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Masacoの「むせんのせかい」 ~アイボールの旅~

第54回 日本大学理工学部 航空宇宙工学科 宮崎研究室の皆さん

Masacoの「むせんのせかい」 ~アイボールの旅~

“猛暑”という名前がピッタリの、暑い暑い8月が終わりました。皆さんはお変わりなくお過ごしですか?

この半年ほど、時がとまったようなボヤッとした感覚なので、もう9月だなんて・・・。今年はいろいろなイベントが中止や延期になっていますが、本当に久しぶりに! 8月23日「オンライン東海ハムの祭典」で、ステージに立つことができました。歌えることが、あたり前ではなくなった今、感染対策徹底のもと、名古屋市公会堂で試行錯誤の配信環境を作ってくださった関係者の皆様、お世話になりました。画面越しで応援してくださったあなた、必ずまた同じ空間で時を刻める日が来ることを願っています。

さて今月は、なんと! なんと! 自分たちの衛星を打ち上げてしまった!!! 日本大学理工学部 航空宇宙工学科 宮崎研究室の皆さんを訪ねて、千葉県船橋市へ向かいましたよ!!

第54回 日本大学理工学部 航空宇宙工学科 宮崎研究室の皆さん


少し前のことですが、Twitterで「もうすぐ東京上空を国際宇宙ステーション(ISS)が横切ります。北西の空を眺めてみましょう」というツイートが流れていたことがあります。私も「一度見てみたい、見えるかな?」と外へ出てみたら、北西の空に、明るい星のような光が飛行機よりもちょっと速いスピードで流れていきました!! ISS、初めて見ました! 感動!!

そして今回、「むせんのせかい」の取材先が、自分たちで人工衛星を作った(しかもアマチュア無線のビーコンや中継装置を搭載しているそうです!) 大学生の皆さんと聞いて、ISSを初めて見たときのことを思い出し、メッチャ興味が沸いてきましたよ!

お邪魔したのは日本大学の船橋キャンパス(千葉県船橋市)。東葉高速鉄道の「船橋日大前」という駅で降りて、改札を出たらすぐのところにありました!


日大船橋キャンパスにやってきました!

守衛室で手続きをしていたら、「Masacoさん、こんにちは!」と小走りにやってきた方が、航空宇宙工学科宮崎研究室の中村涼太さん(大学院修士課程2年)です。

--中村さん、今日はよろしくお願いします。夏休み中なのにありがとうございます。

「はい。NEXUSの運用もありますので。まず3号館の無線室に行きましょう!」

--はい、お願いします!

航空宇宙工学科が使っている3号館に着くまで、広いキャンパスを歩きながら、皆さんが作ったという衛星の話を伺いました。


キャンパス内にある、滑走路のように広くてまっすぐな道! ここでグライダーの滑空が行われることもあるそうです。2019年、テレビ局の「鳥人間コンテスト」の人力プロペラ機部門で学生新記録(38010.28m)を樹立した日大理工学部 航空研究会の機体も、このキャンパスで作られたものだそうです

NEXUSについて

NEXUS(ネクサス: NExt generation X Unique Satellite)は、日本大学の航空宇宙工学科で製作した4機目の超小型人工衛星だそうです。サイズは縦10×横10×高さ10cmの“1Uキューブサット”という規格で、重さは約1.3kg。研究のメインテーマが「次世代アマチュア衛星通信技術の実証」ということで、こんなに限られたスペースの中に、たくさんのアマチュア無線用の送信機器を搭載しているそうです。


日大とJAMSATの共同開発で誕生した超小型人工衛星「NEXUS」。1Uサイズ(縦10×横10×高さ10cmの立方体)に5つの無線機と4つのアンテナを搭載しています(写真(C)JAXA)

<NEXUSのおもな通信機器>
・145MHz帯→435MHz帯のリニアトランスポンダ(0.5W)
・衛星の状態をモールス通信で知らせるビーコン(437MHz帯 0.1W)
・FM送信機(437MHz帯 1200bps 0.8W)
・QPSK送信機(435MHz帯 QPSK 38400bps 0.3W)
・FSK送信機(435MHz帯 1200~19200bps 0.4W)

<コールサイン>
・衛星管制局:JS1YAW(JARL局、2018年開設)
・衛星局:JS1YAV(JARL局)

これまでにも、世界中の研究機関や大学などが超小型通信衛星を開発し、ロケットで打ち上げたり、ISSから放出されたりといった方法で地球の上空を周回しているそうですが、NEXUSはそうした超小型衛星よりも高速で通信ができるQPSK送信機や、通信速度が可変できるFSK送信機を搭載しているのがポイントなんですって!

しかも、独自開発した小型のカメラユニットを搭載しているので、Full-HD以上の解像度で写真撮影ができ、撮った写真は高速で地上へ送信することも可能だそうです!

中村涼太さんは「日本大学もそうですが、最近は超小型人工衛星を開発し、打ち上げる団体(大学・企業など)が増加しています。その結果、各衛星のミッションは高度化、多様化し、それに伴って通信のデータ量は増加傾向にあります。そんな時JAMSAT(特定非営利活動法人 日本アマチュア衛星通信協会)の方々から“比較的高速かつ低送信電力での通信を可能にするπ/4 shift QPSK送信機や、通信速度が可変であるFSK送信機、アナログデータ中継や電解強度測定が可能なリニアトランスポンダを開発中です”という情報をいただきました。そこで“日本大学で開発した超小型人工衛星に、それらの通信機を搭載し、軌道上実証をしましょう”とJAMSATの方々に提案したところ、快く承諾してくださり、日大とJAMSATの共同開発という形でNEXUSを作る運びとなりました」と教えてくださいました。


完成したNEXUSをキューブサット放出装置に格納するところ(写真(C)JAXA)

そして共同開発が進み、2019年1月18日に鹿児島県の内之浦宇宙空間観測所から、JAXAのイプシロンロケット4号機で、小型実証衛星1号機(RAPIS-1)や、ほかの5機の超小型衛星と一緒に打ち上げられ、無事に成功! 今は地球の約500km上空を約90分で1周する軌道を順調に飛行しています。


2019年1月18日9時50分20秒、鹿児島県の内之浦宇宙空間観測所から小型実証衛星1号機とNEXUSをはじめとする6機の超小型衛星を搭載したイプシロンロケット4号機が打ち上げ。すべて正常に分離しました(写真(C)JAXA)

ちなみにこれからお邪魔する航空宇宙工学科 宮崎研究室は14名のメンバー(大学院博士課程1名、修士課程7名、大学4年6名)がいらっしゃって、このうち6人が3アマの資格を持っているそうです。

無線室と管制用アンテナを見学

中村さんのご案内で、3号館の4階にある無線室に着きました。ここは学生研究室という教室ですが、今はNEXUSの管制など地球局の役割も果たしているそうです。


3号館4階の無線室に到着!


無線室の機材を大学院修士課程2年の中村壮児さん(左)と中村涼太さん(中央)に説明していただきました

無線室ってどんな感じだろう…と、ワクワクしながら中に入ると、大きな液晶モニターを4つ(4画面)使ったパソコン、衛星からの電波を受信し、データを送るためのアマチュア無線機(IC-910×2台、IC-9100×2台)、衛星が送ってくる信号の解析に使うモデム、衛星の方向にアンテナを向けるためのアンテナコントローラ(上下=仰角と、左右=方位角を別々にコントロール)などがありました。またこの日はJAMSATのクラブ局、JS1YAQの無線機であるIC-9700も用意されていました。アイコムの無線機が大活躍しているのには親しみを感じます!

この無線室では、NEXUSが飛んでくるたびに衛星からモールス信号で送られているデータ(テレメトリ信号)を受信・解析して衛星の状態(各部分の温度や、バッテリーの電圧・電圧、衛星の姿勢など)を確認したり、必要な送信機のON/OFFなどのコマンドを送ったりといったことを切れ目なく行っているそうです。


大きな液晶モニターを4つ(4画面)使った管制卓。さまざまなデータを同時に表示することができます


管制に使うアマチュア無線機器。中央のラックにはIC-910とIC-9100がそれぞれ2台ずつ。下段には衛星の方向にアンテナを向けるための方位角・仰角のアンテナコントローラが2組とJAMSATのクラブ局、JS1YAQの無線機であるIC-9700がありました

--90分おきに飛んでくるNEXUSの電波を全部キャッチするのは大変ではないですか? 夜も寝られないし、日曜日も遊びに行けないのでは!?

「日本の上空というか、この無線室で受信できる軌道を飛ぶのは、多くても一日に数回程度なので大丈夫です(笑)。研究室のメンバーでシフトを決めて、2人1組で対応しています。でもコロナ禍で大学の入構が制限されていたときは、ちょっと大変でした」

--こんなところにも新型コロナウイルスの影響が!?

続いて、3号館の屋上に案内していただきました。ここには衛星追尾用のアンテナが建てられています!!


屋上の衛星追尾用アンテナ。左は以前打ち上げた別の衛星で使用していた144/430MHz帯の円偏波用アンテナ。右はNEXUS追尾用の144/430MHz帯アンテナで垂直偏波と水平偏波を別々に受信できます

現在使っているのは144MHz帯の12エレクロス八木のスタックと、430MHz帯の20エレクロス八木の2列2段。仰角と方位角の2つのローテータが付いていて、地平線から現れた衛星が上空を通過して再び消えていくまで、ずっと追尾を続けることができるそうです。

面白い! と思ったのは、このクロス八木は円偏波で通信するためはなく、通信の精度やパケットのデコード率を上げるために、“垂直偏波で受けた信号”と“水平偏波で受けた信号”を、それぞれ別々の無線機に送り込んでから合成する「直線偏波ダイバシティ」を採用しているそうで(IC-9100が2台あったのはそのためです)、それぞれのアンテナに低雑音の受信アンプが取り付けられていました。

実際にアンテナが動くところを見せていただきました! 左右に回しながら上下に動かす…といったこともできて、キビキビと動く姿はテレビで見た自動車工場のロボットアームみたいでした!!


アンテナの詳しいことは地上局系の設備を担当した大学院修士課程1年の藤井さんに教えていただきました(後ろ姿でゴメンナサイ!)

航空宇宙工学科の研究がわかる学内見学

屋上の見学後、「まだNEXUSが飛んでくるまでに少し時間がありますから、航空宇宙工学科がどんな研究をしているかを見ていただきましょう」ということで、学内見学に行きました。

最初は「テクノプレース15」という建物。ここは航空宇宙工学科だけでなく、土木工学科、海洋建築工学科、機械工学科などさまざまな学科の実験施設になっています。中に入ると、本物のセスナ機や飛行機の主翼のパーツも置かれていてビックリしました。

ここには内部を真空状態にできる「真空チャンバー」という大きな装置がありました。NEXUS以前の衛星を開発したときは、この装置を使って、衛星が真空の宇宙空間でも正常に動作するか、アンテナは設計通りに展開できるかといった検証が行われたそうです。


「テクノプレース15」に設置されている真空チャンバー。真空ポンプで内部の空気を吸い出して真空状態での試験ができる装置です

また、宮崎研究室の多々良飛鳥さん(大学院修士課程2年)は、宇宙空間で衛星から巨大な薄い膜の展開構造物(ソーラーセイル)を広げるための研究を説明してくださいました。

実際の帆の大きさは、対角約14mという大きなもの(見せていただいたのは1/14サイズです)。ロケットで打ち上げられて軌道に到達するまでは衛星の内部にコンパクトに収納されていて、到達したら確実に展開して帆の形を維持しなくてはいけないので、かなり難しい技術。これがうまく行けば、太陽からの光の粒子が帆にあたることで“力”が発生し、衛星の推進力になるうえ、薄膜に太陽電池を貼れば衛星に大きな電力を供給できるようになるそうです。


多々良さんに、宇宙空間で衛星から巨大な薄膜(ソーラーセイル)を広げるための研究を教えていただきました。実際の1/14のモデルだそうです

続いて3号館の地下へ! ここにはNEXUSの開発や実験を行った部屋がありました。埃を防ぐために、入口はビニールシートで覆われていて、クリーンルームみたいです。


3号館の地下にはNEXUSの開発や実験を行った部屋がありました!

「Masacoさん、どうぞ中へお入り下さい」

--はい、ありがとうございます。

と、中へ入れていただいたら、机の上に正方形の基板の塊がありました!!!

--もしかして、コレは!?

「はい、NEXUSの試作機です。実際はこの周囲に太陽電池やアンテナが取り付けられています


中村壮児さんにNEXUSの試作機を見せていただきました

わあ!“10cm立方の超小型衛星”って聞いていたけれど、本当に小さいです! そこに電子部品がビッシリついた基板が立体的に何枚も組み合わさっています! 無駄な空きスペースがまったくありません!!!


10cm立方の超ミニサイズに基板がビッシリ! 右手前がQPSK送信機、その奥のアンテナ付きの基板がJAMSATのFSK送信機。中央手前に置いてあるのがJAMSATのリニアトランスポンダ基板です!

--この基板も皆さんで作ったのですか?

「私たちが作ったもの、JAMSATから提供を受けたもの、専門業者に依頼したモジュールなどさまざまです」

--部品がメッチャ小さい! このハンダ付けとか絶対ムリ!!

これと同じものが地球から500kmの宇宙空間を飛んで電波を送り続けているということの凄さが、少しだけわかった気がしました。

そのお隣は実験スペース。ロケットから分離した衛星が宇宙空間で、モーターなどの動力に頼らずに、確実に構造物を展開する方法を研究しているそうです。

佐藤さんと中村涼太さんがアクリル板に歯車がついたような装置を板の上に置きました。

「では構造物の展開実験をします。一瞬なのでよく見ていてください」

--はい!(ワクワク)

2人が手を離すと、装置は3つに分かれて中に入っていた薄い金属板が伸びてスルスル!と広がり、三角形の構造物になりました。


佐藤さんと中村涼太さんが、動力を使わない構造物の展開実験を見せてくださいました。2人が手を離すと薄い金属板がスルスル伸びて三角形の構造物になりました!

--あ、早い!

「今伸びた金属板の間に膜をピンと張れば、太陽光を衛星の推進力に利用したり、膜の上の太陽電池から電力を得たり、アンテナの展開にも使えたりすることから、いろいろと実験しています」

--この金属板、どこかで見た気がしますよ!?

「実は普通の金属製のメジャー(巻尺)を2枚合わせて作っています(笑)。メジャーが自由に伸ばしたり巻き取りできることにヒントを得て、歯車などは3Dプリンタなどを使って作りました。モーターなどを使うとそれだけ失敗する可能性も増えるので、ミッションの成功率を高めるために動力なしの方法を考えています」


金属板は市販のメジャーを使用。歯車などは3Dプリンタで作ったそうです

日常生活で使っているものがヒントになるのは楽しいですね!“作ってみないとわからない”ということが多いので、この部屋にはパーツがすぐ作れる3Dプリンタや、パーツや基板が宇宙環境での温度変化に耐えられるかを測定できる環境試験器(-60~+150℃に対応!)も用意されていましたよ!!


実験には欠かせない、3Dプリンタ(左)と環境試験器(右)です

NEXUSが上空を通過!

そろそろNEXUSが上空を通過する時間が近づいてきたので、無線室へ戻りました!

佐藤さんと中村涼太さんが操作卓につき、いろいろなソフトを立ち上げて衛星の受信準備を始めました。張り詰めた空気の中、しばらくするとIC-9100が衛星のモールス信号(テレメトリ信号)をキャッチ。信号はだんだん強くなってきました。


もうすぐNEXUSが上空を通過! コマンドのアップリンクを準備する2人からも緊張感が伝わってきます!

「今回のオービット(周回)では、ここからNEXUSにコマンドを送信して、OFFになっているトランスポンダ(中継器)をONに変更します。これがうまくいったら、次のオービットでMasacoさんに衛星での交信を体験してもらおうと思います」

--えー、そうなんですか! うまくコマンドが通ってほしいです。

2人はトランスポンダをONにするコマンドを作り、それが間違いないことを確認した上で145MHz帯でアップロード。しばらくすると衛星から437MHz帯で「UPLINK IS OK」というモールス信号が戻ってきました。コマンド成功!!


トランスポンダをONにするコマンドのアップリンクに成功! 衛星から「UPLINK IS OK」というモールス信号が届きました

その後もお二人は、今受信したテレメトリ信号を解析して衛星の健康状態をチェック。その結果をレポートに書き込んだり、Twitterで「NEXUSのトランスポンダをONにしました」と英文で案内したり、次から次へと作業を進めていきました。

皆さんへのミニインタビュー

次にNEXUSが上空を通過するまで約90分あります。その間を使って集まっていただいた5名の皆さんにミニインタビューを行いました。


写真左から中村壮児さん、中村涼太さん、佐藤 陸さん

●佐藤 陸さん(修士2年/構造系、ミッション通信機系、カメラ系担当)
栃木県の出身です。大学1年生のときに理工学部の“未来博士工房”の1つ「衛星工房」で人工衛星の勉強をしたことと、大型の宇宙構造物に興味があったことが、NEXUSに関わるきっかけになりました。

打ち上げが成功し“自分が関係した物が宇宙に行って、今も動いている”というのは本当に嬉しかったです。大変だったことは振動試験(打ち上げ時の衝撃に耐えられるかなどのテスト)をやったあとに、衛星をポッド(ロケットで打ち上げる際に衛星を格納するケース)に入れようと思ったらうまく入らず、「もしかしたら打ち上げられないのでは…」と目の前が真っ暗になったことでしょうか。結局、試験は後日やり直しになってしまいました。将来は航空宇宙のエンジニアを目指したいと思います。

●中村涼太さん(修士2年/コマンド受信系、ミッション通信機系担当)
千葉県の出身で実家から通学しています。昔から飛行機に興味があり、航空宇宙工学科を目指しました。最初は飛行機のロボット開発を研究していましたが、自分が関わったプログラムで衛星が動くということに面白さを感じてNEXUSのチームに移りました。

NEXUSではソフトウェアを担当しましたが、最初は自分に与えられたミッションを達成できるという未来が見えませんでした。でも先輩方やJAMSATの上田さん、金子さんが教えてくださったり、研究する上での考え方を学んで解決していくことができました。将来はNEXUSで経験したことをきっかけに、情報通信業界のエンジニアになりたいと思うようになりました。

●中村壮児さん(修士2年/データ処理系、センサ系、ミッション通信機系担当)
熊本県出身です。小さいときから宇宙や衛星に興味がありました。NEXUSではコマンド&データハンドリング系を担当しました。NEXUSの製作時、他大学の施設をお借りして熱真空試験を行うことになったのですが、その試験日までに衛星をある程度仕上げなくてはいけないのが時間的に大変でした。嬉しかったのは打ち上げられたNEXUSから、自分が作ったシステムのパケット信号を最初に聞いたときです。将来は技術者になって、1つの物を作り上げ、人にちゃんと口出し(アドバイス)できるようになりたいです。


左は廣瀬祐香さん、右は藤井 瞳さん

●藤井 瞳さん(修士1年/CW生成系、地上局系、DQPSK復調系担当)
岐阜県出身です。機械工学に興味があり、中でも宇宙についてやりたいと思い、この学部を志望しました。私の学年では120名中20名が女子です。大学の衛星工房で衛星開発を学ぶことができたのが良かったです。プログラミングも大学に入ってから初めてやりました。NEXUSでは地上局系で、コマンドのアップリンクのソフトやダウンリンクのテレメトリを表示させるソフトなどの開発や改良を担当しました。NEXUSから流れるデジトーカーの声の主は私です(笑)。

この研究室に入ったのは衛星をJAXAに引き渡しの少し前だったのですが、QPSKの地上系ソフトウェアの開発は難しくて「これで行ける」というのが見えず大変でした。嬉しかったのは打ち上げ後の最初にNEXUSへコマンドを送ることができたのと、私の声がデジトーカーになっていて、宇宙から自分の声が流れたのには不思議な感じがしました。将来はソフトウェア系のエンジニアになりたいです。

●廣瀬祐香さん(学部4年/DQPSK復調系担当)
東京出身ですが、高校の時に家族は山口県にUターンしました。昔から天文や宇宙、ものづくりなどに興味がありました。NEXUSチームには今年度から加わり、QPSK復調器を担当しています。きのう初めてトランスポンダの運用を見て、遠くにいるアマチュア無線家の皆さんがNEXUSを経由して交信を行っている様子が興味深かったです。大学院には進まず、人工衛星関連の会社への就職が決まりました。


管制局JS1YAWと衛星局(NEXUS)JS1YAVのQSLカード。NEXUSの信号は全世界で受信され、約700件以上の受信報告が届いているそうです

初めての衛星通信を体験!

ミニインタビューを終えたところで、NEXUSが通過する時間が近づいてきました。今日の訪問に同席してくださったJAMSATの金子さん(JA1OGZ)と上田さん(JA0FKM/1)が、ラックに置いてあるJAMSATクラブ局のIC-9700をセッティングしてくださいました。交信に使うアンテナは、NEXUSの管制に使っていない方のタワーのものを使うそうです。

「Masacoさん、衛星を使った交信は初めてですか?」(金子さん)

--はい、初めてです!

「この衛星の交信は“もしもし”“はいはい”の同時通話ができますから、短いCQを何度も出して、応答があったらすぐにその局に呼び掛けてください。PTTを離してスタンバイする必要はありません」

--あの、衛星通信はどんどん周波数が変化するんですよね。それからアンテナの追尾はどうしましょう!?

「その辺はボクらでやりますから(笑)、Masacoさんは交信に集中してください。最大で10分ぐらいしか交信できる時間がありません」

--わかりました、ありがとうございます。たくさん呼ばれることもありますか!?

「さっきNEXUSのTwitterで“トランスポンダをONにしました”という情報を流したので、気が付いた方はこのオービットを狙ってくると思います。頑張って!」

そうこうしているうちに、管制用のIC-9100からNEXUSのCW信号が聞こえ始めました! 「はい、行きましょう!」というキューが出たので(笑)、私はIC-9700のマイクを握って「CQ ネクサス、CQネクサス、こちらはJS1YAQ/1です…」とアナウンスを始めました。


初めての衛星通信をJAMSATクラブ局のゲスト運用で体験中。後ではJAMSATの上田さんが衛星の追尾や周波数の微調整を行ってくださいました

3回目のCQの途中で「JS1YAQ/1、こちらはJS3CTQどうぞ」と呼ばれました! え、JS3CTQ…FB NEWSの稲葉編集長です!!

--JS3CTQ 稲葉さん! 59です!

「JS1YAQ/1、JS3CTQ。同じく59で奈良県です、Masacoさんご苦労様です」

--衛星で交信できるとは思いませんでした。ありがとうございました!

この交信を皮切りに、3エリア→0エリア→8エリア→1エリアの順番で合計5局と交信できました。ほかの局のCQも聞こえ始め、私がコールサインの聞き取りに手間取っていると、すかさず金子さんがカンペを出してくださいます。コールしてくださった各局は、きっと衛星通信の常連さんばかりなのでしょうね。


衛星の状態と私の交信を、皆さんが真剣に見守ってくださいました

少し混信を受けながらでしたが、初めての衛星、初めての同時通話でスリリングな交信を楽しませていただきました♪ そして交信を終えるまで、宮崎研究室の皆さんは衛星の状態を見守り続けてくださいました。


日本大学理工学部 航空宇宙工学科 宮崎研究室の皆さん、JAMSATの上田さん、金子さん、ありがとうございました!

日本大学理工学部 航空宇宙工学科 宮崎研究室の皆さん、長時間にわたりありがとうございました! “自分が作った星”が地球のまわりを回っている、自分の作ったプログラムが宇宙で動いている、自分の声がデジトーカーで地球に向けて流れている・・・衛星データからいろいろな情報がわかり、未来の可能性が無限に広がる一歩を担う・・・。苦労して衛星を作り上げ、打ち上げに成功してすべてが報われた瞬間を想うと、私も胸が熱くなりました。

実現への思いは一つ! でもそれまでの過程は想像できない困難や感情のコントロールもあったと思います。でも何があっても信じ、みんなが支えあって一途に研究し続けた毎日が宇宙へと繋がったんだと思います。皆さんの貴重な経験と、開発で得たノウハウが後輩の皆さんにも受け継がれ、やがて新しい衛星の開発にも活かされることを願っています。

最後に“息抜きの音楽は何を聞いてるの?”って聞いたら、「昭和のポップスや歌謡曲が大好きです!」と♪意外な答えが!!! ちょっと皆さんに近づけたようで嬉しい・・・♪ 音楽も世代を越えて回ってる! って思えた瞬間でした。笑

(JH1CBX Masaco)

<追伸です>
NEXUSやアマチュア通信衛星に興味を持たれた方は、次のホームページも訪問してくださいね!! NEXUSのホームページには受信報告ができるフォームもあります♪
・NEXUSホームページ http://sat.aero.cst.nihon-u.ac.jp/nexus/0_Top.html
・JAMSATホームページ https://www.jamsat.or.jp/

Masacoの「むせんのせかい」 ~アイボールの旅~ バックナンバー

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次号は 12月 1日(木) に公開予定

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