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第二十九回 オペアンプを使った定電流回路について

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Dr. FB

月刊FB NEWS 9月公開号に「20A電子負荷装置の製作」の記事が掲載されています。回路にはオペアンプを使った定電流回路が組み込まれています。定電流回路は文字通り電圧が変化しても一定の電流を流す回路です。オームの法則によると電圧が変化すると当然回路に流れる電流は変化するのですが、この回路を組み込むと回路に流れる電流を一定にすることができます。定電流回路を構成する電子回路にはいろいろな方式がありますが、今回はオペアンプを使った定電流回路について簡単に説明します。

IDの制御

エンハンスメント型MOSFETのIDを制御する回路を図1に示します。この回路では電源電圧VCCを一定とし、R2でVGSの電圧を変化させてIDを制御します。ところがVCCは、何らかの原因で変動することがあります。VCCが変動するとIDも変動します。常にIDを監視し、電子的にIDを一定にしようとするのが定電流回路です。図1の回路ではNチャネルのMOSFETが使われています。エンハンスメントタイプのNチャネルMOSFETは、VGSが正の電圧となったときにVGSの電圧の大きさに伴って下のグラフにあるようにIDが変化する特性を持っています。


図1 VGS対IDの特性

オペアンプを使った定電流回路

20A電子負荷装置の回路図を図2に示します。赤色の網掛け部分がこの回路で定電流回路を構成している部分です。


図2 20A電子負荷装置の回路図 (クリックで拡大します)

オペアンプのイマジナルショートについて

オペアンプを使った定電流回路を理解するためには、オペアンプの基本的な動作の理解が欠かせません。オペアンプを「アンプ」と呼ぶぐらいですから、部品そのものは増幅器(Amplifier)です。オペアンプが持っているオープンゲインは非常に高く100dB(10の5乗)ぐらいあります。とはいえ、1Vの電圧を入力すると出力には100dBも増幅された何十万Vの電圧が出力されるというわけではありません。出力は、電源電圧以上は出ません。オペアンプは通常、図3のように負帰還をかけ、安定したゲインで使用します。


図3 オペアンプの負帰還の原理図

オペアンプは、入力端子として(+)端子と(-)端子を持っています。前者を非反転増幅端子といい、後者を反転増幅端子と呼んでいます。ここで大事なことは、オペアンプの出力の一部を入力端子に負帰還を掛けて戻すとオペアンプの(+)端子と(-)端子の電位差がゼロになる現象を生じるということです。同電位であるということは、仮想的に両端子がショートしている状態と考えることができます。あまり聞きなれない言葉ですが、このことをイマジナルショートと呼びます。別の言い方をするとオペアンプは、(+)端子と(-)端子の電圧が同電位となるようにIC内部が動作しているということになります。このイマジナルショートの動作がオペアンプを使った定電流回路の基本となっています。

シャント抵抗の電圧 = 基準電圧

オペアンプを使った定電流回路の原理図を図4に示します。


図4 オペアンプを使った定電流回路の原理図

MOSFETのゲートに正の電圧VGSが加わると。IDが流れます。IDが流れるとシャント抵抗(R1)の両端には(1)式で示した電圧を生じます。

VR1 = R1 x ID ----- (1)

R1で生じた電圧VR1をオペアンプの反転端子(-)に入力します。一方オペアンプの非反転入力端子(+)には基準となる電圧を入力します。この電圧をVREFとします。先に述べたようにオペアンプにはイマジナルショートの動作がありますので、反転入力端子(-)が非反転入力端子(+)の電圧(VREF)と同じ電圧になるようにオペアンプが動作します。そこでR1の両端の電圧(VR1)と基準となるVREFとの間には次の(2)式が成り立ちます。

VREF = R1 x ID ----- (2)

(1)式と(2)式より(3)式が成り立ちます。

VR1 = VREF ----- (3)

つまり、基準となる電圧に沿ってVR1が決まり、VR1が決まるということは、シャント抵抗R1が決まっているのであれば、IDは必然と決まってしまうことになります。

20A電子負荷装置に組み込まれた定電流回路の検証

(3)式の関係からVREFとR1が決まるとIDが決まると述べました。ここで図2の回路図から、定電流回路の部分だけを取り出したものが下の図5です。


図5 20A電子負荷装置の定電流回路

この電子負荷装置には最大で20Aが流れるとした仕様が設定されています。図5のソース・アース間に挿入されているシャント抵抗(R6)は、0.1Ωですが例えばこれを1ΩとするとR6の両端の電圧VR6は(1)式よりVR6 = 1 x 20 = 20(V)となります。(3)式のR1を実回路のR6に置き換えると、VR6 = VREFとなります。このことから基準となる電圧を20Vと設定し、その電圧とVR6の20Vとをオペアンプの(+)端子と(-)端子で比較することになりますが、これは回路の電源電圧より高くなり構成上適切ではありません。

そこでR6を0.1Ωとしてみます。するとVR6は、VR6 = 0.1 x 20 = 2(V)となり、これなら適度な電圧ですから、VREFを2Vとすることでオペアンプのイマジナルショートの動作を利用してVGSを制御できます。IDが低ければVGSを上昇させ、IDが高ければVGSを低下させるようにすれば、自動的にIDを制御できます。

仮にIDを1Aとしたいのであれば、R6の両端の電圧(VR6)からVREFを求めると、VREF = 0.1 x 1 = 0.1(V)となります。基準となる電圧が0.1Vですから精度が必要です。そこで基準となる電圧にはよくツェナ―ダイオードを用いられますが、図5の回路では三端子レギュレータを使って基準電圧をさらに安定させています。

余談ですが、R6の抵抗値が0.1Ω、そしてその抵抗に流れる電流が最大で20Aですから、その抵抗で消費する電力は、P = I2 x R = 40Wとなります。40Wといえばハンダごて並の熱量です。この熱量に耐えうる抵抗や放熱が必要になることは言うまでもありません。

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