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今更聞けない無線と回路設計の話

【テーマ1】三角関数のかけ算と無線工学
第2話 周波数変換とミキサ(混合)回路

濱田 倫一

第1話では無線通信機の内部ではサイン波のかけ算が多用されていること、周波数の異なる2つのサイン波を掛け合わせると、三角関数の加法定理に従って、両者の周波数の和の周波数と差の周波数のサイン波が生成されることを解説しました。三角関数の加法定理にはもう少し触れたいのですが、高校数学の講座みたいで楽しくないと思いますので、先に実際の周波数変換回路についてお話ししようと思います。説明するまでもないと思いますが、周波数変換回路では第1話で解説した原理に基づき、送信信号や受信信号(何れもサイン波の束)と局部発振信号(サイン波)をかけ算して所望の周波数に変換しています。

1. Mixing(混合)したらかけ算できるのか?

図1はFB NEWS編集部にお願いして入手・ご提供頂いたアマチュア無線機 アイコムIC-25の系統図からの抜粋です。筆者が学生時代に憧れたリグの1つなので、随分と昔の機種ですが系統図のわかりやすさに配慮して選んでいただきました。図1では、実際にかけ算をして周波数変換をしているブロックを赤枠で囲み、入出力の周波数関係が判るように加筆しました。


図1  アマチュア無線機の送受信系統図((アイコムIC-25))

赤枠で囲ったブロックは何れも「混合」と書かれています。どこの無線機の系統図を見ても「周波数変換」ブロックは「混合」または「MIX」と表記されているケースが殆どです。恐らく無線局免許手続規則に掲載された工事設計書の作成例にならっているケースが多い為だと思います。

ちなみにこのトランシーバでは送信側は1回、受信側は2回周波数変換を行っていて、送信の周波数変換は受信の高周波側(図1では“1st”と表記)を共用しています。この為1stの周波数変換には入出力の方向性が生じないダイオードミキサ、受信専用の2ndの周波数変換には利得が稼げるトランジスタ増幅器を使用したミキサが採用されています(使い分けの理由は他にもありますが、それは追々お話しさせて頂きます)。さて、第1話では「かけ算」と言っておきながら、第2話では何の断りもなく「混合」、「ミキサ」という回路名称に置き換わってしまいました。はてさて2つのサイン波を混ぜ合わせたらかけ算したことになるのでしょうか?

残念ながら図2に示すように、2つのサイン波を単純に混ぜ合わせただけではかけ算ではなく足し算なので、第1話で解説したような2波の和、差の周波数は現れません。混ぜ合わせた信号を単純に増幅しても結果は同じです。


図2 2つのサイン波を混ぜ合わせても・・・

ミキサという回路名称には歴史があって、今更呼び方を変えましょう等と言うつもりはないのですが、周波数を変換するためには、2つの信号を「混合(Mixing)」した後にもう1つ操作(処理)が必要です。無線従事者国家試験の無線工学の教科書等には、2つの信号をかけ算するには「増幅素子の非線形性を利用する」と書かれています。実は高周波のアナログ回路で2つの信号を数式通りに掛け合わせるのは簡単ではありません。「乗算回路」で数式通りかけ算するのではなく、混ぜ合わせた信号を回路の非線形特性で歪ませて、生成される歪み成分の中からかけ算成分をフィルタで抽出しています。

2. 非線形特性とはどんな特性か?

非線形特性とは「入出力の比率が入力の大きさで変化する特性」を言います。非線形特性で最も知られているのは2乗特性、あるいは指数特性ではないかと思います。2乗特性はFETの飽和ドレイン電流領域(ドレイン電流がゲート電圧の関数になる領域)におけるVGS−ID特性が有名です。また半導体のPN接合を流れる電流の大きさは接合部電圧の指数関数になることが知られています。これらは何れも電圧-電流特性ですが、伝達関数として捉えた場合は「入力(電圧)と出力(電流)の比率が入力(電圧)の大きさで変化する特性」です。図3に伝達関数として捉えた場合のイメージと意味合いを示します。


図3 線形特性と非線形特性

図3の左のグラフは(増幅器などの)入出力特性を示します。先程のFETで言えば横軸: 入力(𝑥)がVGS[V]で縦軸: 出力(𝑦)がID[A]に該当します。線形(Linear)の回路・デバイスにおいては入力と出力の関係を示すグラフは常に直線になります(線形と言われる所以です)。これに対して非線形(Non-linear)の回路・デバイスにおいては入力と出力の関係を示すグラフは直線になりません。別の見方をすると図3の右のグラフに示すように、線形の回路・デバイスの伝達関数は入力の大きさに関係なく一定ですが、非線形の回路・デバイスの伝達関数は入力の大きさで変化する・・・ すなわち入力の関数になっています。つまり伝達関数を𝐺とおいたとき、出力𝑦は y=Gx ですが、非線形の回路・デバイスでは G=Gx なので出力𝑦は(式2-1)のようになります。


(式2-1)

𝑥の関数に𝑥を掛けるので、伝達関数G(𝑥)がどのような関数であっても出力𝑦には𝑥nの項が含まれる事になります。ミキサ(混合回路)の入力信号𝑥は、周波数の異なる2つのサイン波を混合(足し算)したものでしたので、


(式2-2)

伝達関数に𝑥2の項が含まれていたとすると


(式2-3)

なので、出力𝑦には2つのサイン波がかけ算された成分 “2 cosω1t∙cosω2t” が含まれる事になります。図2に示した合成波形を指数特性(模擬関数)で歪ませた結果を図4に示します。

非線形回路を通過した結果、第1話の図3と形は違いますが、周期的な振幅の強弱が発生しています。この波形をExcel※6でフーリエ変換(FFT)した結果が図5※1です。


図4 歪ませるとビート成分が発生する(増幅器の伝達関数が指数関数の場合)


図5 図4の各グラフを周波数領域に変換した結果

非線形増幅の伝達関数は純粋なかけ算と違い多項式になるため、𝑓1+𝑓2、𝑓1-𝑓2以外に、DC成分、元の周波数成分𝑓1、𝑓2とそれらの高調波、さらに高次の乗算成分が多数生成されます。なおDC成分は電圧振幅が+側電位に偏った(平均値が0にならない)波形になっている結果、観測されるものです。アナログのミキサ回路ではこの中から所望の成分(𝑓1+𝑓2または𝑓1-𝑓2)をフィルタで抽出しています。従って得られる振幅は三角関数の加法定理で算出される元の振幅の1/2にはならず、もっと小さな値になります。「Mixer」という名称ですが、2つの信号を混ぜるというよりは2つの信号を非線形特性で歪ませているといった方が正確だと思います(歪んだ結果、混じるのだという解釈もあります)。

3. 回路シミュレータで模擬してみる

ここまでの解説で原理的なイメージは掴んでいただけたと思います。最後に回路シミュレータを利用してトランジスタ増幅器で同じ事をやるとどんな波形になるのかを見てみることにします。近年Spiceベース、あるいはSpice互換の回路シミュレータが無償で提供されるようになっていて、アマチュアの方でも手軽に利用できるようになりました。世間ではLTSpice(アナログデバイセズ社が提供)※2、PSPICE FOR TI(テキサスインスツルメンツ社が提供)※3あたりがメジャーですが、私は昔からMicroCapに慣れているので、MC12※4でシミュレートした結果でご説明します。

2章で解説した非線形増幅器の伝達関数は、図6左のグラフに示すように入出力共電圧の関数でしたが、トランジスタの場合は図6右のグラフに示すように出力がコレクタ電流で定義されます。


図6 図5で使用した模擬アンプとトランジスタ増幅器の違い

このため出力端子に電圧を取り出す為には図7に示すように負荷抵抗R1を接続して電圧降下を発生させます。VB対VCのグラフ(水色)は、VB対ICのグラフ(赤色)を上下逆にしたような形になり、入力電圧が上昇すると、出力電圧が減少する・・・ マイナスの伝達関数となります。


図7 トランジスタ増幅器回路の電圧伝達特性(電圧利得)

図7の回路に𝑓1(10MHz)、𝑓2(1MHz)の2つの信号を混ぜ合わせて入力したときの応答を図8に示します。図8の回路図中、V1が𝑓1(10MHz)、V2が𝑓2(1MHz)に該当します。電圧振幅は何れも0.5Vpeakです。一般的なベース注入型のトランジスタミキサの場合、信号の合成はGNDを共通にする為、電流源の並列接続として設計されるのですが、結果の理解しやすさを優先して定電圧源の直列接続としています。また理想定電圧源(内部インピーダンス=0Ω)なので、インピーダンスマッチングも省略しています。図8①のグラフの赤い波形が直列に接続した2つの電圧源の端子電圧(𝑓1+𝑓2)で、R6(100kΩ)の直列抵抗を介してQ1のベースに入力されます。Q1のベースの電圧は図8①の黄色の波形に示すように、VBE<0.5VではOFFなので電流が流れないのでR6で電圧降下は発生せず、電圧源の端子電圧がそのまま観測されますが、VBE>0.5Vではベース-エミッタ間がONになって電流が流れるので、R6で電圧降下が発生し、クリップされたような波形になります。つまりこの時点で非線形処理が行われて𝑓1×𝑓2の成分が生成されます。Q1はこの波形を図8②の利得のプロットに従って増幅するので、コレクタ端子には図8③に示すような電圧波形が現れます。ちょうど図4の非線形増幅出力波形を位相反転したような波形になっている事がお解り頂けると思います。図8④はこれをフーリエ解析したグラフで、図5の非線形増幅出力グラフと同様、𝑓1+𝑓2、𝑓1-𝑓2以外に、DC成分、元の周波数成分𝑓1、 𝑓2とそれらの高調波、さらに高次の乗算成分が多数生成されています。


図8 トランジスタミキサの動作波形

4. 第2話のまとめ

第2話では「周波数変換回路」の実現手段の一つである「トランジスタミキサ」の動作原理について解説しました。以下、要点を整理します。

  • ① サイン波を単純に混ぜ合わせて増幅しても周波数は変換されない。
  • ② 𝑓1、 𝑓2 2つのサイン波を同時に非線形増幅することで、𝑓1+𝑓2成分、𝑓1-𝑓2成分、DC成分、元の周波数成分𝑓1、 𝑓2とそれらの高調波、さらに高次の乗算成分が生成される。ここからかけ算された成分(𝑓1+𝑓2成分、または𝑓1-𝑓2成分)をフィルタで抽出するのがアナログミキサの考え方である。
  • ③ 非線形増幅とは、伝達関数(利得)が入力信号の関数になっている。平たく言うと入力電圧の大きさで利得が変化する増幅の事である。

  • 教科書の中では「サイン波のかけ算」だと簡単に整理されていますが、実際の回路では随分苦労してかけ算相当の動作をしていると言うことがお解り頂けたかと思います。

    実は今回ご説明したような回路構成のミキサは、最近ではあまり使用されません。それはダイナミックレンジが小さいと言う理由によります。ダイナミックレンジと言うと回路の振幅直線性を表す言葉なので、非線形増幅の直線性って何だ? という事になりますね。次回はそのあたりのお話を中心に、引き続き周波数変換回路のお話をさせて頂きます。

    ※1: Excel※6でFFT解析を行う方法については下記URL等を参考にしてください。
    https://gijyutsu-keisan.com/excel/addin/fourier/fourier.php
    今回も図4、図5として掲載したグラフの作図に使用したExcel※6ワークシートをダウンロード※5できるようにして貰いますので、併せて参考にしてください。なおExcel※6のFFTは解析ツールなので、セルに計算式が残りません。ご了承ください。
    ※2: LTSpiceのダウンロードは以下URLを参照
    https://www.analog.com/jp/design-center/design-tools-and-calculators/ltspice-simulator.html
    ※3: PSPICE-FOR-TIのダウンロードは以下URLを参照
    https://www.ti.com/tool/ja-jp/PSPICE-FOR-TI
    ※4: MicroCap12のダウンロードは以下URL参照
    http://www.spectrum-soft.com/download/download.shtm
    ※5: ダウンロードされたExcelシートに関するご質問についてはご容赦ください。これらExcelシートの内容に関する知的財産権その他一切の権利は筆者濱田倫一に帰属します。月刊FB NEWS編集部は筆者濱田倫一の許可を得て本件記事を掲載しております。また筆者、ならびに月刊FB NEWS編集部は、これらExcelシートの二次使用に伴う一切の責任を負いませんので、あらかじめご了承ください。
    ※6: Excelは米国マイクロソフト社の商標です。

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