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日本全国・移動運用記

第47回 鹿児島県徳之島移動

JO2ASQ 清水祐樹

徳之島は、鹿児島市の南480kmに位置する、天城町・伊仙町・徳之島町の3町で構成される離島です(写真1)。本土からは距離が遠く、アクセス手段も限られていることから移動運用を行う局は少なく、特に天城町と徳之島町のCWは、かなりの需要があるようです。そこで、運用時間を十分に確保するため、7月の海の日3連休に移動運用を計画しました。


写真1 徳之島の風景の一例、天城町・犬の門蓋(いんのじょうふた)

7月の3連休は、Eスポシーズンの最後のチャンス?

5月から7月にかけて、Eスポ(スポラディックE層)と呼ばれる電離層が発生し、HF帯の異常伝搬により通常は交信できない場所と交信できる機会があります。この連載でもたびたび解説している通りです。

例年、7月の3連休にはKANHAMが開催されており、2018年のKANHAMの開催日には2日連続で午前中に強力なEスポが発生しました(2018年8月号の記事参照)。2019年はKANHAMの開催日が3連休よりも1週間後になりました。そこで、3連休はEスポを狙って、徳之島の3町で移動運用の計画を組みました。

運用日程は、土日の2日間はそれぞれ3か所で運用して、運用の順番は2日間で異なるように組みました。これは、ローバンドは夜間の運用が必要になること、時間帯によって伝搬の状態に片寄りがあっても日を替えて影響を小さくすることを配慮したためです。

離島の移動運用でも、IC-7300とIC-9700の組み合わせ

現地へは飛行機で移動し、レンタカーを利用しました。筆者の移動運用は、HF帯とサテライト通信がメインで、V/UHFの異常伝搬にも対応するスタイルです。無線機は今回もIC-7300MとIC-9700の組み合わせを使用しました。機材は宅配便で事前に発送して、レンタカーに設置しました(写真2)。

徳之島への宅配便は船で輸送されるので、内容物の種類に特に制約はありません。そこで、無線機の電源用として小型の密閉型バッテリー2個(36Ah)を、一方は充電、他方は電源として使用しながら交互に入れ替えて使用しました。2019年4月号のように、充電と同時に負荷(無線機)を使用する方法は充電の効率が悪く、バッテリーの残容量が次第に減っていきます。バッテリーの容量が小さい場合には、バッテリーを1個ずつ充電専用にした方が充電効率は良くなり、残容量低下を抑えられます。

無線機の電源ケーブルにはノイズフィルタ(大型の分割トロイダルコア 例:タカチ電機工業 TFT-274015SにW1JR巻き)を配置することで、電源から発生するノイズを抑制しました。


写真2 レンタカーに設置した機材。上段にIC-9700、下段にIC-7300Mを配置。

海の近くで、見通しの良い場所を求めて

徳之島の3町で最も大きな町は徳之島町です。徳之島町の中心部では、食料や生活用品が容易に入手できます。徳之島町のホテルに宿泊し、天城町と伊仙町へは徳之島町を拠点として移動しました。

初日の運用は徳之島町から開始しました。国内向けの移動運用のため、北東方向が海に面した場所で、本州方面に電波の飛びが良さそうな場所を目指しました。海水浴場は人通りが多く、そこから離れた場所を探しました(写真3)。


写真3 徳之島町1日目の運用場所の様子

運用は15時過ぎから開始しました。伝搬のコンディションはあまり良くない感じでした。しかし、南西諸島や沖縄で運用する場合、このようなコンディションの方が7MHz帯の国内運用は良くなる傾向があります。その予想通り、早速パイルアップが始まりました。

18時過ぎに運用をいったん中断し、ダイポールアンテナを延長して1.9MHz帯と3.5MHz帯に対応できるようにしました。西日本は日没が遅く、19時でもまだ十分に明るさが残っており、1.9MHz帯は4エリアと6エリアしか聞こえませんでした。ここで、イオノグラムを見ると、夜なのにEスポが発生しているようです。10~28MHz帯を素早く巡回すると、多くの局と交信できました。さらに、1.9MHz帯でも計18局と交信できました。西日本の夏のローバンドは、日没が遅く夜遅い時間に運用しなければならない、空電ノイズ等で受信困難になるという要因があり、交信が難しくなります。平日の夜、短時間運用で1.9MHz帯がこれだけできれば、まずまずの成果と感じました。

海が見渡せる場所で、本州方向の電波の飛びに満足していたところ、見たこともないような大型の虫やクモが車内に飛び込んできて、さらには陸地にもかかわらず大型の巻貝が出没していました。何だか気味が悪くなり、翌日からは草むらではなく、舗装されて草刈りも行き届いた公園で運用することにしました。この選択は正解でした。

帰り道の運転中に、白地に茶色の模様が入った、太くて長い何かを路上で見つけました。木の枝にしては色が珍しいと思ってよく見ると、それは毒ヘビとして有名なハブでした(写真はありません)。草むらで運用していたら、アンテナの設置・撤収中に遭遇していたかもしれません。

徳之島町での運用

ニュースでは梅雨明けが報じられ、暑い1日になりそうな朝でした。高台にある公園で、北東側が開けた場所で運用することにしました。車内はエアコンと扇風機を使っていても、日射が強く暑さが感じられるため、こまめに水分補給をします。自動販売機で冷たい飲み物が補給できて、トイレもある場所で運用することで、長時間の運用に備えました。

海に囲まれた南西諸島では、夏の晴天日の最高気温は32~33℃程度以上には上がりません。名古屋では最高気温35℃以上の日が連続することも珍しくなく、それに比べると、気温としては暑くないようにも思えます。しかし、暑さの質は違います。一つは日差しが強烈で皮膚がヒリヒリ焼けるような感覚があることと、もう一つは夜の気温が下がりにくいことです。日没後に30℃近い気温が続く日もありました。

徳之島町の公園で朝5時台から、1.9MHz帯を運用するために長さ約80mのダイポールアンテナを設置しました。アンテナアナライザで動作をチェックすると、アンテナアナライザの指示値が振り切っていました。しかし、ギボシ端子の接続や、コネクタの接触不良を点検してみても異常はありません。車から40m近く離れたアンテナの両端を往復しているうちに、近くにある中波放送局のアンテナが目に留まりました。放送局からの電波でアンテナアナライザが誤動作しており、送信してSWRを測ると正常動作が確認できました。離島には中波放送の中継局が多く、ロケーションの良い場所ではこのような可能性があることも考慮しておく必要があります。以前の離島での運用で、放送電波で無線機のAGCが働いて1.9MHzが受信困難になったことを思い出しました。

既に明るくなった午前5時台では、1.9MHz帯で500km以上離れた本土まで飛ばすことは難しく、早朝の運用で1.9MHz帯は1局しかできませんでした。太陽が昇るにつれてHF帯の各バンドでパイルアップが始まり、28MHz帯でも時々強い信号が聞こえるようになりました。

南西諸島での移動運用で、最も面白いと思う周波数帯は何といっても50MHz帯です。マジックバンド(FBニュース2019年7月号)と呼ばれているように、いつ、どこが聞こえるか分からないスリリングな交信が魅力です。

今回の移動運用では、50MHz帯も本格的に運用するために、HB9CVアンテナを組み立てました(詳細は 2013年8月号参照)。ダイポールアンテナで1.9~28MHz帯(昼間は7~28MHz帯)の各バンドを巡回しながら、28MHz帯が強力に聞こえたタイミングで50MHz帯のアンテナに取り替えました(写真4)。

アンテナを北北東に向けて50MHz帯でCQを開始すると、さっそく2エリアからコールがありました。Eスポが発生していない時の50MHz帯が静かなことは良く分かっており、遠距離と交信できた時のうれしさは格別です。しかし、後が続かず、空振りCQの連続になりました。

2エリアで50MHz帯を運用する時には、アンテナのビーム方向は相手局の方向ではなく、南や東を向けた方が強くなることがあるのを思い出しました。海上に電波の反射源があり、そこにアンテナを向けると良いようです。そこで、アンテナを本州方向に直接ではなく、東側の太平洋に向けると、多くの局から呼ばれるようになりました。


写真4 徳之島町の運用場所の様子、
上:7~28MHz帯+サテライトのアンテナ、下:50MHz帯のアンテナ

伊仙町での運用

2日目の夕方から伊仙町の公園で運用を開始しました。この日は夕方になっても伝搬のコンディションが良く、いきなり50MHz帯で8局と交信できました。それ以外のHF帯でもパイルアップが続き、特に7MHz帯のパイルアップは、年に1回あるかどうかと思えるほどの強烈なものでした。さらには翌朝、同じ場所で運用しても10~28MHz帯の各バンドが強力に入感していました。そこで、再び50MHz帯に再チャレンジしました(写真5)。

50MHz帯の移動運用では、同じ周波数でモードをCW、SSB、RTTY、AMに切り替えて運用することがあります。まずは弱い電波でも速やかに交信できるCWから始めて、信号が十分に強くなればSSBに切り替えることを考えました。CWでは順調に呼ばれて17局、ここでSSBに切り替えてCQを出すと、6局と交信に成功しました。しかし、聞こえる地域は2エリアの一部に限られ、その後は急激に信号が弱くなり、バンド内の他の運用局も聞こえなくなりました。本州から遠く離れた場所での夏の50MHz帯は、長時間聞こえ続けることをイメージしていたにもかかわらず、実際にそうなったのは、わずか数10分間しかありませんでした。


写真5 伊仙町の運用場所の様子、上:50MHz帯のアンテナ、下:その拡大写真

最も需要が多い天城町

天城町も公園で運用することにしました。徳之島町・天城町・伊仙町の運用場所は距離が離れており、移動にはそれぞれ車で40~50分ほどかかります。天城町は島の西側にあるため、北東側が海に面した場所を確保することは困難です。この公園は北東側に山があります(写真6)。ロケ的に難しいと思われる分、強力なEスポに期待しました。

7MHz帯と10MHz帯では、すぐに猛烈なパイルアップが始まりました。しかし、14MHz帯にQSYするとそれまでのパイルアップから一変し、空振りCQが続きました。北海道など遠距離の局は18MHz帯でも交信できるだろうと、18MHz帯でCQを出すと、伝搬のコンディションが良くなって突然のパイルアップに。ここでは18MHz帯だけで100局を超えました。1分間に2局のペースで交信しても、100局で50分かかります。強烈な日差しの下で、エアコンと扇風機を併用して、このパイルアップを乗り切りました。

翌日、もう一度この場所で運用しました。伝搬の状態は前日から大幅に低下し、CQを出しても空振りが目立つようになりました。特に天城町での7MHz帯は絶不調で、3町のうち唯一100局を下回る結果に終わってしまいました。また、50MHz帯では8エリアの1局としか交信できず、寂しい幕切れになりました。


写真6 天城町の運用場所の様子、
上:7~28MHz帯のアンテナ、下:出番を待つ50MHz帯のアンテナ

QSO数

QSO数の集計を表1に示します。運用日・QTHによって、バンド別の交信数に大きな違いがあったことが分かります。HF帯の運用中にも随時IC-9700のスコープを眺めていたものの、異常伝搬は発見できず、144~1200MHz帯での交信はありませんでした。


表1 QSO数の集計

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次号は 12月 1日(木) に公開予定

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