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Masacoの「むせんのせかい」 ~アイボールの旅~

第32回 国立研究開発法人情報通信研究機構「電波研クラブ」(JR1YPU)の皆さん

Masacoの「むせんのせかい」 ~アイボールの旅~

Masaco'sチョイスで展示を紹介♪

滝澤さんやスタッフの皆さんのご案内で、さまざまな展示を見たり、体験をさせていただきました♪ その中のいくつかMasaco'sチョイスでご紹介♪

●Pi-SAR2
「航空機搭載型合成開口レーダ」というもので、航空機にレーダを取り付けて高い飛行高度から地上に電波を発射し、その反射波で地上の様子を航空写真のように観測できるシステムです。


航空機に取り付けるPi-SAR初号機のアンテナポッド

電波を利用しているため天候に左右されず、夜間でも観測でき、高度8,000~12,000mからでも高い解像度(30cm)で、鮮明な映像を取得できるそうです! 2011(平成23)年の東日本大震災の発生時は翌日の早朝にレーダを取り付けた航空機が飛び立って各地の津波の被害状況などを観測し、その日の午後にはデータの公開を行ったそうです。


Pi-SAR2で観測・記録した地上の模様。ピンクの部分は電波の反射率が高いコンクリートの建物が多く、緑の部分は森や木造住宅など

●DAEDALUS(ダイダロス)
企業や公的機関などの、組織内ネットワークがマルウェアなどに感染した場合、迅速に検知して警告する「対サイバー攻撃アラートシステム」です! インターネット上で使用されていないものの到達可能なIPアドレス(ダークネット)に到達するパケットを観測して、不正な活動の傾向を把握し、マルウェアに感染して組織内から送信される異常な通信を検知したときは迅速に警告を出すそうです。


DAEDALUSの近未来的な画面デザイン。2013年に「グッドデザイン賞」を受賞しました!

●VoiceTra
個人の旅行者向けの「多言語音声翻訳アプリ」です! このアプリをインストールしたスマートフォンを使えば、話しかけたことをすぐに翻訳し、相手に伝えてくれます。翻訳できる言語は31言語(音声入力は17言語)で、誰でも簡単に操作できるのに、翻訳の精度がとても高いんです!!


多言語音声翻訳アプリ「VoiceTra」はとっても便利! 海外旅行に行きたくなりました

翻訳結果をもう一度自分の言語に翻訳しなおした「逆翻訳結果」が表示されるので、「入力した文」と見比べると、意図が正しく伝わっているかも確認できます。しかもこのアプリ! なんと無料!!! 私も思わずスマートフォンにインストールしちゃいました。皆さんにもオススメ!!(笑)

●アロマシューター
映像に「香り」を付与できる、コンパクトな「香り噴射装置」ですって♪ 同時に最大6種類の香りを、映像コンテンツに合わせて楽しむことができるというもので、私もデモンストレーションのビデオを見せていただきました。


映像のシーンに合わせて香りが漂ってきます。テレビの料理番組で採用してほしいです!

凄いですよ~! 映像に出てくる女性がバナナを食べるとバナナの香りが、オレンジを食べたらオレンジの香りが瞬時に漂ってきます。しかも香りはサッと消えるのです。化粧品や食品のサンプル展示や香りの出るテレビや映画などへの使用が想定され、NICT発のベンチャー会社がこの技術を製品化したそうです。

「電離層定常観測室」を見学!!

「次は、アマチュア無線家の皆さんに関心が高いものを見ていただきましょう」ということで、本館と道路を隔てた向かい側(住所は小平市になるそうです)にある、電磁波研究所宇宙環境研究室の「電離層観測棟」にお邪魔しました。


電離層定常観測室は電磁波研究所 宇宙環境研究室の横山さんに案内していただきました

見せていただいたのは「電離層定常観測室」という部屋。ここではお空の真上に向けて1MHzから30MHzのパルス電波を発射し、電離圏(地上約60kmから1000km以上)から反射してくる信号を観測する「電離層観測機」という装置が置かれていました。どの高さからどの周波数が返ってくるかを観測することで、電子密度をはじめとする現在の電離層の様子を知ることができるそうです。1回の観測には約15秒かかります。


電離層定常観測室に設置された電離層観測機。左側の2基のラックがメインとバックアップ用に使用している送受信機。右側の2基のラックは比較用に使っている1世代前の送受信機です


パソコンに表示された観測結果。少しきれいに後処理したものをインターネットで公開しているそうです。
横軸は周波数、縦軸は地上からの高さで、左下にうっすらと見えるのが電離層で反射してきた信号。
地上100km付近のE層から3MHz付近の電波が返ってきているのがわかります


電離層観測機の無線局免許状。1MHzから30MHzをスイープしているので、ちょっと変わった指定事項になっています

無線局免許状を見せていただいたら「100KP0N 1000kHzから30MHzまで 10kW」「200KM0N 1000kHzから30MHzまで 10kW」などが免許されていました。周波数を20kHz間隔で移動(スイープ)させながら電波を発射するので、このような周波数表示になっているそうです!

電離層の定常観測は、ここNICTの本部(国分寺局)をはじめ、北海道天塩郡豊富町(稚内局)、鹿児島県指宿市(山川局)、沖縄県国頭郡恩納村(沖縄局)の4か所で15分おきに行い、観測結果はホームページで発表されています。アマチュア無線家の皆さんはそれを見て、コンディションを判断したり、Eスポの発生を知ったりするそうです。


インターネットでは4つの観測地点の観測結果を15分間隔で発表。アマチュア無線家の皆さんはコンディション把握に利用しています

そういえば、50MHz帯ファンの方がTwitterで「沖縄が真っ赤だ!」とつぶやいているのを見たことがあります。きっとNICTの観測結果を見てEスポの発生を知ったのですね♪

このほか電磁波研究所では、GPS衛星から発射される2つの信号の微細な変化を使った電離層の全電子数観測も行っています。

「電離層観測棟」の近くには、真上に向けて電波を発射するための大きな送信アンテナ(デルタ型アンテナ)がありました。そして敷地内の森の中には、電離圏から反射してきた信号をキャッチするための受信用アンテナ(アレイアンテナ)もたくさん並んで設置されていました。


左は太陽風観測衛星用のパラボラアンテナ。右奥の鉄塔とワイヤが電離層観測用の送信アンテナです


広い敷地の中に、電離層で反射した電波を受信するためのアレイアンテナが点在していました。アレイアンテナを並べることで電波の到来方向がわかるメリットがあるそうです

アマチュア無線クラブの活動

続いては会議室へ! アマチュア無線クラブの皆さんが集まってくださいました。


会議室に「電波研クラブ」の皆さんが集まってくださいました

「実は、NICTには2つのアマチュア無線のクラブ局があるのです」と滝澤さん。1つは“NICT職員のための職域局”という位置づけの「情報通信研究機構アマチュア無線クラブ」(JO1ZRX)で2000(平成12)年に開局したそうです。


NICT本部の建物屋上の常設HFアンテナ。建設には交流のある他のアマチュア無線クラブの皆さんが協力してくださったそうです

もう1つはJR1YPUというコールサインの「電波研クラブ」。これは「郵政省電波研究所」時代の1974(昭和49)年頃に、鹿島支所の職員によるアマチュア無線クラブとして発足したそうで、2014(平成26)年にNICT本部を常置場所とする記念局の基礎免許とするために再開局しました。

これまでに2014年3月~9月の「8J10NICT」(情報通信研究機構(NICT)創立10周年/鹿島
支所開設50周年/関西支所開設25周年記念局)、2014年12月~2015年11月の「8N100ICT」(平磯無線100周年/標準電波JJY75周年/NICT国立研究開発法人化記念局)、2015年12月~2016年11月の「8N120ICT」(無線通信120周年記念局)、2016年12月~2017年11月の「8N125ETL」(電気試験所125周年記念局)、そして2018年4月から2019年6月までの予定で運用中の「8N1ECL」(電気通信研究所70周年記念局)という5つの記念局が、JR1YPUのコールサイン一時変更で開設されてきました。

滝澤さんは「短期集中で運用する特別コールサインの記念局は、アマチュア無線家はもちろん、一般の人からも注目されるので、アマチュア無線活性化の起爆剤になると考えています。また記念局の運用は、さまざまな団体とのコラボレーションのきっかけにもなります」として、記念局を電波研クラブの活動の中心にしていらっしゃいます。

電波研クラブが記念局を活動の中心にしたのは、「2011年にアンリツ株式会社のクラブ局(JE1YEM)が“実用無線電話(TYK式無線電話機)発明100周年記念局”の8J100TYKを開局した際に、連携のお誘いを受けたことがきっかけ」だったそうです( http://www.fbnews.jp/201805/musennosekai/ )。TYK式無線電話機は、NICTの前身である逓信省電気試験所が開発し、現在のアンリツが製造したというご縁がありました。8J100TYK以降は、電波研クラブが主導して、ICTの歴史にまつわる記念局を相次いで立ち上げていらっしゃいます。

でも、記念局の開設はいろいろな条件があるので、大変では? と伺ったところ、「NICTの歴史はそのまま我が国のICTの歴史でもあることから、我々の記念局は、免許の条件である『相当の公共性を有していること』(電波法関係審査基準)が認められやすい面はあります。ただし特別なコールサインを発給してもらう以上、仲間内だけに閉じるのではなく、開かれた活動にして、記念行事だけでなく、アマチュア無線自体の活性化や若い世代の育成にも寄与するという公共的な使命を果たす責任を伴うと考えています」と教えてくださいました。

そのため電波研クラブは、NICT職員だけでなく“電波を研究するアマチュアすべて”に門戸を広げており、ICT企業や親交のある大学のメンバーなどが一緒に活動しているところに特徴があります。例えばNICT本部の隣にある東京学芸大学のアマチュア無線クラブが教育学部改称50周年記念局の「8J1TGU」を開設するときは、電波研クラブが全面サポート! 記念局の運用終了後、1960年代に免許を受けていたコールサイン(JA1YEV)を復活し、常設の社団局を開設するときもサポートしました。

また神奈川県横須賀市にある通信技術の開発拠点、「横須賀リサーチパーク(YRP)」の開設20周年と横須賀市の市制110周年を記念した「8J110YRP」を開設するときや、電子情報通信学会創立100周年JARL特別局「8J100EIC」を開設するときも電波研クラブが支援を行ったそうです( http://www.fbnews.jp/201801/musennosekai/ )。


記念局の積極的な開設と移動運用、他のアマチュア無線クラブとのコラボレーション、さまざまな企画の実現など、電波研クラブはアクティブに活動しています♪

こうして2014年から現在までに開設した記念局は、それぞれ移動運用やコンテストへの参加、別の記念局との合同運用、各地の青少年向け科学イベントへの出展、高校の無線クラブと絡めた活動など、次から次へとアイデアを出し、80以上の企画を実現してきたそうです。ICTの歴史という過去の振り返りと、若い世代の育成という未来志向とが、見事に共存しているのが、電波研クラブなのです。

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次号は 12月 1日(木) に公開予定

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