今更聞けない無線と回路設計の話
2025年9月1日掲載
周波数変換回路の場合は回路構成によって影響が複雑に変化します。理論的にはLO信号とかけ算する前に発生した非線形歪みは自信号と一緒に周波数変換されるので、周波数変換後の自信号にそのまま重畳されますが、乗算回路で発生する非線形歪みの中には、入力信号が歪んで発生した高次スペクトルが、ミキサの入出力アイソレーション分だけ減衰して、そのまま(周波数変換されることなく)出力に現れるケースが存在するため注意が必要です。図4に示すように、出力周波数を入力周波数の整数倍にとると乗算器の歪みの影響を受けやすくなるため、極力避けた方が無難です。
図4 帯域幅𝑓2-𝑓1の変調信号を周波数変換した場合の出力イメージ
この問題をどうしても避けられないのが図5に示すダイレクトコンバージョン方式の受信機です。ダイレクトコンバージョン方式では直交ミキサ(周波数変換回路)の出力周波数がベースバンド信号(0倍波)となるため、ミキサの偶数次歪み(特に二次歪み)の0倍波が出力信号に重畳します。従ってダイレクトコンバージョン方式の受信機に採用する直交復調器(ミキサ)は、奇数次の歪み特性のみならず、偶数次の歪みにも注意が必要になります。
高次成分・・・ すなわち非線形歪みは増幅器の大振幅動作と出力飽和で発生するため、これを減らすためには信号レベルを小さくする必要があります。信号の振幅が小さく、ほぼ線形動作と見なせる領域では、高次成分は信号レベルに対して無視できるレベルになる訳ですから、自信号の振幅を小さくしたときの高次成分の振幅の下がり方は自信号よりも大きい(早い)ことがお察しいただけると思います。n次のスペクトル成分は自信号をn乗して生成された成分なので、入出力レベルを[dB]で表記したグラフにプロットすると、入力レベルを1dB変化させると、n乗成分の出力レベルはn[dB]変化します。この様子を三次成分について示したのが図6です。
図6 一般的な増幅器の非線形歪み(3次成分)と自信号成分の入出力レベルの関係
増幅器の出力振幅は有限の大きさでクリップされるので、自信号成分も高次成分も、ある値まで上昇すると、以降は入力振幅をいくら大きくしても飽和してしまいます。これを仮に飽和しないものとして直線で延長したのが図6の破線です。これまでの解説から自明ですが、この破線の傾斜は自信号成分に対して高次成分の方が必ず急になります。従ってどの次数においても自信号の延長線と交差するポイントがあり、これを(n次の)インターセプトポイント(IPn)と呼びます。増幅器のデータシートには三次と五次のインターセプトポイント(IP3とIP5)が記載されていることが一般的です。偶数次歪みが問題になるミキサのデータシートにはIP2も記載されている場合があります。インターセプトポイントはデバイスのダイナミックレンジ(歪みの大きさ)を示すパラメータであると同時に、このポイントが判れば図6のグラフは容易に作成できるので、ある入力レベルでその増幅器を動作させた際の三次歪み(IM3)、五次歪み(IM5)の大きさを幾何学的に導出することが可能になります※4。
第12話では第11話に引き続き、非線形歪みが伝送信号の劣化にどのように寄与するかを解説しました。非線形歪みはその名の通りデバイスの非線形特性による時間領域での波形の変形に起因するので、それを表現する計算式は級数になって非常に煩雑なのですが、伝送信号への影響は周波数領域において信号電力と帯域内高次成分の電力比(等価SN比)として影響配分できるので、劣化配分設計上は判りやすい劣化項目に分類できると思います。以下、第12話の要点です。
第13話では劣化配分設計における非線形歪みの管理方法(バックオフの考え方)と改善方法について解説します。
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