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第19回 ハムフェア2019自作品コンテスト奮闘記 【50MHz AMトランシーバーの製作】

JP3DOI 正木潤一

ハムフェア2019の自作品コンテストに、50MHz AMトランシーバーを応募しました。結果から言うと、落選(選外)してしまいました。

しかし、自分なりには力を入れた工作であったし、回路構成などはもしかしたら参考にしていただける部分もあるのではないかと、ここで紹介させていただきます。コンテストは、テーマが指定された“規定部門”と、アマチュア無線に関する機器を広く受け付ける“自由部門”の2部門あり、私は規定部門に応募しました。今年のテーマは『50MHz帯関連機器』でしたので、50MHz帯のトランシーバーを製作しました。当コンテストへ応募するのは初めてでした。

『コンパクト』に収まる“コンパクト”なトランシーバー

歴代の受賞作品は、どれもしっかりした造りでいかにも王道のトランシーバーといった感じです。そんな猛者たちのなかで私が対抗できる手段としては、「何かユニークでインパクトのあるアプローチ」が必要だと考えました。そこで、「小さく作る」ことが好きなので、ユニークな見た目でとことんコンパクトに作ろうと思いました。


<筐体として使ったコンパクト。フタを開けたところに表示器を付け、その下にすべての回路を組み込む。>

PLL回路と送信回路、回路制御用マイコンを載せた基板と、受信回路とLED制御用マイコンを載せた基板の2枚構成です。基板間で各電源や制御信号、高周波信号をやりとりしています。なお、電源にはスマートフォン用のモバイルバッテリーを使います。


<基板構成>

3ヶ月間の製作スケジュール

2019年の3月から回路の検討に入り、4月末に1次審査用書類をJARL送付。5月末に実機を送付するというスケジュールでした。まず、ソフトウエアの大半を占めるPLL制御プログラムの作成に取り掛かりました。そして、50MHz帯のVCOを組んで、マイコンからのシリアルデータでロックを掛けられるようにして、バンド内で任意の周波数を発振させることができるかを確認しました。

次に受信信号と局発信号を混合して中間周波数が生成されていることを確認し、IFフィルタ、IFアンプ、復調回路の順番に動作を確認しながら実装しました。ここで3月が終わりました。

4月に入り、運用周波数を表示する表示器の検討を進めました。ソフトやハードはたいしたことは無いのですが、運用周波数の表示にLEDを25個も使うので、実装して検証するのに時間が掛かりました。4月末、ベース注入方式でAM変調を掛けたところで送受信機として完結したので、1次審査用書類を作成して提出(応募)しました。

ユニークな構想と出来栄えに手前味噌ですが1次審査はパスするだろうと、結果の通知を待たずに2次審査で提出する作品の組み立てに取り掛かりました。もともと被変調信号のベース注入は簡素な方法でしたので、変調が浅く、音質も良くありませんでした。そこで、ダブルバランスドミキサ(DBM)に変更しました。また、マイクアンプを追加しました。

最後に送信増幅回路ですが、「送信回路は局発信号に適当に変調を掛けて増幅するだけで良い」と軽く考えて後回しにしていたのが良くありませんでした。送信局発信号、つまりDBMの出力がベース注入のときよりもかなり小さくなってしまい、段数を増やすかアンプのゲインも上げる必要を生じました。ところが、異常発振が発生してしまい、その対策に追われました。そして6月の始めに、期限ギリギリでなんとか提出しました。そして7月、待ちに待った審査結果がJARLから届き、前述のように選外という通知でした。

回路概要

省スペース化を図るため、シンプルなシングルスーパーヘテロダイン方式とし、ファンクションICを活用して部品点数を抑えました。RFアンプとミキサにはFMラジオ用フロントエンドIC(TA7358AP)を使用し、IF信号の増幅とAM検波にはストレート方式のAMラジオIC(LMF501)を利用しました。LMF501の実用周波数が3MHzまでなので、中間周波数は出来るだけ低い4.5MHzに設定しました。IFフィルタにはアナログTV用の4.5MHzセラミックフィルタを2段に加え、アクティブフィルタを使用しています。1段の中間周波増幅器とLMF501内部での増幅(AGC付き)で実用レベルの感度が得られたと思います。


<ブロック図>


<ユニバーサル基板に実装した回路>

・アンテナ入力部
アンテナの入力部には、50MHz帯域バンド外信号を除去するBPFを入れます。まず、表計算ソフトの設計ツール使って7次チェビシェフ型のLPFとHPFをそれぞれ設計しました。


<フィルタのシミュレーション結果。LPF(左)とHPF(右)。>

次に、基板に部品を実装して単体の特性を測定しました。受信信号はLPF→アンテナスイッチ→HPFを通ってRFアンプに入力されます。送信信号はアンテナスイッチ→LPFを通ってアンテナに入力されます。


<アンテナ入力フィルタの通過特性。LPF(左)、HPF(中央)、LPF+HPF(右)>

・RFアンプとミキサ
RFアンプとミキサは、フロントエンドIC『TA7358AP』内蔵のものをそのまま使いました。このICはFMラジオ用ですが、外付け部品の定数によっては50MHz帯でも使えると思います。BPFからの信号は、50MHz帯に同調させたタンク回路によって選択され、RFアンプで増幅されます。データシートの内部等価図によると、内部のトランジスタのベース、コレクタ、エミッタが、それぞれ②番ピン、③番ピン、①番ピンに対応しているので、外付け素子によって低周波または高周波の増幅回路を構成することができます。RFアンプとしては、ベース共通回路として、後述のマイクアンプはエミッタ共通回路として使っています。


<TA7358AP内部のトランジスタ回路を使った増幅回路>

増幅された信号は内蔵のダブルバランスドミキサー(DBM)にて局発信号(受信周波数 +4.5MHz)と混合して4.5MHzのIF信号に変換します。なお、このICは局部発振回路も内蔵していますが、局発信号は別途作ったVCOから供給しています。

・IF回路
4.5MHzのIF信号はミキサ出力端子のタンク回路でTA7358APから取り出され、2段のセラミックフィルタを通って帯域外信号を取り除きます。

これらのセラミックフィルタはアナログTVのIF用なので通過帯域幅が広く、無線機の用途には適していません。実際、水晶発振回路からの微弱信号を受信して検証したところ、100kHz離れても受信してしまうほどでした。通過帯域の広いフィルタを何段も重ねても、帯域外信号をさらに減衰させることはできますが、通過帯域幅を狭めることはできません。また、4.5MHzの狭帯域フィルタは存在しません。いっそのこと、「運用周波数から離れたところで出ている局を見つけやすい」と主張して、この欠点を誤魔化してしまおうかとも考えました。

 

・狭帯域IFフィルタ
そこで、以前から暖めていた回路を試してみることにしました。これは、ある回路シミュレーターで遊んでいたときに偶然見つけたアクティブフィルタで、1石増幅回路のエミッタ端子にセラミック発振子を接続したものです。一見、発振回路のようにも見えますが、発振子の共振周波数を中心に持つ、極めて急峻なバンドパス・フィルタになります。おそらく圧電子の振動モードが関係していると思われますが、水晶発振子ではフィルタになりません。


<トランジスタとセラミック発振子を使ったアクティブフィルタ。>

発振子に対して直列に入れたトリマーコンデンサを調整して通過周波数を4.5MHzちょうどに合わせ、約5dB の利得を得ると同時に、IF帯域外信号を約20dB減衰させています。このフィルタにより通過帯域が狭められ、近接波を受信しなくなりました。


<通過特性。トラッキングジェネレーターから-20dBm の信号を入力したときの波形>

ちなみに、私の周りのOMの方でこの回路を知っている人は居ませんでしたので、「ひょっとしたら特許を取れるかも」と思い、ある機関に調査をお願いしました。その結果、昭和49年に当時の松下電器がすでに同様の回路を特許出願していたことが判明しました。

・IFアンプとAM検波
フィルタを通過したIF信号は1段の増幅回路で増幅され、AM検波をおこなう『LMF501』に入力します。LMF501は、ストレート方式のAMラジオICで、3段の増幅回路とトランジスタ検波回路、AGC回路を内蔵しています。データシートによると使用周波数は3MHzまでですが、ゲインが70dBもあるので、4.5MHzでも実用になると思います。また、LMF501の出力の直流分は信号強度に比例しているようなので、DCアンプを介してマイコンのA/Dポートに入力し、LEDの点滅によって信号強度を表しています。

・AFアンプ
AFアンプICを実装するスペースも残っていないので、1石のAF増幅回路で済ませました。受信音はイヤホンで聴きます。出力にBEFを付けて受信を聞き取りやすくしています。

<補足>

私の住んでいる地域では、6mバンドでの交信はほとんどがSSB(USB)で、たまにFMでの交信がある程度です。
AM波を受信する機会はほぼありません。トランシーバーの製作中、私は50.550MHzと50.620MHzの水晶を使った発振回路をそれぞれ作り、それらにトーンを乗せて受信回路用の信号源として使っていました。ある日、偶然にもAMでの交信を受信できたので、復調音ができるだけキレイに聞こえるようにAFフィルタを付けました。QSOが終わってしまわないうちに、手早くいろんな定数でBPFとBEFを試してみました。結果、BEFのほうが聞き取りやすいと感じました。

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次号は 12月 1日(木) に公開予定

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