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FBのトレビア

第二十二回 SHF帯のフレネルゾーンについて

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Dr. FB

5Gと5GHz

テレビや新聞の報道で5Gが脚光を浴びています。この5G、周波数を表す5GHzの意味ではありません。5Gとは、Fifth(5th) Generationの略です。要は第一世代の移動体通信システムから始まり、5Gは5番目の移動体通信システムを意味します。5Gでは大容量の高速通信が可能になることから、いろいろな分野でその応用が期待されています。

Dr. FBは、アマチュア無線家であることから、5Gのその応用範囲よりむしろ電波のことが気になります。5Gの製品が出てくることで、それに関わる民生品のSHF帯のコンポーネンツも比較的簡単に手に入る時代になってくるものと思います。その昔、430MHzから1200MHzに上がってきたように、1200MHzから2400MHz、さらには5600MHzと比較的簡単に上がることができる時代になるかも知れません。5Gは、SHF帯を使うことからその電波伝搬にも興味があり、今回十数年前にDr. FBが2400MHzの運用で体験したフレネルゾーンという現象について説明します。

2400MHzでの運用

30数年前にはアイコムからIC-970というVHF、UHFのオールモードトランシーバーが発売されました。本体そのものはVHF、UHFの固定機ですが、オプションユニットを組み込むと、当時としてはなんと1200MHzはもとより、2400MHzまで運用することができ、多くのアマチュアが未知の世界に入り込むような感じでワクワクした記憶があります。

2400MHzの運用は、トランスバーターによる運用が主流であったことや高い周波数の無線機の自作もなかなか難しかったこともあり、運用する局数が限られており交信相手局を探すのは困難を極めました。スケジュールを組んだローカルOM局から「SHF帯で電波を飛ばすには、見通しだけではダメだ。アンテナを上げられるだけ上げて見通しエリヤを広く稼ぐことが大事だ」とのアドバイスを受けました。相手の局とは見通し線上にあるので問題ないと思いつつも、試しにアンテナの高さをそれまでよりさらに2メートルぐらい高くしたところ、急に相手に届く電波が強くなったことを覚えています。

フレネルゾーンについて

聞きなれない言葉ですがVHF帯以上のUHF帯やSHF帯などの電波伝搬では特に重要です。VHF帯以上の電波は、伝搬の特性上、安定な通信を行うため通信を行う二点間には障害物のない見通し(Line of sight)の環境が求められますが、無線通信では「見通しが良い」イコール「単にお互いのアンテナが物理的に見える」という意味ではありません。図1で示すように電波が伝搬するために必要な空間がしっかり確保されている状態を指します。

目では見えませんがアンテナから輻射される電波は、二点間を結ぶ一本の線上を伝わるようなイメージではなく、図1で示すようにアンテナから細長いラグビーボールのようなイメージで広がり(体積)を持ちながら相手のアンテナに伝わっていく感じです。この楕円で描かれた立体的な空間をフレネルゾーン(Fresnel zone)と呼んでいます。


図1 二点間に障害物のない見通し通信

このフレネルゾーンが二点間でしっかり確保できていれば安定した通信が期待できます。逆に図2に示したようにアンテナどうしが仮に見通し線上にあったとしても、フレネルゾーンが障害物に掛かっているような場合は、通信の品位が低下する可能性があります。


図2 フレネルゾーンが十分確保できていない状態

理論的にはフレネルゾーンの半径の60%以上が確保できておれば、完全にフレネルゾーンが障害物なしに確保できている場合と比較しても電波伝搬の品位は大きく低下はしないようです。

フレネルゾーンの半径を求める公式

通信を行う二点間に山、建物、樹木などの障害物がある場合は、障害物の頂点と見通し線の距離をフレネルゾーンの半径(以下フレネル半径)以上確保する必要があります。仮に障害物がなくても、地表面と見通し線の距離も同様にフレネル半径以上を確保する必要があります。フレネル半径を求めることで、安定した通信を行うためのアンテナの高さが分かります。


図3 フレネル半径を求める

フレネル半径(r)は、下の式で求めることができます。

(例題)5600MHzのフレネル半径を求める

アマチュア無線には2400MHz帯、5600MHz帯、さらには10.1GHz帯、10.4GHz帯と高い周波数のバンドが割り当てられています。仮に5600MHzのアンテナを設置する場合、見通し線は確実に確保するとして二点間の距離を5kmとしたときのその中間点のフレネル半径を求めてみることにします。


フレネル半径(r)は、下のリンクにあるような便利な自動計算で求めることもできます。(図4)
<フレネル半径の自動計算を掲示しているサイト>日本電業工作株式会社ホームページhttps://www.den-gyo.com/labo/tool/keisan5.html


図4 日本電業工作株式会社ホームページの自動計算で求めたフレネルゾーン

計算から理想的なアンテナの高さは8.2mと算出できました。フレネル半径の60%が障害物に掛かったとしても通信にはそれほど影響はないとするこれまでの理論からすると、4.9m (=8.2 x 0.6)を最低の高さとして確保しておけば、8.2mの高さまでアンテナを上げる必要はないといえます。ただし、見通し線の確保は必須です。その4.9mの高さから徐々にアンテナの高さを下げて行くと今度はフレネルゾーンが大地に掛かり、通信の品位は低下することが予想されます。(図5)


図5 5600MHz 二点間の距離5kmに対するフレネル半径

紀伊田辺D-STARレピータ(2.4GHz帯の無線LANの通信)

和歌山県紀伊半島の南西側に田辺市があります。田辺市の北東約11kmの地点に標高796mの槙山があり、その山頂に紀伊田辺D-STARレピータが設置されています。山頂にはネット回線がありませんので、地上のアマチュア局の家屋と槙山D-STARレピータとを2.4GHzの無線LANで接続しD-STARのゲートウェイ回線を確保しています。地上局から山頂のアンテナは双眼鏡で見えていますので、見通し線上にあることが分かります。図5の写真にありますように二点間の通信の断面図を見ると、直線ではお互いの局が見えていますが、地上局近くの小高い山がフレネルゾーンに掛かるかどうかが心配です。D-STARの通信回線ですから、時々電波が途切れても問題ないとは言えません。このときもフレネルゾーンを計算してクリヤーされていることを確認しています。


図6 802.11g(2.4GHz無線LAN)における見通し通信とそのフレネルゾーン

FBDX

<ご協力>
日本電業工作株式会社

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