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新・エレクトロニクス工作室

第15回 AD9959を使ったSG その2(後編)

JE1UCI 冨川寿夫

2023年7月18日掲載

AD9959を使ったSGの後編になります。前回の前編と合わせてお読み下さい。写真や図面などの番号は通し番号にしています。重要な回路図が前編になりましたので、見やすいように図3に再掲します。


図3 回路図(前回の再掲)

実は少々ですが訂正したところがあります。本機の出力の部分はコネクタをケースから浮かせています。前回ではここをアースしているように書いていましたので、修正しました。この浮かせている理由については後述します。アッテネータ間のコネクタは省略していますが、同軸ケーブルにコネクタを使用しています。

作製

基板として作る必要のある部分が、CPUと電源トランスの出力から5Vを作る部分になります。図3の回路図のMAINユニットの部分になります。このハンダ付けの前に図4のような実装図を作りました。ハンダ面が図5になります。使用したのは、秋月電子のBサイズの一般的なユニバーサル基板です。


図4 作製した実装図


図5 実装図のハンダ面

このMAINユニットの基板を実装図を基に写真7のように作製しました。作製後には写真5(前編)のように動作確認を行っています。


写真7 作製したCPUと電源の基板

5Vのレギュレータは熱を持ちますので、トランスのタップを可能な限り下げています。また、低ドロップタイプのレギュレータICを使用しました。一般的なタイプで低ドロップが切れていたためチップタイプを使用し、端子にハンダ付けを行い写真8のように銅板を放熱器として使うように工作しました。足のあるタイプの低ドロップであれば、普通に放熱器を使えば良いと思います。更に仕上げの時点ですがリン青銅板をハンダ付けし、バネを使ってケースに熱を逃がすようにしています。少々過剰な放熱です。


写真8 低ドロップのレギュレータが無かったためチップタイプを使用

そして、この基板とDDSユニットとOCXOなどを写真9のように一枚の生基板上に固定しました。この生基板の裏側は写真10のように皿ネジで固定しています。ところがOCXOは下からネジ止めするタイプですので、生基板の下からネジ止めすると2度と外せなくなります。生基板は最終的には両面テープでケースに固定しています。そこでOCXOはアルミ板に載せて、それをカラーで生基板から浮かせています。これでアルミ板ごと外す事ができますし、OCXOの熱も多少は逃げにくくなるでしょう。


写真9 生基板上に各部品を固定


写真10 その裏側から皿ネジで固定

ケースには摂津金属工業のFS-2000を使いました。もう入手できないディスコンのケースです。ケースを開けると写真11のようになります。前面パネルの裏側に、もう一枚のサブパネルがあります。今回は、サブパネルは使用しませんでした。どちらかといえば、オーディオ用ケースなのでしょう。昔々にトランシーバのケースとして購入し、そのまま塩漬けになっていました。前面のパネルがアルミで3mmの厚さがあります。3mmもあるとハンドニブラは使えません。ドリルで沢山の穴をあけ、その間を糸鋸で繋ぎました。そして怒涛のようなヤスリ作業となります。このケースを購入した頃には絶対に出来なかったような工作と思います。ここで使わないと一生残ってしまうと思い使いました。SGとしては決して使いやすいケースとは思えません。別のケースを検討する方が良いと思います。ケースはOCXOの形状や、その電源電圧によって大きく影響を受けます。使用する部品でトータル的に考えるのが良いと思います。


写真11 使用したケースFS-2000の内部

写真12が内部の配線を始めた様子になります。右端にあるのが15V 1AのSW電源で、この下にOCXOが隠れています。


写真12 内部の配線を始めた様子

出力にはBNC R-Rの変換コネクタをパネル面に固定しています。ここには写真13のように3dBアッテネータをBNC-PとSMA-Rのコネクタ間に作製して接続しています。このアッテネータは秋月電子で購入した20個入り100円のゴマ粒のようなアッテネータ(https://akizukidenshi.com/catalog/g/gP-13248/)です。次の30dBアッテネータにも同じ種類を使用しています。


写真13 出力に入れた3dBのアッテネータ

この3dBアッテネータを接続した様子が写真14の左下に見えます。更に右端にはUNCAL時のピー音をだすブザーがあります。うるさくないように直列に抵抗を入れていたのですが、ケース内で反響するのか思ったよりも大きく感じました。結局シールを貼って音を制限しています。半固定VRを使う方が良かったかもしれません。更に30dBのアッテネータ2個が白い絶縁材の上に見えます。アッテネータのアース部分がケースに接触しないように、絶縁のために梱包材を貼っています。合計60dBのアッテネータですので、電流の戻る帰路がケースにならないようにしています。このようなアッテネータやLPFは、筐体をケースに接触しないようにします。接触させると同軸の外側導体に流れる電流がケースに流れてしまいます。減衰量が大きくなると問題になってきます。そのためにケースに接触しないようにすると同時に、同軸にはFBタイプを使用しています。ちなみに出力のBNC R-Rの変換コネクタには樹脂のネジを使っています。金属部分は紙を使ってケースと絶縁しています。


写真14 左下に3dBのアッテネータ、右下にはUNCAL時のブザー

その30dBのアッテネータ2個ですが、写真15のようにSMAコネクタ間に作っています。これはシールドメッシュ付きのユニバーサル基板をカットして使っています。アッテネータは秋月電子で購入した10dB(https://akizukidenshi.com/catalog/g/gP-13251/)を3個連ねています。これをリレーでCPUからON/OFFしています。ハンダ面が写真16のようになります。顕微鏡写真を写すと写真17のようになります。写真16とは上下が逆になってしまいました。この下側の3個ゴマ粒に見えるのが10dBのアッテネータです。


写真15 作製したリレー制御の30dBのアッテネータ


写真16 30dBのアッテネータのハンダ面


写真17 この下側のゴマ粒が10dBのアッテネータ3個

最終的に内部全体は写真18のようになりました。配線は100均で購入した結束バンドで整理しています。SW電源の基板上にはAC100Vがありますので、アクリル板をネジ止めして触れないようにしています。AC100Vにはヒューズも入っていますので、この上もカバーしています。ついでにテプラで「高圧危険!」と注意表示をしました。定義的には高圧ではありませんが、私の感覚的には「高圧」ですので・・・。


写真18 最終的な内部の様子

ソフト

ソフトはBASCOM AVRを使って作っています。このようなソフトは、得意なものを使って作れば良いと思います。

ソフトでは周波数を変えるために、3個のクリックなしロータリーエンコーダの回転を読みます。周波数の上位桁を動かした場合、下位桁は全てゼロになるようにしました。その方が使い勝手が良いと考えました。これは考え方次第と思います。周波数を変えるとそのたびにレベルの設定も行います。これは周波数が変更されるたびに周波数特性の補正をやり直すためです。

レベル設定は、1個のクリック付きロータリーエンコーダで行います。出力レベルはレジスタACRによって出力を可変する事ができます。10ビットですのでヘキサで000~3FFまでの設定が可能です。10進だと0~1023になり、これを半分にするとレベルは6dB下がります。つまり電圧や電流のデシベル計算と同じです。これを基本としてソフトでレベル調整を行っています。またソフトのアッテネータとしても使っています。但し減衰量を大きくするとビット数が減って誤差が大きくなります。アッテネータとして40dB以上は使わないようにしました。ソフトでアッテネータを40dB入れた次には30dBの固定アッテネータ1をONにするようにしました。もちろんソフトのアッテネータは減衰量を加減します。更にそのままソフトのアッテネータが40dBになった次には30dBのアッテネータ2をONさせます。このような動作になります。

レベル調整時には出力がMAXとなるように、ACRを3FF固定としておきます。この時の出力レベルを周波数を変えながら測定します。この時の特性が表1のようになりました。これはユニットで多少異なるようです。


表1 出力を最大に設定した時の各周波数の出力レベル

出力レベルは周波数によって-11.2~-14.1dBmと、周波数によって変化する事が解ります。そこで基準レベルを-13dBmとしました。この値にあまり意味はありません。-13dBmとの差を計算すると、表1のように1MHzは-10.6dBmですので-2.4dBしないと合いません。そこで10の(-1.8/20)乗の計算をして基準との差を出します。この場合は0.7585776ですので、これに1023を掛け算して四捨五入した776をACRに入れると-13dBmが出力されます。つまり20logを使う電圧のデシベル計算を元に戻し、2.4dB分を下げる計算になります。逆に150MHzで-13dBmを出力しようとすると、ACRには1096を入れる必要があります。しかし、ACRは10ビットですので1023が最大になります。150MHzでは-13dBmは出力できないという事になります。

これをCPUで計算させるため、グラフ1のように周波数と基準との差をエクセルでグラフにしています。この時に「近似式を表示する」にクリックを入れて、近似式を表示しています。この近似式を作るのがグラフ1の目的です。これで周波数が決まると、先ほどの776が計算されます。次に希望の出力レベルと-13dBmとの差を同じように計算しますとACRに設定する値が算出されます。


グラフ1 周波数と基準値との差をグラフにする
(上段にある近似式を作るのが目的)

DDS出力としてはこのように周波数特性があり、周波数が高くなると出力レベルが下がります。普通のメーカ製であれば、下がってしまうような部分は使いません。しかし、アマチュア的にはもったいないので全ての範囲を使うようにしました。この考え方は「その1」も同じです。周波数が高くなりレベルが出せないケースは、LCDにUNCALと表示しました。これはスペアナでRBWやVBWの設定に比べて、掃引が早過ぎる場合に出るUNCALと同じです。しかし、これだけでは不便なので、UNCAL時にはブザーを併用して知らせるようにしました。ソフトの処理としては出力の周波数とレベルを計算し、ACRの設定が1023以上になった時になります。この場合ACRの設定は最大の1023固定としてLCDにUNCAL表示をします。

このような制御をしていますので、100HzずれただけでUNCALになるケースもあります。100Hz差で使えなくなるとは思えませんので、これをアマチュア的に使おうというものです。もう少し余裕を持たせ、0.5dB以上下がる場合にUNCALとするのも良いかもしれません。しかし0.5dBで良いのかを考えると、難しい判断になってしまいます。それは実験の目的によって人間が判断をする事として、とりあえずは1023以上になった事が解るだけにしました。

私の使ったソフトはここに1セットを置いておきますので、参考にして下さい。お世辞にも上手なソフトではありません。OCXOの周波数が一般的ではありませんので、その点はご了承願います。
私の使ったソフト : 外付けOCXO 26MHz.zip

基準の周波数に基板の25MHzを使い、20倍の500MHzとしたソフトをここに1セット置いておきます。レベルの補正も表2グラフ2のように行っています。
私の使ったソフト : 内蔵XO用.zip


表2 出力を最大に設定した時の各周波数の出力レベル(内蔵25MHz使用時)


グラフ2 周波数と基準値との差をグラフにする(内蔵25MHz使用時)
(上段にある近似式を作るのが目的)

これは通常使ってはいませんが、基本的には全く同じです。これで解るのは、基準の周波数は480MHzでも500MHzでもほとんど変わらないという事です。DDSは同一基板を使っていますので、基板が異なる場合は不明です。多少の相違があるかもしれません。また、ソフトで基準の周波数は500MHzピッタリに設定していますので、実際は多少の誤差があります。これは基板によって異なりますので個々に調整するしかありません。

調整

実際には作製しながら調整していたのですが、全ての配線が終わった時点で最終的に行う必要があります。これはケースに入れてからが良いと思います。まず周波数の調整です。適当な設定の周波数を測ったのでは、DDSに設定するビット数による誤差が出る可能性があります。500MHzのXOを使うのであれば、その1/4か1/8ピッタリの周波数に設定するのが良いと思います。少々極端な例ですが、1/4の125MHzに合わせて125.1MHzを出力したとします。ソフトのbasファイルの58行目にOsc = 250000000となっているのを、Osc = 250200000と書き換えます。ここにはコメントがありますが、基準周波数の1/2を書いて下さい。もちろん基準発振器の周波数を直接カウンタで測って、計算しても良いと思います。

出力レベルの調整はソフトでACRを3FF固定にします。その部分はbasファイルの583行目で、コメントがあります。この行のカンマを一時的に消します(終了後には戻します)。そしてソフトのところで説明したように出力レベルを測定し、表1グラフ1を作り直します。表2グラフ2でも同じです。もちろん全く変化無ければ良いのですが、作り直した補正式に入れ替えます。補正式は同じbasファイルの614行目からの数行にあります。これで全周波数のレベルが補正されます。補正式ですので多少の剥離はあります。補正方法を工夫する余地は多々とありそうです。しかし、それ以前に正しくレベルが測定できないと、合わせる事ができません。先にレベル測定の環境も必要です。

使用感

何の支障もなく動作しています。受信機の調整には全く問題ありません。ただリニアアンプの実験をするには外付けアンプが必要です。これは予定どおりなのですが、専用アンプを別途作ってみようと考えています。

アッテネータの使用状態が解るように、ATT1とATT2の表示をパネル面に出していますので動作の様子が良く解ります。このアッテネータの切り替え時の瞬間にはノイズが少し出て、またレベル的にも多少の段差を感じます。ノイズのためにAGCが働くためかもしれません。これは仕方ないのでしょう。ソフトでもう少し工夫する事も可能とは思います。

SGとして「その3」も作ってみたいと思っています。今回は基準にOCXOを使っているのですが、これをGPSDOの出力にするのも面白そうです。発想がこのように出て来ますので、製作もキリがありません。まあ、それが楽しいのですが・・・。

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