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今更聞けない無線と回路設計の話

【テーマ2】デシベルと無線工学
第17話 レベルダイヤグラムの縦軸(その1)

濱田 倫一

2026年3月2日掲載

3. 情報伝送には電力が必要

ここまでの解説で、我々が取り扱う「信号」は基本的に「電圧振幅」であることがお解り頂けたと思います。一方でこれまで解説してきたレベルダイヤグラムでは、縦軸は基本的に「電力」です。なぜかというと、情報をケーブルで伝達するにせよ電波で伝達するにせよ、離れた場所に届けるためには電力が必要になるからです。この場合、経路となる伝送路は特性インピーダンスが途中でころころと変化することはないので、電力の大きさと振幅の大きさは完全に対応します。一方で伝送路上の信号振幅は反射波との干渉で定在波※4 (電波の場合はフェージングと呼ばれます→第10話参照)が発生し、距離の関数で複雑に増減します。これは電磁波の場合も同じです。このため伝送路においては電圧振幅の大きさよりも電力で信号の大きさを取り扱った方が便利なのです。歴史的側面としてレベルダイヤグラムは電話などの伝送路の設計などに用いるツールとして活用されてきた経緯があり、縦軸は電力(dBm)さらにいうとレベルダイヤグラムを作成する一番の目的であるSNRの評価も電力比です。このような理由からレベルダイヤグラムの縦軸は電力とするのが一般的です。

4. 電力のダイヤグラムと電圧のダイヤグラムの同居

このように増幅回路と伝送線路(伝搬路)で異なる事情を抱えるわけですが、図2と図3の関係から、以下制約を許容すれば、信号電力と等価雑音電力の比(SNR)を議論する上で、信号レベルを表現する単位として電力[dBm]の代わりに振幅の2乗値(すなわち[dBµV])を用いて、同じグラフ上に連続的に表現して差し支えありません。

  • ①利得(前段とのレベル比)は2乗された電圧利得であって規定点における実際の電力利得ではない。
  • ②同様に規定点のレベルは2乗された電圧であって、規定点における実際の電力ではない。
  • ③規定点のインピーダンスがZ0[Ω]の場合のみ、規定点における利得・レベルは実際の電力利得・電力値と一致する。

単位の異なる信号レベルと等価雑音レベルの変化を同じグラフの上で俯瞰するためには、

  • ①同じ規定点の電力プロットと電圧プロットは重なっている。
  • ②グラフのレンジは電力軸も電圧軸も同じ幅になっている。
  • 事が望ましいため、縦軸のレンジ設定には図4に示すような工夫を行います。


図4 dBmのグラフとdBµVのグラフの揃え方

すなわち電力表記・電圧表記の境界となる規定点の回路インピーダンスをZ0[Ω]とすると、縦軸の電圧目盛の値V [dBµV]は、第4話の図2の関係から、同じ高さの電力目盛の読み値P [dBm]に対して、


(式4-1)

の関係になるように定めます。図4(③無線区間のグラフ)は一般の無線機器の想定なのでZ0=50Ωで第2縦軸の最大値・最小値を決定していますが、放送・CATV系であればZ0=75Ω、オーディオ系のアナログ部分の場合はZ0に600Ωを代入する事になります。実際に設計される機器の仕様に沿って最も合理的な値を選定してください。

5. 第17話のまとめ

第17話では一気通貫で作成したレベルダイヤグラム※5の「③無線区間」の縦軸目盛について解説しました。「③無線区間」にはレベルを電力[dBm]でプロットした区間と電圧[dBµV]でプロットした区間が共存するが、同一規定点の信号で両者のプロットが重なるように目盛を合わせることで、連続的に見通せるレベルダイヤグラムに出来ることを示しました。併せて、連続的に見通して良い理由についても解説しました。以下、第17話の要点です。

  • (1)第17話以降の約束事項として、レベルダイヤグラムの横軸各項を個別に示す際は「規定点」という言葉を使用する。
  • (2)多段増幅回路では最終段を除いて電圧増幅回路であり、利得や信号レベルは電圧で設計・管理される。増幅回路以外においても考え方は基本的に同一。
  • (3)同軸ケーブルなどの伝送線を用いる装置間接続、給電回路、通信路(無線の場合は伝搬路)における信号伝送は電力伝送であり、利得や信号レベルは電力で設計・管理される。
  • (4)電圧の大きさを示すデシベルの表記ルールと同様、電圧増幅度[倍]を電圧利得[dB]に換算する場合もとなる。結果、電力利得と混ぜて計算することができる。但し規定点のインピーダンスがZ0ではない区間においてはあくまで電圧利得であり、実際の電力利得ではない。
  • (5)電圧値[dBµV]側の目盛については、両者が切り替わる規定点のインピーダンスをZ0と定義して電力値[dBm]側の目盛から換算することにより、両者のプロットが電力↔電圧の境界規定点で重なる。但しインピーダンスがZ0以外の規定点において電力値[dBm]側の目盛を読み取っても、その値は意味をなさない。

改めて文章にして解説すると、電圧のデシベルをにするというルールは、工学的に非常によく考えられた仕組みだと改めて感心させられます。第18話では、dBµVとdBFSの関係、デジタル空間での信号レベルについて解説します。

  • ※5  第16話で作成・配布した解説用のレベルダイヤグラムです。第17話での資料改訂はありません。Excelシートはこちらからダウンロード可能ですので、必要に応じてExcelシートから計算内容等をご確認下さい※6
  • ※6  ダウンロードされたExcelシートに関するご質問についてはご容赦ください。Excelシートの内容に関する知的財産権その他一切の権利は筆者濱田倫一に帰属します。月刊FB NEWS編集部は筆者濱田倫一の許可を得て本件記事を掲載しております。また筆者、ならびに月刊FB NEWS編集部は、これらExcelシートの二次使用に伴う一切の責任を負いませんので、あらかじめご了承ください。なおExcelは米国マイクロソフト社の商標です。

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