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今更聞けない無線と回路設計の話

【テーマ2】デシベルと無線工学
第23話 変調器出力振幅と信号劣化(3)

濱田 倫一

2026年9月1日掲載

第23話からは、第22話に続いて直交変調回路で発生する信号劣化をテーマに、周波数変換回路(アップコンバータ)で発生する雑音劣化全般について解説を行いたいと考えます。

1. LO(局部発振)信号

これまでの解説で触れたサンプリングクロックを含め、通信機の伝送信号処理においては内部で生成した(発振させた)CW(Constant Wave: 無変調波)信号を伝送信号にかけ算するシーンが多数発生します。この装置内部で生成したCW信号の事を、一般に局部発振信号(LO: Local Oscillation signal)と呼びます。今更聞けない無線と回路設計の話【テーマ1】三角関数のかけ算と無線工学の第1話で整理したように、伝送信号にLO信号をかけ算することで、変調波を生成したり、変調波にLO信号をかけ算して搬送波周波数を変換、あるいは変調波から伝送信号を取り出すことが可能になります。また伝送信号波形をバイナリのデータ列に変換するデジタルサンプリングもCW信号(サンプリングクロック信号)と伝送信号のかけ算処理と見なすことができます。

2. LO信号の雑音

LO信号は単一周波数の信号なので、周波数軸上において理論上は1本の線スペクトルになります。しかし実際にLO信号をスペアナで観測すると図1に示すように裾の部分が広がったスペクトルになっており、さらに周波数軸の分解能を高くすると、一本の縦線ではなく面積(有限の帯域幅)を持った電力スペクトルに見えます※1。


図1 LO信号のスペクトル(イメージ)

この帯域幅と裾の膨らみ部分がLO信号の雑音成分です。何故LO信号がこのようなスペクトルになるのかを知るためには、LO信号を生成する発振回路の原理について少し理解しておく必要があります。

  • ※1  実際にはスペアナの周波数分解能にも限界がありRBW(Resolution Band Width: 分解能帯域幅=受信機の通過帯域幅)より細い幅で線スペクトルを観測することはできません。
  • 3. 発振回路の構成要素

    アナログ/デジタルを問わず通常の電子回路は全て入力端子と出力端子を持ち、出力信号は入力信号の関数となります。従って入力がないと何も機能しません。これに対して発振回路には(電源端子を除くと)出力端子しかなく、電源が供給される限り一定の周期で振動する信号を出力し続けます。発振回路の方式は発振する周波数によって様々ですが、特に高周波発振回路の場合は、回路方式にかかわらず、発振回路が一定の周期を刻む方法を振り子時計の仕組みに例えることが可能です。すなわち、振り子時計も発振回路も図2に示すように(1)~(3)の3つの要素から構成されています。

    (1) 振動周期を定める共振器
    (2) 共振器にエネルギーを供給し続ける機構(回路)
    (3) エネルギー源


    図2 発振回路と振り子時計の類似性

    電子工学の教科書には「発振回路は増幅回路に正帰還をかけることで実現できる」と説明しているものが多いのですが、それはこれら3つの要素のうちの(2)を解説しているに過ぎません。定められた周波数の信号を作り出す役割を担うのは、振り子時計で言えば「振り子」の周期運動(振り子運動)、電子回路の場合はLCで構成された共振回路、または水晶振動子などの「共振器」です。振り子は軸の長さで決まる固有周期を持っていて、位置エネルギーと運動エネルギーを交換しながら一定周期の振動を保つことは中学校の理科で学んだ事です。実際の振り子は軸の摩擦や空気抵抗の影響で次第にエネルギーを失い最後は停止してしまいますが、振り子時計ではアンクルと呼ばれるかぎ爪とガンギ車と呼ばれる歯車(両者を合わせて「脱進機」とも言います)を用いて、外部エネルギーで回転する歯車を振り子の周期に同期させると同時に振り子に振れ続けさせるためのエネルギーを与えて振り子運動を持続させています。なお振り子時計のメカニズムは私のつたない解説よりもネット動画を見ていただく方が一目瞭然と思いますので代表的なものをご紹介しておきます。
    振り子時計が動く仕組みを解説してみた
    脱進機の仕組み

    電子回路で振り子に相当するLC共振器はCとLが静電エネルギーと静磁エネルギーを交換しながら振動します。図3(a)に示すように、キャパシタCに直流電荷をチャージして抵抗Rで放電すると、[sec]後の端子電圧は(式3-1)に示すように指数関数で減少することはよく知られている事象です。


    (式3-1)

    放電回路のRを図3(b)に示すようにLに置き換える、すなわち共振回路にすると端子電圧は(式3-2)で示した周期で正弦波振動を起こします。


    (式3-2)

    但し実際のLには巻き線抵抗や結合損失が生じるので、この振動は持続せず、インダクタの等価直列抵抗で決まる時定数で減衰していきます(厳密にはの損失も加わりますが、が支配的なのでここでは省略しています)。この振動を増幅して共振回路に正帰還(位相を合わせて損失エネルギーを補充)することにより、持続振動にしているのが高周波発振回路です。


    図3 キャパシタの電荷をインダクタで放電したらどうなるか

    次ページは「発振器で生じる雑音」から

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