今更聞けない無線と回路設計の話
2026年3月2日掲載
第16話レベルダイヤグラムの定義と基本構成について解説しました。第17話以降はレベルダイヤグラムを構成する各要素について掘り下げて解説していきます。レベルダイヤグラムの縦軸は信号を処理する回路の方式によって電力の場合もあれば、電圧、あるいはデジタル振幅の場合もあります。第16話で示した一気通貫のレベルダイヤグラムでは、これらを信号の経路順に連続的に見通せるような工夫を行いました。今回はこれら縦軸の話のうち、電力のグラフと電圧のグラフを同じチャート上にプロットする意味合いと目盛を揃えるテクニックについて解説します。
図1は第16話の図5「一気通貫で作成したレベルダイヤグラム」の再掲です。ここに書かれた一連のグラフのうち赤枠で囲った部分「③無線区間」の縦軸は左が電力[dBm]で右が電圧[dBµV]です。このグラフ上には様々なプロットが存在し、どちらの縦軸を参照すれば良いかは、図中に矢印付きの楕円で囲った通り、データラベルに記載されている単位を見て判断することになります。本レベルダイヤグラムの作成に際しては、塗り潰されているマーカと実線は電力(dBm)、塗りつぶされていないマーカと破線は電圧(dBµV)のプロットで統一しています。

図1 一気通貫で作成したレベルダイヤグラム(第16話の図5の再掲※5。下方は省略)
横軸の直下に示した区間Aの信号は、下の表では「High Z アナログ信号」と書かれた領域に相当します。この区間の最初の規定点であるDAC出力は低インピーダンス(定電圧出力※1)回路になっていて、これを後段のI-QMODがハイインピーダンス入力回路で受ける回路構成になっています。つまりこの規定点はハイインピーダンス回路であり、実質的に電力のやりとりがありません。従ってこの規定点のプロットは電圧のマーカ(右側の縦軸)、次の規定点へのグラフは破線となっています。次の規定点I-QMODの出力以降、受信機のダウンコンバータ出力(I-QDEM入力)まで(区間B)は「50Ωアナログ信号」と書かれた区間です。この区間を構成する各段は、入出力インピーダンスを50Ωに整合した回路となっていて各規定点のインピーダンスは50Ω、次段との信号受け渡しは伝送線路を用いた電力伝送で行っています※2。従って、この区間の各規定点のプロットは電力のマーカ(左側の縦軸)、グラフは実線です。最後の区間(区間C)の最初の規定点I-QDEM出力は再び「High Z アナログ信号」となっていて、I-QDEMの定電圧出力※1を高インピーダンス入力の後段(ADC)に接続する想定です。従って、この規定点のプロットは電圧マーカ(右側の縦軸)・前の規定点との間は破線グラフとなっています。なお、ここまで断りなく「規定点」という言葉を使用しましたが、これは信号レベル、等価SNRを規定する回路上のポイントという意味で、今後本レベルダイヤグラムの横軸の各項を個別に示すときは、この呼び方を使用させて頂きます。
筆者を始め、いわゆる「RF屋」は信号の大きさを[dBm]すなわち電力で表現します。理由はスペクトルアナライザのレベル表示が[dBm]だからです。鶏と卵の関係の可能性があって、歴史を遡ると逆の可能性もありますが、昨今のエンジニアに限れば間違いないと思います。全てをスペアナのせいにするとお叱りを受けそうなので、もう少し技術的な根拠を言うと、周波数が高くなって回路間や計測機器との接続配線の長さが波長に対して無視できない長さになると、配線が分布定数素子として機能してしまうので、同軸ケーブルやマイクロストリップラインなどの伝送線路を介して接続する必要が生じます(このあたりの詳しい解説は「Mr. Smithとインピーダンスマッチングの話 第1話~第6話」をご参照ください)。伝送線路を介した回路間の接続は信号源インピーダンスと負荷インピーダンスをそれぞれ線路の特性インピーダンスに合わせる必要があるため、本質的に電力伝送になります。線路を駆動する増幅回路は負荷に電力を供給するために出力整合回路を備えた「電力増幅回路」です。回路素子の小型化が進み、VHFあたりまでは波長を意識しなくても済むようになった昨今でも、スペアナや電力計、SG等の計測機器が同軸ケーブル(規格品)の特性インピーダンスである50Ωに整合されている関係で、図2に示すように信号規定点を50Ωに整合させて設計する文化が浸透しています。言い換えると、回路を全て電力増幅回路で構成する設計が浸透しています。この結果、高周波回路においては信号の大きさを電力(dBm)で表現することが非常に多いのです。
一方でオーディオや計測制御系の回路においては、信号伝送や、スピーカやモータなどの駆動系を除き、電力で信号を後段に伝えるという概念がなく、信号の大きさは電圧の値(振幅)で設計します。電圧インタフェースの場合は図3の段間接続に示すように、ハイインピーダンスの入力回路(ここでは仮に1kΩ)をエミッタホロワ回路等の低インピーダンス(ここでは仮に5Ω)の定電圧源で駆動するという考え方が基本で、回路間での電力の受け渡しが殆どありません。高周波においても高周波アナログIC(いわゆるRF-IC)においては、回路の大きさを波長に対して十分に小さく出来る事から同様の考え方でインタフェースが設計されています※3。
ちなみに図2、図3の電圧利得
、電圧増幅度を
とすると、

(式2-1)
の関係になります。電圧のデシベル表記である[dBµV]が
で規定されているので自明ではありますが、電圧利得も電力の次元に換算されているということです。その上で図2と図3はどちらも電圧利得20dBの増幅器を2段接続した、総合利得40dBの増幅回路ですが、両者を比較すると図3では1段目と2段目の電力利得
の配分が異なっています。一般に情報通信や制御工学の領域で取り扱う「信号」とは電圧の値に意味を持たせたものです。また「増幅」とは信号の振幅を大きくすることですので、両者を総合すると「信号を増幅する」とは「情報を含んだ電圧の振幅を大きくする」こと、すなわち電圧増幅を行うということになります。電圧の振幅を増幅すると定性的には信号電力も大きくなりますが、出力の電圧振幅が同じであっても、その電力は負荷インピーダンスの大きさで変化するため、必ずしも電圧利得と電力利得は一致しません。図2と図3を電圧増幅の視点で比較すると、インピーダンスの等しいA1(IN)とA2(OUT)の間は電圧利得も電力利得も同じ40dBですが、段間のA1(OUT)/A2(IN)においては、図3(初段が電圧増幅)の方が信号電力が約13dB小さく(1/20)、それだけ回路の消費電力が小さく済んでいるといえます。なお電圧利得
と電力利得
がdB表記で同じ値になる理由は第3話で解説した通り、電圧振幅をdB表記する時はその値を2乗(
)しているからです。このように電子回路の入出力インタフェースは電圧振幅で規定することが多く、回路設計者の観点では信号レベルは電圧振幅で表記する方が何かと都合が良いといえます。
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