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今更聞けない無線と回路設計の話

【テーマ2】デシベルと無線工学
第16話 レベルダイヤグラムの構成

濱田 倫一

2026年2月2日掲載

話が多岐にわたってしまいましたが、第8話から第15話にかけて、通信信号の4大劣化要因とその特性や改善方法について解説しました。通信信号の4大劣化要因とは、

 ①熱雑音、干渉雑音: 雑音電力として足し算される劣化
 ②位相雑音: SNR(またはCIR)としてかけ算される劣化
 ③線形歪み: マルチパス伝搬、フィルタや伝送線路の多重反射で発生する波形歪み
 ④非線形歪み: 増幅デバイスの非線形性に起因する波形歪み

でした。通信の為の信号(伝送信号)が変調器を通って無線信号に変換されて送信アンテナから電波となって空間に放射され、受信アンテナを介して受信器に到達し復調器を通って元の伝送信号に変換されるまでの各プロセスにおいて、これらの劣化が様々な形で送信信号のSNRを小さくしてゆきます。伝送信号のSNRが小さくなってゆくことを伝送信号の劣化と呼びました。この伝送信号の劣化の度合いを見積もって所望の伝送品質を確保したり、送受信機に要求される性能を満足するために必要な各構成回路の性能を見積もるためのツールがレベルダイヤグラムです。第16話からはレベルダイヤグラムの作成方法について解説します。

1. レベルダイヤグラムとは何か

図1は第8話の図7「デジタルPSK方式の劣化要因」の再掲です。第8話では、このような図を用いてアナログAM、アナログFM、デジタルPSKの各通信(変調)方式において、どこでどのような劣化が発生するかについて解説しました。第16話以降では、これらの中からデジタルPSK方式(QPSK)を題材にとってレベルダイヤグラムの解説を進める事にします。


図1 デジタルPSK(QPSK)方式の劣化要因

(第8話の図7を再掲)

レベルダイヤグラムとは、縦軸を振幅の大きさとし、横軸方向に信号経路を構成する各回路ブロックの出力レベルを経路順に並べた折れ線グラフ(散布図ではない)です。世間一般には名前の通り、信号レベルの推移がプロットされていれば「レベルダイヤグラム」なのですが、通信機器設計の現場においては、SNRの変化を追う目的で作成するので、信号レベルと等価雑音レベルがプロットされることが最低条件です。様式や体裁は、設計者(もしくはメーカ)によって様々なので、私がご紹介する書き方が全てではありませんが、通信事業者や無線通信機の設計現場では多かれ少なかれこのようなチャートを作成して“所望の品質で通信が成立するか”“送受信機が所望の性能を満足できるか”の検討を行います。

2. レベルダイヤグラムを作成するための前準備

普段はやらないことですが、レベルダイヤグラムの細かい話をするまえに、今後の説明のモデルとして、図1のAさんの送話からBさんの受話までの通信経路について、一気通貫でレベルダイヤグラムを作成してみることにします。一つの通信経路において、伝送信号はその姿・形を変えてゆくので、どうしても信号形態ごとに分断された設計をしがちなのですが、実際には伝送信号の劣化の観点で一つに繋がっているということを直感的に理解していただく事が目的です。

まずレベルダイヤグラムを作成するための準備を行います。図1に記載したブロック図は信号劣化の主要因を説明する目的で作成した為、各所にちりばめられているはずの増幅器が省略されています。レベルダイヤグラムは、その名の通り信号レベルの変遷を示すチャートなので、レベルを決定づける増幅器が省略された状態では横軸が完成しません。そこで図1のブロック図に増幅器を挿入した図2をレベルダイヤグラムのモデル系統図とします。


図2 モデル系統図

モデル系統図において、Aさんの音声は、左端のMIC(マイクロホン)で電気信号となり、これを増幅して12bit ADC(A/Dコンバータ)でデジタル信号(信号振幅を数値化したデジタルデータ列)に変換し、CODEC(encoder)で音声符号(信号振幅の変化を解析し、定められたルールに従って変換された、一定時間間隔の音声振幅を表現するデジタル符号列)に変換、これを②変調部のQPSK波形生成ブロックでQPSKのシンボル配列に変換、これに基づいて帯域制限されたベースバンド8bit I-Q信号波形データを生成し、DAC(D/Aコンバータ)でアナログ信号に変換します(図2ではナイキストフィルタの記載を省略しました)。このI-Q信号をI-Q MOD(直交変調器)でIF搬送波と乗算し、その後U/C(アップコンバータ: 周波数変換回路)でRF信号(送信チャネルの無線周波数)に変換、後段の増幅器と電力増幅器で所望のレベルまで増幅して送信アンテナに給電します。I-Q MODとU/Cの間にも増幅器が必要そうなところですが、レベルが十分にあると仮定して省略しました。送信機の出力から受信機の入力までの区間は第2話の図1のシチュエーションと同じにしました(図3)。すなわち送信アンテナは地上高30mのモノポールアンテナ、受信側は携帯機で地上高1.5mのモノポールアンテナ、通信距離は都会で5km程度として、奥村・秦モデルの大都市条件で計算した伝搬損失を適用します。空間に輻射された電磁波は減衰しながら(広がりながら)伝搬し、受信アンテナで検出されます。検出された信号は受信機フロントの送受切替えSWとバンドパスフィルタを介してLNA(低雑音増幅器)で増幅されたのち、D/C(ダウンコンバータ: 周波数変換回路)でIF信号に変換されます。変換されたIF信号は後段のIF増幅器で増幅後、復調回路のI-Q DEM(直交検波器)でベースバンド信号に変換され、12bit ADC(A/Dコンバータ)でデジタル波形データに変換されます。デジタル波形データはQPSK復調器で音声符号に復調の後、CODEC(decoder)で12bitの音声波形データに復号、DAC(D/Aコンバータ)でアナログ信号に変換・増幅され、600Ω:8Ωの出力トランス(図2では省略しています)を介してスピーカを駆動、音声としてBさんに届きます。


図3 通信路のシチュエーション

次にこの系統図で想定している各ブロックの設計要件を表1に整理しておきます。これらの諸元は今後レベルダイヤグラムを作成しながら必要に応じて修正していきます。


表1 各ブロックの設計要件

3. レベル(LEVEL)にまつわる厄介な問題

普段の仕事やこの連載の中でも、何気なく信号の強度を示す一般表現として「レベル」という言葉を使用していますが、そもそも「レベル」とはどういう単位のどういう次元(電圧 or 電力 or 電力量・・・)の値なのでしょうか。改めて辞書を引くと“LEVEL”という単語には「水平」「水平面」という意味と(地位,価値などの)高さ,段階という意味を併せ持っています。従って、ここでいう「高さ」とは水面の波や地面の細かい起伏の事ではなく、実効的な高さを表す言葉と理解できます。通信に用いる信号は振幅に情報が載せられるので、その大きさは常に変化する※1のですが、実効的な意味合いとして、その信号が何処まで届くかという観点で捉えた場合に注目されるのはその信号が持っているエネルギー、すなわち平均電力になります。どこかに明確な定義が存在するわけではありませんが、レベルダイヤグラムの議論をするときの「レベル(LEVEL)」の定義は「平均電力」というのが暗黙の了解です。

しかし、レベル=平均電力として通信経路のレベルダイヤグラムを作成しようとすると、最初に嵌まるのが「信号の形態」問題です。図4は図2の各伝送区間における信号の形態と、その区間で信号の大きさを表現する場合に、最も一般的な表現方法(最も直接的で意味のある表現方法)を追記したものです。


図4 通信経路を構成する各ブロックでの信号の形態

同軸ケーブルや光ケーブルによる信号伝送や電磁波による信号伝搬の領域で取り扱う「信号の大きさ」は「電力」で表記するのが一般的です。これは伝送路のインピーダンスが統一されており、電力の大きさが信号の振幅の大きさに直接対応する事、そして2章で解説した「レベル」の定義やSNRの定義にも合致するからです(区間④)。そして計測器の都合等で、信号規定点のインピーダンスが50Ω、600Ωに統一されている高周波回路やオーディオ回路もこれに準じた取り扱いが可能です(区間①、②’、③、⑤、⑥、⑧)。

これに対して回路設計者が取り扱う「信号の大きさ」は回路の出入り口こそ電力ですが、回路の内部では「電圧」や「デジタル振幅」などの「振幅情報」であることが一般的です。これはトランジスタやFETなどの電子デバイスの増幅度や歪みなど、殆どの特性諸元が電圧(または電流)の関数になっていて、信号の大きさは電圧の大きさで表現するのが最も直接的である上、回路の入出力でインピーダンスが異なり、かつ厳密に管理できない事が多いので、信号電力の大きさが信号振幅の大きさと必ずしも一致しない為です。A/D変換・D/A変換においても、アナログ電圧とデジタル値が直接対応するかたちで変換されるので、デジタル化された伝送信号も直接読み取れる値は“振幅”(電圧に相当する値)であって、“仕事”(電力に相当する値)にはなりません(区間①’、②、⑦、⑧’)。

SNRの劣化を見積もる観点では、AさんからBさんまで、一気通貫で信号レベルと等価雑音レベルの推移を俯瞰したいところなのですが、このように「縦軸は振幅か電力か」という問題に阻まれて、レベルダイヤグラムが完成できないという設計事例が散見されます。単に一枚のダイヤグラムとして完成できないという問題だけならさほど気にしないのですが、A/Dコンバータ、D/Aコンバータや変復調器を境にして基準信号レベルの管理が現物合わせになってしまい、気がついたらAさんからBさんへの通話とBさんからAさんへの通話で基準レベルが10dB以上もずれていた・・・ なんて笑うに笑えない事例も多々見かけます。

※1 周波数変調などの非線形変調を除く

次ページは「電圧と電力を同列のダイヤグラムにするための工夫」

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