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Mr. Smithとインピーダンスマッチングの話

【第29話】 低雑音増幅器(LNA)のインピーダンスマッチング(その4・ノイズパラメータ)

濱田 倫一

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第28話ではノイズパラメータの中身には触れずに、とりあえずNFマッチについてご紹介しました。使い方は判って頂けたと思うので、今月はノイズパラメータとは何か・・・について解説します。少々退屈な話になるかもしれませんが、お付き合いください。

1. Rnって結局・・・何?

第28話の復習になりますが、ノイズパラメータとは以下の3つのパラメータから構成されるものでした。
①NF、またはFmin: そのデバイスの最小雑音指数[dB]
②ΓOPT: Fminとなる信号源インピーダンス
③Rn: 等価雑音抵抗[Ω]

このうち①と②については第28話の中で取り上げましたので、その使い方はお判り頂けたと思います。一方で等価雑音抵抗Rnについては全く触れませんでした。LNAを設計する際、反射損失の影響なく信号源インピーダンスをΓOPTに変換することができて、かつトランジスタが安定動作すれば何ら問題ないのですが、信号源インピーダンスをΓOPTに変換することが困難な場合にRnは重要なパラメータとなります。Rnを知る為には雑音の等価回路を知る必要があります。

図1は第26話第27話で繰り返し登場している、増幅器の雑音指数(NF)の概念図です。既にご説明したとおり低雑音増幅器(LNA)で取り扱う雑音は、信号源に含まれる雑音(図ではNth)と増幅器が付加する雑音(図ではNa)に分類されます。


図1 雑音の概念(第26話の図5から再掲)

Nthは熱雑音なので平均電力kTB (kはボルツマン定数、Tは絶対温度、Bは帯域幅)の大きさを持つものでした。Naはトランジスタの場合ショット雑音が主体で、その大きさは雑音指数NFという諸元で表現されるとご説明しました。トランジスタがどれだけの雑音を発生するのかについては、ここまでの概念で充分なのですが、回路設計の観点で実際にNaを小さくしたいと思ったときは、もう少し踏み込んで理解する必要があります。

信号源や増幅器で発生する雑音電力が増幅器の出力信号のSNRにどれだけ影響するかを知る為には各雑音源を「電源」として捉え、それらのインピーダンスを知る必要があります。図1において、Nthは信号源インピーダンスZSの両端に観測される雑音電圧なので、これを電源と見なした場合のインピーダンスはZSとなります。ではNaはどのように考えれば良いでしょうか。まずNaの等価回路の基本的な考え方を図2に示します。


図2 雑音を有する増幅器の等価回路(図1からの置き換え)

図2においてA、Bと書かれたポイントは図1のA、Bと同一箇所です。入出力の線形性が担保される条件下では、トランジスタ(増幅器)はノイズレスの2ポート(4端子)回路網と、その入力に縦続接続された雑音源(相関のある雑音電圧源と雑音電流源の組み合わせ→これも2ポート回路網)に置き換えることが可能です。図2では、”Noise less 2port network”がノイズレスのトランジスタの特性を表し、その入力端子に等価雑音源Naが接続されています。実際のトランジスタは、その内部で雑音を発生するわけですが、その全てを入力側に接続された電圧源、電流源に置き換えて表現しています(故に「等価」と書かれています)。なお、雑音電圧と信号電圧を区別するため、本図以降、雑音電圧の記号にはuを用います。また雑音電力は広い周波数帯域に分布するため、通常は電力密度(帯域幅1Hzあたりの電力)で表されます。これに対してSNRの定義で使用する雑音電力は、信号の周波数帯域に存在する雑音電力の事なので、図2に示した等価雑音電圧源、等価雑音電流源の記号には信号Sの帯域内の雑音電圧、電流という趣旨で添字"Δf"の添字をつけています。

ちなみに「入出力の線形性が担保される条件」とはどういうことでしょうか。増幅素子のSパラメータは、その素子の動作点(トランジスタの場合はコレクタ電流ICの値)に依存して変化します(→第16話参照)。つまり非線形性を有しているのですが、Sパラメータを用いて整合回路の設計を行う時は、ある動作点において小信号動作(→第24話参照)している条件・・・つまり取り扱う信号の影響で素子の動作点が動かないと見なせる条件・・・であれば、線形等価回路に置き換えて考えても差し支えないという前提で、線形回路として取り扱いました。

増幅素子のNF(すなわちNaの大きさ)もこれと同様で、素子の動作点(トランジスタの場合はコレクタ電流ICの値)に依存して変化しますが、LNAは小信号増幅回路であり、素子の動作点は入力信号の振幅で変化しないという前提条件の下、雑音等価回路は線形動作すると考える・・・と言うことです。図2の増幅器部分(A~B間)のみを切り出したのが図3です。これを雑音等価回路と呼びます。


図3 等価雑音源とノイズレスの2ポート回路網(雑音等価回路)

ここでFはノイズレスの2ポート回路網の特性を規定するFパラメータ(第10話参照)です。4端子パラメータであれば良いので、yパラメータやhパラメータでも構いませんが、雑音の議論においては電圧源・電流源でNaの等価回路を記述しており、電圧/電流の議論をすることになるので、Sパラメータでは不便です。この回路の入出力特性は(式1-1)で規定されます。


(式1-1)

連立方程式の形に書き換えると(式1-2)のようになります。右辺の第1項と第2項がノイズレスの2ポート回路網(デバイス)の電圧・電流に関わる項、第3項が雑音電圧・電流に関わる項です。


(式1-2)

このように増幅器の内部雑音を外出しにして別の2ポート回路網に置き換える事で、デバイスの特性パラメータ(ノイズレスの2ポート回路網)はNF計算に関係しなくなります。従って、最終的にはNFを考察するときは、図1の回路を図4の回路に置き換えて考えてもよいことになります。


図4 雑音等価回路を簡略化する。

図4は、この後の展開を考慮して、電圧表記の等価回路と電流表記の等価回路の両方を掲載しました。また入力熱雑音NthはZSとugΔf、またはYSとigΔfの組み合わせに置き替えて、信号源Sは記載を省略しています。まず図4(a)の等価回路で考察します。等価回路の入力には信号源インピーダンスZS(電流表記では、信号源アドミッタンスYS)が接続されていますが、この素子がノイズレスだと仮定(この素子だけ絶対0度に冷えていると仮定)します。また、出力にはノイズレスの2ポート回路網が接続される訳ですが、これも一旦開放状態(電流表記では短絡状態)で考察します。この時の等価回路(a)の出力雑音電圧(瞬時値)(電流表記では出力雑音電流(瞬時値))がu2[V](電流表記ではi2[A])であったとすると、(b)に示すように信号源インピーダンスZSの両端に熱雑音電圧ugΔfが観測される状態(電流表記では信号源アドミッタンスYSに熱雑音電流igΔfが観測される状態)においては、雑音等価回路の出力電圧はu2+ugΔf[V](電流表記では出力電流はi2+igΔf[A])になります。増幅器の雑音指数(NF)は、入出力信号電力をそれぞれSi,SO、入出力雑音電力をそれぞれNi,NOとすると


(式1-3)

でした(第26話の(式5-1)参照)。ここでGpは回路網(デバイス)の電力利得ですが、今考察している等価雑音源の通過利得は1ですから、


(式1-4)

となります。後段の2ポート回路網がノイズレスなら入力インピーダンスがどのような値であっても|u2|2の|ugΔf|2に対する比(電流表記では|ig|2の|igΔf|2に対する比)は不変になります。

話をNaの等価雑音源回路網の話に戻します。実際にはuΔfとiΔfには相関があるため(式1-2)を扱うときはuΔfiΔfの相関関数Cを考慮する必要がありますが、ここでは回路として考察しやすくするために、iΔfを図5の左側に示すようにuΔfと相関のあるiCΔfと相関のないinΔfに分けます。

そしてiCΔfについては図5の右側に示すように、両者の相関関係を表すアドミッタンスYCを定義(式1-5)して、これとinΔfの組み合わせで表現します。


(式1-5)

なお、図5において出力側に-YCが挿入されているのは、u∆f=u1-u2 の関係にあるためです。


図5 uiの相関関数を相関コンダクタンスYCに置き換え

最後にuΔfinΔfを熱雑音を伴う抵抗、すなわち等価雑音抵抗Rn(式1-6)と熱雑音を伴うコンダクタンス、すなわち等価雑音コンダクタンスGn(式1-7)に置き換えると、Naの等価回路が完成します(図6)。


(式1-6)


(式1-7)


図6 uiを等価雑音抵抗と等価雑音コンダクタンスに置き換え

ようやく等価雑音抵抗Rnが登場しました。デバイスのデータシートにはRnしか掲載されませんが、一般化された雑音等価回路では、Rn,Gn,YCがセットで内部雑音電圧/電流の大きさを表すパラメータとなっています。

2. 雑音等価回路とNFの関係

雑音等価回路が定まったので、続いてNFとRn,Gn,YCの関係を整理します。雑音等価回路においては、NFは(式1-4)で定義されます。これを図5、図6の等価回路に当てはめる為には、i2(またはu2)を知る必要があります。i2は最終的に図7に青と黄色の網掛けで示した経路の電流の和になります。従って、


(式2-1)

またi2の2乗平均値は


(式2-2)

となります。


図7 i2の内訳

この関係を(式1-4)に当てはめると、NFは(式2-3)のようRn,Gn,YCで表現できます。


(式2-3)

ここで、BS+BC=0すなわちBS=-BCの関係とすることができれば(式2-3)は(式2-4)となり、


(式2-4)

この時の、NFを最小にするGSの値GS OPTは(式2-5)に示す通りとなります。


(式2-5)

従って、NF最小の信号源反射係数ΓOPTは(式2-5)とその算出条件から(式2-6)、(式2-7)で求められます。


(式2-6)


(式2-7)

そして、信号源インピーダンスがΓOPTの時のNFすなわちFmin


(式2-8)

故にGn,YCはYS OPT=GS OPT+jBS OPTとおくと、


(式2-9)


(式2-10)

となり、ΓOPT、Fmin、Rnが求まればNaを構成する残りのノイズパラメータGn、YCは導出することができます。

ここまで説明して、お気づきになられた方もおられると思いますが、これらノイズパラメータを導出する過程においては、デバイスの入力インピーダンス(S11、yie、またはhie)は一切登場しません。つまりNF最小となる整合条件はデバイスの入力インピーダンスとは関係なく、等価雑音電圧源のインピーダンスZn、等価雑音電流源のアドミタンスYnと信号源インピーダンスの関係のみで決定されます。この結果、第28話でご説明した通りNF最小の整合条件は電力整合の条件(Zin=S11*)とは必ずしも一致しない(基本的に一致しない)事になります。

3. 第29話のまとめ

第29話では雑音等価回路とノイズパラメータの関係をご説明しました。面倒くさい計算が延々と続いて辟易とされた方もおられると思います。面倒なプロセスでしたが、これでノイズパラメータの使い方を説明するお膳立てが完了しました。次回はノイズパラメータを使って増幅回路のNFを見積もるツール「定NF円」について解説します。以下、第29話の要点です。

(1) NFが最小になる入力整合条件と電力利得が最大になる電力整合の条件は基本的に一致しない。
(2) 増幅デバイスが発する雑音は「雑音等価回路」と呼ばれる線形等価回路に置換えて、これがノイズレスの増幅器の入力に接続されたものとして取り扱う。
(3) 雑音起電力は、電圧源、電流源共に4kTBとなるため、等価回路上において雑音源は、電圧源の場合は抵抗に、電流源の場合はコンダクタンスに置き換える事が可能である。
(4) 等価雑音抵抗Rnとは、デバイスが発生する雑音(Na)をそのデバイスの入力に雑音源が接続されたと想定した4端子回路網(雑音等価回路)で表現したときの雑音電圧源を抵抗に置き換えたものである。
(5) 雑音等価回路のパラメータにはRn以外に等価雑音コンダクタンスGn、等価雑音源相関アドミッタンスYCが存在するが、これらはRn、ΓOPT、Fminから導出することができる。

第29話は以下の文献を参考にさせて頂きました。
A.Ambrózy著 高木 相, 越後 宏 訳 電子ノイズ pp.115-128 啓学出版 1988
Christian Gentili Microwave Amplifiers and Oscillators pp.47-52 McGraw-Hill 1987

【お知らせ】
この度、Mr.Smith ver4.1をアップデートしました。バグ修正のみですので認証キーを既にご購入頂いた方は再度購入頂く変更はありません。Vectorよりダウンロードしてご利用ください
https://www.vector.co.jp/soft/winnt/business/se521255.html

新しいバージョンでは以下の不具合を解消/改善しています。
・周波数点数の多いマーカーをクリップボードからペーストした際にエラーが発生する問題を修正
・smtファイルをダブルクリックして起動したときにエラーになる事象を改善
・csvファイルをロードしたあと、上書き保存すると元のcsvファイルを壊す問題を解消
・マウス右クリックで表示されるコンテキストメニューの一部が動作しない問題を修正
最新のバージョンはver.4.1.2.37となります。

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