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ものづくりやろう!

第十三回 初めての3Dプリンタ

JH3RGD 葭谷安正

先日小型のプラスチックケースを加工していたら力が入りすぎて壊してしまいました。造形補修剤の「プラリペア」もなくなってしまっていたので、「また一から加工するか」と考えるとともに、「そろそろ3Dプリンタを手に入れてみたいな」という気持ちも湧いてきました。というのも、このごろ老眼のため材料加工や穴あけなどの作業がやり辛くなってきました。

ネットを徘徊すると5万円以下の3Dプリンタがたくさん目に入ってきます。「どの機種がいいのか?」、「精度はどれくらいあるのか?」等、わからないことだらけです。そこで情報収集のため、知り合いの学生さんに、おすすめの3Dプリンタを聞いてみました。

私: 「どの機種がおすすめ?」
学生: 「Creality ENDER3 v2サイレント、がいいですよ。」
私: 「あんたが持ってるの?」
学生: 「もちろんです。クラブの学生はみんなもってますよ。」
私: 「全員? あ、そうなんだ!!」
学生: 「コスパ最高ですよ。」
私: 「わからないことがいっぱいだから、教えてね」
学生: 「いいですよ。」

という訳で、困ったときには“技術顧問”からのアドバイスもいただけるので、「Creality ENDER3 v2サイレント」購入の運びとなりました。本体価格は、35,000円ほど(昔はウン百万円でした)。フィラメント(造形材料の樹脂)価格は、約3,000円と劇的にお値段が下がっていました(昔約7万円/巻)。


図1 Creality ENDER3 V2サイレント

組み立て

通販サイトで申し込み、翌日には自宅に届きました。中を開けてみると部品が並んでいます。組み立てなければなりませんがそれも楽しいひとときです。ネットを徘徊してみるとこの機種の組み立て方を写真や動画で紹介しているサイトがたくさんありました。私もそのうちの数件のサイトにお世話になって組み立てました。約1時間ほどで完成しました。

レベル調整

レベル調整は、プリンタヘッドとガラスベッドの間隔がA4用紙1枚程度になるように調整することです。この調整をちゃんとしておかないとうまく印刷(造形)ができません。このギャップが狭いとヘッドがガラスベッド上をこすってしまい、逆にギャップが広いとヘッドから出た細い糸状のPLAフィラメント(PLA: ポリ乳酸、PLAフィラメント: 植物由来のPLA樹脂から開発された3Dプリンタ用材料)がガラスベッドに押さえられずに浮いた状態になって、大量のそうめん状のごみ(PLAフィラメントの糸状の塊)ができてしまいます。わたしも犬の名札の印刷でそうめんが少しできましたので、印刷を停止してレベル調整を行いました。

ガラスベッドの下に4か所レベル調整用のダイアルがあるので、その上の位置にヘッドを移動してヘッドとガラスベッドの間にA4用紙を抜き差しして、少し抵抗があるかなという状態になるようにダイアルを回してギャップを調整します。場所を移動してこの調整を各ダイアルの近くで行うことで調整ができました。ここでもネット情報を頼りにしました。

その他に、アイドラープーリーのあたり調整やタイミングベルトの張りの調整などすればきれいに印刷できるようですが、私はレベル調整のみでテスト印刷に挑みました。印刷品質がわかるようになってから細かい設定を行っていきたいと思います。

フィラメント

造形材のフィラメントは1.75mm径の素材ですが、これが過熱されてヘッドからは0.2mmほどの細さになって造形されるようです。

造形材のフィラメントにはABSとPLAがあるようです。購入した製品のおまけについていたのはPLAフィラメントでした。ABSを使った人に聞きましたところABSは柔らかくなり始める温度が210~240℃とのこと。一方のPLAは柔らかくなり始める温度が180~200℃とのこと。どちらがいいのか聞いたところ、皆さんPLAが扱いやすいと言われましたのでPLAを使っています。それに印刷の最中、この素材からいい匂いがします(個人の意見です)。いろいろな色が選択できますが、私は青と白をそれぞれ1kgづつ買いました。

テスト印刷(1)

はやる気持ちを抑えて調整をしてきたのですが、やっと印刷にかかることができます。

テスト印刷のデータは、ネットで公開されている3D CADデータを入手して印刷することにしました。印刷したモデルは犬の像です。あまり大きなサイズのものだと印刷時間がかかるとのことでしたので、台座の直径が5cm程度の犬の像をさがしてきました(本当は柴犬が欲しかったのですが・・・)。

3D CADデータをGコードに変換する必要があり、そのソフトのダウンロード先が取扱説明書に記載されていました。3D CADデータをこのソフトに読み込ませます。各種変換パラメーターがありますが、デフォールト状態でコードを作成しました。このコードをPC上でSDカードに書き込み、そのSDカードを3Dプリンタに読ませました。

プリンタのヘッドを加熱し、SDカードからGコードのデータを読み込ませます。そして印刷実行のボタンを選択・実行します。まだヘッドが温まっていませんでしたので全く動きませんでしたが、ベッドが温まると動き出しました。

1時間程度プリンタが動いて像ができあがりました。ガラスベッドに密着していましたので、割れないようにスクレーパで外しました。これの精度が良いのか悪いのかはわかりませんが、小さな犬ができあがりました。台座部分がガラスベッドから浮くこともなく、造形物の曲がりも発生しませんでした。ヘッドの調整もうまくいっているのかとおもいます。


(a)前面


(b)側面

図2 テスト印刷結果(1)

テスト印刷(2)

今度は3次元CADソフトを使って簡単な設計を行った後、「テスト印刷(1)」で実行したようにコード生成して印刷しました。

3次元CADを使ってまだ難しいものを設計する力量がありません。また、作るものが思い浮かびません。犬小屋に犬の名前のプレートを貼らなければいけないことを思い出し、それを作ることにしました。

3次元CADはたくさんの種類があり、どれがいいのかわかりません。友人に、ケースのような簡単なものをつくるにはどのソフトが良いのか相談しました。友人から、Webブラウザで使用できる「Onshape」というソフトを紹介してもらいました(図3)。ソフトウェアをインストールする必要がなくWebブラウザで使え、ネット上で自分が製作したデータを一般に公開するという条件で無償使用できるとのことですので、ユーザ登録しました。


図3 Onshapeのサイト

チュートリアルで1時間ほど勉強して早速作成しました。長方形を書いてそれを押し出してかまぼこ板のようにします。そのかまぼこ板の上に文字を書き、その文字をまた押し出して立体化します。出来上がりの図を立体表示したものが図4です。青色のフィラメントを買っていましたので、青色もつけてみました。


図4 Onshapeで作成した名板

印刷は、「テスト印刷(1)」の要領でコード変換し、印刷しました。結果は、「印刷失敗」しました。そうめんがいっぱいできてしまいました。「レベル調整」を再度おこなうべきだったのかもしれません。ガラスベッドの上に長方形のベースがほとんど何も残っておらず、糸状のPLA樹脂が多量にできていました。印刷の書き出しから樹脂がついていなかったようです。印刷コマンドを出してすぐに買い物に行きましたので最初の状態を見ておりませんでした。今後の教訓を一つ得ました(後日ギャップ調整して印刷しましたところ、想定した名札ができあがりました。今は犬小屋に貼ってあります)。

パドルの製作

印刷の手順もわかりましたので少し実用的なものを印刷することにしました。今欲しいのは移動運用に使用するパドルです。CADを使って一から作るのも大変ですので再度ネットで探すことにしました。検索エンジンで「straight key」や「paddle」で検索をかけたところSTL Finderというサイトにたどり着きました。3D CADで製作した縦ぶれ電鍵やパドルがたくさんありました。データのダウンロードも可能でした。


図5 STL Finder HP(「morse key and iambic paddle」での検索結果)

この中で見つけた図6のpaddleのデータをダウンロードし、印刷してみました。


図6 Paddle

部品は、「ボディー(本体)」、「カバー」、「板(2枚)」の全部で4つの部品でできています。カバーの印刷では、印刷開始時に「残り時間30: 4(時間)」と表示されて驚きましたが、実際の所要時間は6時間ほどでした。


(a)開始時: 残時間30時間


(b)終了時: プリント時間6時間

図7 カバーの印刷時間の推移

本体の印刷には3時間54分かかりました。印刷開始時には「残り時間9時間25分」と表示されていましたが、印刷の経過に従って現実的な残り時間になっているようです。本体とカバーの印刷に合計10時間、パドルは2枚で2時間程度かかりました。カバーの印刷は夜に開始しましたが、夜もそのまま印刷を続行しました。しかし、印刷していても気になるほどのノイズではありませんでした(個人の感想です)。


図8 印刷されたPaddleのパーツ

印刷されたパーツが図8です。また、この部品を組み立てたものが図9です。


(a)上面から


(b)本体部分とカバー

図9 Paddleの組み立て

接続端子が本体に入っていませんでしたので、無線機との接続を容易にするためにジャックの外部回路を作成しました。


図10 Paddleと接続端子

また、印刷がおわってから気がついたのですが、本体の底部が変形しています。スクレーパではがしたためなのか温度設定が悪かったのかわかりません。かなりの変形です。友人にききましたら、「夏場のほうが変形は少ない。冬場はおおくなる」。温度設定で変形しないようにできるのかわかりませんが、これからの課題です。


図11 収縮箇所発見(縮んでる!)


図12 Paddle試運転中

このパドルの使い心地ですが、自分としては気に入っています。接点間隔は簡単に調整することができない構造になっていますが、ワッシャーを複数枚入れて固定間隔にして運用しています。材料のしなりを利用していますので少し柔らかく、私のいつもの使用感覚ではもう少し固いほうが良いかなと思います。今回はほかの人が作成してくれたデータを使用して印刷していますが、次は様々な問題点を考慮して自分なりのPaddleを設計し、作ってみたいと思います。

3Dプリンタを使えば自分好みのケースも作ることができます。いつも「このケース大きいな」、「ぴったりした入れ物ないかな」等と頭を悩ますことがありましたが、小さいケースであれば(時間さえかければ)印刷して作ることができます。

3Dプリンタでまた一つ工作の楽しみが増えました。

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