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2025年12月1日掲載
・調整方法
サービスマニュアルは、そもそも動作のおかしい無線機の状態を確認したり修理したりするための文書です。そのため、部品交換後の再調整や回路の動作状態の確認方法も書かれています。
現在の無線機はCPUの制御で直流電圧を制御するD/Aコンバーターが使われていますが、IC-3Nは受信BPFのチューニングやPLLの基準周波数、変調度や送信アンプの利得などの調整はトリマーコンデンサや半固定抵抗器が使われていました。無線機に測定器を接続し、受信/送信ごと各パラメーターを見ながらセラミックドライバーなどでそれらの可変部品を回して調整します。

無線機と測定器との接続図

送信出力調整の例。調整するトリマーコンデンサが写真で示されている
なお、調整値とはすなわち「特定の状態での正常値」でもあることから、測定した値が記載された調整値と同じであれば「異常なし」ということになります。全項目が「調整」とされていますが、確認方法でもあります。
(430MHzバンドのように広い帯域の場合、バンド下限と上限とでは最適値が変わるはずなので、実際にはそうとも言い切れません。)
・回路図
個人的に一番興味があるのが回路図です。各回路の基本的な構成には定石があるとは思いますが、各部品の定数については低ノイズ・低消費電流など、より高い品質を追求するための工夫が盛り込まれた結果だと思います。今でこそ回路シミュレーターがありますが、当時の設計者はすべて計算と理詰めで回路を組んでいたのでしょう。部品1つ1つの定数が努力の結晶だと思います。

回路上には赤で正常動作時における電圧が記載されている(R=受信時、T=送信時)
なお、部品番号のプリフィックスは、一般的な「L」「C」「R」です。トランジスタは「Q」、半固定抵抗器やトリマーコンデンサも固定部品と同じ「R」「C」です。
確認箇所を割り出し、故障部品を特定して無線機を修理するためのトラブルシューティング。症状ごとに確認すべき部品や回路の電圧が示されていて、故障部品を特定できる仕組みです。回路の動作に関する内容なので、回路の教材としての側面もあると思います。

フローチャートで故障個所を割り出す仕組み。『動作説明』を合わせて読めば回路の理解も深められそう
・部品リスト
IC-3Nで使われている部材がすべてリストアップされています。無線機の構成部品は大きく分けて電気部品と機構部品に分けられます。プリント基板上で回路を構成するのが「電気部品」で、物理的に無線機を形作るのが「機構部品」です。いわゆる「ガワ」と呼ばれる部分です。IC-3Nは、基板を固定するシャーシをフロントパネルとリアパネルで挟むような構造ですが、金属製シャーシや樹脂製のパネルなどが機構部品になります。
ハンディー機は屋外で使うものなので、なにかと機構部材がダメージを受けやすいと思います。また、PTTなどの何度も押下されるキーはどうしても消耗しやすいと思います。そうして破損したり失われた部材の交換部品を注文できるよう、一覧表とイラスト(展開図)が掲載されています。

イラストを参照することで交換すべき部品の名称が分かるようになっている
電気部品についても、ファイナル素子や電源回路を構成する部品など、電流が多く流れる部品は破損する可能性が比較的高いと思いますが、回路図上の部品番号から部品リスト上で正式な部品名称を特定できるようになっています。同じ部品でも温度特性や精度ランクが異なるので、細かく指定されています。

ずらりと記載された部品情報
・IC定格表
興味深いのが、ICなどの半導体の内部等価図まで掲載されている点です。ICの各ピンと内部回路の関係が分かり、ピンに接続された部品の役割までも推測できます。トランジスタやFETのピン情報も、回路の不具合の特定に欠かせない情報です。今ではインターネットでICのデータシートが見つかりますが、当時は簡単には入手できなかったと思います。

当時の米国などの軍用無線機でも使われていたIF IC『MC3357』の内部等価図
私は年代的にIC-3Nを使ったことがありませんが、サービスマニュアルを通して当時のリグの造り(創り)というものに接することができました。人それぞれ好きなリグがあると思いますが、好きなリグの詳しい技術情報が得られたらきっと楽しいと思います。このコーナーのキーワードでもある「新しい知識を得る」という点でも、見たことのない回路構成や部品の使い方を回路図の中に見出せば、自分にとって新しい知識を得る機会です。

リグを自分の手でメンテナンスできたら楽しそう(写真はイメージ)
ところで、YouTubeにはいろんな分野に関する情報動画があります。そういった動画のコメント欄には、視聴者から新たな情報が寄せられることがあります。
私も、まがいなりにもこうして情報を発信させてもらっていますが、「情報を発信する人には情報が集まる」という、良い循環ができるような気がします。実際、サービスマニュアルをくださったOMのかたは、私がこのように記事を書いていることをご存知でした。
「情報を出すほど情報が集まり、更に盛り上がっていく」という流れ、ぜひアマチュア無線でも広まってほしいですね。
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