日本全国・移動運用記
2025年9月1日掲載
2025年の夏は、記録的な猛暑になりました。そこで、夏休みは気温が比較的低い北日本に行きたいと考え、これまで訪れたことが無かった岩手県北部を目的地として、移動運用の計画を立てました。
今回の計画では、まず岩手県北部の市町村を効率良く巡ることを考えました。次に目標としたのは、岩手県に存在する「QM19」というグリッド・ロケーターのスクエアでの運用です。QM19は、宮古市と下閉伊郡山田町の沿岸部のごく一部にしか陸地が無く、アマチュア無線では交信が難しい貴重な地域になっています。
グリッド・ロケーターとは、緯度・経度から算出される6桁の英数字で表される位置情報で、そのうち最初の4桁で示される「スクエア」は、緯度1度・経度2度ごとの区画を指します。JARLのグリッド・ロケーターの説明サイトなどを見ると、日本には(離島を除いても)陸地がわずかしか含まれないスクエアが、いくつか存在することに気付きます。その有名な例は福井県にある「PM76」で、他にも「PN90」「PN91」「PN92」「QM19」「QN11」「QN22」などが挙げられます。筆者にとって、QM19で運用すれば本州の陸地の全スクエアでの移動運用を達成したことになるため、以前から訪れたいと考えていました。
運用時間と移動時間のバランスを考慮して、基本的には1日4か所での運用を計画しました(図1)。また、今年は猛暑が予想されたため、車中泊は行わず、全日程をホテルでの宿泊としました。
図1 移動ルート
8月7日に筆者の自宅がある愛知県を出発し、自分の車を運転して岩手県を目指しました。約11時間の移動の後、岩手県に隣接する宮城県気仙沼市のパーキングエリアで休憩していたところ、8月には発生頻度が低いはずのEスポ(スポラディックE層)の発生に気付きました。そこで、7~50MHz帯に対応した自作の2.5m釣竿アンテナ(2013年4月号の記事 参照)を使って運用を開始すると、どの周波数帯もパイルアップになり、さらには50MHz帯でも西日本の広い範囲と交信できました。長時間の運転後で疲れていたにもかかわらず、2.5時間で300QSOを記録しました。
8月8日は、岩手県沿岸部の最も南にある、陸前高田市の公園で運用を開始しました。この時期の日中は、Eスポが発生していない場合には、7MHz帯から順に高い周波数帯にQSYしていくと、7MHz帯は近距離、10MHz帯は国内の広範囲、14MHz帯は国内の中~遠距離、18MHz帯は国内遠距離(7エリアからは主に6エリア)と交信できて、21MHz帯から上の周波数帯は電離層反射による交信が困難になります。ところが、この日は前夜のEスポが残っていたのか、28MHz帯で3エリアと交信できるなど、まずまずの滑り出しでした。ただし、50MHz帯は何も聞こえませんでした。
この後、気仙郡住田町、大船渡市へと移動しました(写真1)。しかし、移動中に伝搬のコンディションが悪化し、18MHz帯から上の周波数帯では交信が困難になりました。地理的には、その次は釜石市になりますが、前回訪れた2021年11月の運用(2021年12月の記事)で、釜石市の北にある上閉伊郡大槌町の需要が高いと分かっていたため、運用時間を長めに確保して大槌町で運用することにしました(写真2)。運用場所は前回と同じで、夕方には伝搬のコンディションが少し上がってきて、多くの局と交信ができました。
写真1 大船渡市の運用場所の様子
写真2 大槌町の運用場所の様子
午前中は釜石市の公園、下閉伊郡山田町の漁港で運用し、その後、宮古市のQM19に向けて移動しました。伝搬のコンディションは、14MHz帯が好調で、国内の広い範囲と交信できて盛況でしたが、18MHz帯以上は依然として交信が難しい状況でした。
山田町から宮古市のQM19に向かう途中は、リアス式海岸特有の複雑な地形が続き、普通自動車がようやく通れるほどの狭い林道もありました(写真3)。海岸沿いで運用場所を探してみたものの、広い平地は無く、周囲は高い山に囲まれています。東側が海に面した空き地を見つけて、そこで運用を開始しました(写真4)。
筆者のHF帯の移動運用では、垂直に設置した釣竿アンテナなどを多く使用してきました。しかし、垂直アンテナは打ち上げ角が低いため、山や建物に囲まれた場所では電離層に電波が届きにくいことがあります。そこで、今回は打ち上げ角が高い逆L型ロングワイヤーアンテナを敷地いっぱい(約30m)に設置して、周囲の山の影響を避けて上方向に電波を放射して、電離層に反射させる方法を試しました。伝搬のコンディション自体はあまり良く無かったものの、夕方以降のローバンドでは効果が感じられ、夏期には遠距離との交信が難しい1.9MHz帯でも16QSOを記録しました。
写真3 山田町から宮古市のQM19に向かう途中の道
写真4 宮古市 QM19での運用の様子
(次号に続く)
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