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第31回 IC-705のワイヤレスリモコン(Bluetooth解説編)

JP3DOI 正木潤一

前回6月号ではID-52やID-51を手元でリモート制御するスピーカーマイクを製作しました。リグ本体に触れずにQRVできるのは本当に便利です。ところで、元々小型なV/Uハンディー機だけでなくHFポータブル機も手軽にQRVしたいですね。むしろ、手で持って運用できないポータブル機のほうが、手元の操作だけで運用できるメリットが大きいです。かつてのIC-703のように、リグを背中のバッグに入れたまま、マンパック運用出来たら便利で楽しそうです。


かつてのIC-703と同じコンセプトをIC-705で実現させたい! (画像はアイコム公式サイトより)

コンパクトで、しかもバッテリーパックで動作するIC-705は、IC-703よりもマンパック運用に向いています。IC-705にはオプションの専用バッグが用意されていますが、QRVするにはバッグを置いてリグを操作する必要があります。IC-703のように手元でコントロールできれば、背中に背負ったまま6mやHFバンドもQRVできます。リモート操作ならば画面をOFFにしてバッテリーを節約できます。

今回は前編と後編に分けて『IC-705ワイヤレスリモコン』の製作をご紹介します。

IC-705のCI-Vコントロール

IC-705はUSBかBluetoothを介してCI-V制御できます。ハンディー機や固定機にあるようなCI-V用コネクタはありません。パソコンとUSBケーブルで接続したり、タブレット端末やノートパソコンとBluetoothでワイヤレス接続したりできます。今回製作するIC-705リモコンはBluetoothで接続します。

ご存知のように、Bluetoothは近距離通信用の無線規格で、ワイヤレスイヤホンやマウスなどに多く使われています。Bluetoothには用途ごとに「プロファイル」と呼ばれるさまざまな通信タイプが用意されています。CI-Vはシリアルデータ通信なので、“SPP”というプロファイルでIC-705へコマンドを送信します。

今回使用するBluetoothモジュールは、SPPプロファイルに対応したMicrochip社の『RN42』シリーズです。同社のPICマイコンを使うので、同じメーカーの製品を採用しました。私は秋月電子通商で入手しました。


SPPプロファイル(シリアルデータ通信)に対応したBluetoothモジュール『RN42』 (秋月電子通商のサイトより)

上記の製品以外にも、Bluetoothモジュール単体や、変換基板に実装された物もあります。PCとUSBケーブルで接続して設定でき、USBコネクタが実装された物がお勧めです。ただ、使われているモジュール自体は同じなので、入手性や自分にとっての使いやすさで選んでください。


Bluetoothモジュールの例。USBコネクタ付きの物(右端)を使うのがお手軽

Bluetoothモジュールの使い方

Bluetoothモジュールを入手したら、試しにIC-705とペアリングさせてみましょう。モジュールに電源(3V)を入れるとIC-705に認識され、ペアリング済みのデバイスの一覧に現れます。接続を試みて成功するか確認しましょう。


シリアル通信用Bluetoothモジュール(RNBT-8914)がIC-705と接続している様子
(画面の「(接続中)」とは、“接続を試みている途中”という意味ではなく“接続済み”という意味)

もちろん、このままでは何もできません。マイコンからCI-VコマンドをBluetoothモジュールに入力する必要があります。IC-705にCI-Vコマンドを送るには、マイコンのUARTポートからのCI-Vコマンド(シリアルデータ)をBluetoothモジュールのRXポートに入力します。すると、無線でIC-705に入力されます。そのため、Bluetoothモジュール側のUARTポート設定が必要です。

今回使用する『RN42』は、モジュールに特殊なコマンドを送ることで設定を変更できるようになっています。Bluetoothモジュールをパソコンに接続し、シリアル通信ソフトを使って設定コマンドを送ることでUART通信のボーレートを変更します。私は無料のシリアル通信ソフト『SerialDebugger』を使いました。

なお、USBコネクタのないBluetoothモジュールを使う場合は、モジュールを設定用のパソコンとペアリングさせてBluetooth接続させる必要があります。


パソコンとモジュールをBluetooth接続させた様子。COMポートとして認識されている

Bluetoothモジュールのデフォルトのシリアル通信設定はこのようになっています。
・ボーレート=115200bps ←これを変更する
・8データビット
・パリティー無し
・ストップビット=1
・フロー制御無し

ごく一般的な初期設定ですので、必要な変更はボーレートを4800bpsに変えるだけです。なお、IC-705側はボーレートを設定する必要はありません。


シリアル通信の設定について。『RN42』のマニュアルより

ボーレートを変更するため、まずはモジュールを『コマンドモード』に切り替えます。コマンド入力がややこしいのですが、必要な操作は少しだけです。

シリアル通信ソフトから“$”という文字を3つ、16進数の文字コード(24)でモジュールに送信します。文字コードを扱うので回りくどいですが、エディタ画面の右側には入力した文字コードに対応する文字が表示されますので、入力が間違っていないか確認できます。

送信データエディタ上で“24 24 24”とタイプして『データ送信』アイコン*をクリックします。
*:←データ送信アイコン


24 24 24 (“$$$”の文字コード)を入力してモジュールへ送信した様子

すると、モジュールからの返答として“cmd..”が返ってきます。基板付きモジュールの場合は基板上のLEDの点滅が速く(10Hz)なります。これで『コマンドモード』にアクセスできました。

まず、モジュールの初期設定を確認してみましょう。送信データエディタ上で“78 0A”とタイプして『データ送信』アイコンをクリックします。


設定一覧表示コマンド 78 0A (“x.”の文字コード)を入力してモジュールへ送信した結果

設定一覧が表示されました。

次に、コマンドの一覧を表示させてみましょう。送信データエディタ上で“68 0A”とタイプして『データ送信』アイコンをクリックします。


コマンド一覧コマンド 68 0A (“h.”の文字コード)を入力してモジュールへ送信した結果

コマンドの一覧が表示されました。

『ボーレート設定コマンド』“SU,”に続けて、設定したいボーレートの最初の2文字をタイプします。


ボーレートを設定するコマンド“SU,” (=53 55 2C)

4800bpsに設定するので、“53 55 2C 34 38”(=“SU,48”)とタイプして『データ送信』アイコンをクリックします。

以上で設定の変更は完了です。Bluetoothモジュールの電源を一旦切り、再び電源を入れると変更が反映されています。前述の設定一覧表示コマンド“78 0A”でボーレートの変更が適用されていることを確認したらOKです。これでマイコンからCI-VデータをBluetoothモジュールを介してIC-705に送信できるようになりました。

リモコンの仕様

前編の最後にリモコンの仕様と製作中の様子をご紹介します。実際の製作や使用感については後編でご紹介します。

結局のところ、IC-705とのCI-Vの通信部分をワイヤレス化するだけなので、マイコンのプログラミング自体は2022年6月号の『多機能スピーカーマイク』と基本的に変わりません。もちろんID-52/ID-51とIC-705とではCI-Vコマンドが異なりますし、HFバンドやSSBモードにも対応させたいので、マイコンのプログラムは新たに作成します。今回は搭載機能が多いので、プログラムメモリーやポートの多い『PIC16F18325』を使います。


PIC16F18325のポート割り当て
リモコンの仕様を決めて必要な入出力ポートを割り当てる

オールモード機IC-705用リモコンですから、前回の『多機能スピーカーマイク』から大幅に機能を増やします。

対応機能:
・周波数設定(1kHz、5kHz、10kHz、50kHz、100kHzステップ)
・10Hzステップでチューニング可能(SSB、CWモードへの対応)
・バンド切り替え(7MHzから430MHzまで10バンド対応)
・モード設定(SSB、CW、AM、FM、FM-N、DV)
・音量設定
・スケルチレベル設定
・送信出力設定
・マイクゲイン設定
・モニター機能(スケルチ強制オープン)
・バンドごとに運用周波数、モード、TS、マイクゲインを記憶

今回、IC-705本体には無い機能を搭載させることにこだわりました。

まず、バンドごとにマイクゲインを設定・保存できるようにします。運用バンドやモードなどによってマイクゲインを変えますが、別のバンドに移動した後そのままになることを防ぎます。

また、送信出力が常に表示されるようにします。低出力に設定したことを忘れたまま空振りのCQを繰り返すといった、ことを防ぎます(実体験より)。

また、機能の向上に伴ってLCDを大型化します。前回は8文字×2行のLCDを使いましたが、今回は16文字×2行のLCDを使います。これで表示できる情報量が2倍になります。


ブレッドボード上でソフト開発中の様子

最後に(次回へ続く)

今回はBluetoothモジュールを使ってシリアル通信をするための設定をご紹介しました。Bluetoothが使われた製品を利用することは多くとも、いざ自分で使うとなると敷居が高く感じます。しかし、シリアル通信用Bluetoothモジュールの働きとしては、機器間でデータを橋渡しするだけです。ネックなのは、日本語のデータシートが用意されていないという言葉の壁や、多少のソフトウェア(プログラミング)関連の知識が求められることだと思います。インターネットでは記事や動画が結構見つかります。一つ一つの情報が完結したものでなくとも、断片を集めていけば少しずつ解決に近づけます。

さて、次回は製作編ということで実際にリモコンを作る様子をご紹介します。ソフトのソースファイルも公開しますので、それをマイコンに書き込んで回路を組むだけで作っていただけるようにします。

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次号は 12月 1日(木) に公開予定

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