2015年4月号

トップページ > 2015年4月号 > 防災とアマチュア無線/第13回 防災視点でのアマチュア無線 「訓練」 (その1)

連載記事

防災とアマチュア無線

防災士 中澤哲也

第13回 防災視点でのアマチュア無線 「訓練」 (その1)

四月になり、企業は新事業年度、学校は新学期を迎え、日々新たな気持ちでお過ごしのことと思います。あるいはお花見の企画、準備で忙しい最中でしょうか。アマチュア無線の世界では短波帯ハイバンドやVHFのコンディションが気になり出す時期でもありましょう。

皆様ご承知のよう、三月に仙台市とその周辺で国連防災世界会議が開催されました。その内容については次号で触れることにしますが、その直前の3月12日にIARUから“IARU Emergency Telecommunications guide (rev.1)”が発表されています。
http://www.iaru.org/uploads/1/3/0/7/13073366/emcomm_guide_1jan2015.pdf
大規模な国際会議開催直前に発表される、というタイミングの意味するところは諸々あるのかもしれません。しかしそれを説明する内容は現時点では見い出せていません。

目次を読みましたが、これは「手引き」としてまとめられたものであり、アマチュア無線家が地元で仲間と小学校校区内をカバーしようとする活動規模よりも、「市町村区全域」をカバーして非常通信を行うような活動規模に当てはまるような内容に読めました。もちろん、考え方や注意点などはどのような活動レベルにでも有効なものだと思います。発表元である組織の位置付けより、追って日本語訳が国内で発行されるのではないかと考え、ここではIARUからの発表のお知らせのみとします。

さて、大規模災害発生時にアマチュア無線を「より」有効活用するには「組織化」と「訓練」が肝要だと考えます。その視点で前回は「組織化」について書き連ねました。今回は「訓練」について進めます。

まず訓練対象を「組織」として捉えるか、「個人」として捉えるか、という論点があります。仮に「組織」として捉えた場合には、その組織の構成員の力量(実力)が一定水準にあるのか否か、という視点で「プロの組織」と「アマチュアの組織」(ボランティア団体)で大きく異なると考えられます。プロの場合は資格要件、技能研修の受講義務など、ある役割を担おうとすると一定の力量が求められる場合が多いものと考えられます。その上で定期的に訓練が行われているようです。

一方アマチュアの場合はどうでしょうか。強いリーダーシップで運営される団体や、構成員の意思統一が図られ組織として統制がとれている団体、組織は、限られた範囲ではプロと行動(活動)を共にするよう体制に組み込まれているところもあるもの、と考えます。このような視点から、我々アマチュア無線家が構成員となるアマチュア無線のボランティア組織、団体の訓練目標とすれば、「その組織、団体が要求される事項あるいは目標とする事項を成し遂げること」につながる内容が設定されるべきでしょう。要求レベルが「この程度はやってください」と外部から示されるものなのか、組織団体が「この程度は我々出来るようになろうじゃないか」と自主的に設定するものか。組織運営を担う方々が苦労する部分です。

活動そのものに着目すれば「担当者の担う役割を行うに充分な力量の確保、維持」でしょうか。誰もが何でも出来れば苦労しないのですが、人は得手不得手があります。適材適所の考えで役割分担することが必要でしょうし、個人の希望が多々あっても「仲良しクラブ」や「同好会」ではないのでその点を優先することはなりません。

次に訓練対象を「個人」として捉えた場合、「そもそも論」になってしまいますが、アマチュア無線は皆様ご存知のよう、電波法施行規則第4条25号で「自己訓練」という文言があります。では、改めて確かめますが「訓練」とはどのような意味でしょうか。

広辞苑には
① 実際に或る事を行って習熟させること。「実地――」
② 一定の目標に到達させるための実践的教育活動。訓育・徳育と同義にも用い、また技術的・身体的な場合にも用いる。
③ 動物に或る学習を行わせるための組織的な手続き。褒賞または罰を用いるのが普通。
とあります。

今回は上記③は意味が異なりますから除外し、①②で考えれば、当てはめにくい部分ではありますが、
Ⅰ (非常)通信訓練に参加し、想定される運用スタイルを経験し、実際に運用する際に戸惑う事がないよう、またミスがないよう習熟すること。
Ⅱ 災害発生に慌てることなく必要な情報伝達、収集を的確に行う為の知識技量を身につける、維持すること。「メンタルトレーニング」をも含める。
となるかと考えます。

Ⅰについて、かつてアマチュア無線局が参加する機会がしばしばありましたが、現在は数えるほどしかありません。しかし主催者組織の大きなものとしては地方レベルの非常通信協議会のもので、情報伝達方法としてアマチュア無線を組み入れた訓練もあります。もちろんJARLの都道府県支部主催のコンテスト型式で行うものもありますし、日本赤十字社の都道府県支部の総合訓練、また複数の県支部が参加するブロック訓練にて、アマチュア無線で連絡を担うものも少なくありません。アマチュア無線家有志、あるいは組織や地域の通信担当者有志で行われるものもあります。世界規模でみれば、第3回の記事で触れたIARUの“GlobalSET ”があります。参加資格を問われない訓練、としてはJARLが主催するフィールドデーコンテストにその意味を見出すことができましょう。元来移動運用そのものが非常時に備える訓練としての位置付けもあります。訓練内容には、「感度交換」、「メリット交換」というスタイルのものもありますが、これこだわらず我々が自ら工夫して行う必要があります。特に想定される状況や運用地点の特質を考慮したスタイルがあってもおかしくないですし、実際に「流域」という表現で取り組まれているものもあるようです。

最近では都道府県や市町村のみならず、自治会や自主防災会など地元の組織が主催する防災訓練が毎年のよう実施される地域もあります。その実施項目として避難訓練や炊き出し訓練も含まれることが少なくないですが、そのような総合防災訓練の中で通信を担う役回りをアマチュア無線のみならずその他の制度も含め是非とも取り組みたいところです。

Ⅱについては、日頃の運用での技量の維持、向上のみならず、特に(大規模)災害発生時に備えるならば、想定される災害の特性特質、また発災時の(救出)救援救護に関する知識の習得も必要になると考えます。

例えば、発災現場から「負傷者が多くトリアージタグが底をついた!すぐにもらって来て!なければ代用品を!」と要請を受けても「トリアージタグ」? 何それ? となればどうでしょう。周囲に尋ねる、あるいは伝言できる人がいればまだしも、自分一人しかいなければお手上げです。逆にトリアージタグが何のことか分かっていれば、「そうだ、あの工具箱に黒、赤、黄、緑のビニールテープがあった!これを増援者に持って行ってもらおう!」と対応できるでしょう。(余談ですが、医療チームの中にはそれぞれの色のビニールシートを現場に持参し、対象者をそれぞれ該当する色のシートへ運ぶ対応をされているところもあるようです)

トリアージタグなんて…、そこまで専門的な知識が必要か?そのような用語の飛び交う現場での通信を行うのか?との意見もあるでしょう。ボランティアとすれば「防災士」レベルの知識と限定される部分かも知れません。

↑ トリアージタグ(タッグ)実物
都道府県でスタイルが異なるものもある。(上のものは奈良県のもの。)

「トリアージ」とは
災害発生時等に多数の傷病者が発生した場合,傷病者の緊急度を重症度に応じて適切な処置や搬送を行うための傷病者の治療優先順位を決定することをいい,その際に用いるタッグ(識別票)をトリアージ・タッグ(トリアージタグ)という。
軽処置群を緑色(Ⅲ),非緊急治療群を黄色(Ⅱ),最優先治療群を赤色(I),死亡及び不処置群を黒色(0)とする。 (Ⅲ該当時はそのまま。Ⅱ該当時はⅢをちぎり、Ⅰ該当時はⅡ、Ⅲをちぎる。0該当時はⅠ、Ⅱ、Ⅲをちぎる)
表の記載事項欄は3枚複写となっており、上から(災害現場用)、(搬送機関用)、(収容医療機関用)となっている。
上部にゴムひもが付いており、傷病者に掛けるようなっている。
大きさは縦23.2cmX横11cmであるが、500円硬貨と並べているので大きさを想像していただきたい。

[参考]
(「トリアージ・タッグの標準化について」(指第 15 号 平成 8 年 3 月 12 日、厚生省健康政策局指導課長))

現実的にどの程度の災害の特性特質、また発災時の(救出)救援救護に関する知識が必要なのか、特にアマチュア無線家向けに適当なものを探しましたが国内には見あたりません。また、ガイドラインの類もありません。

何か無いか探してみました。一般向けの物とすれば
総務省消防庁 「eカレッジ」
http://open.fdma.go.jp/e-college/
これは受講者層別に種々内容が選択可能なものです。

あるいは
「117KOBEぼうさいマスター」
http://www.kobe-np.co.jp/info/bousai/syutoku.shtml
という神戸新聞のWEBストリーミングによる教育訓練の仕組みがあります。これは受講対象を中高生から二十歳前後の若者と設定されていますが、いやいやどうして、大人が視聴しても相当の知識習得が見込める内容です。

発災時に関係する通信を行おうとするなら、上記から得られる程度の知識は備えていただきたいと考えます。(但し、海難や山岳遭難等特化される分野については別途学習する必要はあります)

一般の方々からは、災害現場にたまたまトランシーバーを持った人、あるいは車にトランシーバーをつけた人が居合わせたという状況で有れば、運用がスマートでなくともどうこう思わないでしょう。

しかし、日頃から自治会や防災組織で「私はアマチュア無線をやっています。これは災害に役に立つんですよ。」などと公言しているならば、周囲はそれ相応の運用能力を期待しているでしょう。ましてや、周囲の方々の年齢が高いほど、「彼(彼女)は難しい国家試験をパスしているから、電気の知識も豊富で、電化製品の簡単な故障ならすぐにでも直してくれる人」と認識しているかもしれません。また現代のように情報通信技術が進歩していない昭和20年代、30年代前半あたり、将来国民一人一人が携帯電話を持つようになるなど夢にも思わなかった時代ですが、そのころまで、大規模災害発生時にアマチュア無線が情報収集、伝達に大活躍した旨の報道がしばしばありました。そのことを年齢の高い方ほど記憶にとどめている、と考えられます。

そのようなシルバー層からは、当時先端技術と見なされていた無線通信技術に長けたアマチュア無線家は、一種のスーパーマン(ウーマン)のように認識されており、ある種の慧眼と期待を込めて見られている、と考えておくほうがよいかと思います。それだけに、発災時にもたもたとトランシーバーの操作をしていたり、滑舌も含めしっかりした交信が出来ないと、周囲の期待が大きければ大きいほど失望や落胆も大きいものとなりかねません。

また、かつてアマチュア無線をやっていた、という方々は少なくないので、中には「昔はよくやっていた。従事者免許は常時携行しておる。社団局なら構成員名簿の記載変更は事後提出でもOKなはず。お前の運用はヘボで見ておれん、俺の方がよっぽど上手に出来る。代われ!」、などとおっしゃる方が現れるかもしれません。(自治会の「長老」クラスの方にはありそうな話…。) しかしこれはいただけません。発災時の運用ルールその他が事前に分かっていないと通信体系に影響を及ぼしかねません。また、非常通信協議会など関係組織に事前登録された方でないと、役所内に立入を禁じられるかもしれません。

加えてアマチュア無線はかつてブームであった時期があり、今は無線局免許も失効しているけれども、ブームの頃はバリバリと運用していた、と言う方も少なくないでしょう。そのような方が、「あなたの欧文通話表は間違っている。Fは“フォックスロット”でなく“フォックスロット”じゃないか」、と誤りを指摘される方も出てくるかもしれません。

このようなことがないように、

和文通話表、欧文通話表を 使う→使いこなせる交信を普段から心がける

ことが必要だと考えます。
[緊急を要する場合は、これにルールや方法に固執するあまり通信が中断することを避け、代用できるもので送信する咄嗟の対応でもかまわない、と言われています。]

尚、無線通信については「無線局運用規則」により通信手順ほかルールが定められていることはアマチュア無線家の皆さんにとっては百も承知の部分かと思います。「呼出事項」「応答事項」が実際の運用時に対応できているか、という点もあります。

また

一度に複数の局から呼ばれたとき、順次交信していく(さばく)練習(訓練)をする。
受信した内容を復唱する。
受信した内容を「書き取る」、「記録する」練習(訓練)をする。

という事が必要でしょう。

よくある話しですが、「早く書くあまり、自分が書いたにもかかわらず読めない」という事態も生じます。このような要素を考えるとき、アマチュア無線の「コンテスト」と称される競技に参加し、通常PCでLOGGINGするところを敢えて手書きすることも訓練として有効でしょう。

先にも記しましたが、無線設備の常置場所から移動して運用する「移動運用」も運用可能な態勢を整える訓練として有効です。移動してアンテナも設置し、さあこれから運用しよう、というとき、「あっ!マイクを忘れた!」、という事もしばしばある話です。

無線設備の展開訓練のみならず、食事その他屋外で長時間過ごせる態勢づくりも重要な部分と考えます。特に近年炎天下のデイタイムのみならず都市部では夜間も高温状態が継続しますから、運用地点によってはこの点も注意が必要です。一方盛夏の夕立も近年夕立という表現におさまらず、「記録的短時間降雨」「落雷」という言葉があてはまる気象状況も頻発していると思います。これから暖かくなり屋外で過ごす時間も増えますが、天候の急変について都度注意する必要があります。「この時期に?」と思う気象もあります。ご注意下さい。

(以下次号につづく)

頭の体操 詰将棋

無線ガール奮闘記
【 新連載スタート!】

  • 連載記事一覧
  • テクニカルコーナー一覧

お知らせ

発行元

発行元: 月刊FBニュース編集部
連絡先: info@fbnews.jp