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Mr. Smithとインピーダンスマッチングの話

【第34話】 アンテナと空間のインピーダンス(その2 ダイポールアンテナ)

濱田 倫一

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第33話では電磁波とは何かについて解説しました。電磁波を空間に放射するためには、対になっていない導線に高周波電流を流す必要がありますが、これは高周波電力が対になった導線の間を伝播するという条件に反するため、意外と簡単ではありません。第34話ではダイポールアンテナを例にとって、アンテナエレメントに電流を流す方法について解説します。

1. ダイポールとは

無線従事者の免許を持っていてダイポールアンテナを知らない方はいないと思います。ダイポール(Dipole)とは双極子の事で、例えば図1(a)下部の矢印部分に示すように、導体球に直流電圧を印加したようなイメージが解りやすいと思います。導体球の大きさは限りなく小さく、間隔は限りなく近いと仮定します。電気的には上部に示すように絶対値が同じ大きさの+/-の電荷が対になっている素子と見なします。直流電源に替えて、交流電源で励振されたダイポールの場合は図1(b)に示すように電荷対の極性が常に反転することになります。電気ダイポール(双極子)はコンデンサの内部を交流電流が流れる説明にしばしば登場します。


図1 電気ダイポール(双極子)

一般に「電気双極子」と言うとこれを指すのですが、第33話で解説したとおり、電磁波の波源は交流電流です。従ってアンテナで取り扱うダイポールは、実は図1のような電界ダイポールではなく図2に示すような電流ダイポールになります。図2の左側は第33話で登場した先端を開いた伝送線路の図です。先端を開くことで電流の方向が揃う事は既に解説したとおりです。この開いた部分を「ダイポールアンテナ」と呼び、平行2線(伝送線路)の部分を「給電線(フィーダ)」と呼びます。


図2 電流ダイポール(微小ダイポールアンテナ)

図2の左側の図の電流をマクロの視点で観察すると、給電線の部分は相殺して見えないので、ダイポールアンテナを流れる電流Iしか見えません。ダイポールアンテナの上側のエレメントの電流と下側のエレメントの電流は方向も大きさも同じで一本の導線を流れる電流と同じに見えるので、ダイポールアンテナの部分は、右側の図のように+Q[C]と-Q[C]の2つの電荷が接続されていると見なすことが可能です。これが「電流のダイポール(双極子)」です。電流の大きさは(式1-1)に示す通りQの大きさの変化、すなわち励振電源の電圧Vの変化に比例します。(比例定数のCはダイポールアンテナのエレメント間に発生する静電容量)

(式1-1)

第33話の図8に示した通り、ダイポールアンテナは先端が切断されているので、反射波が発生します。従ってアンテナエレメントに流れる電流は定在波の影響で一様にはならないのですが、ダイポールアンテナの長さが波長に対して充分短い場合は一様であると見なすことが可能です。が充分短いダイポールアンテナを微小ダイポール※1と呼び、この微小ダイポールの等価モデルである電流ダイポールを「電流素子」と考えます。電流が輻射する電磁波の大きさを計算するときは、図3に示すように導線やアンテナのエレメントを流れる電流を電流素子(微小ダイポールアンテナ)の縦続接続と考えます。このためアンテナの教科書には、世の中に実在しない微小ダイポールアンテナが必ず登場するのです。


図3 電流素子による電流の表現

※1 厳密には微小ダイポールアンテナはを極限まで小さくした理論上の電流素子です。有限の長さ(≪λ)のエレメントを持つダイポールアンテナは「短いダイポール」として区別されます。

2. ダイポールアンテナの等価回路

冒頭、ダイポールのエレメントに電流を流すのは簡単ではないと述べました。何故かと言うとダイポールアンテナは回路的に見ると終端開放線路と何ら差分がないからです。図4にダイポールアンテナの等価回路を示します。


図4 ダイポールアンテナの等価回路

アンテナから電磁波が放射されるということは、給電点から供給した電力が外部の空間に放射されると言うことなので、給電点から見ると抵抗成分Rrが存在する事になります。このRrをアンテナの放射抵抗と呼びます。Rrは給電電力を熱にはしませんが、外部に放射して「消費」するので実態のあるインピーダンスです。Rrがどうやって導出されるのかについては後日解説します。アンテナから放射される電力PrRrで消費される電力と等価となり、

(式2-1)

ですが、実際のアンテナエレメントは終端開放線路(オープンスタブと言っても良い→第12話参照)であるため、図4に示す通りRrに直列に直列共振回路が接続されたように見えます。図5は、フリーウェアのアンテナシミュレータMMANA※2を用いてダイポールアンテナのエレメント長と放射抵抗Rr、ならびにLACAによるリアクタンスjXを計算したものです。


図5 ダイポールアンテナのエレメント長と放射インピーダンスの関係

ダイポールアンテナのエレメントの長さが短くなると放射抵抗Rrは急速に小さくなる(すなわち大きな電流を流さないと電磁波が放射されない)一方で、となる周波数ではアンテナの入力インピーダンスは容量性リアクタンス-jXcが支配的で、高インピーダンスとなって電流が流れないのです。(低容量のキャパシタだと考えれば自明です)

※2 MMANAはJE3HHT森氏が制作、フリーウェアとして公開しているモーメント法による線状アンテナ解析ソフトウェアです。下記からダウンロートする事が可能です。http://je3hht.g1.xrea.com/mmana/index.html
または
https://www.vector.co.jp/soft/win95/home/se094485.html
本ソフトウェアはアマチュア無線家には広く愛用されているようで、使用方法の解説も豊富です。解説の一例を示します。
http://www.ann.hi-ho.ne.jp/ja6ecd/mmana.html

3. ダイポールエレメントに電流を流す方法

ここまで書くと、察しの良い方はお気づきと思います。ダイポールアンテナの放射抵抗Rrに所望の電流を流すためには、ダイポールエレメントの長さを励振電源周波数に対してλ/2(片方のエレメント長をλ/4)にしてやれば良いと言うことになります。ダイポールエレメントの長さをλ/2にしたアンテナを「半波長ダイポール」と呼びます。半波長ダイポールアンテナを構成する2つのエレメントは、それぞれ長さλ/4のオープンスタブと等価であり、直列共振している状態です。従って給電端子からは放射抵抗Rrしか見えない状態となって、容易に電流を流すことが可能になります。Rrで消費される電力が最大のときにアンテナからの放射電力が最大なので、フィーダの長さが波長に対して充分に短ければ、信号源のインピーダンスZS =放射抵抗Rrのときに輻射電力が最大になります。このように、放射抵抗Rrに所望の電力を消費させるのがアンテナに対するインピーダンスマッチングになります。放射抵抗Rrがどのように決まるのかも含め、次回以降で詳しく解説することにしますが、λ/2ダイポールアンテナの放射抵抗Rrが約75Ωになる事はアマチュア無線技士の試験にも登場し、よく知られています。

4. オープンスタブ(共振器)と半波長ダイポールアンテナの違い

ここで少しだけ横道に逸れますが、そろそろ半波長ダイポールアンテナと第12話で説明したオープンスタブや共振器との区別が解らなくなってきた方がおられるのではないでしょうか。半波長ダイポールアンテナもオープンスタブ線路も本質的に共振器なので、等価回路は同じになってしまいますが似て非なるものといえます。表4-1に簡単に整理しておきます。

表4-1 アンテナと共振器の違い

項目 半波長ダイポールアンテナ 共振器(オープンスタブなど)
共振させる 目的 リアクタンス成分をキャンセルしてエレメントに電流を流す 周波数選択
等価直列抵抗の発生要因 放射抵抗 (空間に電磁波を放射する事) 損失抵抗 (回路素子や線路の熱損失)
回路の構造 電磁波を放射させるため、できるだけ大型に、また外部に電磁界が広がるように構成 電磁波を放射させないため、できるだけ小型に、また外部の電磁界が相殺、または空間に電磁界が生じないように構成


5. 第34話のまとめ

第34話では、所望の電力の電磁波をどのように発生させるのかについて、ダイポールアンテナを例に解説しました。以下要点を整理します。
(1) ダイポールアンテナとは正負の電荷対による電流を波源とするアンテナの総称
(2) このうちエレメント(電流経路)の長さを極限まで短くした理論上のアンテナを微小ダイポールと呼び、アンテナの計算においては電流素子として取り扱う。
(3) ダイポールアンテナの等価回路はオープンスタブとして振る舞う直列共振回路に電波の放射を表す抵抗(=放射抵抗)が直列に接続された形で表現される。アンテナが放射する電磁波の大きさ(電力)は放射抵抗が消費する電力に等しい。
(4) アンテナのエレメント長が波長に対して短くなると放射抵抗は小さくなる。このためより多くの電流を流さないと電磁波が放射されない。
(5) アンテナのエレメント長が波長に対して短くなると直列共振回路が大きな容量性リアクタンス(容量の小さいキャパシタ)に見えるため、放射抵抗に電流が流れない。
(6) 放射抵抗に効率よく電流を流す為には、等価直列共振回路を共振状態にして放射抵抗のみ見える状態にすると良く、これはダイポールの各エレメント長をλ/4(アンテナ長さはλ/2)とする事に等しい。このように設計したアンテナを半波長ダイポールアンテナと呼ぶ。
(7) 共振しているアンテナと共振器の違いは、外部空間に電磁波を放射する構造になっているか、内部に電磁エネルギーを閉じ込める構造になっているかである。

次回は半波長ダイポールアンテナを題材に放射抵抗とは何かについて解説します。

【参考文献】
(1) アンテナ入門 F.R.Conner 原著 安藤真 訳 森北出版 1990年
(2) アンテナの科学 後藤尚久著 講談社 1987年
(3) ANTENNAS Second Edition J.D.KRAUS McGRAW-HILL 1988年

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