新・エレクトロニクス工作室
2025年8月15日掲載
QRPの送信機といえども、SSBになるとリニアアンプが必要になります。私も今までは本に書いてあるとおりにインピーダンスを計算していました。しかし、入力は少し異なる場合があるようです。最近ではNanoVNA等が安価に入手できますので、入出力のインピーダンスを測る事ができます。そして入出力のマッチングを考えて、効率の良いアンプにできる場合があります。今回は、写真1のような2SC1970を使った1Wのミニリニアを実験しました。写真1は実験ですので、ダイオードにシリコングリスを付けていません。もちろん付けてトランジスタと熱結合する必要があります。
写真1 このようにまとめた実験用のリニアアンプ
2SC1970の入力側は、フェライトコアを使ったバイファイラ巻きで12.5Ωにする事が多いようです。これはざっとでは良いのかもしれません。マルチバンドにする場合は、多少の相違があっても仕方ないのでしょう。しかし、シングルバンドでゲインを上げたい時にはネックになります。バイファイラ巻きではなく、正しくマッチングを取るとゲインが上がる事があります。
出力インピーダンスの計算は図1の式で行われます。Vccから引いている2は、コレクタエミッタ間飽和電圧です。12Vで1Wの場合は50Ωとなり都合が良いのですが、本当にピッタリの50Ωなのでしょうか。
図1 出力インピーダンスの計算式
1W以外の場合はフェライトコアの巻き数比でインピーダンスを合わせます。これもマルチバンドの場合は仕方ないのですが、細かくインピーダンスを合わせる事ができません。シングルバンドの場合は、ゲインの他に効率の問題も出てきます。その周波数に合ったインピーダンスに細かく調整する方が良いのは間違いありません。
組み立てを行う前に、バラックでの実験を行いました。写真2のように生基板上に空中配線を行い、動作チェックをしました。次の測定もこの状態で行いました。今回は作製自体が実験のようなものですが、その前段として実験の実験も行っています。
写真2 バラックでの実験も行った
2SC1970の入力インピーダンスは、図2のようにして測りました。測定にはFA-VA5を使いましたが、もちろんNanoVNAでも同じです。入力にはバイファイラ巻き等のマッチング回路は入れていません。バイアス回路はインピーダンスに影響します。50MHzに合わせた回路ですので、特に低い周波数では修正して測り直す方が良いでしょう。
図2 2SC1970の入力インピーダンスの測定
この測った結果は図3のように31.426-j14.433Ωとなりました。これは50MHzでの値です。第37回のVMP-4の時ほどではありませんが、周波数によって変わる事が解ります。この値を見ると、バイファイラ巻きを入れずに直結の方が良いくらいです。実際に直結の方がゲインは上がりました。
入力のインピーダンスを測定した結果は上記の通りになりました。そこで31.426-j14.433Ωを図4のようにインピーダンス変換して50Ωにしました。
注意点が一つあります。図4の場合は31.426-j14.433Ωから回しています。この逆に50Ωから回すと、図5のように30.830+j13.539Ωになります。合ってない・・・ のではなく、これで合っています。
図5 50Ωから回すとjの部分がプラスになるが、これでマッチングする
これらのインピーダンスを図6に表します。A点より右側を見ると31.426-j14.433Ωとなります。左側を見ると30.830+j13.539Ωになります。jの部分のマイナスとプラスが逆になるのがポイントです。これは共役の関係となり、これでマッチングが取れます。数値の微妙な違いは部品の値を丸めた事による誤差です。
図6 A点から左を見た時と、右を見た時は、jのプラスとマイナスが逆になる
2SC1970の出力インピーダンスを測るのは、少々面倒です。出力のマッチング回路を付けないままで、図7のように接続します。まあ、2SC1970の場合は直通が多いと思いますので、都合が良いのです。マッチング回路がある場合はパスする必要があります。このような接続にして、アンテナカップラをベストの状態に調整します。
図7 出力インピーダンスの測定は、このように接続しアンテナカップラを調整する
調整後にそのまま調整に触れずに外し、図8のようにして測ったところ39.78-j1.4Ωとなりました。これはSWR1.26で、かなり良い値です。計算上は50Ωピッタリになりますが、この程度の誤差はあるのでしょう。図1から逆算をすると、12.5Vでしたので1.1W出ているという事にもなります。
図8 そのまま測ったところ39.78-j1.4Ωとなった
不覚にも、この時の画面コピーを忘れていたようです。これは50MHzでの結果になり、負荷側はこの39.78-j1.4Ωの場合に整合するという事になります。つまり50ΩをLC回路で、このインピーダンスにすればよいのです。ただ、この値であれば、マッチングをする必要もなさそうです。
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