Monthly FB NEWS 月刊FBニュース 月刊FBニュースはアマチュア無線の電子WEBマガジン。ベテランから入門まで、楽しく役立つ情報が満載です。

Topics from Around the World

特別記念局VI3RA(VI3Radio Australia)によるHF帯EME通信

筆者: レックス ジェームズ (Rex James, VK3OF) ※1 抄訳: 月刊FB NEWS編集部

「ケッ ケッ ケッ ケッ・・・」と鳴くワライカワセミの声が流れる有名な短波放送、ラジオ・オーストラリアが2017年短波放送を停止しました。当時使われていた短波放送用の大きなアンテナにアマチュア機を接続することが許可され、地元のアマチュア無線家は、特別記念局Victor India Three Radio Australia (VI3RA)※2を立ち上げました。2020年3月14日、15日両日、VI3RAは世界各国の多くのアマチュア無線家と交信したのみならず、なんとHF帯による月面反射(EME通信)にもチャレンジしました。


2020年3月のある週末に開催された特別なイベントについて、それがどんなものであったか記録に残しておきたいと思いペンを取りました。実際、一言でいえば「実に素晴らしかった」と言うしかないかもしれませんが、少し付け加えたいと思います。

これまでの経緯を紹介します。2017年にラジオ・オーストラリアの短波放送が停止されました。そのときビクトリア州シェパートン(Shepparton Victoria)の送信所に設置されている大型アンテナアレイを使用してアマチュア無線の運用を行うという構想が持ち上がりました。当時、アマチュア無線局を立ち上げる計画は、現在のBAI Communications※3の経営陣から基本的に同意を得ていましたが、ことが大きかったこともあり、実際にはそれ以上事態が進展することはありませんでした。

しかし、その送信所の物件が売買されたのを機に、Greg Cusick VK3BRQと跡地を有効利用するアイデアを話し合いました。私はBAI Communicationsに正式に申請を行いました。多くの手続きを経て、最終的に提案したイベントの企画が2019年12月に許可されました。

立案

イベントの企画は、この物件が新しいオーナーに引き渡される直前から始まりました。多くのグループと話し合った結果、このイベントは大掛かりなものになりそうで、私個人の能力ではとうてい企画しきれないと判断しました。幸い短期間ではありましたが、シェパートン地区にあるアマチュア無線クラブ(Shepparton and District Amateur Radio Club; SADARC)のスタッフが、このイベントの運営を引き受けてくれることになりました。

準備の段階から彼らの熱意とプロ意識には感心しました。何度もミーティングや準備を進める中で、SADARCはオーストラリアにおけるアマチュア無線の一大イベントとなるこの企画を成功させるためにたいへん尽力してくれました。私はクラブの関与にたいへん感謝しています。いろいろと打ち合わせた結果、この一大イベントを2020年3月14日~15日に開催すると決定しました。

数週間にわたる準備の後、一生に一度のチャンスとなるこのイベントの成功のためにさらに3月13日の午後、最終調整を行いました。調整には時間がかかりましたが、スタッフの総力を結集して、日が変わる午前0時前にすべて準備が整いました。


ラジオ・オーストラリア、シェパートン送信所に設置されたアンテナの設計図と立面図(図面提供: Peter B. Marks氏)。このアンテナは、4つの反射板付きダイポールアレイを4段に積み重ね、位相差をつけて接続することで大きな利得を得ています。一番右のPX-5と記されたアレイは11~22MHzをカバーするように設計されています。VI3RAが21MHzのEME通信に使用したのはこのアンテナです。

電波の発射

最初の月面反射実験は、1947年この場所で21MHz帯を使って月に向けて電波を発射し、その電波を月で跳ね返そうとするものでした。

ビクトリア州シェパートンのラジオ・オーストラリアに設置されている11~22MHzのPX-5アンテナを使用し21.5MHzの送信サイトを、またNSW(ニューサウスウェールズ州)のHornsby(ホーンズビー)には受信サイトをそれぞれ設置しました。月面反射の実験は3月14日の朝2315Z、短いバースト信号を月面に向けて発射することで始まりました。微かなリターンエコーがあったように感じられましたが、受信機に接続したPCのスクリーンには、何も現れず、リターンエコーを受信しているのかどうか、よく分かりませんでした。というのも、よほどしっかりした信号を受信しない限りスクリーンにはエコーは現れないからです。しかし、出力を400Wにアップして実験してみたところ、2330Z頃にかなりエコーが現れるようになり、その場にいた全員のテンションが一気に上がりました。


高さ55mから90mを超えるタワーに吊るされたラジオ・オーストラリアのアンテナ群
(写真提供: Rob Wagner, VK3BRW)

この時、月は地平線上10度付近にあり、PX-5アンテナの向きは月に対してベストな角度にありました。私は、HF帯よりはるかに簡単に月面反射ができるVHF帯の経験から、月面反射のエコーの見分け方を周りの人たちに説明しました。

キャリアを送信するだけでは、通常のアナログ受信機ではノイズレベル以上のエコーを検出することができませんでした。しかしながら昨今のデジタル通信方式の進歩により、宇宙空間の多くの探査機と同じようにノイズレベルよりもはるかに弱いエコーを検出することができるようになったため、今回そのエコー検出に成功しました。私たちの知る限り、HF帯の月面反射は、過去に一度だけ南半球で行われたことがありました。それは1947年に同じラジオ・オーストラリアの送信所から行われ、今回と同じくホーンズビーでその反射エコーを受信しています。(編集部注: 日本でも過去に月面反射通信愛好家によるHF帯のEME実験は成功している)

3月14日(土)の夜、月の出が遅いため、少し遅い時間に再び月面反射を試み達成しました。試してみる価値はあると思い、WSJT-Xでもメッセージ送信を試みました。返ってきた信号はたいへん弱く残念ながら文字にはなりませんでした。当時ラジオ・オーストラリアが1947年にHF帯で行った実験では100kWもの大電力でした。今回はそれよりはるかに低い電力でも月面反射ができることが実証されました。もっとパワーがあれば、月面反射による最初のHF帯デジタル通信を成功させることができたかも知れません。


WSJT-Xによる月面反射の信号 (中央やや左の縦の破線)

月面反射の実験の後、スタッフはそのときに行われていたDXコンテストに参加しました。土曜日の朝早くまで行ったようで、CW、SSB、AMのほかFT8やJT65でもオンエアーし多くの局と交信したとのことでした。

謝辞

SADARC委員会、特にVI3RA(Victor India Three Radio Australia)のコールサインを企画し、WIA、ARRL、RSGBなどにイベントの広報を行い、今回のイベントを成功裏に導いたピーター(Peter, VK3GV,ex VK3FPSR)には感謝します。また、レイ(Ray, VK3YNV)は、途中障害に見まわれたにもかかわらず、プロジェクト全体の技術的な編成を引き受け、それを実行してくれました。レイとは密に連絡を取り合い、定期的に状況を交換しました。問題が発生したときには彼は解決策を提示してくれました。また、同軸ケーブルの処理、屋外での準備など、イベントのすべての側面に深く関わってくれました。レイが舵取りをしてくれたことで、私はとても安心しました。

デニー(Deny, VK3ZYZ)は、このイベントのためにバランの設計を行ってくれました。週末には多くの時間を費やしてバランを作り、そのテストをしたのだと思います。バランは非常に完成度が高く、市販されているどの製品にも引けを取らないものでした。完成したバランの取り付けも手伝ってくれたことで、彼のこのイベントに対する心意気を感じました。電源の一部もデニーが提供してくれました。

ウェブサーバーとウェブサイトのフロントエンドのプログラムを行い、当日使用するコンピュータの準備をサポートしてくれたITウィザードのジョシュ(Josh, コールサインなし)は、今回のこのイベントを成功に導くためには不可欠な存在でした。ウェブデザインの品質、それに伴う素晴らしいアートワーク、そしてアンテナチャートの完成度は、群を抜いていました。多くの人から「これは凄い、プロフェッショナルだ」と称賛されました。また、ジョシュは、イベント中はもとより、さまざまな面で私をサポートしてくれました。

ロドニー (Rodney, VK3UG)は、イベントの準備や宣伝に熱心に取り組んでくれました。また、彼が設計・製作したアンテナスイッチとコントローラは、アマチュア精神の賜物と言えます。彼はまた、放送局でのアナウンサーとしての声の才能も持っています。彼の月面反射実験への深い関心がこの実験を実現させる礎となりました。月面反射実験は、本当の意味での成果であり、今回のイベント全体のハイライトの一つでした。

その他、クラブルームのスタッフであるカレン(Karen)とダラス(Dallas, VK3EB)のアシストも特筆すべきと思います。このようなボランティアに支えられて、オペレーターの準備ができたことはたいへん助かりました。

お陰で、新しいオペレーターが参加しても運営がスムーズでした。ポール・ワッターズ(Paul Watters, VK3YLS)とテリー・フェイヒ(Terry Fahey)にもお礼を言わなければなりません。彼らの迅速なアンテナの修理がなければ、私たちはたくさんあるアンテナをうまく使えなかったと思います。この2人は、今回のイベントが問題なく運営されているかを常に確認し、またサイトに関する多くの質問にもオペレーターが答えられるようにバックでヘルプしました。

さらにトランシーバー、リニアアンプ、アンテナカプラー、バンドパスフィルターなどの機材を提供してくれたDX-pedtionerのリー(Lee, VK3GK)とグラハム(Graham, VK3GL)にも感謝します。機材等のハードウェアやイベント開催の両方の知識を持っているスタッフは、今回のようなイベントでは非常に貴重な存在でした。ジェフ(Geoff, VK3ZNA)には、屋外に敷設した長い同軸ケーブルの供給とその終端処理をしてくれたことに感謝します。彼の働きがなければイベントは大変なことになっていたと思います。

トーマス(Thomas, VK3EO)には、月面反射の実験に機材を提供していただきました。また、忙しい中にもかかわらずシェパートンまで足を運んでくれ、イベント開催中、様々な面でヘルプしてくれました。無線機やリニアアンプに関する彼の知識は、月面反射実験という非常に重要なイベントに大きく貢献しました。


ノートパソコンを囲んでデジタル信号を観測するオペレーターのようす

多くの無線機を提供してくれたアイコムのサポートについても言及しなければなりません。アイコムに対するスポンサーシップの申し込みから、最終的に機材をアイコムに戻す最後まで、同社のスタッフの対応は素晴らしかったです。無線機においては、抜群のフロントエンド、使いやすさ、そして切れ味抜群のフィルターなど、その性能には目を見張るものがありました。私のお気に入りはIC-7610で、今年(2021年)の買い物リストに入れたいほどです。

このイベントを成功させるために時間を割いてくれた数十人のオペレーターの方々にも感謝したいと思います。このイベントに参加するため、遠くから来た人もいました。この貴重な機会を楽しんでいる皆さんの笑顔や嬉しそうな表情が印象的でした。皆さんの積極的な行動で私の仕事もたいへん捗りました。この機会に多くのオペレーターがRadio Australiaを見学し、このような場所で働くことがどのようなものかを感じてくれたようです。ジェイソン(Jason, VK3FNQS)にはログの処理を担当していただき、感謝の気持ちでいっぱいです。

コリン(Colin, VK3NQS)は、このイベントに強く参加を希望していましたが、残念ながら都合で参加を辞退しました。でも、私たちはコリンがこのイベントに関わりたかったことをよく知っています。

このイベントを成功させるために協力してくれたすべての人をこの誌面でカバーし切れないことは承知していますが、読者の皆さんはそれがどなたであるかはよくご存じだと思います。異なるバンドで異なるモードを使いながら、さまざまなアンテナの組み合わせを試しながら実験する人々の姿を見ることができたのは私にとって光栄でした。

マイクを握っている間、私はオリジナルのRadio Australiaと同じように、AMモードで何度かQSOすることができました。レイによると、私たちはJT-WM(JT-Waltzing Matilda※4)という新しいモードまで発明したかもしれないと冗談交じりに話していました。今回のVI3RAの交信はYouTubeにもアップされ、世界中でヒットさせたようです。

以上、オーストラリアで行われたアマチュア無線の一大イベントとして多くの人に記憶されるであろうこのイベントを総括してみました。Radio Australiaが閉鎖され、この施設がなくなるのはとても残念なことです。Radio AustraliaでのVI3RAの運用、そして私たちがそれを実現したのと同じくらい、皆さんにとってこの一大イベントが楽しいものであったことを嬉しく思っています。


<編集部追記>
※1 BAI Communications (オーストラリア)の上級放送技術者
※2 VI3RA https://www.qrz.com/db/VI3RA
※3 BAI Communicationsは、旧Broadcast Australia
※4 Waltzing Matildaとはオーストラリアでは誰もが知っている歌「ウォルシング・マチルダ」のこと。JT65等のデジタルモードでおなじみのJTと掛け合わせた造語。

<引用>
この記事は、オーストラリアのアマチュア無線連盟、WIA(Wireless Institute of Australia)が発行する機関誌「Amateur Radio」の2021年No.6 (Volume 89)に掲載されたものです。著者であるRex James, VK3OFとWIAの許可を得て月刊FB NEWS編集部がその抄訳を行いました。掲載の許可ならびに資料のご提供に関し、誌面をお借りしまして感謝を申しあげます。TU (月刊FB NEWS編集部)
Amateur Radio: https://www.wia.org.au/members/armag/about/


This article was originally published in the Number 6, 2021 (Volume 89) issue of the official journal of the Wireless Institute of Australia (WIA), and was supplied by the writer Rex James, VK3OF and WIA with their kind permission. The translation was abridged by the monthly FB NEWS editorial team. We would like to express our sincere gratitude Rex James, VK3OF and WIA. TU
Amateur Radio: https://www.wia.org.au/members/armag/about/

Topics from Around the World  バックナンバー

2022年10月号トップへ戻る

次号は 12月 1日(木) に公開予定

サイトのご利用について

©2024 月刊FBニュース編集部 All Rights Reserved.