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特集2

第二部 米国編
QST(アメリカ合衆国)
SSNが上昇している: そのニュース、ぬか喜びは禁物だ

月刊FB NEWS編集部抄訳


ジョン・スタンレー(John Stanley), K4ERO

アマチュア無線界は、サイクル25の始まりに沸いています。HFハイバンドの運用ではこれまで難しかった地域との交信ができるようになってきたし、ハムの間では20~10mバンドのコンディションの話しで盛り上がったりしています。太陽黒点数の増加により、HFハイバンドには多くの局が戻ってきていますが、黒点数の増加はHFローバンドにも影響を与えます。(これは必ずしも良い方向へ向かうとは限りません) 電離層の活動で通信に最も影響を与えるのは日中です。ここでは、中緯度の昼間の伝搬経路を中心に説明します。掲載した図は、Voice of America Coverage Analysis Program(VOACAP)の伝搬予測で作成したデータ(https://www.voacap.com/)を使い、米国中央部の2021年3月の状況を作成したものです。

電波伝搬の説明では、どの説明を読んでも3つの電離層について触れています。太陽活動の上昇に伴い、3つの層はすべて「厚く」なり、単位体積当たりの電子数が増加します。地上から一番高いところに位置するF層の余分な電子は、HFハイバンドの周波数を屈折で地球に曲げ戻し、長距離通信を可能にします。これは一見よい傾向に見えますが、他の2つの層を含む電離層全体を見ると別のことが見えてきます。

日中の電波伝搬

地上から一番近いところにある電離層はD層です。電波に対する影響はよくありません。D層が厚くなるとE層、F層へと抜ける電波の強度が弱められます。この層は、電子よりも中性原子が多く、電波が通過するとき電子は電波のEフィールド(電界)によって前後に動きます。電子は中性原子と衝突しエネルギーを失います。電子の数が多いほどロスの多い衝突が起こり、信号が弱くなります。D層は主に夜になると消滅しますが、これが原因でローバンドの信号が弱くなることはありません。遠くのAM放送や160m、80mバンドの電波が強く入ってくることで分かります。

黒点数(SSN)100の持つ意味は、D層は厚くなり、昼間の信号が弱められることを意味します。図1は、80mバンドにおいてSSNが高い場合と低い場合の200マイル(320km)の通信経路の総ロスをプロットしたものです。正午のロスは、SSNが10の場合より100の場合の方が30dB(1000倍)高くなっています。過去5年間において午前10時から午後2時の間に80mバンドを運用していた人は、SSNが上昇しているにもかかわらず通信経路のロスが上昇していることを知ればショックを受けると思います。昼間の信号強度が大きく低下したのはD層が原因していると考えることができ、それでネット通信が夕方まで続くこともあります。D層が厚くなると他のHFバンドでも信号が弱くなります。とりわけ160m、80m、60mバンドでその影響は顕著です。40mと30mバンドでも影響を受けることがあります。


図1 75mと80mバンドの経路ロスと時間帯の関係

E層が厚くなることによる影響

太陽活動が活発になり黒点が増加するとE層は厚くなります。このため、D層のロスに加え、別の問題が発生します。図2は、太陽活動が活発なときとそうでないときの40mバンドの通信距離に対するS/N比をプロットしたものです。300マイル(480km)から500マイル(800km)の距離では、SSNが10の場合(青線)は、SSNが100の場合(赤線)より約10dB強くなっていることが分かります。これは、D層で電波の吸収が発生しているのです。さらに、両曲線から通信距離が急に減少することが分かります。SSNが10の場合は約600マイル(960km)の地点で、SSNが100の場合は約460マイル(730km)の地点で発生しています。これは、通信カバーエリアのほぼ半分が失われたことを意味します。


図2 40mバンドの日中の距離と信号強度の関係

ソーラーサイクルのピーク時に脚光を浴びる6m
Jon Jones, NØJK

SSNが上昇するとF2電離層伝搬(F2スキップ)は、6mバンドでアクティブに運用されている人々を奮い立たせます。F2層スキップによる伝搬とは、地球の表面から約200マイル(330km)上にあるF2層で地上からの電波を屈折(反射)させる現象です。太陽から放射される紫外線はこの層を強くイオン化し、電波は1回の屈折で最大2000~3000マイル(3200~5000km)もの距離をホップしながら伝搬します。よい条件が重なると複数のホップが発生し、電波強度のロスが少なく12,000マイル(19,000km)もの距離を伝搬することがあります。これはアマチュア無線の最もエキサイティングな現象の1つです。

しかし、ソーラーサイクルのピーク時のVHFの伝搬にはデメリットもあります。たとえばD層、E層、F層の電離層吸収が発生したり、ファラデー回転(電離層を通過する信号の偏波回転)が増加したりします。太陽フレアは、電離層電波障害を引き起こすことがあります。電離層吸収は、ただでさえ微小な信号を扱うEME通信の信号をさらに減少させ、電波のファラデー回転は、完全に受信不能となる「ロックアウト」を引き起こす可能性があります。

もし今回のサイクル25が前回のサイクル24と同じようなレベルであるのなら、F2層や赤道を越えた伝搬(TEP: Transequatorial Propagation)など、興味深い伝搬が6mで発生するかも知れません。TEPは、赤道より南北15度付近にある高電離の「膨らみ」の屈折信号が関与しています。これにより、HFやVHFの電波が赤道を横切るような伝搬をするときもそれほどロスは発生しません。

6mバンドでF層伝搬が期待できるようになるには、まだ2、3年かかると思われます。その一方でこのところ珍しい伝搬が発生しています。赤道をまたぐようなEs(Sporadic-E/TEP)は、Es(Sporadic-E)ホップとTEPがお互いに影響し合い、これが時には何千kmもの通信を可能にしています。

F2層で6mバンドがMUF(Maximum Usable Frequency)となるような条件は、北半球の秋、冬、それに春先の数ヶ月に発生します。夏場はソーラーサイクルのピーク時でもF2層が6mバンドの伝搬に関与することはありません。これを冬の異常(Winter anomaly)と呼びます。グラフは、アメリカの東海岸から西海岸までの伝搬経路を、F2層のMUFを月別に表したものです。この異常は、電離層の季節循環によるもので、F層で窒素に対して電離酸素が増加したためと一般に考えられています。


F2層における冬の異常現象


通信距離が短い場合で、SSNが10のように低い場合は、図2の点線のようにF層に至る通信経路が発生しません。これは、F層に高角度で入射する電波をしっかり反射させるほどF層の電離が十分整っていないからです。このため、遠くの信号は聞こえても、近くの信号が聞こえないゾーンが発生します。これを不感地帯(スキップゾーン)と呼んでいます。SSNが100の場合、40mバンドでは昼間の不感地帯はなくなりますが、全体的に信号が弱くなり、最大到達距離も短くなります。つまり近くの電波はよく聞こえても、遠くの局は聞こえなくなります。

図2に示す通信距離において460マイル(730km)と600マイル(960km)の地点での信号の急激な落ち込みは、図3に示すE層が大きく影響しています。送信点(図のT点)から垂直に近い60度あるいは45度の角度で打ち上げた電波はD層とE層を通り抜け、F層で反射してA点あるいはB点に到達します。もし、E層が反射するほど厚くなければ、30度の角度で打ち上げた電波はE層を通過してF層に届き、そのF層で反射してE点に到達することになります。低角度で打ち上げた電波もすべて遮断されます。よって60度や45度で打ち上げた電波は、F層で反射しても1ホップでE点に到達することはできず、D点やE点に到達するには少なくともE層での反射が必要となります。これは、より低角度での発射が必要となり、電波はロスの高いD層を通過することになります。E層での臨界角が電波を通さず反射してしまうような距離では、信号強度は急激に低下します。E層やF層のホップを2回使う伝搬ではD層を4回通過することになり、そこでのロスは2倍になることが分かります。

Esは10mや6mで異常な伝搬を生ずることがありますが、通常E層が厚くなると短波の伝搬に良い影響を与えるよりもむしろ悪い影響を与えることのほうが多いようです。E層はF層に到達する電波を遮断することで、カバーできる通信距離を制限してしまいます。日中行われる40mバンドのネット通信では、黒点が0付近から最大になるにつれて、運用時間を変更したり、より高いバンドに移行したりするような変更が必要になるかもしれません。


図3 E層は低入射角の電波をそこで反射させる

日中の運用に最適なバンドの選択

HFハイバンドがオープンになると、D層のロスが大きくなり、またE層の遮断効果が高まるため、ローバンドは全体的に(特に日中に)悪くなります。このような変化を予測することで、事業者は最も適切なバンドを計画して使用することができます。電波の伝搬計画では、FOT(Frequency of Optimum Transmission:最適使用周波数)が使用されます。これは、2点間の通信で使用される最も信頼性が高いと予測される周波数のことです。時間帯、緯度、季節、太陽黒点活動、距離によって変化します。

図4は、黒点の上昇に伴い日中のFOTが変化していることを示しているグラフです。SSNが10の場合、250マイル(400km)までは5MHzが最適で、400マイル(640km)では7MHzに移行し、1000マイル(1600km)では14MHzとなることが分かります。SSNが100の場合、250マイル(400km)までは7MHzが最適で、470マイル(750km)では10MHz、800マイル(1280km)では14MHzになります。SSNが10から100になったとき、FOTは1つ上のバンドの差分だけ上昇します。従って、太陽黒点が多くなればバンドを1つ上げれば、これまで使っていたバンドとほぼ同じような通信カバレッジが確保できるはずです。

問題は、60mと30mバンドです。理想は75mから60m、60mから40m、40mから30mバンドとQSYしていくことです。しかし、40mバンドのSSBネットは、CWしか許されていない30mバンドにはQSYできませんし、75mバンドのネットがすべて60mバンドにQSYしようとすると多くのQSYした局で混信を生じます。75mから40mバンドへのQSYは場合によっては可能で、過去に行ったネットもあります。同じようなカバレッジを維持するためにバンドを変更しても通信カバレッジが変わってしまうためこれは理想的な方法ではありません。40mバンドのCWネットが30mバンドにQSYするのは問題ないと思います。


図4 日中、中緯度における最適使用周波数(FOT)対通信距離の比較

高い周波数帯にQSYすることが現実的でない場合、次善の策として時間帯を変える方法があります。日中の伝搬は太陽光の影響ですぐにフェードアウトするため160mバンドでの運用は夕方の時間帯に移動することになると思います。75mや40mバンドの朝のネットや長時間のコンタクトは早い時間帯に、夕方のネットは遅い時間帯に移動する必要があるかもしれません。

まとめ

SSNが高いか低いかに関わらず、また電波伝搬が改善されるのを待つのではなく、今の伝搬とうまく付き合っていくことが大事です。サイクル25が始まると夜間はローバンド、日中や夕方には、HFハイバンドのパスがとても活発になります。予報やモニタリングのツールを使えば、何が起こっているかを予測し、把握することができます。今できることをすることで、新しい状況をうまく利用することができると思います。



ジョン・スタンレー(John Stanley), K4EROとルース・スタンレー(Ruth Stanley), WB4LUAは45年間放送技術者として活躍し、電離層の研究、教育、そして世界中のラジオ局に対して短波放送に最適な周波数の調査の支援を行ってきました。ジョンとルースは、これまで活動した数十カ国の中で、その国々のコールサインを取得してきました。また、ARRLテクニカルアドバイザーとして、ジョンは多くのARRL出版物に寄稿しています。現在は、ジョージア州北西部のルックアウトマウンテンにあるオフグリッドのセルフビルドの家でリタイアし、教会の仕事、執筆、コンサルティングに携わっています。ジョン(John)は、75mバンドで旧友と、また多くのバンドでデジタルモードを楽しんでいるようです。
連絡先: jnrstanley(アットマーク)alum.mit.edu

<引用>
この記事は、米国ARRL(The American Radio Relay League)の機関誌QSTの2021年6月号に掲載された記事です。本記事の翻訳と掲載はARRLと筆者の許可を得て実施しています。翻訳は月刊FB NEWS編集部が抄訳したものです。この場を借りてARRLと筆者に厚くお礼申し上げます。
QST-ARRL: http://www.arrl.org/qst

<Quote>
This article was originally published in the July 2021 issue of QST magazine, the official journal of ARRL (The American Radio Relay League). The translation and publication of this article has been carried out with the permission of ARRL and the writers. The translation was abridged by the monthly FB NEWS editorial team. We would like to take this opportunity to express our sincere gratitude to ARRL and writers.
QST-ARRL: http://www.arrl.org/qst





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