2016年9月号

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連載記事

日本全国・移動運用記

JO2ASQ 清水祐樹

第12回 岩手県滝沢市・新市移動

前回、新しい市ができる時=アマチュア無線で“新しいJCCが増える時”の様子を紹介しました。今回は、最近の市制施行であった2014年1月1日の岩手県滝沢市について、その移動運用記の詳細をご紹介します。

事前の準備と運用場所の確保

出発前にGoogleマップなどで運用場所の候補を数か所決めておきました。町の北西部を占める岩手山は雪に閉ざされており冬季閉鎖中。平地部分には住宅地が点在しており、民家から離れた場所はなかなか見当たりません。町役場周辺の公園は年末年始の休業中で使用に制約があり、駐車場で運用可能な場所には先客がいそうです。他局から離れるために隣接する町との境界付近を狙って巡回してみても、住宅地が多く運用場所の確保は困難でした。そこで、民家から離れている、町の南端の河川敷を第一候補地として決めました。

行ってみると、河川敷の運動場は雪捨て場となっており、駐車できる空きスペースがありました。民家から見えることも無く、他局とのカブリに注意すればこの場所で運用できそうです。自局の運用場所は確定したので、他の移動局がどこで運用するか、探索に出かけました。

同じ町内から24MHzで運用中の局を発見しました。モービルアンテナでワッチしながら接近すると、建物の影になる場所で信号強度が弱くなりました。7MHzではこのようなことはあまり感じられず、波長が短くなるほど電波の直進性が強くなることを体験できました。そして運用局を発見、自分の運用場所から4kmほど離れており互いに影響しないことを確認し、食料などを確保して運用予定地に戻りました。

アンテナの設置

前日の日没前、明るいうちにアンテナの設置を開始しました。ダイポールアンテナは、一般にはアンテナと直交する方向に電波が強く放射されると言われています。しかし、波長に対してアンテナの地上高が極端に低い場合、シミュレーション上ではアンテナの先端方向に電波が強く放射されることがあります。この性質を利用して、夜の1.9/3.5MHzはダイポールアンテナの先端方向が本州全体をカバーする北北東-南南西に向けて設置できればベストと考えました。しかし、場所の都合で西-東向きになってしまい、1.9MHzの6エリアとの交信が難しいと予想しました。7~28MHzではアンテナと直交する方向が1エリアになったため、考えていた理想に近い方向でアンテナを設置できました。

HFのダイポールアンテナは、柵や立ち木を利用して簡単に設置できました。ワイヤーアンテナを長時間設置するコツとしては、使用周波数よりやや高めに共振周波数を合わせることです。長時間の設置によるアンテナの垂れ下がりや、降雨・降雪などの影響で、共振周波数は次第に下がるためです。


写真1 ダイポールアンテナを設置した様子

滝沢村での最後の運用と、滝沢市誕生の瞬間

一通りのアンテナを設置し、まだ薄明るいうちに7MHz CWで滝沢村最後の運用を開始しました。7MHzは日没後に国内がスキップして(電離層反射による跳躍距離が長くなって)聞こえなくなるため、多くの局にとって7MHzで滝沢村と交信する最後のチャンスです。多くの局から呼ばれ、たちまちパイルとなりました。日没となって国内が聞こえなくなるとともに適宜休憩を取り、体力を温存して夜中の大イベントに備えました。

22時過ぎから1.9/3.5MHzで滝沢村のラスト運用を始めました。1エリアや2エリアの新市では、前日の夜にV/UHFのリクエストも多く、QSYした先で新たにパイルアップが発生することもありました。しかし岩手県ではV/UHFのリクエストは特にありませんでした。0時の開始は3.5MHzと決めているので、その30分ほど前から周波数を確保しました。23時30分を過ぎると、既に交信した局が伝搬状況の確認のため、もう一度呼んでくる場合も見受けられました。23時50分を過ぎると、電波の上では少し静かになりました。実際には多くの局が私の電波を聞きながら0時の時報を待っていることでしょう。

0時の時報とともに滝沢市が誕生し、猛烈なパイルアップが発生しました。フィルターの設定を変えるなど様々な技を駆使して、パイルアップの中から1局ずつのコールサインを聞き分け、粛々と交信を続けました。午前2時頃になるとパイルアップが終息し、休憩にしました。外は厳しい冷え込みで、寒冷地での生活に慣れていない私は、すぐに寝られる状態ではありませんでした。

夜明けとともに

午前4時頃から1.9MHzと3.5MHzの運用を再開しました。この時にはあまり呼んでくる局はいませんでした。東日本は日の出の時刻が早く、少しでも明るくなってくると、まず1.9MHzの信号が急激に弱くなります。そして日の出の時刻が近づくと、7MHzでは8エリアがかすかに聞こえて、続いて6エリアから順に近距離が聞こえるようになります。3エリアが聞こえるようになると呼んでくる局が一気に増えて、2エリア、1エリアまで聞こえると猛烈なパイルアップになります。電波の伝搬の変化がよく分かり、面白さを感じる一時です。日の出の後の10MHzも同じ状況になりました。

日中は7~50MHzの各バンドを巡回し、他局と互いにかぶらないように周波数を譲り合いながら、多くの局に交信の順番が回ってくるように配慮しました。午前中はハイバンドのコンディションが悪く、28MHzは交信できず、12時台に28MHzで何局かと交信できるコンディションになったため、その時間帯にハイバンドを集中して運用しました。食事とトイレのわずかな休憩時間以外は、ひたすら連続運用です。7MHz CWでは2時間近く呼ばれ続け、10分間に24局と交信できることもありました。

この日は明け方から断続的に雪が降り、夕方から大粒の雪が早いペースで積もるようになってきました。夕暮れとともに再び3.5MHz、続いて1.9MHzの運用を再開しました。この時は午前0時のような猛烈なパイルアップは少なくなりました。しかし3.5MHzは局地的に強力に聞こえる場合があり、そこで一時的なパイルアップが発生しました。お正月で皆さんお忙しいこともあって、1日目の夜からパイルアップに参加する方もいらっしゃる様子でした。

撤収

夕方から降り続いた雪で、辺りは一面の雪景色になりました。30cm近く積もった新雪の上で車を運転できるのか、かなり不安になったため、延べ1,418局と交信した20時過ぎに撤収を開始しました。

アンテナはびっしりと着雪していました(写真2)。差し込み式のアンテナのエレメントの先端を外そうとすると、凍結して抜けなくなっていました。伸縮ポールを縮めようとしても、中に入った水が凍結して縮めることができません。ロープには“つらら”ができたまま凍結しており、バキバキと折り曲げる様子は、トゲのある植物を扱っているかのようでした。

車内に入るエレメントはエアコンの温風で、車内に入らない伸縮ポールはガストーチで加熱して氷を溶かすことで、ようやく収納できました。寒冷地で全バンドのアンテナを本格的に設置して、凍結を初めて経験しました。滝沢市では猛烈なパイルアップとともに、撤収時の苦労が大変印象に残っています。


写真2 撤収時に着雪・凍結していたアンテナ群

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