。また同時に無線通信における貴重な産業遺産としての保存活動を今後も見守りたいと思います。

なお、「Musick Memorial Radio Station」に関する情報はMPRGが運営するウェブサイト(http://musickpointradio.org/)が豊富です。ご興味のある方はぜひ一度アクセスしてみてください。

参考文献
“Musick Memorial Radio Station” 施設配布パンフレット
“Musick Point Radio Group” http://musickpointradio.org/
“Musick Point” https://en.wikipedia.org/wiki/Musick_Point

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