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Mr. Smithとインピーダンスマッチングの話

【第38話】 アンテナと空間のインピーダンス(その6 平衡と不平衡(その1))

濱田 倫一

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第37話までの解説でアンテナの給電インピーダンスと放射抵抗の関係をご理解頂けたかと思います。我々が普段使用する同軸ケーブルは、特性インピーダンスZ0=50Ωなので、アンテナに給電する際は、アンテナの給電インピーダンスRfZ0の複素共役(=50Ω)に変換すればよい。と言うことになりますが、実はもう一つ考慮せねばならないことがあります。

それが伝送線路やアンテナの「平衡(Balanced)」「不平衡(Unbalanced)」という問題です。第38話では「平衡」「不平衡」とは何かについて解説します。

1. グランド(GND)とは何か

無線従事者の免許をお持ちの方なら、“GND”の回路記号は皆さんご存じかと思います。本連載では電流を解説する機会が多いので、GND記号を極力使用せずに解説を行ってきましたが、図1(a)に示す回路は、GND記号を用いて図1(b)のように書くことが出来ます。両者はどう違うのでしょうか。


図1 GND記号を用いない配線図と用いた配線図

GNDとはGround(大地)の事であり、地面またはそれに準じる部分(面)に接続するという意味を持ちます。「地面に準じる部分(面)」とは、電位を0Vと見なす部分(面)です。理想GNDは、どれだけ電流が流れても0Vであり、回路の基準電位として取り扱います。→ 図2


図2 GND(Ground=大地)とは

一般にGNDは装置の筐体の電位を示し、筐体は人が触れる為、感電防止の観点から人が立っている大地と同じ電位に保つ事が一般的なので、GND「グランド」という呼び方をします。→ 図3

つまり図3(a)は大地を基準に見た場合、回路の電位が定まっていない状態=
+(HOT)/-(COLD)のどちらに触れても感電する状態であるのに対して、図3(b)の回路は大地を基準にして回路の電位が定まっている状態=GND側は触れても感電しない状態にあるということを示しています。

ちなみにアマチュア無線機を始めとする無線通信機器は一般に同軸コネクタの外周(COLDライン)が筐体に固定されており、図3(b)の考え方になっています。


図3 筐体の役割とGND

2. グランド(GND)と電流、ならびに伝送線路の関係

図4は図1を実態配線図にしたものです。図4(a)ではSGの端子から負荷ZLに向かって流れる電流は、リターン(COLD)の配線を通ってSGに戻ります。特に伝送線路の場合は外部に電磁波を放射させない為にリターンライン(COLDライン)は信号ライン(HOTライン)に平行させます。これに対して(b)の配線ではリターンラインが存在せず、代わりにGNDと称する導体板に接続されています。リターン電流はGND板を経由してSGに戻るので、その経路は直流(波長が無視できる領域)では曖昧になります(本連載でGND記号をあまり使用しない理由はここにあります)が、高周波回路においては、エネルギーが電磁波として伝搬している為、リターン電流がGND板上に無制限に広がることは無く、+(HOT)側の電位に引かれるかたちで誘起されます。この結果GND板には+(HOT)ラインが鏡に映っているような感じで電流が分布します。


図4 実態配線図で考える

これは、GND板の中に仮想的なリターン配線が存在するのと等価であり、図4(b)の配線(線路)は、図5に示すような関係で、図4(a)の配線に置き換える事が可能です。


図5 鏡像をリターン配線と見なした場合の等価回路

GNDを使用せず、リターン電流を+(HOT)ラインと対にして配線した線路を平衡線路(Balanced line)、リターン電流をGNDに落とした線路を不平衡線路(Unbalanced line)と呼びます。図6に代表的な平衡型線路と不平衡型線路を示します。これまでの解説では、殆ど区別せずに解説してきましたが、平衡型線路の代表例は並行2線(並行フィーダとも呼ばれます)、不平衡型線路の代表例は同軸線路で、等価回路も異なります。


図6 平衡型線路と不平衡型線路

似たようなカテゴリとして電子回路においても、二つの不平衡配線の電圧差分を信号電圧とする「差動回路(Deferential circuit): 代表例はOPAMPの入力やRS-485等」とGND基準で信号を取り扱う「片線接地(Single ended circuit): 一般的な電子回路」というものがあり、両者は平衡線路と差動回路、不平衡線路と片線接地が対になる考え方です。

3. グランド(GND)とアンテナの関係

伝送線路と同様、アンテナにも平衡型、不平衡型が存在します。図7(a)は第37話までで題材としたダイポールアンテナです。ダイポールアンテナは電源の+(HOT)側、-(COLD)側のそれぞれにアンテナエレメントが接続され、大地との間に電気的な接続を持ちませんから平衡型の空中線です。前項で解説した通り、このアンテナに給電するためには平衡型の伝送線路が必要です。

一方、図7(b)に示すモノポールアンテナはGNDに垂直にλ/4の素子を立てたものですが、この素子に給電すると放射された電磁波はGNDで反射されるため、やはりエレメントの鏡像が発生し、垂直に設置したλ/2ダイポールアンテナと等価の特性を有します。図8はこの様子を模擬したものです。鏡の上に白い棒(消しゴムです)を立てたものですが、鏡に映った像によって、長さが2倍に見えています。この時、図5の関係から放射抵抗は同じ長さのダイポールアンテナの半分となります。


図7 平衡型アンテナと不平衡型アンテナ


図8 アンテナエレメントが大地に写って2倍の長さに見えるイメージ

陸上移動通信で多用されるホイップ型のアンテナの大半が、このλ/4モノポールアンテナ、もしくはその変形型です。λ/4モノポールアンテナは水平偏波の電波を放射するには不向きですが、同軸ケーブルで直接給電することができるので、もっぱら垂直偏波が使用される陸上移動通信機器を中心に多用されています。しかし、一定の広さのGNDが存在しないと図8に示したような鏡像が得られないので、特性が劣化します。このためグランドプレーンと称するエレメントを付加したりして鏡像を得る工夫がなされたり、ハンドヘルドタイプの無線機(ハンディ機)などでは人体をGNDに見立てて設計するというような手法が採られています。

4. 第38話のまとめ

回路・伝送線路、アンテナの3つに分けて平衡/不平衡の違いを解説しました。改めて整理すると以下のようになり、通常は①と③、または②と④の組み合わせで使用されます。

①平衡線路(配線)
 信号配線とリターン配線が対称構造になっていてGNDと絶縁されている配線
②不平衡線路(配線)
 リターン配線を全てGNDで処理する配線
③差動回路(ディファレンシャル)
 +/-の2つの入力端子を持ち、両者の電位差に従って動作する回路
④片線接地回路(シングルエンド)
 GND基準の端子電圧に従って動作する回路

これらの代表例を表5-1に、メリット/デメリットを表5-2に示します。


※全てが平衡線路というわけではありません

一般的な傾向としてオーディオ回路や制御系機器の機器間インタフェースは、雑音排除性能や絶縁設計との親和性の観点で平衡回路、平衡線路を採用することが多く、回路のGNDも筐体とは直接接続しない設計が多いのに対し、高周波回路、特に無線通信機については、伝送線路に、その作りやすさから同軸線路が多用される事や、放熱のしやすさの関係で、ほぼ全て筐体を回路のGNDとする不平衡回路、不平衡線路が採用されています。

第38話では平衡/不平衡の概念とバランについてご説明しようと考えていましたが、平衡/不平衡のお話で力尽きてしまいました。平衡線路/不平衡線路の考え方はそれほど難しいものではありませんが、最大の問題は平衡型のインタフェースを持つ機器と不平衡型のインタフェースを持つ機器を接続せねばならなくなった場合です。これについては次号にて解説することにします。

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