2015年9月号

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楽しいエレクトロニクス工作

JA3FMP 櫻井紀佳

第28回 PINダイオード

高周波の切替やアッテネーターにPINダイオードを使うことがあります。今回はこのPINダイオードの使い方を色々検討してみます。

半導体には、なにもドーピングしていない真性半導体I(Intrinsic)、シリコン単結晶にIII族のボロン等をドーピングしたP型と、V族のヒ素等をドーピングしたN型があります。一つの結晶中に、P型とN型の部分が接しているのをPN接合(Junction)呼んでいます。P型にプラス、N型にマイナスの電圧をかけると電流は流れるので「順方向」と呼ばれ、逆につなぐと電流が流れないので「逆方向」と呼ばれます。

PとNの間に真性半導体Iを挟んだものがPINダイオードで、流す電流によって抵抗が変化するためアッテネーターや切替回路に利用されています。また、逆方向電圧では電極間の容量が小さい特性があります。電力切換用でも1pF以下のものも多く、OFF時の電流の漏れを少なくできます。また、順方向の抵抗も高い周波数まで変化が少ないため高周波向きの素子と言えます。

1. PINダイオードの特性

PINダイオードは各社から色々なタイプが販売されていますが、使用方法は大きく分けて受信用AGCアッテネーター用、バンド切替用、高周波電力切替用に分かれると思います。

流す電流値によって変わる抵抗値によるAGCアッテネーター等の使用には、コントロール電流の大きさに減衰量が比例して変化することが望ましく、バンド切替用はON-OFF的に大きく変わるものが好ましいといえます。高周波電力切替用は送信電力のアンテナ切替などに使われ、特性的にはバンド切替用と変わりませんが大きな電力の切替に向いています。

次の図は左よりAGCアッテネーター用の1SV271、バンド切替用の1SV307、高周波電力切替用のL7101Nの特性です。

AGCアッテネーター用の1SV271は順方向電流10μAから10mA程度まで直線的に抵抗値が変化しています。バンド切替用1SV307はアッテネーター用より抵抗値が低く同じ電流変化でも大きく抵抗値が変わるのが分かります。高周波電力切替用L7101Nは大きな電流100mA流した場合、抵抗値が1Ω以下の低い値で切替による損失を減少するよう考慮されています。

2. アッテネーター

AGCのコントロールなどアッテネーターとして使用する場合は、PINダイオード単体では使い難く、π型に組み込んだ回路が工夫されています。次の図がその回路で、VCCは9VでCONT入力に直流を与えることで減衰量をコントロールできます。CONTの電圧が低いとQ1に電流が流れないためD2の電流が少なくD1とD3に多く電流が流れるため、J1からJ2に流れる高周波電流が減衰します。

CONTの電圧を上げていくとQ1に電流が流れ、その電流がD2にも流れるため抵抗が下がり、Q1の電流でコレクター電圧が下がるためD1とD3の電流が下がって抵抗が増し全体として減衰量が減少します。

PINダイオードはキャリヤ蓄積時間を利用していますので、低い周波数ではその影響で歪みが増えてきます。従ってこのアッテネーターを比較的低い周波数の高周波入力の部分に使うと特に減衰量の多い部分ではダイナミックレンジに影響がでる恐れがあります。



試作実験基板

この回路の特性を測ったものが次の図で、最大50dB位まで減衰できます。この回路は以前に作って実験したため三洋の1SV234を使いましたが、特性的には東芝の1SV271と近く、取り替えてもデータはあまり変わらないと思います。1SV271は現在でも東芝で作られています。

この図の最大周波数は100MHzとなっていますが1GHz位までほぼ良好な特性になっています。逆に低い周波数では減衰の特性も良くなく、また歪みがでる可能性があるのでできれば高い周波数での使用をお勧めします。

3. 高周波切替回路

PINダイオードによる高周波の切替は小信号では次の図のような簡単な回路で可能です。信号源と負荷のインピーダンスは50Ωを想定していて、そのためR1とR2は1kΩとしていますが、信号源と負荷のインピーダンスが高い場合はR1とR2を10kΩ程度にした方がベターです。

高周波回路に使うコンデンサーは自己共振周波数を持っているため適当な値を選ばないと大きい値が必ずしもリアクタンスが低い訳ではないので注意が必要です。


コンデンサーの周波数特性(村田製作所資料より)

無線機の終段出力の切替など高周波電力切替ではその用途のダイオードを使い、ダイオードに流す電流も100mA位まで増す必要があります。
高周波電力切替のためには、集中定数回路では受信時にはLPFとして働き、送信時にはPINダイオードのシャントによる共振トラップになるよう回路定数を決めます。このようにすると送信側から受信側に漏れる電力が最小になります、詳細は巻末のコラムを参照して下さい。

L2はPINダイオードMI402の容量と共振してトラップとして働き、ダイオードのキャパシタンスをキャンセルして受信時の漏れを減少するものです。C7は単なる直流カットです。RFCはPINダイオードに電流を流すためのもので負荷に対して十分リアクタンスが高いことが必要です。負荷50Ωに対して10倍の500Ωとすると、Xl=2πfLで計算すると10MHzでは78μH以上、100MHzでは7.8μH以上になります。インダクタンスを必要以上に大きな値にすると自己共振の部分にかかってしまうため、逆にインピーダンスが下がるので注意が必要です。


コイルの周波数特性(TDK資料より)

1.2GHzでの高周波電力切替では集中定数ではなく、波長的に使いやすい分布定数のセミリジッドの同軸を使います。次の写真のケース表面に印刷した配線図のようにλ/4とλ/8の所にPINダイオードでシャントする回路です。

これは以前に作ったものでその時の構成の都合でTXの入力にはマイナス電圧を重畳させて切り替えます。これを参考に試作するのであればPINダイオードを逆向きにして制御電圧をプラスにした方が一般的と思います。

もし可能なら、制御電圧をONの時とOFFの時の電圧を反転できればOFFの時にダイオードに逆電圧がかかりCが減少して漏れを少なくできます。


外観                       内部

外形は以前に買った高周波のユニットが入っていたジャンクで丁度大きさがマッチしたので使いましたが、このような形が必須条件ではないのでアルミ板の上に乗せても作ることができます。

PINダイオードによるアッテネーターや切替回路を単体で使うことはないと思いますが、他の機器と組み合わせて使うと便利なことがありますので参考にしてください。

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