2016年10月号

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テクニカルコーナー

My Project/第1回 【わずか80グラム】430MHzバンド 6エレ八木アンテナの製作

JP3DOI 正木潤一

行楽の季節になりました。ハンディー機を持って山に出かけ、気ままに波を出したくなります。気軽に持ち出せて簡単にセットアップできる八木アンテナがあれば、移動運用はもっと充実したものとなります。今回は、構造がシンプルな八木アンテナを手に入りやすい部材で作り、実運用にて良好な結果が得られたのでご紹介いたします。

シンプルな八木アンテナ OWA (Optimized Wideband Antenna)

OWAアンテナは、放射器にマッチング部を必要としません。放射器と反射器の間隔を、最大ゲインが得られる間隔より広く設定し、放射器と導波器の間隔は逆に狭く設定することにより、給電点のインピーダンスを合わせています。50Ωの同軸ケーブルで直接給電できるため、インピーダンス変換に伴うロスが少なく、広帯域になっています。430MHzバンドのOWAアンテナの設計寸法はインターネット上で共有されており、エレメント長と間隔さえ合わせれば、しっかりと指向性を実感できます。

部材と工具の準備

ホームセンターで手に入る物:
・2mm径 アルミパイプ (1m) ×3本
・3mm径 真鍮パイプ (または銅パイプ) (1m) ×1本
・9mm幅 カブセ ×1本
・4mm幅 ジョイナー (コ型) ×1本
・ハイピックねじ M3×10mm ×5本
・裸圧着端子 “1.25-3” ×1個
・ナベねじ M2.6×5mm ×1本
・ナット M2.6 ×1個

電子パーツショップ、またはネット通販で手に入る物:
・フランジ付きSMA端子(オス) (M2.6のネジ穴の付いた、フランジ幅が15×5mmの物) ×1個
(『デジット』:http://digit.kyohritsu.com/)
・クランプクリップ "NC0.4N" (Linkman社製) ×5個
(『マルツ』:http://www.marutsu.co.jp/)
・1.5D-2V 同軸ケーブル (両端にSMA端子メスの付いたもの) ×1本
(『千石電商』:https://www.sengoku.co.jp/)
・トグルスイッチ用キャップ ×10個
(『共立エレショップ』:http://eleshop.jp/shop/default.aspx)

おもな工具:
・金属用ニッパ
・プラスチック用ニッパ
・タップ (M3ネジ用)
・ドリル歯 (2.6mmと3mm)
・キリ
・ヤスリ

<「カブセ」と「ジョイナー」>
どちらも聞き慣れない名前ですが、板の端を覆って角が立たないように保護するための建築資材です。硬質PVC製なので、軽くて加工しやすい部材です。価格も安く、加工に失敗しても躊躇なくやり直せます。今回はブームとしてカブセを、放射器としてジョイナーを使用します。

“カブセ”(左)と“コ型ジョイナー”(右)

<クランプクリップ>
壁などにケーブルを固定するための電材です。2~4mm径のケーブルに対応した物を使います。導波器と反射器をブームに取り付けるために使用します。

<ハイピックねじ (M3×10mm)>
細いツマミの付いたネジです。ドライバーを使わなくても回せるので、フィールド運用に向いています。導波器と反射器をブームに固定するために使用します。

<トグルスイッチ用キャップ>
トグルスイッチにかぶせる、塩ビ製の小さなキャップです。末端保護材として導波器と反射器に取り付けます。
※特性には影響しませんので、手に入らなければ必要ありません。

部材の加工

<各エレメントの寸法>

<導波器と反射器>
1. アルミパイプを寸法どおりにカットします。
2. 両端にトグルスイッチ用キャップを取り付け、中心にマジックで印を付けておきます。

<放射器>
導波器と反射器は1本の導体で作れますが、放射器は半波長ダイポールを構成するため2本の導体が必要です。これら2本の導体を中点で固定するには、やや複雑な加工が必要になります。そこで、樹脂製のジョイナーを支持材にして、それに金属パイプを固定することで、加工をシンプルにしました。

1. 放射器となるジョイナーと導体の金属パイプを寸法図どおりにカットします。
※SMA端子のGND側への配線分を考慮して、片方を短くしています。
2. 金属パイプの先端と中心の2か所に両面テープを2周ほど巻き付けておきます。(ジョイナーに固定するため)
3. ジョイナーの中点にSMA端子の芯線を通す穴(1mm程度)を開けます。
4. SMA端子のフランジに両面テープを貼り付け、ジョイナーに対して直角になるように仮付けします。
5. フランジのネジ穴の位置に2.6mmの穴を開けます。

6. 長いほうの金属パイプ(167mm)を、SMA端子の芯線に当たるようにジョイナー内に収めます。
7. ここまでで写真のようになります。ネジを通して、SMA端子が直角に固定されることを確認します。

8. ネジに裸圧着端子を通し、ナットを絞めてSMA端子を固定します。
9. 短いほうの金属パイプ(160mm)もジョイナー内に収めます。
10. 1本はSMA端子の芯線と、もう1本は裸圧着端子と、それぞれハンダ付けします。
※ジョイナーを溶かさないように注意してください。


接続状態 (上から見た透過図)

<ブーム>
エレメントを取り付けるブームには、建材のカブセを使います。カブセは柔らかいので、プラスチック用のニッパでキレイに切れます。また、電動ドリルを使わなくても、ドリルの歯を指で回して穴を開けられます。

1. 持ち手の部分を残してカットします。(今回は全長を800mmとしました)
2. 図のように、3mmの穴を5箇所、6mmの穴を1箇所開けます。


※6mmの穴は、まず3mmの穴を開けてからラジオペンチなどで削って拡げます。

<エレメント固定パーツ>
導波器と反射器をブームに取り付けるためのクランプクリップを加工します。

1. クランプクリップの釘が通る穴に、タップを使って3mmのネジ穴を刻みます。

2. ブームの突起に干渉しないように、クランプクリップの下部両サイドをヤスリで少し削ります。

3. クランプクリップにハイピックねじが締められるようになります。これを5つ作ります。

組み立て

1. 放射器をブームに取り付けます。
放射器のSMA端子を6mmの穴に通し、裏側から同軸ケーブルのSMAコネクターでブームと共締めします。
(組み立てを簡素化するため、同軸ケーブルを取り付けると放射器も固定される造りになっています)

2. 先ほど加工した、エレメント固定パーツ(5つ)をブームに取り付けます。

3. 導波器と反射器をブームに取り付けます。エレメントを固定パーツで挟みこみ、ハイピックねじを締めます。

エレメントの中心がブームの中心で交わり、なおかつブームに対して直角になるように取り付けます。全体を見ながら整えてください。

測定データ

クラニシの定在波アナライザ『BR-510』を使ってSWRとインピーダンスを測定しました。インピーダンスは50Ωにはなりませんでしたが、帯域内において概ね良好な特性であることが認められます。

アンテナスタンド

このアンテナは非常に軽いので、手で持って運用しても良いのですが、やはり自立させたほうが使いやすいです。自作八木アンテナのスタンドとしてはカメラの三脚がよく使われますが、当局は楽器の演奏に使う「譜面台」を改造して使っています。カメラの三脚よりも構造がシンプルなので、折り畳んだ時のサイズがコンパクトです。約120cmまで伸ばすことができて、仰角や俯角も調整できます。収納袋付きで¥1500ほどです。

譜面部分を取りはずし、代わりにT型アングルを挟んでアタッチメントにします。ここでも建材が活躍します。プラスチックモールの「平板」(9mm)をアダプターとしてアングルに取り付けます。アンテナ自体が極めて軽いので、この板をブームの裏面にハメ込むだけで固定できます。

<運搬>
ハイピックねじを緩めるだけで導波器と反射器を回転・スライドさせられるので、ブームに沿わせて束ねることができます。収納時にエレメントをブームから取りはずす必要はありません。また、スリムで持ち運び易く、運搬中にエレメントが曲がってしまう心配もありません。

最後に

このアンテナを使ってハンディー機(5W)で何度か運用しました。山口県と愛媛県で瀬戸内海を挟んで、1Wで交信したこともあります。相手局に「自作の八木で運用中」と伝えるとQSOが盛り上がります。ブームを左右に振ると、受信信号レベルの変化から指向性を実感できます。

今回の製作は、「素材に何を使うか」、「如何に加工と組み立てを単純化するか」に焦点を当てました。入手性と加工しやすさを兼ね備えた部材を探すうちに、建材のカブセとジョイナーを見つけました。また、フィールドではロケーションを変えながら運用することを考慮して、出来るだけ組み立てやすい構造を考えました。

さまざまな部材の試行錯誤と、実際の運用にて得られた経験とアイデアを盛り込んだので、参考にしていただければ幸いです。

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