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Mr. Smithとインピーダンスマッチングの話

【第35話】 アンテナと空間のインピーダンス(その3 放射電力と空間のインピーダンス)

濱田 倫一

第34話ではダイポールアンテナを例にとり、実際に所望の電力の電磁波を発生させる方法について解説しました。電力P[W]の電磁波を空間に放射するためには、アンテナの放射抵抗RrP[W]の電力を消費させる・・・ すなわち、Rr P⁄R r [A]の電流を流す必要があります。

第35話では、放射抵抗Rrの大きさはどうやって決定されるのかの解説に先立ち、アンテナに給電されたP[W]の電力は空間にどのように輻射されるのかについて解説します。

1. 微小ダイポール(電流ダイポール)が発生する電磁波

図1は第33話の図3の再掲です。電磁波は電流の振動(交流電流)を波源とし、電界Eと磁界Hの振動が波として伝播するものでした。


図1 電磁波のイメージ図(第33話の再掲)

実際には、アンテナから放射される電磁波は2次元平面ではなく3次元空間に広がります。従って、図1を図2に置き換えて考える事とします。


図2 3次元空間で考えた電磁波のイメージ図(波源が電流ダイポールの場合)

3次元の空間において、電磁波は全方向に一様に広がってゆきますが、波源の電流ダイポールには、1次元の方向性(電流の流れる方向)があり、磁界Hは電流I と直交する方向に発生するため、電流と直角の方向に最も強く放射する一方、電流と並行する方向には発生しません。この結果、図2に示すように電磁波の等電力面(等しい電力値を結んだ面)は球面とはならず、電流方向がへこんだドーナツのような形状になります※1。3Dの挿絵がイマイチなので平面図(図3)も参照ください。このように方位角によって電波の放射強度が変化する特性を「指向性」と呼びます。電磁波の波源は電流であるため、球面状(どの方向にも同じ強さ)に電磁波を放射することはできませんが、伝播は球面状に一様です。従って、図2に示したドーナツ型のまま広がってゆく事になります。半波長ダイポールアンテナにおいても定性的には同じです※2

※1:図2、図5の青いドーナツ形状は電界強度(磁界強度)分布を示すイメージであって、本来は3次元空間の距離座標を示す本図に一緒に記載すべきものではありません。便宜上の表現であることをご了承ください。正確には3次元強度分布を示す図3を参照ください。
※2:電流ダイポールの場合は図2における区間の電流が一様分布ですが、半波長ダイポールアンテナでは電流がコサイン関数になるため、同じドーナツ形状(8の字特性)でも同一にはなりません。


図3 電流ダイポールの指向性(グラフの軸が電磁界強度であることに注意)

2. 電磁波の電力

無線機の出力電力とは所定の負荷抵抗(一般的には50Ω)を接続した時に、その抵抗で消費される電力の平均値(送信期間中の平均値)を示します。図4(a)は送信出力10Wの無線機の送信出力の定義を示したものです。電波を放射するためには、これにアンテナ(空中線)を接続するのですが、第34話で示した通り、アンテナの放射抵抗Rrは50Ωではないので、何らかの整合回路を介します(図4(b))。結果、アンテナには10Wの高周波電力が給電されることになります。電波法ではこの電力を「空中線電力」と呼んでいます。


図4 無線機の送信電力と無線局の空中線電力

等価回路的にはこれで解った気になるのですが、さてアンテナに給電された10Wの電力は空間にどのように輻射されるのでしょうか。引き続き図2の微小ダイポールに10Wの電力を給電したとして考察します(Rrが小さく、大きな容量性リアクタンスが存在しますが、整合回路で整合できた前提です)。アンテナに供給された10Wのエネルギーは図2に示したドーナツ型の形状で空間に広がってゆきますが、空間に雨や遮蔽物など何もなければ電磁波の総エネルギーは広がるだけで減衰しません。つまり波源から半径rの球面(図5参照)を考えた時に球面上の電力を全て積分する(足し合わせる)と10Wになります。別の見方をすると球の表面積は4πr2なので、10Wの波源から距離rだけ離れた場所における平均の電力密度Pravrは、


(式2-1)

となりrの2乗に比例して小さく(薄く)なります。これを自由空間における伝搬損失と呼んでいますが、「損失」というにはちょっとイメージが合わないかもしれません。
実際には1章で述べた通り、電流ダイポールの放射する電磁波には指向性があるので、波源からある方向にrだけ離れた点P での電力密度Prθ,ϕ の関数となり、


(式2-2)

となります。ここでG(θ,ϕ )は波源からP点の方向のアンテナ利得(指向性利得)を示します。アンテナ利得については次号以降で解説します。これらの式からわかるように、波源から半径rの球面上の電力密度を球面全体に渡って積分すると、アンテナに供給された電力(=10W)になります。

3. 電磁波の電力と電界・磁界の関係

次に電磁波の電力と電界・磁界の振幅の関係を考察します。2章までは電界強度E、磁界強度H、電力密度Prとしてスカラー量的に取り扱ってきましたが、電界も磁界も電力密度も図5に示すようにベクトル量なので大きさだけではなく方向を持った値です。


図5 波源から放射された電力※1

2章ではPrというスカラー量で説明しましたが、波源から半径rの球面を仮定したときの、その表面上の電力密度ベクトルS [W/m2]をポインティングベクトルと言います。|S |を球の表面全体に渡って積分すると波源が放射する電力値=アンテナへの給電電力になるのは先程述べたとおりです。ポインティングベクトルS は(式3-1)に示す通り、電界ベクトルE 、磁界ベクトルH の外積で導出されるベクトルであり、大きさは電力密度、方向は電磁波の進行方向を示します。


(式3-1)

なお電界ベクトルE の添え字θ と磁界ベクトルH の添え字ϕ は、それぞれ極座標で示した電界ベクトルのθ 軸成分と磁界ベクトルのϕ 軸成分を示しています。電流ダイポールがz軸と並行である限りEϕ 成分、Hθ 成分は生じません。
また(式3-1)から、波源からある方向に距離r離れた点Pでの電力密度Pr


(式3-2)

となります。

4. 空間のインピーダンス

電磁波の電力(電力密度)Pr[W/m2]が電界E [V/m]と磁界H [A/m]の積になることはお判り頂けたと思います。波源は電流ダイポールなので、電流値I [A]※3から磁界の大きさH を導出することは可能ですが、電界の大きさE はどうすれば求められるのでしょうか。

実は媒質中を伝播する電磁波の電界E と磁界H の振幅比は媒質の誘電率と透磁率で決まってしまい、どちらかが決まると他方は一意に決まってしまいます。このことは真空中でも同じで、真空中におけるE H の比η は、


ε0:真空誘電率≅8.85×10-12[F/m]
μ0:真空透磁率≅1.26×10-6[N/A2]
(式4-1)

で与えられます。なお、120πと書くと空間のインピーダンスは何か幾何学的に導出できる数値のように思ってしまいますが、この値は実験から導出された値を120πに近似したものあって、幾何学的に導出された値ではありません。単位がΩとなっているのでお気づきと思いますが、電界と磁界の比は[V/m]と[A/m]の比なので、インピーダンスの次元をもった諸元となり、これを空間のインピーダンスと呼びます。
古い話ですが、似たような話が第4話で登場したのを覚えておられるでしょうか。図6は第4話の図5を再掲したものです。赤線で囲った箇所は伝送線路の特性インピーダンスが単位長あたりのインダクタンスとキャパシタンスの比の平方根になる事を示していますが、インダクタンスは透磁率μで、キャパシタンスは誘電率εでそれぞれ決定されるので、実は同じ事を示しています。


図6 伝送線路の特性インピーダンス(第4話から再掲)

つまり、伝送線路でも真空中でも電力が電磁波として伝播する際は、伝播できる電界と磁界の振幅比率が決まっており、それを示しているのが固有インピーダンスη です。η は伝送線路でいうZ0に該当し、空間の特性インピーダンスZ0とも表現されます。
従って、波源であるI [A]の電流(電流ダイポール)※3から発生する磁界H の大きさが判れば、ある方向に輻射される電磁波の電界ベクトルE と電力密度ベクトルPr の大きさは、それぞれ


(式4-2)


(式4-3)

の関係となります。
※3:正確には電流変化の大きさです。(直流電流から電磁波は発生しません)

5. 第35話のまとめ

これで電磁波の電力とアンテナに流れる電流の関係が整理できました。一般論としてアンテナに流れる電流の大きさと分布が決まれば、マクスウェルの方程式から距離rの位置における磁界の大きさ|H |が導出できます(まだ解説していません)。磁界の大きさがわかれば(式4-2)(式4-3)の関係を用いてアンテナからある方向に輻射される電力が判るので、この計算をアンテナの周囲全体に対して行い、アンテナが輻射した総電力が判れば、総電力と電流からアンテナの放射抵抗Rrが決まるのですが、このあたりの話は次回とさせてください。以下、第35話の要点を整理します。

(1) 電流ダイポールから輻射される電磁波は完全等方性にはならず、電流と直交する方向に最も強く、並行する方向には輻射されないドーナツ状の強度分布(指向性)を示す。
(2) 自由空間においては、輻射された電磁波は球面状に広がって伝播するので、波源(アンテナ)から見た電磁波は(1)の強度分布を維持して広がってゆく。
(3) アンテナから距離r離れた点の電磁波の電力密度ベクトルS は電界E と磁界H の外積となる。
(4) 波源(アンテナ)を囲む球面上で電力密度ベクトルの絶対値|S |(=Pr)を積分した結果はアンテナへの給電電力(空中線電力)と等しくなる。
(5) 真空中(自由空間)には固有インピーダンスη が存在し、電界の大きさと磁界の大きさの比がη となる電磁波以外は伝播することができない。従ってEまたはHのどちらかが判明すれば、電力密度Prη を使って導出することが可能である。
(6) 真空中(自由空間)の固有インピーダンスη は約120π[Ω]であることが経験的に知られている。

次回はアンテナの放射抵抗Rrの導出について解説します。

【参考文献】
(1) アンテナ入門 F.R.Conner 原著 安藤真 訳 森北出版 1990年
(2) 電磁波とは何か 後藤尚久 著 講談社 1984年
(3) ANTENNAS Second Edition J.D.KRAUS McGRAW-HILL 1988年

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次号は 11月 1日(月) に公開予定

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