2014年6月号

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連載記事

移動運用のオペレーションテクニック

JO2ASQ 清水祐樹

第3回 受信能力を高めるテクニック

移動運用では、弱い信号を確実に受信することが必要になります。遠方の局との交信を狙ったり、伝搬の関係で相手局の信号が弱くなったり、自局との交信を希望する信号の弱い局から懸命にコールされたりする場面が考えられます。

また、移動運用では、同時に多くの局から呼ばれるパイルアップになることも珍しくありません。多くの信号が重なり合った中から、1局ずつ確実にピックアップすることで、短時間に多くの局と交信することが可能です。この能力を向上するには、経験によって自分の耳を鍛えることが重要です。しかし、受信機の設定を変えて、その場ですぐにできる対策が有効な場合があります。

今回では、弱い信号の受信感度を高めるテクニックと、多くの信号が重なり合った中から信号の識別能力を向上させるテクニックをまとめて「受信能力を高めるテクニック」としてご紹介します。

1.受信感度を高めるテクニック

受信感度を高めるには、受信機やアンテナの利得を上げて信号強度を高める方法と、何らかの方法でノイズを阻止して信号対雑音比を高める方法の2通りが考えられます。

信号強度を高める方法
(1) 共振するアンテナを使う
目的の周波数に共振したアンテナを使えば、目的の信号が強くなり、かつ、ノイズを弱めることができます。前回(http://fbnews.jp/201405/rensai/jo2asq_idouunyou_ot_02_01.html)などで紹介した通りです。

(2) アースを接続する
アースを必要とするアンテナの場合、アースを強化することによりアンテナの性能を向上させて、信号対雑音比の向上がみられることがあります。特に7MHz以下で効果的です。

筆者は2mの電線の両端に大型のワニグチクリップを取り付けたものを、金網フェンスや側溝の金属製のフタに接続してアースを取っています(図1)。


図1 金網フェンスにアースを接続した例

信号対雑音比を高める方法
(1) ノイズ発生源を避けるように運用場所を選択
一般に、HFの運用は水辺が良いと言われています。しかし、用水路、ため池は注意が必要です。近くで排水用ポンプが作動しており、強力なノイズ発生源となる可能性があります。周辺に建物が無かったり、駐車場になっていたりする場合にも、地下に導水されていることがあります。

運用場所を決定する場合、まずはモービルアンテナなど簡便なアンテナで、運用場所の近くにノイズ発生源が無いかを確認してから、アンテナ等を設置するとよいでしょう。

(2) 受信機のノイズリダクション、ノイズブランカーを使用
DSP内蔵の受信機にはノイズリダクション(NR)、ノイズブランカー(NB)などの機能があり、ノイズの低減に非常に有効です。

ノイズリダクションは、ホワイトノイズ(無信号時に発生するサーというノイズ)の低減に高い効果を発揮します。使用のコツは、レベル調整をノイズが消えるギリギリの点に合わせることです。レベルが強すぎると受信音がひずみます。

ノイズブランカーは、パルス性のノイズ、例えばモーターを使用した機器などから発生するバリバリといったノイズに効果を発揮します。これは常時ONにしておいても実用上は差し支えありません。ただし、パルス性では無いノイズ、例えば電離層に由来するノイズは、ノイズブランカーでは消せません。

(3) イヤホンの使用
音声出力をスピーカーではなくイヤホンにすることで、外部の騒音の影響を防ぎ、弱い信号を受信しやすくなります。無線用のイヤホンは、高い周波数の音(3kHz以上)は必要ないため、周波数と出力の関係がフラットではない「音質の悪いイヤホン」の方が疲れにくく好都合です。オーディオ用のイヤホンは無線には適していません。私は100円ショップで市販されている数種類のイヤホンを選別し、音質が無線用に適したものを使っています(図1)。

イヤホンは常に予備を用意しています。これは、筆者の不注意で、イヤホンを耳に装着したまま車を降りようとしてイヤホンが引っ張られ、断線することがあるためです。また、受信能力とは関係ありませんが、コードが黒色のイヤホンは紛失しやすいので、目立つ色のイヤホンにするか、明るい色の目印を付けています。


図2 無線用に適した100円ショップのイヤホン

(4) アッテネーター、RFゲインの調整
アッテネーター(ATT)は、一般的には目的の信号を減衰させるために用いられます。しかし、信号とノイズのどちらも強い場合、アッテネーターをONにすると、ノイズだけが大きく減衰して信号対雑音比が向上します。アッテネーターとプリアンプが独立して設定できる無線機では、不要な時にはプリアンプをOFFにすることで、ノイズを低減できます。

同様の目的に使用できる機能として、RFゲインがあります。ツマミを反時計回りに回していくとSメーターの振れが大きくなり、それより弱い信号の感度が低下します。SSB/CWモードで、スケルチとRFゲインのどちらかを手動選択できる無線機の場合、RFゲインの使用は役立ちますので、調整の方法をマスターするとよいでしょう。

(5) バランの使用
給電線にフロートバラン(ソータバランとも呼ばれる)を挿入することにより、受信の信号対雑音比を改善することができます。フロートバランの最も簡単なものは、同軸ケーブルをそのままトロイダルコア、またはパッチンコアと呼ばれる部品(ノイズ対策部品として市販されている)に通す方法です。

モービルアンテナの引き込み線に細い同軸ケーブルを使っている場合、その部分にトロイダルコア等を挿入してフロートバランの動作をさせることで、バランの効果があります。


図3 モービルアンテナの引き込み線をバランとして使用する例。
引き込み用の細い同軸ケーブルをトロイダルコアに巻いてある。

(6) 受信に特化したアンテナの使用
雑音を拾いにくいといわれるループアンテナや、ミニホイップと呼ばれる受信専用のアンテナを使って、受信感度を高める方法もあります。

バランやマッチングの方式によっては、目的の周波数以外ではループアンテナに類似した動作をすることがあります(インピーダンスマッチングができない状態であり、送信は不可)。複数の種類のアンテナを設置している際に、例えば1.9MHzや3.5MHzの受信がノイズにかき消される場合、受信する瞬間だけハイバンドのアンテナに切り替えると、ノイズが弱くなって受信状況を改善できる場合があります。ただし、同軸切替器でアンテナを瞬時に切り替えることが必要です。

2.信号の識別能力を向上するテクニック

CQを出したら、一度に多くの局から呼ばれるパイルアップになり、コールサインが1局も識別できなかった経験はありませんか。そのような場合、無線機の設定により受信状態を改善できる場合があります。

(1) 音量を下げる
パイルアップで聞き取りが難しい場合、第一に考えることは「音量を下げる」です。音量が大きすぎると、一つの信号に集中しにくくなります。音量を絞って、強く浮いてきた信号だけを集中して聞き取ることが重要です。前述したアッテネーターやRFゲインも最大限に活用しましょう。

(2) フィルタの帯域の設定
多くの信号が重なって識別しにくい場合、受信フィルタの帯域を狭くすることが考えられます。しかし、周波数をずらして呼んでくる局が取れない、音質が悪化する、などの問題もあります。そこで、フィルタの帯域を広くしてみると、音質が良くなって複数の信号を識別しやすくなる場合があります。フィルタで絞るという先入観にとらわれず、フィルタの帯域を広くする方法も、ぜひお試しください。

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