2015年5月号

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連載記事

楽しいエレクトロニクス工作

JA3FMP 櫻井紀佳

第24回 1.2GHz受信用プリアンプ

1.2GHzで遠距離のD-STARレピーターにアクセスするため受信プリアンプを作ってみました。現用のトランシーバーはアイコム社製ID-1、アンテナはナガラ電子のGS-90(45エレ×2列)で、ゲインは25.5dBiありますが、レピーターまでの距離が約60kmもあるため、D-STARのDV(デジタルボイス)では通信できますがDD(デジタルデータ)の通信ができません。そこで受信用プリアンプを考えてみました。

1. 構成

プリアンプのユニットは市販のものを使います。コスモウェーブのLNA1200NXがNF(ノイズ・フィギュア)も低く適当ではないかと考え購入しました。なお、送信時にはプリアンプをバイパスしなければならず、回路をリレーで切り替える必要がありますのでプリアンプの前後に同軸リレーを挿入します。

また、受信時にプリアンプを働かせるのに電源が必要なため、この直流電源は同軸ケーブルに高周波と一緒に載せて供給します。このため受信時にプリアンプの電源を使って同軸リレーを動かすため、このリレーは受信時ON、送信時OFFとなります。

コスモウェーブの資料ではこのプリアンプの仕様は次のようになっています。
・周波数: 1200MHz帯(1GHz~2GHz使用可)
・電波形式: FM, SSB, CW, AM、オールモード対応
・電源電圧: DC8V~15V
・消費電流: 約50mA(12V)
・利得: 35dB以上
・NF: 0.5dB(入力インピーダンス整合型)
・入力SWR: 1.4以下
・インピーダンス: 50Ω(SMAJコネクター)
・最大入力: 30mW(破壊入力レベル)
・1dBcomp: 12dBm(TYP)
・IP3: 25dBm
・外形寸法: 32mm×36mm×12mm(突起部を含まず)


NF特性

このプリアンプの全体の回路図は次のようになっています。


(クリックで拡大します)

現在使っている同軸ケーブルは25m位の長さの8D-SFAです。1.3GHzでの損失は10m当たり1.35dBであるため、トータル3dB程度の損失があるものと思われます。そのためプリアンプはこの損失を補償するのが主目的となり、むやみにゲインを上げても感度は上がりません。

アンテナ側の回路にはプリアンプとその両側に同軸リレー(RL4、RL8)が入っています。受信中は無線機側とアンテナ側を接続した同軸ケーブルに電源の直流が重畳され、プリアンプと同軸リレーが動作します。このプリアンプは、電圧の低い方のNFが良いような理由と、購入した同軸リレーが9V仕様のため、9Vの3端子レギュレーター(U12)を入れ9Vで動作させています。

このプリアンプは35dBのゲインがありますが、あまりゲインが高くても感度は上がらずSメーターを振らすだけになるため、出力に約20dBのアッテネーターを入れトータル15dBのアンプとしました。なおアッテネーターは必ずプリアンプの出力側に入れる必要があり、間違って入力側に入れると完成したものがプリアンプではなくアッテネーターになってしまいますので注意が必要です。

無線機側は電源供給の回路としてQ1をスイッチして13.8Vを出力します。Q3とQ5はその制御回路で、J9から入ってきた送信電力をD14で整流してQ5をONにします。このキャリア検出型スタンバイ回路を使用すると、送信出力を検出して同軸リレーが切り替わる間、プリアンプにその電力が加わり破壊される危険性があります。

今回はプリアンプの出力側(無線機側)にアッテネーターを入れているので、万一送信出力がプリアンプ側に流れても、このアッテネーターによって20dB減衰されることでプリアンプが壊れないかを後で何らかの検証が必要です。この切替回路は送信電力で制御する他にも、J13に接続したD15によって無線機のスタンバイ端子による制御もできるようにしています。このスタンバイの制御と送信電力のタイミングがうまく制御できれば、こちらを使用した方が安全です。

同軸の形をしたλ/4と描いたものが無線機側とアンテナ側にそれぞれありますが、これは高周波を阻止する働きをします。同軸のλ/4は並列共振器として働き、端のインピーダンスが上がり回路に与える影響が少なくなります。

2. 組立

アンテナ側の回路はアンテナ直下に設置するために防水する必要があり、防水型のケースを部品屋さんから買ってきました。同軸リレーとプリアンプの大きさがあまり変わらないので並べて取付けそれぞれの間はセミリジッド同軸で配線しました。リレーおよびプリアンプの端子はすべてSMA型の同軸端子のため、セミリジッド同軸の端にSMAコネクターをハンダ付けします。


プリアンプの外観と内部

アッテネーターはセミリジッドの同軸を切り欠いて芯線も一部切り取り、そこに抵抗とコンデンサーをハンダ付けして製作しました。少しやり難いですが周波数が高いので仕方がありません。

このユニットの同軸ケーブルとの接続端子はN型コネクターとし、セミリジッド同軸との接続はできるだけインピーダンスを乱さないよう銅板の円盤を使うなど少し工夫して加工しました。


N型コネクターとセミリジッド同軸の接続

無線機側のユニットは室内に置くため防水の必要はなく、どんなケースでも良いのですがアルミダイキャストのケースがあったのでこれに組み込みました。このユニットの高周波コネクターもN型を使いましたが、アンテナ側ユニットと同様にあまり美しい仕上がりとはいえない状態になってしまいました。


無線機側ユニットの外観と内部

3. 高周波損失の測定

受信側はアンテナからプリアンプまでの損失が受信性能に影響しますが、この経路は短いので、あまり問題にはならないと思います。一方、送信側は無線機の出力端子からアンテナまですべての損失がパワーダウンに繋がるので気になります。無線機とアンテナの間を接続している同軸ケーブルについては、プリアンプを付けても付けなくても、送信時の損失は同じなので、無線機側とアンテナ側のユニットの損失をそれぞれ計ってみます。

測定にはトラッキングジェネレーター付きスペクトラムアナライザー(スペアナ)を使いました。1.2GHz帯のアマチュアバンドは1260MHz~1300MHzまでですが、送信中に影響するのは同軸リレーだけですからあまり周波数特性の変化はないと思われます。しかし実測では最大0.8dB程度の損失があります。これより広い帯域で測定しても損失が周期的にうねっていてミスマッチのように見えますが、現在その理由がよく分かりません。


アンテナ側ユニットの損失

また無線機側のユニットの損失が最大0.4dB程度あり、総合的には1.2dBもの損失となり、出力10Wが7.6W位になってしまいます。


無線機側ユニットの損失

損失の原因として直流を給電するために使ったλ/4の同軸の同調点が合っていないのではないかと思いましたが、この部分を一時的に外しても測定値は変わらないので他に原因がありそうです。送信電力は2つの同軸リレーを通り、それらを繋ぐ合計6個のSMAコネクターを通過するのでこれも損失の元となると思います。


1.2GHzアンテナ(GS-90)

今回プリアンプはシステムとして作ってみましたが、元々心配なことが最初からありました。それはDDモードで通信できないのが受信側の問題か、または送信側の問題かということです。もし、送信側の問題であればプリアンプを入れても問題解決にはならず、送信電力は現在10Wであるため、これ以上の出力アップはできません。その上、プリアンプの挿入による損失で送信電力が7.6Wまで低下する可能性があり、今回製作したプリアンプユニットの接続は逆効果になりそうです。仮にアンテナを今の2倍に増強して2x2スタックにしても、フロントゲインは今より3dB上がるだけなので、コスト対効果に疑問が残ります。

実は問題が送信か受信かを見つけるのは難しいのです。まだ最終的な試験は行っていませんが、レピーター対してにDDモードでPingを打っても何も返ってきません。もし、誰かが少し長い時間DDの電波を出してくれるとモニターして受信での良否の判断ができますが、現在は適当な相手がいないため、少し長期にトライしてみることにします。

今回の製作物では、冒頭に記載したD-STARのDDモードによる通信距離改善の成果はまだ得ておりません。この記事の読者でプリアンプの製作を考えておられる方に、こんな方法もあります、と提示してみる程度になりました。参考になれば幸いです。

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