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FBのトレビア

第二十八回 UHFに対する同軸ケーブルのロス
2400MHzに無線LANの技術は使えないか

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Dr. FB

前回、第二十七回 FBのトレビアでは、無線LANの通信に使われている2.4GHz帯のビームアンテナを分解しました。測定器でそのアンテナの性能を調べたわけではありませんがアマチュアの2400MHz帯でも問題なく使用できるのではないかとの感触を持ちました。その理由として、(1)無線LANに使われている周波数とアマチュア無線の2400MHzの周波数の一部が重複している。つまり同一の周波数であるということ。(2)無線LANのアンテナは、かなり広帯域を意識して作られている、という2つの理由です。

2.4GHz無線LANアンテナ

入手した無線LANのアンテナの外観をもう一度、図1に示します。よく見るとアンテナから5D-2Vのケーブルが出ています。長さは約70cmです。先端にはN型コネクタ(メス)が取り付けられていることからある程度の長さの同軸ケーブルを延長して使用することが分かります。


図1 2.4GHzの無線LANアンテナの外観

主な周波数における同軸ケーブルの損失

アマチュア無線でUHF帯におけるポピュラーな周波数帯といえば430MHzです。アイコムからIC-9700が登場してからその様相も少し様変わりしているようで、1200MHz帯もアクティビティがアップしてきました。今まで1200MHzといえばすごく高い周波数で、同軸ケーブルで給電しても減衰が多く使い物にならないといった感じを持っていました。ここに来てIC-9700に10m程度の8D-FBを使ってもそれなりにQSOできることを新たな感触として知ることができました。

では、2400MHzではどうでしょうか。筆者は運用したことがないのでよくわかりませんが、世の中の5G(Five Generation)の動きの延長線で近い将来2400MHzや5600MHzといった周波数帯が少し前の1200MHz帯のようにポピュラーなバンドになるのではと思っています。今回はそれらの周波数では同軸ケーブルが使えるのかどうか、計算の上だけですが少し探ってみます。

主要な同軸ケーブルにおける減衰量データ

一般社団法人日本アマチュア無線連盟(JARL)のホームページに「主要同軸ケーブルの損失」のデータが掲載されています。そのデータの一部を引用したものが図2です。各社ケーブルメーカーのホームページにも同様のデータが掲載されており、数字はそれぞれ若干異なりますが計算上大きく変わりませんのでJARLのホームページに掲載のデータを使用して話を進めます。


図2 主要同軸ケーブルの減衰量(JARLホームページから引用)

JARLあるいは各ケーブルメーカーのホームページに掲載の同軸ケーブルの減衰量は概ね2300MHzまでとなっています。これからすると5600MHz付近では同軸ケーブルの使用はほぼ皆無か、逆に使用したとしても減衰が著しく大きく使いものにならないのかと推測できます。減衰=アッテネータですから、トランシーバーとアンテナとの間の給電線に図3に示すようなアッテネータが挿入されていると考えることができます。


図3 減衰の大きい同軸ケーブルはアッテネータ

同軸ケーブルはアッテネータ

2400MHzのアンテナに5D-2Vの同軸ケーブルが取り付けられていると記述しました。同軸ケーブルにはN型コネクタがついていますので、その先にいくらかの長さの同軸ケーブルを接続して無線LANのシステムが動作していると想像できます。ここで仮に10mの5D-2Vを接続したときの損失を求めてみます。

図2より10mあたりの5D-2Vの減衰量は、5.3dBです。減衰ですから正確には-5.3dBの利得と記述すべきかもしれません。トランシーバーから2400MHz、1Wの電力を同軸ケーブルに供給するとアンテナに入力される電力はどれくらいか計算で求めてみます。


図4 5D-2V/10mの損失の計算

図4の中で対数と指数の変換を行っています。あまり見慣れた公式ではありませんが両者には下記の関係があります。


log2、log3あるいはlog10などはアマチュア無線の試験にも出題されますし、筆算でも簡単に計算できますが、上記のような計算になると流石に筆算では無理です。ここは文明の利器、関数電卓の力を借ります。

図4を見ると分かりますが、トランシーバーから出力された1Wの電力は、10mの5D-2Vの先端では約0.3Wとなります。これは大きなロスというのか、それほどでもないというのか、分かれるところですが、Dr.FBなら0.3Wも出ているようならアンテナのゲインで稼げば何とかなるのではと思ってしまいます。

では、もう一つ計算してみます。少し経費は掛かりますが、2400MHzにおける10D-SFA/10mの同軸ケーブルの損失を計算してみます。図2には、2300MHzまでのデータしか記載はありませんが、この数字で進めます。


図5 10D-SFA/10mの損失の計算

1Wの出力で0.3Wが減衰してアンテナ側の同軸ケーブルの先端には0.7Wの出力として現れることが分かります。仮にこれを20mの同軸ケーブルとすると減衰は1.5dBの2倍で3dBとなりますので、出力は1/2の0.5Wとなります。

実際には、コネクタのロスなどもありもう少し減衰すると思いますが、意外と使えるのではないかと思いました。

ここからは新技術というほどでもありませんが

無線LANでも2.4GHzを使っていますので2点間の通信にはアンテナが必要ですが、末端まで同軸ケーブルが曳きまわされているわけではありません。例えば端末からアクセスポイントまでWi-FiやBluetoothで通信を行い、その信号は有線LANケーブルでアンテナ直下までデータとして伝えます。そこには高周波信号(RF)は介在しませんから、RF電力のロスを考える必要は全くありません。各オペレーターが持つ端末からアクセスポイントを経由して有線LANケーブルで届けられた音声やデータ信号は、アンテナ直下に設置した装置でD/A変換し、RFに変調すればほとんど同軸ケーブルを介さずアンテナからRF信号を輻射することができます。高価な同軸ケーブルも不要です。


図6 同軸ケーブルをほとんど使わないシステム接続のイメージ図

図6のようなイメージなら既存の無線LANの技術で実現の可能性は十分にあります。アンテナ直下にRFのトランシーバーを置き、トランシーバーで受けた信号はデジタルに変換して有線LANケーブルでシャックまで引き込まれます。送信はその逆の流れです。特にUHFやSHFでは同軸ケーブルを曳きまわすと大きなロスとなりますから有効な手段といえます。

アンテナ直下に取り付けたトランシーバーへの電源は、これもLANで使われているPoE(Power over Ethernet)の技術を使えば、LANケーブルとは別に電源ケーブルを敷設することなく、LANケーブルを通して電源を供給することが可能です。夢は膨らみます。

FBDX

<参考>
文中の無線LANの周波数を説明する箇所ではIEEEの802.11b/gの説明に合わせて「GHz」、アマチュア無線の周波数帯を説明する箇所では総務省のアマチュアバンド使用区別に合わせて「MHz」表記としています。

<資料の出典>
JARLウェブサイト https://www.jarl.org/Japanese/7_Technical/lib1/coax.htm
データの転載は、JARLの許可を得て掲載しています。

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