今更聞けない無線と回路設計の話
2026年9月1日掲載
以上のようなメカニズムで生成されるLO信号なので、そこに重畳される雑音も、これら3つの要素の不完全性に由来します。具体的には図1の吹き出しに記載の通りですが、発振器の3要素との関係に着目して並べ替えると表1に示す通りとなります。

表1 発振回路出力信号の劣化要因
通常、発振回路を構成する増幅器は振幅飽和の状態で動作するので出力振幅は一定に保たれます。このため発振回路出力に含まれる雑音は位相の揺らぎとして観測される「位相雑音」が主体となります(第8話参照)。また表1においてNo2のフロア雑音を除く全ての要因が発振周波数とは全く異なる周波数帯の雑音やスプリアスが発振信号に乗算される、いわゆる変調性の雑音です。今更聞けない無線と回路設計の話【テーマ1】三角関数のかけ算と無線工学の第1話で解説した通り、かけ算で重畳する雑音スペクトルは発振スペクトルを中心に高域側・低域側に対称のスペクトルを有する事から、雑音レベルの定量評価としては片方の帯域(通常は高域側)のみを取り扱えば良く、LO信号の位相雑音のうち片方の側波帯のみを取り出した(取り扱った)ものをSSBノイズと呼びます。なお表1のNo3に記載した電源リプルやスプリアスは図1に示すようにLO信号上でもスプリアススペクトルとして観測されます。これらについては本来発生・混入させてはいけない雑音成分であり、レベルダイヤグラム上で劣化配分する対象ではないので、ここでは解説を省略します。
表1で解説した劣化要因のうち、No3の電源スプリアスを除き、SSB雑音がどのように観測されるかを示したのが図4です。
LO信号の周波数f0は共振器の共振周波数で決定されるため、その位相(周波数)の揺らぎも共振回路の帯域幅で決まります。つまり表1のNo1に示したQの大きさで決まる雑音とは、Qの大きさで決まる共振帯域幅
((式4-1)参照)内の雑音が発振周波数を揺らします。

: 共振帯域の上端周波数
(式4-1)
は共振インピーダンスの-3dB帯域幅を示しており、発振周波数を揺らす雑音レベルは
を雑音フロアとの交点として、-6dB/octの傾斜で
に近づくほど上昇していきます。従って水晶振動子などQの高い共振器を用いた発振器ほど共振帯域幅が狭くなり、その分周波数の揺らぎが小さくなります。なおQについてはMr. Smithとインピーダンスマッチングの話【第13話】~【第15話】に詳しく解説していますので、そちらも併せて参照ください。
表1のNo2に示したトランジスタの雑音のうちフリッカー雑音は、トランジスタが直流~低周波域で発生する雑音によって発振周波数(位相)が揺らぐ結果発生するもので、フロア雑音とフリッカー雑音の電力が等しくなる周波数
を交点として-3dB/octの傾斜で
に近づくほど上昇していきます。実際にスペアナでLO信号を観測した時に見える裾の形状は、
と
の上下関係によって異なり、Qが高い(
<
)の発振器では裾の広がり始めるレベルが低く、傾斜も-3dB/octの領域が多くなるのに対して、Qが低い(
>
)の発振器では裾の広がり始めるレベルが高く、傾斜も-9dB/octの領域が多くなる、場合によっては
を境に-6dB/octの傾斜で広がった裾になります。
第23話では、周波数変換回路(アップコンバータ)で発生する雑音劣化全般の解説の初回として、局部発振(LO)信号について解説しました。LO信号のSNRを良くするためにはQの高い発振器と低雑音のトランジスタを組み合わせることが重要なポイントになります。この結果、必然的にTCXO(温度補償型水晶発振器)やVC-TCXO(周波数可変温度補償型水晶発振器)等、周波数精度の高い発振回路ほどSNRも良くなる傾向が生じます。以下、第23話の要点です。
既にお気づきの事と思いますが、SSBノイズ(位相雑音)は帯域内でレベル一定とはならず、周波数傾斜を持った雑音です。このためレベルダイヤグラムに反映するためには、もう1ステップの下ごしらえが必要になります。次回はこのあたりから解説したいと考えます。
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