2015年9月号

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連載記事

防災とアマチュア無線

防災士 中澤哲也

第18回 無線機を取り出す前に

9月になりました。みなさまご存知のように9月1日は防災の日です。1923年のこの日に関東大震災が発生し、東京や周辺都市に深刻な被害をもたらしたことは、この記事をお読みのみなさまはご存知のことと思います。またこの日を挟む8月30日から9月5日までを防災週間とされています。

先月半ばに急遽桜島に噴火警報(レベル4)が発令され、何事か!?と驚かれた方、いよいよか!?と非常持出を確かめられた方、また大涌谷はもとより東京湾、相模灘の震源情報を確かめられた方、様々な受け止め方があった事でしょう。

地元の夏祭りで隣組、隣保、ご近所さん、あるいは幼小の育友会(もう“PTA”とは言わないようですね)や万年青年クラブ(こちらも“老人会”とは言わない)それぞれの馴染みの方々が「今年は特に暑いね~」と言いながら世間話をしていたのはついこの間のことです。そこで「地震や台風が来たらどうする?」などの話題は、お祭りの楽しい場にはそぐわない内容ですから殆どなかったと思いますが、筆者の経験(阪神・淡路大震災)からすれば、このような自治会、マンション管理組合以外の地元のコミュニティ、グループが大規模災害発生時に重要な存在になりますから、今月地元で行われる敬老行事の際にでも、「食糧備蓄どうしてる?」など話題にされることをお勧めします。

さて、この記事を書いている8月25日現在、桜島は大噴火に至っていませんが、日頃からいざというときにどのように行動するか、その心掛けをしっかり持つようにと防災月間のこの9月に色々な訓練が予定されています。都道府県レベルでの多数の機関や団体が参加しヘリも飛ぶような大規模な訓練から、自治会レベルのものまでいろいろあるかと思います。
例えば大阪府では「大阪880万人訓練」が昨年同様予定されています。

http://www.pref.osaka.lg.jp/attach/5074/00176359/h27%20880drill%20ri-furetto.pdf
この訓練ではその時大阪府内にいる方々を対象に携帯電話の緊急速報メール(エリアメール)が送信されます*。また防災行政無線での伝達が行われます。今回は地震と大津波警報について呼びかけられるので、シェイクアウト**(“shakeout”まず低く、頭を守り、動かない)行動のあと、沿岸部、河川部では高所への避難活動と続くスタイルとなります。
まずは我が身を守ること
これが無線機を取り出す前に我々がすべき事だと思います。

* 携帯電話といっても、通信事業者はドコモ、au、ソフトバンクの3社だけで、他の通信事業者やLINE等のアプリではなんらメールの発信はありません。また、前記3事業者の携帯電話であっても機種によってはエリアメールを受信しない機種もあるので注意が必要です。最近は大阪も外国人観光客が増えているので、周囲の日本人のスマートフォン、携帯電話から一斉にメール着信音がなり響くと、何が起こったのか?と、さぞかし驚くであろうと想像します。
** テーブルや机の下に入ればよいと思われますが、専門家はそれだけではダメだと言います。震度6クラスになるとテーブルや机が「動く」ので、「潜り込んだテーブルや机の脚を手で持て!」、「そうしなければ守ってくれる物がいつの間にか動いて無防備になってしまう!」と言います。(上記URLで示す訓練案内の2ページ目にイラストがありますが、よく見ていただくと左腕で幼児を庇い、右腕でテーブルの脚をつかんでいるのがわかります)

次に、予想できる現象なら事前に知り得るか否か?という観点があります。地震の予想、予知はかなり困難であり、火山噴火も専門家以外は容易に予知できないものと考えます。一方、台風や最近頻繁に発生するゲリラ豪雨等は、ある程度は予想出来得るものと考えます。

台風が日本に接近すると、WEB上の気象庁や気象事業者のサイトで予想進路などの情報を得ることは、この記事をWEB上でお読みの読者のみなさまにはなんら難しいことではない、と思います。大雨についても気象庁が「記録的短時間大雨情報」を出していますが、その雨の降る範囲がどこか、という事、また雨雲がどう動くのか、が知りたいと強く思う部分です。その点、気象庁の「高解像度降水ナウキャスト」
http://www.jma.go.jp/jp/highresorad/
で示される情報が大変役立ちます。

拙宅地域の夏祭りの前日、地元市域では電柱が折れる!?などの被害を伴う大雨と風があり、二日続けてはないだろうと楽観していました。しかし祭り当日の午後、雷鳴が聞こえだし、筆者は誰に指示されることなく、祭り会場である小学校の職員室に急行し、予め許可を得ていたのでNET端末のPCでこの画面他のワッチを始めました。既に周辺地域では赤色のゾーンが生じていました。この現況を祭りの世話方に特定小電力トランシーバーで随時連絡したのですが、画面を見ていると雷雲の動きが一定でなく、“風が回っている”状況でした。一旦雷雨が降り始めると祭りの参加者を体育館に誘導せねばなりません。モニター画面を注視する時間が続きます。結果的にこの夏祭り会場は少し雨がパラついた程度で済みましたが周辺地域はモニター画面上で真っ赤、いや紫(時間80mm以上の降雨)まで表示されていました。何と幸運であったことか。



拙宅地域夏祭り当日の「高解像度降水ナウキャスト」画面 竜巻・雷情報についても表示している

雷雲は北東から南西、そこから南、さらに西へ、続いて北へ、最後には北西へ移動して行きました。後で聞きましたが、関係機関から諸々指示が出ていたとの事。一時中断はありましたが祭りを最後まで催行でき関係者一同ほっとしました。

以上の例では、避難行動の連絡・指示の前段階で気象情報を収集していた、という事になります。最近ではゲリラ豪雨のみならず、竜巻、突風にも注意が必要で、前出のナウキャストでもリアルタイムではないので、観天すなわち空見“SkyWatch”も併せて行うことが肝要です。筆者は随時職員室の窓から外を見ていましたが、この場合は方角が限られます。

このような場合に備えてアマチュア無線のみならず、デジタル簡易無線や特定小電力トランシーバーでも特定の周波数やチャンネルで有志がリアルタイムで情報交換できるようになれば大変有益であろうと実感しました。

本連載ではもっぱら自然災害に焦点を当ててきましたが、8月に中国天津で発生した大規模爆発事故は「危険物等災害」との見方ができ、これについても触れておきます。この種の災害については、関係者以外事故発生地点がどのような状況にあるのか、危険物が大量に集積されていたなど知る由もなく、一般市民にとっては最初の爆発を傍観しそれがために大なり小なり被災したのではないか、と考えられます。

ボランティアの立場で緊急時、非常時の通信を担おうとする方々にとっては、情報収集目的で爆発や火災発生現場に近づくことを考えるかも知れません。しかし、この種の災害では、発生現場に近づくこと自体が二次災害発生に遭遇するリスクが非常に大きい、と考え退避する必要があります。この天津の爆発事故でも報道されていない二次災害があったのではないかと想像します。

日本ではこれほどまでの爆発事故は発生しないであろうと考えますが、規模の大小はあれ、爆発事故のリスクを改めて考えれば楽観できないと思います。例えば南海トラフ巨大地震が発生すれば、ガソリンスタンドに車が突っ込み火災が発生する、など考えられないでしょうか。もちろんガソリンスタンドは厳しい設備基準等により「災害」と称されるようなレベルの事故には至らないかもしれません。しかし筆者はガソリンスタンドで煙や炎が見えたり、そうなっていると知れば、迷わず逃げるでしょう。安全な場所まで退避出来た後に、その事故発生の事実を警察・消防へ通報し、また地域の自主防災会や防災士会メンバーに一斉メールで通報するでしょう。(メールが生きていれば、の話になりますが)

拙宅マンションは幹線道路の交差点に一部面しています。筆者はマンション自治会や管理組合の方々に、「巨大地震発止時、交差点に差し掛かったタンクローリーが他車と衝突横転しマンションに突っ込んだら…」と時に脅しのよう話しをします。飛行機がマンションに墜落するのとどちらが確立高いのか?等の話は損保会社にまかせますが、飛行場周辺では小型機が離陸直後に墜落炎上する事故も発生しています。マンションに電車が突っ込んでくる、という交通災害も過去ありました。

読者のみなさまがそれぞれお住まいの、あるいはお仕事をする場所で、自然災害に限らず、まさかと思うけれど、「こんなことがあったらどうする?とお考え頂くこと」が重要です。
万一そうなればどうするか、シミュレーションとまで言いませんが考えておく、確かめておく事。これも無線機を取り出す前に我々がやっておくべき事でしょう。この9月がそのタイミングだと思います。

さて、この連載で以前「非常時の通信の心得」という記事(チェックリスト)を掲載しました。当時のアマチュアバンドの非常通信周波数も変更されたものがあるため、その部分を修正し改めて掲載します。ご活用頂ければ幸いです。
非常時の通信の心得ver.2.pdf

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