2016年8月号

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日本全国・移動運用記

JO2ASQ 清水祐樹

第11回 新市移動の楽しみ

アマチュア無線の楽しみ方の一つに「アワード」があります。簡単に言えば、多くの局と交信して、ある条件を満たすことで賞がもらえるものです。有名なアワードとして、交信した「市」の数をカウントする「JCC」や、現存する全ての市と交信する「WACA」があります。

「市」の数は、しばしば変動することがあります。町・村が人口増加や合併により市制施行する場合や、市町村合併により市が消滅する場合です。2016年10月10日には宮城県黒川郡富谷町が市制施行により富谷市になる予定です。新しくできた市(以下、新市とする)で移動運用すれば、その市との交信を狙っている多くの局から呼ばれることは必至です。今回は、移動運用する側から見た新市での運用について、その概要を紹介します。

市制施行の日の午前0時に、アマチュア無線では何が起こるのか

市制施行は施行日の午前0時から有効となります。そのため、午前0時の時報とともに、アマチュア無線では新しい市からのCQに対して多くの局が一斉に応答を始め、猛烈なパイルアップ(1局に対して多くの局が同時に呼び出すこと)が発生します。

また、午前0時に市制施行前の旧市町村は消滅となるため、市制施行の数日前からは、消滅する市町村との交信を狙ったパイルアップで賑わいます。

午前0時に国内との交信が可能な周波数帯は、V/UHF帯を除くと3.5MHz帯と1.9MHz帯に限られます。CWではどちらの周波数帯でも運用可能ですが、SSBやRTTYは3.5MHz帯だけが対象となります。深夜の7MHzは、基本的には近距離はスキップして聞こえませんが、コンディションが良い場合には国内遠距離は聞こえる可能性があります。

新市追いかけの常連局の中には、午前0時直後のパイルアップを避けて、明け方の空いている時間に交信を狙う局もいます。最近の状況では、午前0時からのパイルアップは午前1時半から2時頃まで続き、一旦は終息するようです。運用する側は、午前0時以前に消滅市町村で運用した後、午前0時から2時間のパイルアップをさばき、夜明け前に運用を再開、という過酷なスケジュールになります。明け方になると、7MHzで国内が聞こえるようになり、伝搬状況によって聞こえる地域が変化すると、パイルアップが1日中続きます。

通常の移動運用と、新市での移動運用の違い

新市での移動運用は、コンテストでの入賞などを目的として行われる移動運用と共通する部分も多いですが、新市ならではの独特な状況もあります。その状況を以下にまとめました。

1. 激しいパイルアップ
新市での移動局に対して多くの局が一斉に呼び出すため、国内移動運用では通常は起こり得ないような激しいパイルアップになります。スプリット運用(CQを出す側の送信周波数に対して、呼ぶ側は異なる周波数で応答する)を試みる移動局も見受けられるものの、国内向け運用ではスプリット運用に慣れていない局が多く、混乱することもあるようです。

2. 場所確保の難しさ
人口増加によって市制施行する町村では、急激な開発が進んだ住宅地が多いため、運用場所を見つけることが難しい場合もあります。アンテナを上げたり発電機を回したりしたら、住民から苦情が出て退去を命じられる可能性も考えなければなりません。公共施設や私有地で使用許可を得て移動運用したという話も聞きます。トイレや食料の確保も必要ですし、運用場所によってはHF帯でノイズが発生することもあるため、事前の確認や対策をしておくとよいでしょう。

新市移動では同じ市から何局も移動局が出てくるため、近くの局が同一周波数帯に出てくると、混変調を起こして受信に支障をきたす場合があります。新市移動では高性能のアンテナ、良好なロケーションで運用する局も多いため、互いに1km離れていても混変調を起こすことがあります。同一市内で他の局がどの場所で運用しているか、事前の情報収集が必須です。

3. 長時間運用に耐える機材が必要
新市の移動運用では、長時間の送信を伴う運用となるため、電源容量を十分に確保しておくほか、リグの発熱やアンテナの故障・破損にも対策が必要です。長時間の運用では、天候が荒れることも珍しくないため、状況によっては風雨や着雪、雷対策なども考えておく必要があります。もちろん、運用者の体調管理も重要です。

4. 多くの周波数帯・モードを要求される
HF帯で運用する場合、可能な限りの多くの周波数帯・モードで交信を狙っている局も多いため、パイルアップがある程度落ち着くと、QSYのリクエストが頻発します。あらゆる周波数帯ですぐに運用できるよう、アンテナの工夫が必要です。筆者の例を図1に示します。

アンテナの性能も重要です。特に50MHzはアンテナの性能とロケーションが交信距離に大きく影響するため、新市での移動運用では50MHzに最もウェイトを置いてアンテナを設置しています。

5. SASEによるQSLカードの請求が多い
新市での移動運用から帰宅すると、SASEによるQSLカードの請求が多数来ることが通例です。海外からの請求も珍しくありません。


図1 新市移動のアンテナの様子。 50MHzは5エレ八木アンテナ、HF帯はロングワイヤーアンテナやホイップアンテナを併用して、多くの周波数帯に即座にQSYできるように工夫している。

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