2015年5月号

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熊野古道みちくさ記


熱田親憙

第9回 いい塩梅に干し上がった南高梅

梅の生産本場を一度みたいと思っていたが、8月の天候が落ちつかずのびのびになっていた。天候の落ち着いた9月上旬、田辺市中三栖の梅農家を訪ねた。紀伊田辺駅より北東に向かって216号線を走った。途中の梅畑の中に「万呂王子跡」があり、今は近くの須佐神社(下万呂町)に合祀されている。この神社は、万呂三か村の鎮守として、今も健在である。この古い社は216号線沿いの大きな池の前にあり、高台の神社から見る景色もなかなかのものであった。しばらく走ると、道路沿いに大きなビニールハウスを張った梅農家の掛田雄史さん宅(中三栖)が目に止まった。中では梅が干され、香りに唾をのみ込んだ。セイロ1枚(5,60cm平方の樹脂)に3Lサイズの南高梅が200個ほど並べられ、そのセイロが所狭しとハウスを埋めている。3,4日乾燥してメーカーに出荷するという。久しぶりの好天でホッとしているとのことだった。

216号線を更に進むと左会津川と合流し、対岸では、梅農家たちが梅を拡げ、炎天下で天日干しされていた。干し上った梅は、梅肉を内に秘めた柔らかい肌にうっすらと塩化粧しているようだった。作業場では男衆が漬け上がった塩梅を1個ずつ木ザラに載せていた。家内は店頭では買えない出荷前の塩梅を分けていただいて帰宅。自宅で梅を更に数日干し、昔懐かしい日の丸弁当に入っていたおふくろの味に仕立て直してくれた。

時は正に梅の農繁期で、屋外では天日干しの梅が万遍に干し上るように、一日3回、男性作業員が熊手のような梅コロコロで梅を回転させて、3日干して仕上げるという。雨にはすぐ対応できるように干し台の両端にビニールシートを巻きつけられていた。

作業場では女性が、乾燥を終えた梅の大きさと品質の選別に余念がなかった。タイミングを見て見本の塩梅を味見させてもらい、その塩辛さに、普段、いかに現代風に減塩、加工味の梅に食べ馴れているか思い知らされた。

作業場の軒先では、会津川で釣られた鮎が素焼き風に焼かれており、御馳走になった。香りと舌に残る塩味が一つになり、絶妙の味であった。

美味しく食べるために人は調味料の源である塩を、適当な量に加減していろいろな味をつくりだした。この適当な量をいい「あんばい」といって「塩梅」の文字を当てている。食文化の極みである。この極みが「和食」として開花して、今や世界遺産に登録されて世界の共有遺産になったことは日本人として喜ばしいことである。

梅干は冬の寒さを耐えた梅の木が開花し、初夏に実となった梅が1個1個丹精こめられて梅干しに加工される。梅は農家にとって大切にされている宝石であることを目の当たりにした。梅は日本の食生活を何百年も支えてきた日本人が誇るべき食べ物であり、これこそ和食の原点である。

田辺市では、梅を世界農業遺産に登録しようと動き出している。日本の食生活を支えてきた梅が世界に認められる日が早く来ることを願ってやまない。


スケッチ 会津川に沿う梅農家(田辺市中三栖)

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