2015年11月号

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空を飛んだD-STAR(ゲートウェイ交信で広がる世界)

寄稿/JR3VHクラブ

10月18日(日)、関西のアマチュア無線クラブ「JR3VHクラブ」のメンバーたちが、米国カリフォルニア州で12,000フィート(約3,660m)の上空からスカイダイビング中のハムとD-STAR経由で交信に成功した。そのレポートが寄せられたので紹介しよう。

私たち「JR3VHクラブ」のメンバーの一人から、JARLメールマガジン224号(2015年5月20日配信)に「ちょっとおもしろそうな話」という記事が出ているという連絡が入ったのが5月下旬でした。これが今回のお話の発端でした。


スカイダイビング中のD-STAR海外交信に挑戦したマーク・メルツァー氏(AF6IM)

そのメールマガジンの記事は、「アメリカ・カリフォルニア州のアマチュア無線家・マーク・メルツァー氏(AF6IM)が、6月1日の4時半から9時(時刻はすべてJST表記)に、カリフォルニア州のバイロン空港上空12,000フィートから、スカイダイビングを何回か行う。パラシュートから28MHz帯SSBでオンエアーするので、チャンスがあれば日本のアマチュア無線家とも交信したい」という内容でした。


JARLメールマガジン224号(2015年5月20日配信)で紹介された「ちょっとおもしろそうな話」。これが今回のD-STAR交信の発端となった

この試みに興味を持った私たちは、運用周波数を確認し、6月1日の2時から4時(※当初予定の4時半から9時が変更になった)の間ワッチしましたが、電波伝搬状態は最悪でQSOには至りませんでした。

その後、私たちはマーク氏と連絡を取り、VOACAPで予測される電波伝搬状態がHF帯でのローパワーQSOは不可能であることと、クラブ員から提案された「D-STARなら交信できるのではないだろうか」というアイデアを彼に伝え、D-STARを使うように粘り強くメールのやり取りを行いました。一時はクラブ員手持ちのID-31をマーク氏へ送ることまで考え、販売店にも相談しましたが、結局、彼がIC-91AD(ID-91の海外仕様機)を持っていることがわかり、無線機を送る必要はなくなりました。


マーク氏が愛用するD-STARハンディ機、IC-91AD(ID-91の海外仕様機)。これは設定確認のためにメールで送ってもらった画像

しかし、彼はこれまでFMでの運用がメインであったため、D-STARのローカルレピータ探しや、ゲートウェイ運用の設定方法などの説明が必要でした。そして9月20日「次回は10月18日の午前2時から8時の間にジャンプする」ということが決まったのです。そのうちD-STARによる交信のためのジャンプは7時から8時の1時間に設定されましたが、この日はJARL関西地方本部が主催する「フィールドミーティング」の開催日と重なるため、多くのクラブ員は会場へ向かう車内でワッチすることになりました。

当日、先方の地上クルーとは14MHz帯で連絡周波数を設定し、クラブ員のうち4局が自宅で待機しましたが、14MHz帯はまったく役に立たず、メールをチャット状態のようにして連絡を頻繁に取り合い、マーク氏が使用するレピータを土壇場で変更するなどの連絡に追われました。やり取りをする中、彼の離陸を確認できたのが午前7時過ぎでした。


マーク氏らスカイダイバーを支援する地上局の設備

そして迎えた午前7時28分50秒は、忘れることのできない世紀の瞬間となりました。スカイダイビング中のAF6IMのCQが、D-STAR経由で聞こえたのです。レピータを運営管理しているクラブ員の感動もさることながら、それにも増して、AF6IMマーク氏自身が、これまで使ったことがなかったD-STARで、日本やイギリス、カナダ、オーストラリア、韓国などからパイルアップを受けたことに感動したようです。


パラシュートで上空から降下するマーク氏

後日、マーク氏から届いたコメントを紹介しましょう(拙い訳文ですが“当たらずとも遠からず”で、皆様にも彼の感動が伝わると思います)。

★AF6IM マーク氏からのコメント

Konnichiwa from Mark Meltzer AF6IM. I'm 66 years old and have been a skydiver since 1968 and a ham since 2008. Combining my two favorite hobbies has been a dream come true. We now have three active ham jumpers AF6IM, KF6WRW, KC6TYD and many other hams helping us as ground crew.

こんにちは、AF6IMのマーク・メルツァーです。私は66歳です。1968年以来のスカイダイバーで2008年からハムを楽しんでいます。私の好きな2つの趣味を組み合わせることの夢が叶いました。今、私とKF6WRW、KC6TYDという3名のアクティブなジャンパーに、ほかの多くのハムがグランドクルーとなって私たちを助けてくれています。

Every Parachute Mobile jump is a huge thrill and extremely satisfying. Cruising among the clouds working QSOs with a gorgeous California view below is an amazing adventure and surprisingly inexpensive. It only costs experienced solo jumpers $24 for the ride to 14,500 feet in a twin turboprop jump ship. Our sport is subsidized by tandem jumpers who pay about $150 per jump.

すべてのパラシュートモバイルジャンプは大変スリルがあり、そして非常に満足です。カリフォルニアの素敵な景色の下で交信をしながら雲の間をクルージングすることは素晴らしい冒険ですが、驚くほど安価です。単独ジャンプを経験するための、ツインターボプロップ機で14,500フィートまで行くためのコストは1回たったの24ドルです。私たちのスポーツはジャンプ1回あたり約150ドル支払いますが、ジャンパー同士の協力を得ています。

DSTAR's ability to control links and designate intended call recipients is both useful and fun. Descending at 1000 feet per minute under canopy I only have about ten minutes during a jump to make contacts. Unless good HF propagation coincides with my time aloft, I am limited to local line of sight QSOs. DSTAR adds an exciting capability to our airborne comms:RELIABLE GLOBAL REACH.

意図したコールの受信者を指定してリンク制御するD-STARの能力(※コールサイン指定やゲートウェイの相手先レピータの指定)には、便利さと楽しさの両方があります。天蓋の下、毎分1,000フィート降下するので、私がジャンプする間の交信時間は約10分しかありません。私が空中にいる時間とHF帯の伝播状態がうまく一致しない限り、私は有視界交信に限定されてしまいます。D-STARは私たちの空中コミュニケーションにエキサイティングな機能を追加すると共に、信頼性が高く世界中に届きます。

Working with many stations during my DSTAR jump on October 17th 2015 was very gratifying. The enthusiasm of Japan's ham community for Parachute Mobile QSOs motivates me and my colleagues to continue our DSTAR operations and hopefully acquire updated gear which allows expanded DSTAR capability such as position reporting. Perhaps we can inspire JA ham skydivers to undertake similar Parachute Mobile operations in Japan. That would be wonderful.

2015年10月17日(※日本時間は18日)私がD-STARジャンプ中に多くの局と交信できたことは非常に満足でした。パラシュートモバイルQSOへの日本のハムグループの熱意は、私と私の仲間を刺激し、私たちのD-STAR運用を継続させ、うまくいけば位置の報告(※GPS機能)のようにD-STARの能力を拡大できるように更新した装置になります。おそらく我々は、日本で同様のパラシュートモバイル運用に着手するJAのハムのスカイダイバーを奮起させることができます。それは素晴らしいことです。

To my ham friends in Japan, stay tuned for more DSTAR jumps. We very much look forward to working you on our next VERTICAL DXPEDITION

私の日本のハム仲間たち、さらなるD-STARジャンプにご期待ください。我々は次の上空からのDXペディション(VERTICAL DXPEDITION)であなた方と交信することをとても楽しみにしています。


フライト前の検査を受けるマーク氏

マーク氏からのコメントは以上ですが、私たちJR3VHクラブ員は、ほかの目的と合わせてD-STARレピータの点検整備を事前に行うなど、一丸となってこの日に備えました。また、D-STARレピータがオーバーシーズQSOのみならず、災害発生時の非常通信などにも利用されるよう、JR3VHクラブでは「大阪谷町430」の設備の増強に努めております。
(寄稿/JR3VHクラブ)

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