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新・エレクトロニクス工作室

第18回 50MHz PSN SSBトランシーバ

JE1UCI 冨川寿夫

2023年10月16日掲載

このトランシーバは今年の関ハムで入手しました。JI3BSB山本さんが行うBSB研究所のキットです。全ての部品が入っている完全キットではなく、入手困難な主要部品だけが入っていますので、ケース類はもちろんですがトランジスタやCR類は自分で集める必要があります。正しくはキットではなく「主要部品セット」となっています。このキットではなく主要部品セットを、写真1のように作製しました。


写真1 ケースに入れた50MHz PSN SSBトランシーバ

構成

図1のような構成になっています。この図は山本さんより、記事用に送って頂いたものです。RF PSNで50MHzのRFに90度の位相を作ります。これはVXOで可変する程度の周波数幅ですので、問題なく作る事ができます。音声の方もAF PSNで90度の位相を作ります。これで平衡変調を行ってSSBを作るという構成です。このAF PSNが問題で、音声は概ね300Hz~3kHzまで帯域があります。この間の周波数全てを90度にするのが理想です。

受信側は図1にはありませんが、VXOの出力を直接検波に使って音声信号にするダイレクトコンバージョンです。送信側のペアとして、ちょうど合う作り方です。


図1 構成

問題のAF PSNには、過去にはナガード型等のCRを多数使う回路がありました。これは高校時代に自作した事があり、柔らかな音声ができました。当時は測定する事もできませんでしたので、これ以上の表現はできません。最近では週刊BEACONのNo.193のように、dsPICを使ったサイテックのデジタル処理したAF PSNもあります。これらはAF帯域全体で90度の位相を作りますので、当然ですが不要サイドバンドの抑圧が良くなります。ところが、回路的に相当に複雑になってしまいます。そこで欠点に目をつぶり、単一周波数のAF PSNを使ってSSBを作る方法が図1なのです。すると設定した周波数以外では、不要サイドバンドは漏れます。このように完璧なSSBではありません。しかしキャリアは絞れますし、不要サイドバンドもある程度は絞れます。従って多少「DSBに近いだけ」と考えれば、決して大きな欠点ではありません。もちろん昔々ならともかく、7MHzでの自作はとても薦められません。

回路

回路は図2のような回路です。この回路図も、山本さんに送って頂いたものです。トランシーバとしては16個のトランジスタやFETと2個のICを使っています。簡略化したPSNとは言え大作と言えそうです。


図2 回路図

作製

写真2のような基板がキットに入っています。このハンダ面が写真3になります。取説にありますが、最初に行うのがシルク印刷の修正です。若干の修正がありますので、写真4のようにシールに修正した番号を書いて貼りました。このようにしておけば、後々のメンテの時にも迷う事が無いはずです。


写真2 入っていた基板


写真3 基板のハンダ面


写真4 シールでシルク印刷の修正を行った

実は全ての部品が揃ったと思ってハンダ付けを始めたのですが、途中で1mHと15mHが無い事に気が付きました。あわてて発注をしたのですが、この時点で受信機としては試験ができます。そこで写真5のように仮配線を行い、動作確認をしました。思ったよりも感度が良く、0dBμが受信できました。


写真5 仮配線で受信部の動作チェック

取説と違った作り方をした部分があります。VXOは、スーパーVXOにも対応できるようになっています。キット付属のクリスタルは1個だけなので、スーパーVXOではなく周波数を広げる工夫をしてみました。写真6のようにIC用のピンソケットを使い、クリスタルの交換が容易にできるようにしました。写真6はクリスタルを外した様子です。付属のクリスタルが50.5MHzなので、少々周波数が高めです。他の50.3MHzあたりのクリスタルが使えれば、それも楽しいと思います。これは後述しますが、後になって設計の思想が異なる事に気が付きました。


写真6 VXOのクリスタルは交換できるようにソケットを使用

1mHと15mHが届き全てのハンダ付けを終えて、送信機側の動作試験を行いました。AF発振器を入力して試したところ、上手く動いたと思っていました。ところが、AF発振器では良かったのですが、コンデンサマイクにするとAF段で発振気味になりました。そこで図3のように、コンデンサマイクに電源を加えるように変更しました。この回路は基板の裏側に写真7のように付けています。図3写真7でもわかるように、パスコンの0.01μFも追加しています。


図3 マイク入力はこのように変更


写真7 コンデンサマイクの電源はこのように変更した

これで基板としては送信側の動作確認も終了し一応は完成です。写真8のようになりました。


写真8 基板の完成!

次にケースですが、最初はアルミ板に載せるだけで良いかと思っていました。しかしVXOに手を近づけるだけでQRHしてしまいます。そこで、タカチ電機工業のYM-180に入れる事として、穴あけを写真9のように行いました。個人的にはもうひと回り小さいケースに入れたいのですが、基板のサイズ的に無理です。まあニーズとして仕方ないのでしょう。細かくて作れない、という話は良く聞きます。電源には9Vの006Pを使う事とし、電池ホルダー固定用の穴を開けました。写真9の手前左側になります。内部は全く余裕がありません。ひと回り大きめのYM-200の方が無難でしょう。メンテナンスで基板を外せるように配置と配線を行いましたが、立体的に微妙な位置や間隔を考えておく必要があります。そのために裏面のBNCコネクタは位置を高くしています。


写真9 YM-180に穴あけを実施

スピーカはケースの上側に取り付ける事とし、写真10のように穴あけを行いました。円にしたのは、久しぶりにパンチングメタルを使おうとしたためです。もちろん、3mm程度の穴をたくさん開ける方法もあります。


写真10 スピーカはケースの上側に穴あけ

基板は金属製のカラーを使ったネジ止めではなく、写真11のように接着式サポート(ペテットT-600)を貼り付けて固定しました。位置合わせの時には基板にネジ止めして、一気に貼りました。これは秋月電子で仕入れたものです。基板のアース側はケースから浮く事になります。電気的には良し悪しがありますが、ケースに高周波を流して良いはずがありません。ケースの下側にネジ穴がありませんので、デザイン的にも良いと思います。


写真11 基板はこのように接着式サポートを貼って固定

このケースの中に基板を入れて、内部の配線を行ったところが写真12になります。これでは解りませんが、トグルスイッチとBNCコネクタの下側に基板が入る構造となります。つまり、基板の後ろ側(BNCコネクタ側)を上に持ち上げて、次に後ろに引いてトグルスイッチから離します。少々窮屈ですが、基板の取り外しは可能です。


写真12 内部の配線を実施

スピーカはケースの上側に付けましたので、写真13のように基板上にコネクタを取り付けました。3端子の2.54mm間隔のコネクタの中央を抜くと、ちょうど入りました。このように着脱できるようにしておかないと、メンテナンス等に不便な事があります。スピーカをケースの上側に付けなければ、特に必要は無いと思います。


写真13 スピーカにはコネクタを使った

調整から仕上げ

このようなトランシーバは、当然ですが調整が重要なポイントになります。調整がやりやすいように作っておく事も重要ですので、写真14のようにテストポイントには端子を立てておきました。これを使って、取説のように進めればOKです。


写真14 テストポイントはメッキ線で基板上に出した

調整をしていて少々気になったのが、コイルにはFCZ50と表示がありますが、明らかにオリジナル品ではありません。本家のコイルの場合、コイルを入れた位置と、抜いたところに同調点が現れます。このコイルでは、抜いた位置だけのコイルがありました。少し規格が異なるようです。パラに入る15pFを調整してみる方法もあるのですが、そのままになっています。但し、出力のコイルだけは図4のようにセンタータップを使うようにしました。写真15のようにカッターで一か所を切断し、ジャンパー線でセンタータップにハンダ付けします。これでピークも取れて出力もアップしました。これは山本さんからの情報によります。インピーダンス的にはセンタータップを使わない方が良さそうに思いますが、コイルの巻き数比がオリジナルと異なるのでしょうか。出力にあるT型BPFはスプリアス的には効果がありますが、Rのズレについての調整はできません。


図4 このようにファイナルの出力はタップを使った


写真15 カッターで配線を切りジャンパーで接続

写真16のように、テプラで作った銘板を裏面に貼って完成としました。少々手を入れたい部分は残りますが、取りあえず完成としました。


写真16 裏面には銘板を貼った

測定結果

サイドバンドのサプレッションを測ってみたところ、図5のような結果になりました。出力を0dBm程度に設定して測っています。この中央がキャリアの周波数になります。サイドバンドはUSB側の方が38dBも高くなっています。これはバラックの状態で一番良かった1.44kHzにしたところです。ところが、ケースに入れてから測ると図6のように悪化しました。38dBの差があったのが25dBの差になってしまいました。しかしキャリアサプレッションは逆に良くなりました。良く解りませんが、ケースに入れた影響なのでしょう。これはとても微妙なようです。確認していませんが、ケースのフタの開閉で変化するかもしれません。この調整はシビアですので、個々の作品によって大きく異なるかもしれません。


図5 中央がキャリアの漏れ LSB側はUSB側よりも-38dB
(バラックの状態)


図6 キャリアの漏れは良くなったがLSB側は-25dBと悪化
(ケースに入れた状態)

スプリアス的には3逓倍していますので、2倍、4倍の漏れに注意する必要がありますが、図7のようにスプリアス領域は-51dBm以下となりました。100MHzと150MHzに僅かにスプリアスが見えます。基本波の×4や×5も僅かに見えるだけです。50MHzで出力10mWとすると、法令的にはスプリアス領域は50μW以下=-13dBm以下ですので全く問題ありません。


図7 出力のスプリアス領域は全く問題ない

帯域外領域は、50MHzのSSBでは±62.5kHzの周波数幅を設定し、無変調で測ります。当然ですが、音声に必要な周波数幅の3kHzは対象外です。法令的には100μW以下=-10dBm以下ですが、図8のようにキャリアの漏れ程度で全く問題ありません。


図8 帯域外領域もキャリアの漏れしか見えない

受信時の不要輻射は4nW以下と法令にあります。測ってみて大丈夫と考えていたのですが、原稿の締め切り直前にオーバーしている事に気が付きました。そこで、出力のBNCコネクタと基板のアンテナ端子間にFBを入れて対策を行いました。それで測ったところ図9のようになりました。もちろんアッテネータは入れていません。4nWは-54dBmになりますので、余裕でOKと見えますが違います。-60dBmの他に-65dBmまでの信号がありますので、これらの電力を合計すると約3nW程度になり余裕はありません。このようなレベルの低い信号はケースのレイアウトや配線で大きく変化しますので、同じ結果にはなりません。基板外に追加の1段のLPFを入れるのも良さそうです。


図9 受信時の不要輻射はギリギリ

問題があるとすれば、占有周波数帯幅なのでしょう。SSBとすると3kHz幅は苦しいかと思いました。測ったところ99%に入るのが3064Hzで、僅かですがオーバーでした。但し、測る条件によって大幅に異なる結果になりそうです。測った時の波形が図10になります。USB側に比べてLSB側のレベルが低い事が解ります。特に1.5kHz付近には窪みがあります。出力は10mWに設定しました。多少逆サイドバンドを抑えて、効率を上げたDSBと考えられれば良いのですが・・・。法令的には、たぶん難しいのでしょう。

この図10についてはセンターの周波数が7.1MHzになっています。これは週刊BEACONのNo.129「50MHz測定用アダプタ」を使って、周波数を変換しているためです。実質的なセンター周波数は50.4MHzになります。また、No.152の「疑似音声発生器」をマイク入力に入力し、No.157の「占有周波数帯幅の計算シート」を使って計算しました。完全自作のものですので、非公式データと考えて下さい。


図10 占有周波数帯幅の測定をした画像
この図に意味はないが3064Hzと少し広い

使用感

50MHzでは、このようなSSBもありかと思いました。完璧ではないとしても、なかなか面白いトランシーバです。7MHzでは迷惑をかける心配がありますが、50MHzなら実質的な問題は無いでしょう。しかしSSBというよりもDSBとの中間に思えます。「ちょっと工夫を凝らしたDSBです」と言っておく方が良いのかもしれません。但し、効率を考えるとSSBと言って良いでしょうし、DSBどうしの交信にありがちな受信時の同調のやり難さも少ないと思われます。SSBの長所は充分にあります。50MHzの自作に向いたSSBトランシーバと思いました。ただ私の作ったものに関しては、少しだけ占有周波数帯幅が広いようです。もうひと工夫するのが良さそうです。SSBとして保証認定を受けて免許を受けている方も居られるそうですので、安心して申請してみて下さい。

VXOの可変範囲は一番狭くなるようにコイルのコアを抜く方向にしていました。しかし、それでも150kHzほど変化しますので、半回転のポリバリコンでは少々使い難い感触です。減速機構はケースのサイズもあって、後からでは付けられません。後から聞いた話では、VXO用に特注したクリスタルのようです。50.5MHzでしたので、周波数が高めかと思っていましたが、そうではなく、減速機構を使ってSSBの周波数帯を一気にカバーしてしまう作戦だったようです。私的には作戦変更をし、クリスタルを一般仕様の50.3MHzにしてみました。するとVXOコイルが最小では30kHzしか可変できません。そこでVXOコイルを最大にしてみたところ、70kHzの可変幅となりました。使い勝手としても安定でチューニングに問題はありません。取りあえず、これで行こうと思います。前述しましたが、周波数を変えたい時にはクリスタルの交換となります。フタを開ける必要があり、少々不便といえばそのとおりです。

対策はしていませんが、受信音が高い方に偏っているように感じました。受信部は検波後の結合コンデンサに1μFを並べていますので、10μF程度にする方が良いのかもしれません。

この記事について、BSB研究所の山本さんに御協力をして頂きました。お礼を申し上げます。この部品セットについては若干の在庫があるそうです。興味のある方は、BSB研究所(コールサイン@yahoo.co.jp)に問い合わせをして下さい。山本さんのコールサインは本稿の最初にあります。

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