2015年10月号

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連載記事

防災とアマチュア無線

防災士 中澤哲也

第19回 要救助者と無線

9月は台風に起因する豪雨災害が関東、東北で発生し大きな被害をもたらしました。亡くなられた方々のご冥福をお祈りするとともに、被災された方々にお見舞い申し上げます。また、報道されてはいませんが行政との協定に基づいて、あるいは自主防災組織などで現場の情報連絡、通信を担った方々もいらっしゃることでしょう。報道された映像は首都圏ですら想像を絶する被害が生じること、災害は時、場所、規模を選ばないということを見る者に改めて考えさせたと思います。

映像では要救助者をヘリで救出する様子が何度も出ていました。救助要請を受けてもらえたにもかかわらず、その後連絡が取れなくなった方々もいらっしゃいます。結果的に自力あるいはなんらかの方法で避難できたようですが、安否確認に時間を要した事は今後の課題になったと思います。警察消防自衛隊のみならず、各方面からヘリが100機近く活動していたようですが、救助信号と言うのか要救助者がヘリなどへ居場所を知らせる方法を知っていれば、捜索時間の短縮に繋がったかもしれません。この方法をご存じの方は、「それは万国共通で広く知られていることではないか?」とお思いかもしれません。SOSという言葉は常識でしょう。しかし、「要救助者はここだ!」と知らせる方法は一般の方には広く知られていません。筆者も今回改めて調査確認した次第です。お前が知らなかっただけだろう、とお叱りを受けるかもしれません。しかし筆者がこれまで目にした都道府県や市町村区が発行する防災パンフレット類にはこの方法は記載されていません。

救助信号
救助を求めるとき、光や音を1分間に6回10秒ずつ出し、次の1分は休み、さらに10秒ずつ出す動作を繰り返す。(声、笛、ライト、鏡などによる太陽光の反射などで行う)
了解信号
救助信号を了解したとき、光や音を1分間に3回20秒ずつ出し、次の1分は休み、さらに20秒ずつ出す動作を繰り返す。(声、笛、ライト、鏡などによる太陽光の反射などで行う)

この方法は“The Alpine distress signal”と呼ばれ、万国共通のようです。

すぐさまこの方法を思い出すことができなければ、報道映像で見られたように、タオルを振り回したり、夜間であれば誘導灯(赤く細長いもの)を振るなど、ともかく人の存在に気づいてもらう行動が必要です。

これとは別に遭難時の発見が大変難しい船舶遭難の場合は、「海上衝突予防法」という法律の第37条に「遭難信号」という条項があり、この第一項の国土交通省令で定める信号は「海上衝突予防法施行規則」第22条の各号に種々の方法が列挙され、第11号に「左右に伸ばした腕を繰り返しゆつくり上下させることによる信号」という方法があります。また、第4号に「SOS」がでてきます。
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S52/S52F03901000019.html

以上は知っていればいざという時に役立つ知識ですが、このとおりにできなくとも、ここに要救助者がいるんだ、ということを何らかの方法で示すことができれば救助につながると考えます。

筆者は通勤カバンに入れている自前のサバイバルセットに「オレンジ色の買い物袋」をたたんで入れています。もちろんLEDライトも入れています。また、マイカーのグローブボックスにはLEDを用い複数の発光パターンのある100円ショップなどで自転車の尾灯として販売されている赤色灯を入れています。(夜間広大な駐車場で自車を探すときに使えば便利です)

読者の皆様は「無線でなんとかならんのか?」とお考えでしょう。山岳遭難については登山届に携行する無線機の種別と周波数を記載させる山域もあり、そこではアマチュア無線のみならず、各種の無線機が利用されます。しかし、一般市民が居住する住宅が被災し、直ちに救助が必要な場合、救助に駆け付けた機関がアマチュア無線/デジタル簡易無線/特定小電力トランシーバーなどを携行し、ヘリの中で必要な周波数、チャンネルを常時聴取しているか否かは、現時点では確認できていません。3アマ以上の無線従事者が免許人であるマチュア局には申請すれば4630kHzが免許されますが、今回のヘリとの通信などを考慮すれば、関係する周波数の免許も希望するもので検討いただきたいところです。もちろんその周波数の運用には必然的に相応の知識とモラルが必要と考えるので、それなりの要件を満たす方のみとし、筆者なりに考えると、資格要件としては2アマあるいはそれ相応以上の無線従事者資格、一定レベル以上の和文通話表、欧文通話表を使える技量があること。また、災害時を考慮し普通救命講習終了後2年を経過していないこと、市町村区に登録される自治会での自主防災組織などでの防災活動に参加していること、等考えられます。和文通話表、欧文通話表を使える技量については実技試験が必要かもしれません。それらの要件を得たうえで、総務省が指定する機関の講習受講を義務付けてもよいと思います。このあたりは米国FCC, ARRLの現状を参酌する必要もあるかもしれません。

今回の災害では救助要請せず(できなかった?)、水が引くのを待っていた住民間の通信に「糸電話」が使われたとの報道がありました。これは極めて珍しいものですが、相手との関係、天候や相手方との距離、材料、家族の協力など、種々の要素が重なってなんとかできた事、と考えられます。この報道は窮余の策としての実施した方法の特異性に着目したものと想像しますが、その一方で、「災害時の携帯電話の脆弱性について一般使用者の認知度が低く、代替手段が用意されていないこと」が問題視されるもの、と考えます。停電などで中継局が動かなくなったとき、携帯電話が充電できないとき、外部電源がないときなど、携帯電話が使えません。これは読者のみなさま百も承知と思います。しかし、「代替手段?」までは、なかなか用意されていないかと思います。筆者はデジタル簡易無線も特定小電力トランシーバーも複数台用意しています。わざわざトランシーバーを購入するのも・・・と足踏みされるかもしれません。しかし、スマートホンの価格を考慮すれば、価格的にはそうそう高額なものではない、と思います。
(例えばhttp://www.digiham.jp/SHOP/ic-4300.htmlでは、1台1万円もしません。しかし、「俺はキャンペーン期間中の契約だったので、スマホ本体は無料だったうえ、商品券もたくさん貰ったぞ。」とおっしゃる方もあるかもしれません。)

普段使うことがないよとお思いなら、掛け捨ての「保険」などと考えられては如何でしょうか。もちろん買ってそのままでは、いざという時に使うことができないかもしれません。少しずつでも触ってみてください。

また、今回の災害で気になる点は、「あっという間に増水し逃げるチャンスを失った」、とおっしゃる方が多かったことです。この点については、「早期避難」という視点が必要です。
短時間での河川増水の災害について、2008年7月に発生した神戸市都賀川での災害は、上流域ゲリラ豪雨による急激な増水により何人もの方が亡くなられたことが記憶に新しいところです。このときは僅か2分で1mの水位上昇があったと考えられています*。もちろん神戸市都賀川と鬼怒川常総市流域では地形的条件が大きく異なります。しかし、アメダス観測値による24時間雨量は次のように報じられています。

栃木県 五十里 551.0ミリ 10日6時30分まで
栃木県 今市  541.0ミリ 10日6時20分まで
栃木県 土呂部 444.0ミリ 10日5時00分まで
栃木県 鹿沼  444.0ミリ 10日6時00分まで
栃木県 奥日光 391.0ミリ 9日23時40分まで

いずれも、内閣府:平成27年台風18号による大雨等に係る被害状況について
(9月13日10時現在)より転記

24時間雨量でこれほどまでの降雨ですから、仮に9月9日就寝前の段階であってもその時点までで相当な降水量となっていたと思われます。過去何十年も経験したことがない、というのも理解できます。しかし、「不気味だから」、「不安だから」、早めに避難しようと考えても、一方で急変しつつある状況下、「このくらいならまあ大丈夫だろう」と『正常性バイアス(正常化の偏見)』が作用し適切な判断が下されなかったかもしれません。
(*土木学会都賀川水難事故調査団:「都賀川水難事故調査について」)

さて10月は1964年東京オリンピック開催に由来する体育の日もあるので、スポーツの秋ともいえます。山登りやハイキングを計画される方も多数いらっしゃるでしょう。「防災」というと、何らかの災害発生後の活動、あるいは大雨や台風のよう差し迫った災害発生に備えた活動、さらには訓練をイメージしてしまいます。もちろん「いざ、という時に備えて」という観点を省くことはできません。しかし、「山登り」「ハイキング」にトランシーバーを携行する、ということは、遭難時の、遭難防止の、という視点を含め、パーティやグループ内での連絡手段以外に、先行グループがいれば必要な情報を得る、という山登りやハイキングそのものをレジャー、スポーツとして楽しむためのツールという視点、もちろんそのものでの楽しさに加えて、さらに写真撮影や自然観察などと同様、無線通信では高地からの運用によりハンディ機だけで思わぬ遠方と交信できる楽しさを得ることができます。その無線通信ならではの楽しみを多くの方に経験いただき、日頃から無線機を使うこと、活用することが「防災」につながるものではないでしょうか。日頃できないことが災害時に突然できるようになる…「火事場の馬鹿力」を除けば、そんな魔法はどこにもありません。

非常通信協議会「非常通信確保のためのガイド・マニュアル」(平成27年7月のもの)が総務省電波利用ホームページにUPされています。
http://www.tele.soumu.go.jp/resource/j/hijyo/4.pdf

自治体等と関係する協定を締結されているアマチュア無線組織の方々はご存知の事と思いますが、一般のアマチュア無線家であっても、一度はしっかりと読んでおく対象であると考えます。アマチュア無線家の視点で読めば内容が難しい、しっくりこない部分も少なくないかもしれませんが、自治体等の担当者はこれに従って行動されるわけですから、きちんと読んでおくべきもの、と考えます。

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