今更聞けない無線と回路設計の話
2026年4月1日掲載
第17話では一気通貫で作成したレベルダイヤグラム※1の「③無線区間」の縦軸・・・ 電力[dBm]目盛と電圧[dBµV]目盛の関係と揃え方について解説しました。第18話からは引き続き「①音声入力」「②変調」「④復調」「⑤音声出力」の各区間の縦軸・・・ 電圧[dBµV]目盛とデジタル振幅[dBFS]目盛の関係、一気通貫で見通すための目盛の揃え方についての解説となります。
前回に引き続き、図1は第16話の図5「一気通貫で作成したレベルダイヤグラム」に、今回取り扱う「①音声入力」「②変調」「④復調」「⑤音声出力」の各区間の縦軸の読み取り方を示したものです。ここに書かれた一連のグラフのうち赤枠で囲った部分「①音声入力」「②変調」と「④復調」「⑤音声出力」の縦軸はそれぞれ両端が電圧[dBµV]、中央がデジタル振幅[dBFS]です。なお[dBFS]の“FS”は第3話の表1に示したとおりFull Scaleの略です。つまり①~②の区間と④~⑤の区間はデジタル信号処理のブロックで、入出力をアナログ電圧でインタフェースしていることが判ります。ここでは塗り潰されているマーカと実線はデジタル振幅(dBFS)、塗りつぶされていないマーカと破線は「③無線区間」と同じく電圧(dBµV)のプロットです。どちらの縦軸を参照すれば良いかはデータラベルに記載されている単位を見て判断します。
第16話の5章でも触れましたが、音声CODECを採用した通信路には、「③無線区間の外側」を含む音声符号器(coder)~復号器(decoder)間の伝送路「区間A」とその外側「区間B」の2つのレイヤー(階層)が存在します。レベルダイヤグラムの上部に記した「①音声入力」の区間において、Aさんの発する音声はマイクロホン(MIC)で“ある値のSNR”(ここでは図1から50dBと読み取れます)の電気信号に変換されます。この信号と雑音は増幅され、ADコンバータ(ADC)でデジタル信号に変換されたのち、音声CODECの符号器(図1ではレベルダイヤグラムに含まれない「符号化」の部分)で音声波形符号に変換されます。区間Bの信号振幅情報が別の符号に変換され、その符号が区間Aによってレベルダイヤグラムの上部に記した「⑤音声出力」区間の復号入力(音声CODECの復号器入力)まで伝送されます。復号器は入力された符号を解読して「①音声入力」区間で符号器に入力された振幅を再現します。従って復号器から出力される信号や雑音の大きさは、①の区間の振幅であり、②~④の区間の信号・雑音レベルとは無関係の値です。このため図1のレベルダイヤグラムにおいても、「①音声入力」の縦軸と「⑤音声出力」の縦軸が同じスケールとなり、「②変調」から「④復調」までの区間とは別のスケールになっています。
今回解説する区間ではデジタル信号の区間が登場します。デジタル信号処理において「信号レベル」とか「飽和」とかいう話をしてもピンと来ない方がいるかもしれません。例えばExcel等で様々な計算をしても「値が大きすぎて計算できない」とか「値が小さすぎてゼロになってしまう」という経験をすることが殆どありません。CやVB、Pythonで数値解析のプログラムを組まれた時も、扱う数値が大きすぎるとか小さすぎるという心配をされたことは無いと思います。これはパソコン内部で一般に用いられる数値データの表現方法が「浮動小数点」形式と呼ばれる指数表現になっているからです。プログラミング言語では「実数型」「倍精度実数型」「4倍精度実数型」と呼ばれるデータ形式を指定した場合がこれに該当します。浮動小数点フォーマットの詳細はWikipediaなどで検索すれば丁寧に解説されているのでここでは省略しますが、現在コンピュータ上で一般的に使用されている浮動小数点フォーマットはIEEE754形式と呼ばれるもので、表1に示すサイズが一般的です。プログラミングの世界では、最初に行う変数の型宣言の実数型、倍精度実数型、四倍精度実数型に該当します。

表1 浮動小数点フォーマットで表現できる数値(IEEE754)
最も桁数の小さい単精度(4byte)のフォーマットで表現できる±2-127~2128とは10進数で5.8×10-39~3.4×1038になります。デシベル(電力)で表現すると約−397dB~約+385dBという広範囲の数値です。従って浮動小数点型のデータ形式で演算するコンピュータの場合、桁あふれや有効桁不足で困ることは殆どありません。但し、メモリーに書かれたデータが直接数値を示さないので、演算処理に際しては都度データ変換を行う必要があります。このため単純な四則演算であっても処理量は膨大となり、H/Wでの演算処理には不向きです※3。
これに対してアナログ信号をAD変換してリアルタイムに処理するデジタル信号処理においては演算速度が命であり、ADコンバータ(ADC)の出力データをフォーマット変換せずに直接演算することが好まれます。このため「整数型」と呼ばれる小数点が存在しないデータ形式で処理を行うのが一般的です。これは図2に示すようにADCの最大入力電圧をビット空間の最大値に割り当てる方式で、メモリーに書かれたデータが直接数値を示すので変換処理が不要となり処理速度が速く、H/Wでの演算も容易になります。但し図2の縦軸を見て判るとおり、表現できる数値の範囲が狭いため、常に桁あふれ(オーバーフロー)と隣り合わせであるといえます。
このように整数形のデータ形式で信号処理を行う関係で、デジタル信号処理における信号振幅の上限と下限は意外に小さい値になります。取り扱うデータのビット数(加算器、累算器などの演算回路の処理ビット数)をnとすると、取り扱える最大振幅Mは

(式4-1)
となり、これより大きな値になると、アナログ回路と同様に飽和するか、もしくはオーバーフロー(桁あふれ)となって、前後のサンプリングデータと無相関の数値になってしまいます。レベルダイヤグラムによるデジタル空間での振幅配分設計では、このMを等価的に振幅の天井・・・ すなわち飽和振幅と見なしてバックオフを定義します。
また取り扱える最小の振幅は1です。デジタル信号は離散値であるため、1以下の大きさの振幅と、1以下の振幅差を表現することは出来ません。言い換えると、全てのデジタル信号には、±0.5の誤差が含まれている事になり、これを量子化雑音と呼びます。デジタル信号空間において量子化雑音はフロア(床)レベルを示し、アナログ信号における「熱雑音」と同様、これよりも小さい振幅の信号を取り扱うことが出来ません。表2に整数型のビット長と最大値、最小値、ダイナミックレンジ(取り扱える信号振幅範囲)の関係を整理します。

表2 整数型データのビット長と振幅の関係
本表から判るように、整数型データのビット長とは2進数の1桁なので、1桁増える毎に最大振幅、すなわち表現できる数値幅は2倍(+6dB)に増えることになります。
次ページは「交流信号のサンプリングとdBFS」から
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