2014年7月号

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特別連載

D-STARの開発と実用化

編集部

第3回

D-STARネットワーク

アシスト局の接続は、関東では田無タワー-電通大、東海では名古屋第二日赤-電波学園-名古屋大学-春日井市役所、関西ではならやま-生駒-平野-WTCと繋がったが、その後アシスト局は海外を含めてあまり増えていない。その理由として、1つのクラブ局または団体で2つ以上のサイトにレピータ局を設置するケースが少なく、また隣接する他の管理団体のレピータと接続するメリットが少ないからだと考えられる。

D-STARの開発に関わったアイコムの櫻井氏は、「10GHzのアシスト局は、マイクロ波とかパラボラアンテナを知らない者が決めたので実用になる筈がないと散々インターネット等に書かれたが、設置して10年になってもトラブルらしいトラブルもない事実をどう説明するのか」、「また、D-STARみたいなものが国際的な標準になる筈がないとこれも散々書かれが、その否定する根拠を上げたものは見たことがない。今ではD-STARシステムを採用している国が50ヶ国、レピータも2、000局に及んでいる。もちろんレピータだけではなく、これに対応する端末を持つユーザーも当然数多くいるが、これでも国際的ではないというのだろうか。日本発の国際基準が非常に少ない中で、JARLが取り決めた規格がこれほど多くの国やアマチュア無線家に使われていることを誇りにすべきと考える。」と、D-STARの国際性を熱く語る。

それぞれの地域のレピータの完全動作が確認された後、個人局で免許を受けて使用することを前提に1.2GHz車載型のD-STAR端末であるID-1の貸し出しが始まった。ID-1が貸し出された後、JA3QOS上村氏がネットコントローラーとなって関西からロールコールが始まった。これには毎週参加された方が多くいた。その後は上村氏の後を引き継ぐ形で7L1FFN磯氏がネットコントローラーになり「D-STARロールコール」が始まった。これは現在でも毎週土曜日に行われており、ベテランから初心者まで多くのD-STARユーザーが参加している。

ID-1の貸し出し等でその機能などの認知度が高まった後、アイコムよりID-1が正式に発売された。当時はその他にD-STARの端末機器が無いだけに話題にもなり、主に先進のアマチュア無線家らが購入したが、JARL技術委員会において、D-STARを否定するメーカーの委員から、「勝手に販売したのはけしからん、回収しろ」、と強力なクレームが発生した。アマチュア無線の機器は技適を取得すれば、販売に関してどこかに許可を得なければならない理由はなく、委員会は技術の委員会であるため、深入りはしなかった。

その後430MHz携帯型のIC-U1が発売になった。この機種はアナログFMの機器にオプションのデジタルユニットUT-118を組み込むことで、D-STAR機能が追加されるようになっていた。またこのデジタルユニットを使ってD-STARを自作するアマチュア無線家も現れ、それは国内だけでなく、ヨーロッパでも現れたという。その後発売された機器にはGPS機能も付加され、災害時などの非常通信に便利に使えることが分かり、アメリカのハリケーンの対応等にも使われるようになった。

さて、これまでの説明の中でD-STARは一アマチュアメーカーが開発した製品ではなく、官民一体のもとで、常に情報が開示されながら進められてきた一大プロジェクトであったことは理解していただけたものと思う。それを証明するかのように、平成19年4月期の第一級アマチュア無線技士国家試験の無線工学にD-STARに関する問題が出題されている。多くの方々が当初もったD-STARに関する認識はこの出題を持って完全に誤解を解かれたものと考える。


平成19年4月期第一級アマチュア無線技士国家試験問題より

和歌山県では、東南海、南海地震が発生すると多くの孤立集落が発生することが予想されるとの観点から、災害時のバックアップ通信として、JARLが協力することになり、平成20年11月、和歌山県知事の仁坂氏からJARL会長の原氏宛に、災害発生時の救援活動に対する協力要請があった。JARLは、地元近畿のメーカーであり、県内でD-STARの機器を生産しているということからアイコムに協力要請を行った。その後、JARLとアイコムが協力して和歌山県内にレピータを設置することになった。

田辺市では県の防災行政無線槇山中継局にD-STARレピータが設置され、アマチュア局の協力により無線LAN経由でインターネットに接続された。また、新宮市ではかつて県の防災行政無線中継局に使っていた局舎にレピータが設置され、ここでもアマチュア局の協力で無線LAN経由でインターネットに接続することができた。串本町では、地元アマチュア無線クラブの協力で、潮岬最南端にレピータを設置することができた。

周知のとおり、和歌山県では東南海、南海で地震が発生した場合、まともに津波の影響を受けることが懸念されており、県の外周を前述の3つのレピータ(槇山、新宮、串本)でほぼカバーすることが確認されたことで、災害時に携帯電話などが不通になった際、アマチュア無線を使った災害支援活動が期待されている。

その後、アイコムよりD-STAR対応機器が次々と発売され、機種選択の幅が広がった。現時点では、アイコム以外のメーカーからのD-STAR機器の発売は僅かしか例がないが、D-STARはJARLの規格であり、標準仕様が公表されているため、どのメーカーでも製造販売することが可能である。今後も業界各社によって切磋琢磨され、優れたD-STARに育つことを願ってやまない。

「アマチュア無線の周波数の有効利用を図るためのデジタル化」プロジェクトの経緯 (制作 アイコム株式会社)

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